読書月録2000年

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西暦2000年に読んだ本をすべて公開するコーナー。5段階評価と短評付き。

   評価は、★★★★★=名著です。 ★★★★=標準以上。 ★★★=平均的。 ★★=余り感心しない。 ★=駄本。  なお、☆は★の2分の1。

1月

・福田和也+宮崎哲弥『愛と幻想の日本主義』(春秋社) 評価★★★ ポストモダン時代の右翼(?)である福田和也と仏教に造詣が深い(?)宮崎哲弥の対談集。福田の博識が目立つ。政治家、知識人、財界人、官僚のうちで一番ヒドいのが財界人だという福田の発言が興味深い。

・本村凌二『ローマ人の愛と性』(講談社現代新書) 評価★★ タイトルどおり、古代ローマ人の愛と性について語った本だが、ややまとまりに欠ける。大昔の人間の「ほんとうの」姿を知るのは難しいという著者の嘆きは分からないでもないけど、西洋史の専門家なんだからもっと自信ありげにものを言って欲しい。ゲーテ曰く、「私にものを言うなら、断定的に言ってもらわないと困る。単に問題的なものなら、私はいくらでも自分の内部に抱えている。」

・喜入克『高校が崩壊する』(草思社) 評価★★★★★ 中位校以下の高校の実態について、現職教諭が率直に語った本。そのヒドさに一読して驚愕すること請け合いである。人権派弁護士やお子さま真理教のジャーナリストがいかに教師に圧力を加え、昔なら不良として片づけられていたデキの悪い生徒を甘やかしているか、文部省がいかにそれに手をこまねいているかが分かる。詳しくはここを.。

・森毅『東大が倒産する日』(旺文社) 評価★★★☆ 京大の名物教授として著名だった著者が、ジャーナリストの豊田充相手に大学の様々な問題を語った本。タイトルや章題にやや問題があると思う。流行の(?)話題である国立大学の独立行政法人化や民営化、教員の任期制について語ったような印象を与えるが、読んでみると、大学内部の事情に詳しい人だけにそう単純な主張はしていない。非常に襞の多い本である。でも単純で扇情的なタイトル・章題にしないと、売れないんだろうねえ。

・鈴木康久『西ゴート王国の遺産−−近代スペイン成立への歴史』(中公新書) 評価★★★ 新書本だが、内容はかなり専門的である。イベリア半島が古代ローマ帝国時代からイスラム時代を経てキリスト教側に再度奪還されるまでの歴史をたどっているのだが、めまぐるしく変わった支配者・国王ごとにいちいち小見出しをつけて年代記風に報告しているので、正直のところ退屈する。古代・中世のイベリア半島について調べものをする時には悪くない本だと思うが。

・呉善花『私はいかにして〈日本信徒〉となったか』(PHP) 評価★★★☆ 韓国で徹底的な反日教育を受けた世代である著者が日本に留学して、祖国で教えられたことと現実とのギャップに驚き親日感情を持つ一方で、しかし両国の文化の差に悩みながらも、最終的には日本に定住しようと決心するまでの自伝。ベストセラー『スカートの風』への在日韓国人の反応なども含め、特に前半が面白い。

・諸井誠『名曲の条件』(中公新書) 評価★★★ 15年以上前に出た本だが、タイトルどおり、ベートーヴェン、ヴァーグナー、チャイコフスキー、ショパンなどの名曲を分析した本。内容は、楽曲分析などがあって、やや専門的。

・上田浩二『ウィーン−−「よそもの」がつくった都市』(ちくま新書) 評価★★★ ウィーンの歴史をたどった本。副題のように外来者がウィーンを作ったというテーマが織り込まれているが、余り前面には出ておらず、総花的で、いい意味での臭みが薄い本になっている。著者はあとがきで、「ウィーンは好きだが、いわゆる『ウィーン好き』はきらいだ」と言っていて、この側面を強く出すと中島義道『ウィーン愛憎』みたいに売れていたかも知れないのだが、多分学識と人柄が邪魔をしたのであろう。

・重村智計『朝鮮病と韓国病』(光文社) 評価★★★★ 長らく毎日新聞記者として朝鮮関係の報道に当たってきた著者が2年半前に出した韓国・朝鮮論。実績と学識に裏打ちされた説得力ある朝鮮半島論だ。かつての北朝鮮一辺倒の報道を厳しく批判しつつも、現在の「北朝鮮有事論」をもいたずらに危機感をあおるものだとして戒めるバランス感覚が光る。日本で冷静に朝鮮を研究する学者が非常に少ないとの指摘、在日韓国・朝鮮人こそが日本における朝鮮半島関係報道を誤らせた大きな要素との批判もうなずける。

2月

・坂井栄八郎『ゲーテとその時代』(朝日新聞社) 評価★★★★ 東大の教養学部で長年ドイツ語を教えた著者は、しかし独文科ではなく西洋史学科の卒業で、この本もゲーテ時代を歴史の方面から多く検証している。昔の文学はやはり時代背景が分からないと理解が難しいので、有用な本だと思う。

・竹内靖雄『〈脱〉宗教のすすめ』(PHP新書) 評価★★★ 宗教をサービス産業としてとらえ、今後衰退すると述べている。宗教学者ではなく経済学者の書いた本であるところがミソ。平均的日本人には分かりやすくていいと思うが、一神教を奉じている他民族や一部日本人には通じそうもない。本書もそれを認めているけれど。とすると、ほんとうに宗教は今後衰退するのだろうか……?

・野田宣雄『歴史をいかに学ぶか』(PHP新書) 評価★★★ 主としてヤーコプ・ブルクハルトについて、その歴史観を分かりやすく説明した本。単純な進歩史観が勢いを失った現在、その対極にあるブルクハルトの歴史観が見直される理由は十分あると思う。その意味でおもしろい本だが、ランケなどのドイツ歴史主義との関連はもう少し丁寧に見る必要があるのでは?

