映画評2014年

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 2014年に見た映画をすべて紹介。 5段階評価と短評付き。

  評価は、★★★★★=今すぐ映画館に駆けつけるべし (大傑作につき見ないと一生の損)。 ★★★★=十分な満足感が得られる (いい作品だから見てごらんよ)。    ★★★=平均的 (見て損はない)。 ★★=劣る (カネと時間が余ってたらどうぞ)。 ★=駄作 (カネをドブに捨てるようなもの)。 ☆は★の2分の1。

 

58.「夢は牛のお医者さん」 4/5、シネ・ウインド。 評価★★★☆ 時田美昭 (TeNYテレビ新潟) 監督作品。 ドキュメンタリー。 25年前、新潟県松代町の、人家が30軒ほどしかない集落にある小さな小学校で、たまたまその年には新入生がいなかったため (そもそも全学年合わせて9名しか生徒がいない学校なのだ)、子牛3頭を迎えて、出荷する体重になるまで生徒達に育てさせるという教育がなされた。 牛はすぐに成長するので実際には8ヶ月しか学校では飼われなかったが、子供たちは一所懸命に世話をし、彼らの 「卒業式」 の時には涙を流しながら見送った。 その経験をした当時この学校の中学年だった少女は、自分の家も牛を飼う農家であったが、将来は獣医になって牛の世話をしたい、と決心。 地元中学卒業後は、新潟県第三の都市・上越市のトップ進学校である高田高校に下宿して通い、岩手大学農学部獣医学科に合格、そして国家試験にも受かって、晴れて上越市で牛などを担当する獣医として農家めぐりの仕事をするようになった。 この映画は、彼女が小学校で牛の世話をしていた25年前から、獣医師として上越市で仕事をし、なおかつ高校時代の同級生である県職員の男性と結婚して子供2人をもうけ、仕事と家庭の両立に必死になりながらも、少女時代の夢をかなえて生きるようになるまでの姿を映し出した、四半世紀に及ぶ長期取材の結実である。 途中で中越地震が起こって農家に被害も出たし、また彼女が通った小学校は現在では廃校になってしまっているが、新潟県でも山奥の農家の実情や、そこに生きる人々の表情、獣医の仕事の実際などを映し出していて、悪くないドキュメンタリーに仕上がっていると思う。  なお、土曜日の夜の回に行ったら、ふだんはそんなに客がいないウインドなのに、長蛇の列ができているのに驚愕。 満員で補助イスまで出す盛況ぶりだった。 ご覧になる方は平日のほうがいいかも知れない。

57.「サクラサク」 4/5、Tジョイ新潟万代。 評価★★☆ 田中光敏監督作品。 会社部長の夫 (緒方直人)、専業主婦の妻 (南果歩)、三流大学を出てフリーターをしている長男 (矢野聖人)、高校生の長女 (美山加恋)、それに夫の老いた父親 (藤竜也)の5人家族はそれなりの暮らしをしていたが、老いた父親がぼけ始めて、一気に家族の亀裂が顕在化。 しかし、その老いた父親の過去をたどる旅に家族は出発して絆を取り戻していく。 ・・・・というような筋書きなんだけど、脚本がどうにもお粗末で、見ていて人物の行動だとか心理に納得がゆかず、残念な出来に終わったと言うしかない。 この監督は前作の 『利休にたずねよ』 でも、映像はきれいだけど、脚本がダメだったんだよね。 しっかりした脚本家のサポートを入れないとちゃんとした映画作りができないタイプの監督なんじゃないかな。

56.「ブラック・レイン」 4/5、Tジョイ新潟万代。 評価★★★☆ リドリー・スコット監督作品、1989年。 午前10時の映画祭にて。 わりに有名な映画だけど、見たのは初めて。 マイケル・ダグラスと高倉健の共演だというのが売り物だけど、見ているとむしろ悪役の松田優作の存在感が光っており、健さんは、役柄のせいもあるがあんまり存在感がない。 不良刑事のマイケル・ダグラスと組むアンディ・ガルシアの 「やさしいアメリカ人」 ぶりは悪くない。 筋書き自体はさほど斬新とも思えないけど、ニューヨークでも大阪でも煙が充満している映像は、どこか汚れた環境と汚れた人間性のつながりを想起させ、明朗すっきり健全とはいかない世の中を暗示しているかのようだ。 日本のヤクザがニューヨークに進出しているのも、またヤクザが大阪の工場の中で秘密の会合を開くのも、バブル絶頂期の日本をアメリカ側から見たものとも言えそうだ。

