何はともあれ、作品そのものに面白さを感じるのが、文学への正統的なアプローチのしかたです。
翻訳が容易に手に入り、読みやすい作品を紹介しましょう。
戦後ドイツを代表する作家が、ギュンター・グラスです。その出世作『ブリキの太鼓』は映画にもなりました。原作も読みごたえのある長篇ですが(集英社文庫、集英社版「世界の文学」など)、長いのはどうもという方には短篇の『猫と鼠』をおすすめしましょう。ナチス時代を生きた少年を主人公にしていますが、薄っぺらなプロパガンダ文学ではなく、猥雑さと本当の悲しみに満ちた、真の文学作品です。
(新潟大学生協発行・書評誌『ほんのこべや』第2号〔1992年春〕掲載)
『デミアン』は、『車輪の下』などで著名なドイツの作家ヘルマン・ヘッセが、1919年、つまり第一次大戦終了直後に偽名で発表した小説である。当時のドイツの青少年にむさぼるように読まれ、ある文学史家はこれを「魔法の一撃」と呼んだ。
私個人のことを書けば、十代の頃は文学少年だったのでヘッセの作品にもいくつか目を通したが、生意気にも(文学少年とはだいたいが生意気なものである)さほどでもないなと思っていた。
しかし何事にも例外はある。唯一の例外、それが高校に入るか入らないかの頃に読んだ『デミアン』であった。この小説は私にも「魔法の一撃」を与えたのである。その年齢の脳ミソで内容が十分分かるはずもないのに、読んでいてまさに人ごとならざる感覚に襲われたのだった。分かるということと共感するということは同じではないが、ある時代やある年齢層に爆発的とも言える読者層を獲得する作品には、その辺で絶妙の配合がなされているのだと思う。
さて、この小説はあなたにも「魔法の一撃」を与えるかどうか、一読をお勧めする。
(『ほんのこべや』に掲載を予定していたが、都合により中止。ここに初掲載)
以後、順次構築していく予定です。
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