・佐々淳行『日本の警察』(PHP新書) 評価★★★ 表題どおりの本。日本の警察の戦後史と組織、抱えている問題点を要領よくまとめている。戦前と違って日本の警察は予防検束ができないが(つまり、何となく怪しいというだけでは拘束できず、コトを起こした人間でないと捕まえられない)、フランスは現在でもそれが可能というのにはちょっと驚く。フランス革命の国は「人権」後進国だったのだ。

・池上俊一『動物裁判』(講談社現代新書) 評価★★★ ヨーロッパで中世から近代の入口の頃にしばしば行われた動物裁判の実態を述べ、それがなぜ行われたかを考察した本。行われた理由については著者の意見以外にも考えられそうな気がするが、人間が有史以来じつに様々なことをやってきたのだという感慨を催させられる。

・渡辺学而『大作曲家の知られざる横顔』(丸善ライブラリー) 評価★ タイトルどおりの本だけど、エピソード集としては面白味に欠けるし、かといって意外な側面から作曲家や作品の本質に迫るというのでもない。買うだけ無駄です。

・三輪裕範『ニューヨーク・タイムズ物語――紙面にみる多様性とバランス感覚』(中公新書) 評価★★★☆ 世界で最も有名な新聞の特質を、日本の新聞と比較しながら論じた本。著者がビジネス系の仕事の人なので、欲を言えばもう少し文化や自然科学など他分野での分析も欲しいが、ともあれ日米の新聞の違いに一側面から光を当てた本であることには間違いない。

・許光俊(編著)『こんな「名盤」はいらない!』(青弓社) 評価★★★ 「巨匠」というレッテルを貼られて流通しているクラシック演奏家のディスクを分析し、業界・日本人愛好家の片寄った評価を批判した本。あとがきにも書いてあるとおり、これを鵜呑みにするのではなく、一つの見方として読めば有用そうだ。私個人としては、吉澤ヴィルヘルムの、演奏史をふまえた文章が面白かった。

・須賀敦子『遠い朝の本たち』(筑摩書房) 評価★★★★ 一昨年なくなったイタリア文学者が少女時代の読書体験を綴った本。読書の記憶が、住んだ家や町の記憶とつながっているところが好ましい。小さいときの読書というのは、そういうものだと思う。詳しくは「本格書評」の「ドイツ以外の文学」を参照。

3月

・安藤博『日米情報摩擦』(岩波新書) 評価★★★ 8年ほど前に出た本でやや古くなっている部分もあるが、日米のメディアや報道機関が両国の摩擦をあおっている部分もあるとして、その問題点を分析した本。

・下山進『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善ライブラリー) 評価★★★★★ 出たのは5年前だが、アメリカのジャーナリスト養成機関に学んだ著者による非常に興味深い本。まず、その養成機関の内実が語られる。単なる紹介ではなく、批判的分析であるところがいい。次に、すぐれた調査報道で隠された真実を読者に伝えることに従事していたアメリカの新聞が、80年代から株式上場などにより利益優先主義の経営者によって変質を余儀なくされていく様が、リアルに伝えられている。アメリカのメディアの変遷を知る上で貴重な文献と言える。

・渡辺和『クァルテットの名曲名演奏』(音楽之友社) 評価★★★ タイトルどおり、弦楽四重奏曲の名曲と名演奏を語った本。現代に近い曲には知らないものが多いし、弦楽四重奏はヴァイオリン2・ヴィオラ1・チェロ1の編成とは限らないことも初めて知った。しかし現代曲の多さに比べて、フォーレの曲はちゃんと取り上げていなかったりするところには疑問も残る。

・江藤淳『漱石とその時代 第5部』(新潮社) 評価★★★★ 江藤淳の絶筆となったライフワーク。『行人』『心』『道草』の頃の、病と闘いながら創作に打ち込んだ漱石が描かれている。死に近い作家の姿は、やはり死に近い人間でないと分からないのかなと思える暗さが目を惹く。詳しくは「本格書評」の「ドイツ以外の文学」を参照。

・小浜逸郎+佐藤幹夫『中年男に恋はできるか』(洋泉社新書) 評価★★★ 新書ブームだそうで、洋泉社からも新書が創刊されることになった。その第一弾として出たうちの1冊。小浜と、私は初めて知ったが一緒に雑誌活動をしている佐藤の、対談集。小浜の本に馴染んでいる人間からすると、やや新鮮みに欠ける感じ。

・藤田博司『アメリカのジャーナリズム』(岩波新書) 評価★★★★ 8年あまり前に出た本だが、アメリカのジャーナリズムを知るのに格好の本だ。取り上げられているレーガンやブッシュの政権時代が過去のものとなったので新本では入手できないようだが、今でも十分読むに耐える書物なので、品切れは惜しい。

・H・C・ヴォルプス『メンデルスゾーン』(音楽之友社) 評価★★★ メンデルスゾーンの伝記。名は知られていても、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンなどと比べると研究書等に乏しいこの作曲家を知る上で貴重な文献。やや食い足りない感じもあるが、今後の研究の進展に期待したい。

・鹿島茂『明日は舞踏会』(中公文庫) 評価★★★★ 19世紀フランス社交界の舞踏会について、フランス小説などの資料を駆使してその実態を分かりやすく説明した本。貴婦人の服飾のカラー図版入り。とても面白い本です。詳しくはここを。

・ジパング編『笑われる日本人――「ニューヨーク・タイムズ」が描く不可思議な日本』(ジパング) 評価★★★★ アメリカ第一の高級紙、であるはずのニューヨークタイムズ。しかしその日本に関する報道は偏見と間違いだらけ。日米両国語で書かれ、日米同時出版されたこの本は、アメリカの報道のあり方とかの超大国の日本像を鋭く撃つ本だ。しかし、これは偏見を是正するための第一歩に過ぎまい。

4月

・市川伸一+和田秀樹『学力危機――受験と教育をめぐる徹底対論』(河出書房新社) 評価★★ 受験勉強を肯定的にとらえ『受験勉強は子供を救う』などの著書で知られる和田と、東大教育学部教授の市川が電子メールで討論をして本を作った。期待して読んだが、あまり感心しない。特に市川は、最初は受験というテーマに興味を持つ東大教育学部教授ということでサバけた人なのかなと思ったが、議論が進むにつれて「所詮は良心的知識人」という印象が強くなっていく。ご本人もあとがきで「きれい事を言ったような気がする」と反省しているけど、もう少し本音で物を言ったら?