55.「白ゆき姫殺人事件」 3/31、AEC新潟西。 評価★★★★ 湊かなえ原作、中村義洋監督作品。 石鹸メーカーの美人OL (菜々緒) が殺された。 或るテレビ局に勤務するカメラマンの青年 (綾野剛) は、たまたまその石鹸メーカーのOL (蓮佛美沙子) と知り合いだったが、彼女から社内事情や、同僚の一人 (井上真央) が怪しいのでは、という話を聞いて、テレビ局のワイドショーで独自に事件を調査する運びとなり・・・・。 ネット社会の問題を扱っているが、類似したテーマの映画は他にもあるので、その点ではあまり斬新さを感じないけれど、ミステリーとしては結構よくできていると思う。 ほかにいじめの問題だとか、女の子同士の友情の問題などが扱われている。

54.「チーム・バチスタ FINAL ケルベロスの肖像」 3/29、UCI新潟。 評価★★★☆ 星野和成監督作品。 映画版での 「チーム・バチスタ」 は3作目で、これが最後だそうだが、第2作目までとはキャストが異なっている。 第2作目までは阿部寛と竹内結子が軸になっていたが (ただし第2作目の実際の主役は堺雅人と羽田美智子だったけど)、今回は仲村トオルと伊藤淳史がやっている。 テレビ版に合わせたということらしいが、私のように映画ヴァージョンしか見ていない人間はちょっと戸惑ってしまう。 それはさておき。 推理ドラマとしての面白さはまあまあある。 キャスト同士の言葉のキャッチボールも悪くない。 ただ、最後にコンピュータを使った犯罪行為になってしまうのは、ちょっと凡庸じゃないですか。 それでも緊迫感は最後まで途切れないので、平均よりは上の出来であろう。

53.「LIFE!」 3/27、AEC新潟西。 評価★★★  アメリカ映画、ベン・ステイラーが監督と主演を兼ねている。 雑誌社で写真部門担当のサラリーマンとして目立たない生活を送っている主人公が、雑誌の最終号の表紙に使われるはずの写真が紛失していることに気づき、撮ったカメラマンを訪ねて外国へ冒険旅行に出る、というお話。 期待して見たのだけれど、十分な満足感が得られるところまでは行っていない。 たしかにグリーンランドやアイスランドなど、世界の果てにロケをして風景美などはそれなりに楽しめるようになってはいるが、人間ドラマとして見ると、どことなく物足りない感じが残る。 彼が思いを寄せる女性との関係がややありきたりで底が浅いせいもありそう。

52.「地球防衛未亡人」 3/26、シネ・ウインド。 評価★★ 河崎実監督作品。 壇蜜主演。 愛する婚約者の命を怪獣に奪われたヒロインが、地球防衛隊に入って、やがて地球に再来した怪獣と戦うが、なぜか怪獣を攻撃するとエクスタシーに襲われて・・・・という、いまやエロスの女王である壇蜜と、日本のオハコである怪獣映画を組み合わせた作品。 ・・・・なんだけど、低予算映画の悲しさか、怪獣ものの迫力がさっぱりだし、予算には無関係なはずの壇蜜のエロスも十分に発揮されているとは言いがたい。 そのほか、安倍首相や石原元東京都知事、さらには米国のオバマ大統領をおちょくったり、日本の原発政策を皮肉ったりしているところも目立つけど、やはり怪獣の迫力と壇蜜のエロスが不十分である時点で、本作品は終わっていると言うしかないだろう。

51.「ウォルト・ディズニーの約束」 3/23、AEC新潟南。 評価★★★ アメリカ映画、ジョン・リー・ハンコック監督作品。 実際にあった話をもとにしているそうである。 ウォルト・ディズニー (トム・ハンクス) が 『メリー・ポピンズ』 を映画化するにあたって、英国に住む原作者の女性 (エマ・トンプソン) からその権利を獲得しようとするが、原作者はなかなか頑固で、映画化に色々条件を付けてくるので、ディズニーやその周辺スタッフも苦戦を強いられる。 実は原作者には子供時代の父親との思い出へのこだわりがあった・・・・・。 ディズニーと原作者のやり取りはなかなか面白いし、トム・ハンクスもエマ・トンプソンも好演している。 ただ、原作者の過去の記憶と、『メリー・ポピンズ』 の映画化との関係がやや不明確で、作品全体を通してみて最後に腑に落ちるというところまで行っていないような気がする。  

50.「闇を横切れ」 3/21、シネマヴェーラ渋谷。 評価★★★ 増村保造監督作品、1959年。 シネマヴェーラの山村聰特集の1本。 西日本の某都市を舞台に、市長選挙の最中に革新党の候補者が若い女性を殺した嫌疑をかけられて事実上選挙から落伍してしまうという事件が起こる。 しかし地元新聞社に勤務する気鋭の若い記者 (川口浩) は、この事件の背後に町を牛耳るボスの陰謀があるのではと考え、理解ある編集長 (山村聰) の応援を得て、真相に迫ろうとする・・・・。 むかし、NHKに 『事件記者』 という人気テレビドラマがあって、警察を尻目に新聞記者が事件の核心に迫っていくというお話だったけど、この映画もそういう筋書きで、この頃は新聞記者への信頼度も高かったんだな、と痛感させられる。 現代では、新聞記者は警察の公式発表をそのまま記事にしていることがバレちゃってますけどね。 また、市長や警察も含めて町全体を牛耳る大ボスという設定も、今だとあんまりリアリティを感じないが、この頃はそれなりに受ける設定だったんだろうなあ。 そういう意味で、時代性が濃厚に感じられる映画である。