・ルディ・カウスブルック『西欧の植民地喪失と日本』(草思社) 評価★★★★ 今年2月に来日したオランダ首相に小渕総理は謝罪した。これは、戦時中、オランダ領東インド(現在のインドネシア)にいたオランダ人に、侵攻した日本軍が虐待を行ったためである。 だが、なぜオランダ人はインドネシアにいたのだろうか。 彼らは元々インドネシアに住んでいたわけではない。原住民を軍隊の力で弾圧して植民地化し、暴政を行っていたのだ。 日本軍の行為は戦後半世紀以上を経ても糾弾するくせに、自分の植民地主義には知らん顔のオランダ人――この矛盾を、良心的なオランダ人が追及した、大変興味深い本。詳しくはここを。

・荻村伊智朗+藤井基男『卓球物語』(大修館書店) 評価★★★ 卓球の歴史やそれにまつわるエピソードを語った本。前半は卓球の歴史で、卓球に興味のない人でもそれなりに楽しめるが、後半の技術史は、やってる人でないと面白くないと思う。

・小松正之『クジラは食べていい!』(宝島社新書) 評価★★★★ タイトルどおり、欧米の不当な圧力で調査用のわずかな頭数に縮小された捕鯨を擁護し、海洋資源的に見ても一定程度の捕鯨をして鯨食文化を守った方が地球のためになるのだということを分かりやすく解き明かした本。 IWC(国際捕鯨委員会)における欧米諸国の無法な行動を記述した部分も参考になる。

・青木保ほか『ハイカルチャー(近代日本文化論3)』(岩波書店) 評価★★★ タイトルのテーマを10人の論者が扱ったアンソロジー。個々の論文には興味深いものもあるが、肝心の「ハイカルチャー」の定義が曖昧なまま、著名人に文章を依頼したような印象で、まとまりに欠ける。

・西谷修+鵜飼哲+港千尋『原理主義とは何か』(河出書房) 評価★★★ タイトルどおりの本だが、原理主義というものの地域との複雑な絡みを反映して、一読して原理主義が理解できる、というような便利本にはなっていない。しかし目下の情勢ではやむを得ないだろう。断片的な知識は少なからず盛り込まれているが。

・大宮知信『学ばず教えずの大学はもういらない』(草思社) 評価★★ 東大・早稲田・慶応に取材した大学論だけど、全般的に浅く、教えられるところはほとんどない。 世間の茶飲み話的な大学論の域を一歩も出ないのだ。この人の本は、以前『さよなら東大』を読んだときも同様の感想を持った。こういうジャーナリストはもういらないのでは?

・谷沢永一+渡部昇一『こんな「歴史」に誰がした―日本史教科書を総点検する』(クレスト社) 評価★★★★ 出て2年半ほどたっているし、日本史教科書批判の本は他にもあるが、読んでみるとやっぱり歴史教科書には問題が多いなと感じさせられる。 また、教科書採択の仕組みや、採択に当たっての基準を書いた文書が流布してそれが教科書の内容にまで影響しているという指摘も鋭い。

5月

・竹村民郎『大正文化』(講談社現代新書) 評価★★★ 1980年に出た新書で、とうに品切れになっているのだが、実は私が長らく探していた本である。インターネットの古本屋でも見つからなかったこの本を、今年初め、東京に出張した際、神保町の古本屋にて250円で掘り出したときは嬉しかった。読んでみて、前半と後半が分裂しているという印象を受けた。前半は文字通り大正文化を、当時の技術革新なども視点に入れながら紹介していて面白い。しかし後半は、失礼ながら立命館出という著者の傾向がモロに出て(最近の立命館は変わっているという話です。立命館の人は気を悪くしないでね)、教条的な歴史観による日本的遅滞の断罪となっている。当時の日本を批判すること自体はいいが、どうにも歴史観が古いのだ。ここを何とかしないと再版は難しいかも。

・古森義久『透視される日本――アメリカ新世代の日本研究』(文芸春秋) 評価★★★★ 定評あるジャーナリストによる、アメリカの日本研究を紹介した本。気鋭のアメリカ人学者が、政治・経済の分野で日本をどう見ているかが分かって面白い。彼ら学者の見解はアメリカの対日政策にも影響するので、バカにならない。日本で学問と政治経済の現場とが乖離しているのとは大違いなのだ。詳しくはここを。

・ヘルマン・ヘッセ『青春は美わし』(新潮文庫) 評価★★ 大昔読んだドイツ文学を、何となく再読してみたが、実に面白くない。標題作と、「ラテン語学校生」が収録されているが、どちらかというと後者の方がマシな感じ。それはギムナジウム生(当時のドイツ社会ではエリートの卵)が労働者階級の娘に恋をするという、階級格差をテーマとした話だからで、そういうものがないと、少なくとも私の年齢では小説を面白くは読めないのです。

・川島幸希『英語教師 夏目漱石』(新潮社) 評価★★★★★ 漱石は作家になる前は英語教師であり英文学者だった。彼はどんな先生だったのか、また英語の実力はどのくらいあったのかなどを、綿密に調べ上げた好著。現在の東大生の英語力との比較や、松山中学教師時代は『坊っちゃん』の主人公よりは赤シャツの待遇を受けていたことなど、多面的な言及があり、たいへん面白い。 詳しくはここを。

・柄谷行人『可能なるコミュニズム』(太田出版) 評価★★★ 柄谷行人が自分の論考や、評論家や経済学者との座談会、その出席者の論考などを集めて編んだ本。グローバル化時代に幻想を拒絶して批評精神を貫こうとするところはいいが、文中言われている協同組合主義が打開の方策だとは、どうも信じられない。出席者も、経済学者二人はともかく、山城むつみと島田雅彦は冴えない。もっとレベルの高い人間と組んだ方がいいんじゃないの?

・小林よしのり『「個と公」論』(幻冬舎) 評価★★★★ 深刻な読後感を持った。日本の知識人を壊滅させんばかりの小林のこの本に真正面から立ち向かう者は果たしているのか? 引用されている知識人たちの言説を見る限りでは、戦後日本の知識人は小林に太刀打ちできないのではないか? 今週日曜の朝日新聞書評欄で浅羽通明が言っていたように、この強さを日本の知識人が知らないのだとすると、事態は相当に重大だ。吉本隆明から福田和也まで、知識人が左右を問わずここまでダメだったとは……ただただ嘆息。

・『日本の貴婦人』(光文社) 評価★★★★ 皇族を除くと階級がないということになっている日本だが、旧華族や、政治経済上の大立て者を輩出している一族など、「上流」と呼ばれる人たちは厳然として存在する。その上流のご婦人にインタビューした雑誌記事をまとめた本。われわれ下賤の者にはうかがいしれない生活や考え方を知ることができるが、同時に上流と言っても多種多様な流儀や思考法があるのだと分かる本。 詳しくはここを。

6月

・三浦展『「家族」と「幸福」の戦後史――郊外の夢と現実』(講談社現代新書) 評価★★ 郊外にマイホームを持つということが、戦後まもないころのアメリカの政策であり、それがやがて日本にも伝わってきたという事情を述べた本。アメリカの「郊外」形成とホームドラマなど、興味深い叙述も多々あるが、著者の「持ち家や核家族は近代特有の価値観」といった言い回しが気になった。近代特有で何が悪いんだろう。大昔の生活様式に固執する理由があるかしら? しかも著者の場合、それが奇妙な「下町」幻想に結びついちゃったりしているので、いっそう鼻持ちならない。 詳しくはここを。

・酒井健『ゴシックとは何か―大聖堂の精神史』(講談社現代新書) 評価★★★★ ゴシック建築の歴史を、その精神的側面や他の芸術との関連を含めてたどった本。 著者の博識は迫力があって読む者を圧倒する。 敢えて難を言えばやや知識を詰め込みすぎの感。 詳しくはここを。

・藤井淑禎『望郷歌謡曲考』(NTT出版) 評価★★★ 戦後日本の歌謡曲を、その歌詞の「ふるさと」との関連において考察した本。単なる歌の歴史ではなく、戦後日本の歩みそのものが読みとれる。

・平間洋一『日英同盟』(PHP新書) 評価★★★ タイトルどおり、日英同盟についてその内実と影響を詳細に分析した本。 日英同盟ってのは日本史で誰でも習うけど、その意義は実は余り理解されていない。教科書の簡単な記述に満足できない人に勧められる本である。

・ゴルヴィツァー『黄禍論とは何か』(草思社) 評価★★★ 授業で読んだ本だが、このテーマでまとまった本が意外にないので、今世紀初頭に欧米で流行した黄禍論、つまりアジア人に対する差別意識+恐怖感について知るための本として貴重である。

・川成洋『大学崩壊!』(宝島社新書) 評価★★★☆ 大学は、教授も学生も制度も全部ダメ、と主張した本だが、極端な例を出して全体を判断しているのは疑問なしとしない。 まずアンタが大学を辞めたら、と言いたくなってしまう。 でもまあ、こういう悲惨な教授や大学があるってのも、事実ではあるのだろう。 別段自分や自分の大学を弁護するつもりはないが、同じ日本の大学でも相当違うな、と思ってしまうぞ。新潟大学はやはりスバラシイ??

・勢古浩爾『こういう男になりたい』(ちくま新書) 評価★★★ ワタシより数歳年上の男の書いた男性論である。フェミニズムに冒されておらず、伊藤公雄あたりを一蹴しているのはいいんだけど、どうも本1冊書く分の思考の蓄積がなかったようで、途中で好みの女優の話になったりしているのがもう一つだ。

・石井宏『クラシック音楽意外史』(東京書籍) 評価★★★★ クラシック音楽のドイツ中心主義を問い直し、イタリアの重要性を説いた本である。大変面白く、目からウロコが落ちること請け合い。 クラシック音楽ファンには必読書と言えよう。

7月

・佐藤俊樹『不平等社会日本――さよなら総中流』(中公新書) 評価★★★ 日本の上層ホワイトカラーの再生産率が高いことを統計的に調べ上げ、日本は実は親の職業によって子供の進路も決まる階層社会だと喝破した本。ガンバって高学歴を獲得すれば何とかなるという日本人の思いこみを是正してくれる。 しかし統計的処理の部分が多くて、一読してなにかビタミン剤で食事を済ませたような感覚が残る。階層社会の現実を感覚で納得できるように活写してほしいというのは、無い物ねだりか。

・鈴木淳史『クラシック名盤ほめ殺し』(洋泉社新書) 評価★★★ 天使と悪魔の会話によってクラシックCDを批評した本。 まあ、タイトルから分かるようにかなりひねくれた視点からの批評なんだけど、少なくとも時間つぶしには絶好。

・浅羽通明『大学講義・野望としての教養』(時事通信社) 評価★★ 浅羽の本は、前回の『大学で何を学ぶか』あたりからかなりオカシくなっている。一見、実用にならない教養を語っているように見えながら、その実、内奥にあるのは、非実用的学問には侮蔑的な一般大衆に迎合する姿勢である。大学の知は制度的なものだなんて言ってるけど、銀行や法律や医学だって制度だぜ。 どうしてそっちは無罪放免なんだ? これって、一般大衆のレベルの低さそのものじゃない?

・塩野七生『ローマ人への20の質問』(文春新書) 評価★★★★ 古代ローマに関して一般人が抱いている先入見を正し、ローマ帝国がなぜ長続きしたかを理解させてくれる本。 面白くためになる、という言葉はこういう本のためにあるのであろう。

・西原稔『「楽聖」ベートーヴェンの誕生』(平凡社) 評価★★★ ベートーヴェンの受容史。なぜ彼が楽聖視されるようになったかを日本やフランスを舞台に検証している。悪くはないが、「ここもっと知りたい」というところで話が他にスライドする箇所が多い。そのためちょっと欲求不満が残る。

・谷岡一郎『「社会調査」のウソ』(文春新書) 評価★★★★ 新聞等に掲載されるアンケートや世論調査がいかにおかしいか、アテにならないかを、調査の例を基本的に名指しで批判した本。 この国の「調査」の過半数はゴミだ、と断言する著者の快刀乱麻の筆がここちよい。 

・渡辺幸一『イエロー 差別される日本人』(栄光出版社) 評価★★★ 授業で扱った本だが、イギリスで働いている日本人が、英国社会の排他的な側面や差別的な意識を体験をもとにして指摘した本。 かの国の実態を知るのに有用と言える。

・鈴木りえこ『超少子化――危機に立つ日本社会』(集英社新書) 評価★★ 超少子化という重要問題を正面切って取り上げたところは評価できる。 しかし、どうも男女平等と少子化をごっちゃにして論じているところがよろしくない。 女にとって都合の悪いことが少子化是正につながるかも知れない、なんてことは、多分この人の頭には浮かばないんだろうなあ。 女の近視眼、なんて書くとフェミニストに叱られるかな。 まあ、伊藤公雄との対談を入れてるあたりからして、この人のレベルは分かるよね。

8月

・西尾幹二+長谷川三千子『あなたも今日から日本人』(致知出版社) 評価★★★ 『国民の歴史』を出した西尾幹二が、長谷川三千子と語った対談集。話題は『国民の歴史』だから、そちらを読んでいる人には新鮮味は薄い。 ただ、「欧米に学ぶということは知識を輸入することではなく、欧米人の傲岸な態度を身につけることのはずだが、日本の知識人はその肝心の部分をいっかな輸入していない」と『国民の歴史』に書いた部分が評判が悪くて、と西尾が言うのに対し、長谷川が「図星だからでしょう」と答えている部分が面白かった。

・五十嵐一『音楽の風土――革命は短調で訪れる』(中公新書) 評価★★★☆ 84年に出た本だが、表題だけだと中身が分かりにくい。 著者はイスラム学者で、イラン革命のさなかに当地に滞在していた。 本書は、1)その体験記 プラス 2)イスラム音楽の特性についての考察 プラス 3)イスラムにヨーロッパや日本を含めた総合的文化論、である。イスラム音楽は日本ではあまり知られていないけど、グレゴリオ聖歌やトルコ行進曲(モーツァルトやベートーヴェンにある)との関連など、分かりやすい記述がなされている。 全体として特定のテーマを一貫して追った本ではなく、何となく漫談調ではあるのだが、独特の面白さがある。新潟出身の人で、田中角栄の話も出てくる。 なお著者はその後、筑波大学で教鞭をとっていたが、91年に何者かに殺害された。『悪魔の詩』を邦訳したとしてイスラム原理主義者に殺された可能性が高く、犯人はいまだに捕まっていない。 多方面に知的好奇心のアンテナをはりめぐらせていた碩学の早すぎる死は痛ましいが、本書には、 「イスラームとは、本来、政治、経済、社会、軍事、そして文化に至るまでのすべてを引き受ける覚悟である……。覚悟をするとは、時には生命までをも賭ける決断を意味する」 とあって、自分の運命を予感していたのではないかとも思われるのである。 合掌。

・阿川弘之+猪瀬直樹+中西輝政+秦郁彦+福田和也『二十世紀 日本の戦争』(文春新書) 評価★★★ タイトルどおりの本で、座談会形式。 日露戦争、第一次大戦、満州事変、太平洋戦争、湾岸戦争の5章からなる。 最近、歴史の見方についての議論が多方面から出ているが、その一つとして読むに値する本。 

・坂本多加雄+秦郁彦+半藤一利+保阪正康『昭和史の論点』(文春新書) 評価★★★ ワシントン体制、2・26事件、真珠湾攻撃、原爆投下など、昭和史の20の論点を座談会形式で論じた本。 21世紀を迎えるに当たって、日本のこの1世紀の歴史を振り返るという意味でそれなりに面白い。

・今林浩一郎『日米大学比較不可知論―現代の海外留学と英語教育と日米大学学術水準の比較による―』(近代文芸社) 評価★★★ 95年出版の、何だかよく分からないタイトルの本だけど、柱が二本あり、1)日本の英語教育への批判と、2)日米の学術水準は論文数だけでは計れないという主張、である。 著者がどういう人か、紹介が載っていないので文中から推測するしかないのだが、アメリカの大学で英語教育の修士を取った人らしい。それで日本の学校が英語教育について自分のような人間を積極的に採用しないのはおかしい、と言っている。我田引水的だが、まあそうなのかな、と思わないでもない。 後半は、日本の大学は論文数だけ多くても他の研究者に引用される度合いが低いから駄目だと言っているのだが、アメリカの有名大学所属研究者のペーパーだからよく読まれる、というような側面はないのかしらん。 また、日本の大学は国立中心で権威主義的だがアメリカは私立中心でそうではないというあたりは単純すぎる。 アメリカにもカリフォルニア大みたいに公立で水準の高い大学はあるし、ヨーロッパの大学は基本的に国公立だからだ。 それにしてもこのタイトルは下手くそすぎる。出版社からして自費出版なのだろうけど、もう少し分かりやすくできなかったものかね? (というより、読み終わってもこのタイトルの意味が分からないままなのだ。比較不可知、っていうからには、比較しても分からないってことでしょ。 ならば何で日米を比較してるの?) 著者紹介もちゃんと入れた方がいい。

・船橋洋一『あえて英語公用語論』(文春新書) 評価★★★★ タイトルどおりの本。いかにグローバル化が進み英語が必要になっているかを実例を挙げて指摘し、英語に第2公用語の位置を与えるべきだと説いている。 政治経済の分野で日本が取り残されないために、英語を勉強しなければならないことが実感できる。 また英語帝国主義批判にも多少言及して、多文化・多言語主義を説いているが、こちらはやや薄手。

・グザヴィエ・ヤコノ『フランス植民地帝国の歴史』(文庫クセジュ) 評価★★★ ポスト・コロニアリズムが言われる現在、大革命によって人権や平等を訴えたはずのフランスがいかに植民地を獲得し、運営し、手放したかを知っておくのも悪くない。 ただし概説書なのであまり読んでいて面白くないし、訳者があとがきで述べているように、フランス人が書いた本のせいか、見方が幾分フランスに甘い感じはするが・・・・。

・福田和也『悪の対話術』(講談社現代新書) 評価★★★ 人間関係が善意のみによっては成り立たず、悪口と信頼とは相反するものではないと説いたエッセイ集。 前半はなかなか面白いが、後半やや種切れの感もあり。

9月

・クリストファー・ソーン『太平洋戦争とは何だったのか―1941〜45年の国家、社会、そして極東戦争』(草思社) 評価★★★★★ 10年前に出た本だけど、ずっとツン読になっていたのをひもといてみた。 太平洋戦争におけるイデオロギー闘争の側面を、膨大な資料をもとに分析した本。 著者は英国人歴史学者だが、複雑なテーマをいたずらに単純化することなく、わかりやすく、あくまで公平な視点で論じている。 学者の仕事のお手本ともいうべき充実した内容の本であり、歴史を扱う書物はこうあるべきだ、と一読して頭を垂れた。

・小林章夫『イギリス紳士のユーモア』(講談社現代新書) 評価★★★ タイトルと中身がちょっとズレている。 イギリス紳士というものがどう形成されどういう特質を持っているかを述べた部分が長くて、ユーモアの実例は、後半出てくるけど、意外に少ない。 それを承知で読めばまあまあ面白い。

・法水綸太郎『法水綸太郎の冒険』(講談社文庫) 評価★★★ 久しぶりにミステリーを読んだ。 嫌いじゃないんだけど、忙しいとついつい疎遠になってしまう。 お勉強に役立つ本を読まないと、と思っちゃって。 でもたまには息抜きしないと。 とはいえ、かなり深刻な内容の連作短篇集。 著名推理小説のパロディー的側面もある。

・中島義道『私の嫌いな10の言葉』(新潮社) 評価★★★☆ 「戦う哲学者」としてすっかり有名になった著者が、「相手の気持ちを考えよう」「自分の好きなことが必ず何かあるはずだ」など、日本に生きていると日常必ずぶつかる10の言葉を「嫌いな言葉」として俎上に載せ、ぶったぎった本。 哲学がこんなに易しいとはとナットクすること請け合い。

・森嶋通夫『イギリスと日本』(岩波新書) 評価★★★★ イギリスの、主に教育制度について分かりやすく説明した本。イギリスと言えばオクスフォードとケンブリッジが大学として著名だが、その他の大学と比べても日本のような大学間格差はすくない、なぜか、などが分かりやすく論じられている。 ただし1977年に出た本なので、内容は古くなっているかも。

・高橋和夫『アラブとイスラエル』(講談社現代新書) 評価★★★★☆ 日本人には分かりにくい中東問題について、実に明快に解説した本。 これ一冊でひととおり中東の歴史と情勢が飲み込めてしまう。 索引付きなのも便利。 8年前に出た本で、品切れ中なのが惜しい。 私はBOOKOFFにて100円で購入したんだけど。

・長谷川三千子『正義の喪失――反時代的考察』(PHP) 評価★★★★ 副題どおり、戦後的思考とは正反対の立場から、外国との付き合い方や、ボーダーレス・エコノミー、フェミニズム、少子化などを考察した本。 私は著者の立場に全面的に賛成するものではないが、一度こういう視点をくぐっておかないと、物の見方が偏頗になる。 そういう意味でお薦め本である。 

・山口知三『ドイツを追われた人々』(人文書院) 評価★★★★★ むかし読んだのだけど、必要があって読み返してみた。 ヒトラー政権ができた直後にドイツから国外に亡命した作家たちについての研究書だが、よく調べていて頭が下がる。 文句なしの名著だと改めて感じました。 目下品切れ中なのが残念。

・川上源太郎『ミドル・クラス――英国に見る知的階級宣言』(中央公論社) 評価★★ タイトルどおり英国の中流階級について、これが単なる資産の問題ではなく知的階級にあたるものだとしてその内実を明らかにしようとした本だが、もう一つ感心しない。 この人、書き方が散漫で、話題や視点があちこち飛ぶので読みにくいし、中流階級がまとまった像を結ばない。 以前読んだこの人の別の本も同様だった。 学者に向いてないんじゃないか。

・筒井清忠『新しい教養を求めて』(中央公論社) 評価★★★ 大学生の教養のなさが言われて久しい。 著者はかつて『日本型「教養」の運命』(岩波書店)という名著で、日本における教養のあり方を見事に追究した。 この本はその続編だが、内容的に非常に目新しいとは言えないものの、教養について考えようとする人には、まあお薦めできる本と言える。

・武田邦彦『リサイクルしてはいけない』(青春出版社) 評価★★★☆ 牛乳パックだの飲料のペットボトルだのを捨てるのは勿体ないから回収して資源として再利用しよう――というような、一見正しく、環境に優しそうな考え方が、いかに誤っているかを分かりやすく説明した本。 「ワタシは環境に優しい生活をしてる」なんて自己満足に陥りがちな人には絶対にお薦め。 ただ、日本や東洋の伝統的な生活が環境に優しい、式の三流哲学が終わり近くに出てくるのが、いただけない。 自然科学者は下手な哲学はやめて、自分の専門を追究してください。

10月

・森嶋通夫『続イギリスと日本』(岩波新書) 評価★★★★ 先月読んだ本の続編で、やはり英国が階級社会だという通説を批判し、日本よりむしろ流動性の高い社会だと主張している。 この辺の当否は私には分からないが、階級と職業とが、あちらとこちらで違った性質を持っているということもあるのではないかしらん。 いずれにせよ、20年前の本だが、一読の価値あり。

・佐藤唯行『アメリカのユダヤ人迫害史』(集英社新書) 評価★★★★★ ユダヤ人迫害というと、ナチスドイツなどヨーロッパが有名だが、アメリカでも少なからず行われていた。 アメリカの反ユダヤ史を、その構造や具体的な事件によって解き明かした本。 説明が非常に明快で分かりやすく、たいへん面白い。

・山内進『決闘裁判―ヨーロッパ法精神の原風景』(講談社現代新書) 評価★★★ タイトルどおり、ヨーロッパの決闘裁判について分かりやすく述べた本。 その前段階としての神判についても詳しい記述がある。 悪くない本だが、シンプソン裁判など現代アメリカの陪審裁判のあり方については、どうも見方が甘すぎるのではないかと感じた。

・吉田秀和『二十世紀の音楽』(岩波新書) 評価★★★★ もう40年以上前に出た本だが、古本屋で買った読んでみたところ、内容はほとんど古びていない。 ストラビンスキーなどの20世紀の作曲家が19世紀までの作曲家に対してどういう意味を持っているか、またオペラの上演を国や地方公共団体が支えている事情、聴衆のあり方、レコードの持つ意義など、20世紀における音楽生産や受容のあり方が、説得的な筆で論じられている。

・西尾幹二『西尾幹二の思想と行動 第1巻ヨーロッパとの対話』(扶桑社) 評価★★★★ 西尾幹二著作集の第一巻。雑誌に収められただけで単行本未収録の文章が入っているのがありがたい。福田恒存論や三島由紀夫論、また翻訳論も興味深い。 最近の西尾氏の歴史観につらなる記述が主著『ニーチェ』から採られているのも面白い。

・藤岡啓介『翻訳は文化である』(丸善ライブラリー) 評価★★ 翻訳論だが、全体として話があちこちに飛びまとまりがない。 小田島雄志がチエーホフを英訳から重訳したことを批判している。 

・宮崎哲弥(編著)『人権を疑え!』(洋泉社新書) 評価★★★ 「人権」が仮構概念であることを理解せずこれを振り回せば何とかなると思っている人への解毒剤として有効。 やはり呉智英の文章が一番面白い。あとがきを含めて。

・法月綸太郎『頼子のために』(講談社文庫) 評価★★ 先月に続いて法月の推理小説を読んだが、ミステリーはやっぱり短篇だよね。

・田中淳夫『「森を守れ」が森を殺す』(新潮OH!文庫) 評価★★★★ 森林をほんとうに保護するには「一本の木も切るな」では全然ダメで、適切な伐採が欠かせないこと、森は酸素の供給源ではないこと、森が水を保つ自然のダムだという説はウソだということ・・・・などなど、森林に関する正しい科学的知識を教えてくれる好著。 

・相馬勝『ハーヴァード大学で日本はこう教えられている』(新潮OH!文庫) 評価★★★ 産経新聞記者である著者が、ハーヴァード大学に留学した経験を綴った本。 世界で最も高い評価を受けている大学だが、そこで教えられている日本像は意外に問題含みだと分かる。 あまりに実用主義的なアメリカの大学と、逆に非実用的すぎる日本の大学双方に難点があるとする著者の視点はなかなか冷静だ。

11月

・荒俣宏『本読み まぼろし堂目録』(工作舎) 評価★★★ 博覧強記で知られる著者が、600冊余りの本を紹介した書評集成。 実に多方面の本を読んでいるのに脱帽。 本の好きな人なら何がしか参考になるところがきっとある。 私も3冊の本を新発見した。

・中島義道『人生を半分降りる』(新潮OH!文庫) 評価★★★ 変わり者の哲学者として売っている著者の本が文庫化されたので、買って読んでみたが、学者の内輪話が多い。 まあ、大学で教鞭をとる哲学者が実業界のことを知ってるわけもないのだが。

・大塚健洋『大川周明』(中公新書) 評価★★★ 日本主義者・大川の生涯と思想を分かりやすく説明した啓蒙書。 インドでは今も大川が尊敬されていると述べられていて、右翼や日本主義者の見直しをうながす本と言える。

・三石由起子『「お受験」の内側』(ワニのNEW新書) 評価★☆ 私立の幼稚園や小学校を受験する、いわゆる「お受験」を、それを肯定する立場から書いたもの。 少し前に幼稚園児が殺されて、最初「お受験による嫉妬が原因では」と言われたので(しかしすぐに否定されたはず)、それを批判しつつ、小さい子供に私立学校を受験させる意義を頑張って説いているが、所詮は有産階級 (そういう私立校に通う子供の親は、「祖父母からもらうものを含めて」年収2千万円くらいになる、そうである。嘆息・・・・しているワタシはお受験に無縁ですなあ) の自己満足の域を出ない。 ノブレス・オブリージュという言葉をこの人は知っているのだろうか? それと、国立小学校の教諭は公立校の教諭より待遇がいいと書いてあったが、そんなハズないよ。 国家公務員の待遇は地方公務員(県職員クラス)より僅かながら落ちるはず。 デタラメ書かないでね。

・高木正幸『全学連と全共闘』(講談社現代新書) 評価★★☆ 戦後日本の学生運動の歴史を分かりやすく概説したもの。15年前に出た本なのでやや古くなっているし、朝鮮戦争の見方など歴史観にもやや問題があるが、このテーマで手っ取り早く知識を得ようとするにはそれなりに有用な本である。

・上野俊哉/毛利嘉孝『カルチュラル・スタディーズ入門』(ちくま新書) 評価★★ タイトル通りの本だが、石原慎太郎批判とか、地域・階層・ジェンダー横断的なネットワークだとか、かなり古いサヨク的思考の再生産だと思われる部分が多い。 全体としてかなり用心深い言い方をしてはいるのだが、昔の左翼への批判からカル・スタが出てきたとしていると称しているけど、むしろ延命行為なんじゃないかね。 延命がイケナイというのではなく、それに無自覚であるところが鈍いと言いたいのだ。

・米本昌平、他『優生学と人間社会』(講談社現代新書) 評価★★★★ 最近の講談社現代新書は非常に充実しているが、これも企画と内容が光る一冊。 ナチズムとの関係で悪評高い優生学について、ナチズムとは本来別物だったという素性を明らかにし、現代の遺伝子治療との関連に至るまでを様々な側面から考察している。 テーマがテーマなので論者の姿勢はかなり慎重だが、日本の優生学を論じている松原洋子の文章以外はきわめて視点が柔軟で、知的興奮に誘ってくれる。

・『山崎正和対談集 沈黙を誰が聞く』(PHP) 評価★★★ 30年近く前に出た対談集を仙台の古本屋でめっけて読んでみた。今では山崎は評論家・劇作家として著名だが、これは彼の名を高からしめた『鴎外 闘う家長』を上梓する直前の本で、彼もかなり若く、丸谷才一や小松左京と率直な意見を交わしているのが好ましい。

・『文学界11月号三島由紀夫特集』(文芸春秋) 評価★★★ 没後30年であり、また新潮社から新全集が出るということで三島ブームになっているけど、これもそれにあやかった一冊。 色んな人間が書いているが、やはり三島と兄弟の付き合いをしたという堂本正樹の文章が一番読ませる。 その中でアッと思ったのは、映画「憂国」のフィルムを彼が所持していると書かれていること。 この映画、フィルムはすべて焼き捨てられて現存しないということになっているので、堂本氏には是非上映の機会を設けてほしいところだ。 悪口もちょっと書いておくと、松浦寿輝の文章、めちゃくちゃつまんねえ。 学者って、どうしてこうダメなんだろう (芥川賞取ったって、所詮、学者だねえ・・・)。

12月

・斉藤貴男『機会不平等』(文芸春秋) 評価★★★ 市場のグローバル化・自由化にともなって、日本社会では階層化が進行しており、また政財界の首脳などもそれを肯定する立場から政策を推し進めているとして、これを批判した本。 心情的には分かる部分が多々あるが、例えばグローバル化論者の大学教授をお坊ちゃん学者と呼ぶなど、わりに感情的な表現が目立つ。 もう少し冷徹に、グローバル化の弊害をデータ化して検証していく必要があろう。

・秋山清『竹久夢二』(紀伊國屋新書) 評価★★ 30年前に出た本を古本屋で買ってツンドクになっていたものを、何となく読んでみた。 竹久夢二の絵は今でも人気があるが、彼が単に少女趣味的な絵描き兼詩人であったのではなく、政治的な人間だったということを主張している。 エッセイの寄せ集めのような本で、書き方にまとまりがないし、夢二が政治的な人間だったとしてだからどうなの、と言いたくなる。

・レーモン・アロン『回想録第1巻・政治の誘惑』(みすず書房) 評価★★★☆ 授業で読んだ本だが、フランスの代表的知識人の回想録として注目すべき部分が多い。 戦後のヴィシー政権に対する裁判や、ドゴール主義への見方など、なかなか面白い。 ただし訳はもう少し分かりやすくできないかなと思うし、注ももっと親切に付けてほしい。

・朝治武・灘本昌久・畑中敏之(編著)『脱常識の部落問題』(かもがわ出版) 評価★★★ 部落差別問題について、28人が各自勝手に文章を寄せてできた論集。 主張はバラバラで、当然ながら内容的には玉石混淆。 学者やジャーナリストなどが執筆者だが、大学教員に玉と石の差が激しいのが気になった。 石も相当に多い。 高齢の学者より、私と同年か数歳年下の学者が愕然とするような低レベルの文章を書いているので(黒○み○りさん、あなたのことですよ)、知性と年齢とは無関係なのだと改めて実感した。

・柄谷行人(編著)『NAM原理』(太田出版) 評価★★★ 資本主義と国家の止揚をめざして、しかし既成社会主義の暴力等の欠陥を排して、協同組合方式による新しい社会作りを目指した柄谷のアピール本。 世界資本に席巻される現代社会に対する問題意識自体は買うが、なぜそこまでして国家を廃絶したいのかがよく分からないし、この「原理」で世の中がうまくいくとも思われない。 そもそもマイナーやNGOの連帯といったフレーズ自体、既成左翼の窮屈さそのままなのだ。 また、やるべきことは各自考えてほしいという言い方は、多分、大多数の人間には不親切すぎると思う。

・『西尾幹二の思想と行動・第3巻』(扶桑社) 評価★★★★ 全3巻本が完結した。 最初に収められている「人生に関する八つの考察」は単行本初収録だが、残りは従来の彼の単行本からよりすぐったもので、私はほとんど既読だったが、改めて読んでみると西尾のドイツ文学者嫌悪がうかがえて同感できる。 もっとも西尾の同業者嫌いは昔からだそうだが、私は教養部解体以後だから、その分だけ私が鈍い、ということになるのだろうか。

・小浜逸郎『なぜ人を殺してはいけないのか』(洋泉社新書) 評価★★★ 「人は何のために生きるのか」から始まって、「戦争責任をどう負うべきか」まで、10の設問に答えた本。 といっても、簡単に解決が見出せない問いばかりであり、著者も単純な答を出そうとしているわけではない。 そもそも設問の仕方自体に問題がある場合が多い、という認識をもとにして、「問題意識」の正当性を問うところから始めている。 著者の筆はいつもながら日常的な健全性からはみ出ていないが、それだけにやや退屈なところもないではなかった。

・日垣隆『偽善系 やつらはヘンだ!』(文芸春秋) 評価★★★☆ 教育や裁判などを材料に、常識的な人間がオカシイと思っていながら人権を振り回す専門家(?)がヘンに歪めてしまった現状を徹底的に批判した本。 特に少年の殺人犯罪には死刑を適用せよという明快な主張は筋が通っていて小気味よい。

・丹羽健夫『悪問だらけの大学入試――河合塾から見えること』(集英社新書) 評価★★★☆ 大手予備校に勤務する著者が、大学入試の悪問を批判すると同時に、大学生の学力低下問題や教育一般の問題を論じたもの。 ただし、教養部解体が入試問題に悪問を増やしたという説には疑問がある。 その一方、入試英語の出題には内容的に言語学関係が多く、その理由は、英語出題者は英文学専攻か英語学専攻だが、英語学専攻の大学教師は読書量が少ないので自分の専攻分野からでないと出題できないからだ、という指摘には思わずニヤリとした。(英語学専攻の先生からの反論を待ちます。)

・福田和也『喧嘩の火だね』(新潮社) 評価★★★★ 現役の作家や批評家を俎上に載せて遠慮会釈なく論じた本。 といっても、内容的には作家に厳しく (田中康夫や車谷長吉への批判は鋭い) 批評家に甘い(浅田彰を意外なほどホメている) 感じがするのだが、どんなものだろう。 東浩紀に「福田は書きすぎる」と言われつつも、自分は月産200枚であり、それは何しろ贅沢な暮らしをしているものでとあっさり言い切ってしまうところや、「群像」誌に原稿依頼を受けたとき1枚6500円という標準より高い稿料をふっかけたらキャンセルされたという話を暴露するなど、読者へのサービス精神の旺盛さには感心する。 こういう本をちゃんと売っているのだから、BOOKOFF寺尾前通店も捨てたものではない。

・福田和也『作家の値うち』(飛鳥新社) 評価★★★ 現役作家の小説を、エンターテインメントと純文学にわけて点数で評価した本。 実のところワタシは扱われている小説はほとんど読んでないが、著者もこの本を書くためにこれだけ読んで、しばらく小説は読みたくないとあとがきに書いているから正直だ。 また、こういう時代だがあくまで純文学とエンターテインメントは違うと主張しているところもいい。 上と同じくBOOKOFF寺尾前通店に感謝。 

・村上春樹+柴田元幸『翻訳夜話』(文春新書) 評価★★★ 作家ながら翻訳もやっている村上と翻訳家・英文学者の柴田が、翻訳をネタに対談したもの。 加えて、巻末にアメリカ小説2篇を二人が競作ならぬ競訳して原文と一緒に並べてある。 翻訳についての話は、私も多少翻訳をやっているので、そうだよなとうなづきながら読めた。 巻末の競訳は、私はアメリカ小説に趣味がないので (これは文学少年だった十代の頃からそうで、独仏露の小説が主たる読書対象だった) 正直、読んでも面白いとは思わなかったが、でも並べてみるとやはり柴田の方が訳がうまいね。 村上のは、私の方がまだマシじゃないか、ってくらい。

 


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