49.「河口」 3/21、シネマヴェーラ渋谷。 評価★★★☆ 中村登監督作品、1961年。 シネマヴェーラの山村聰特集の1本。 若く美しいヒロイン (岡田茉莉子) は両親がなく孤独な身の上だったが、裕福な財界人の妾として暮らしていた。 しかし財界人も老いたため、関係を清算して画廊をもたせてもらい、なおかつ美術に詳しい中年男・館林 (山村聰) をつけてもらう。 美術商としての経営は館林のお陰で何とか軌道に乗るが、彼女自身はその後、関西の財界人や家族持ちの青年実業家と関係したりして、なかなか生き方が定まらない。 そうこうするうちに彼女は館林の知人で才能ある建築家の司 (田村高廣) と知り合い、惹かれていく。 彼には長年入院している夫人がいた。 そして・・・・。 筋書きだけ書くと典型的な通俗女性映画みたいだけど、面白いのは山村聰演じる中年男である。 美術にしか興味がなく中年なのに家庭ももっていないが、美術に関する鑑識眼が確かなだけでなく、ヒロインの男関係にもこうるさく口をさしはさむ。 といってヒロインに男として興味があるわけではない。 この主従の関係が、実はヒロインが館林に操られているわけで、その辺が非常に面白いのだ。 佳作と評すべき映画。

48.「穴」 3/20、シネマヴェーラ渋谷。 評価★★ 市川崑監督作品、1957年。 モノクロ、スタンダードサイズ。 シネマヴェーラの山村聰特集の1本。 ヒロインは女流ルポラーター (京マチ子) で、警察批判の記事を書いたために警察から恨みを買う中、自ら失踪して発見されるかどうかという企画を別の新聞社と立てる。 ところが他方で、銀行の幹部 (山村聰ほか) の陰謀で、公金横領の嫌疑が彼女にかけられてしまい、警察から追われる羽目になり・・・・。 色々な筋書きが絡んでドタバタ喜劇が展開されるのだが、めまぐるしく、また真犯人は途中で分かってしまうので、見ていてさほど面白いとも思えない。 後世に残るような作品ではないということですね。

47.「あの人はいま」 3/20、シネマヴェーラ渋谷。 評価★★★ 大庭秀雄監督作品、1963年。 シネマヴェーラの山村聰特集の1本。 東京に暮らす若いヒロイン (岩下志麻) は、建築家の青年と婚約していたが、絵を教わっている名のある画家 (山村聰) に婚約の報告に行ったところ、犯されてしまい、絶望して青年には別れを告げ、捨て鉢になって伊豆への旅に出る。 伊豆でたまたま実業家の中年男 (丹波哲郎) と知り合い、とりあえず彼の妾として暮らすことに。 やがて彼女は純情な青年と知り合い求婚されるが、他方で以前婚約していた建築家が公私とも厳しい状況下に置かれていることを知り・・・・。 若いヒロインが様々な男と付き合いながら最後に自分の生き方を見定めるという筋書き。 他愛もないといえばそれまでだけど、まあまあ面白い。 ヒロインの置かれた境遇を知りつつ妾にする実業家役の丹波哲郎がカッコいい。 東京オリンピックの前年で、壁にはすでにオリンピックのポスターが飾られているところに時代性を感じる。 建築家の青年が最後に飛騨の山奥の土木工事担当になるのも、何となく日本列島改造を予見しているような気がする。

46.「ドストエフスキーと愛に生きる」 3/20、アップリンクX(渋谷)。 評価★★★☆ ドイツ・スイス合作、ヴァディム・イェンドレイコ監督作品。 ウクライナ出身で戦後はドイツに暮らしつつ、大学で教えたりドストエフスキーの翻訳に従事するなどしてきた老婦人がいる。 この映画は、その老婦人の生涯をたどったドキュメンタリーである。 タイトルからするとドストエフスキーを改めて紹介したり、或いはドストエフスキーと翻訳者の関わりを描いているのかと思うが、そういう側面も多少はあるものの、それがメインではない。 ドイツ語の原題も、「5頭のゾウを連れた婦人」 となっていて、5頭のゾウとはドストエフスキーの5大長編である 『罪と罰』 から 『カラマーゾフの兄弟』 までを指しているのだが、やはり映画の内容にはあまり即していない。 ・・・しかし、映画としてはなかなか面白い。 ウクライナという、ドイツやポーランドとソ連=ロシアに挟まれた地域に生を享け、ドイツ語を身につけていたお陰で第二次大戦中はドイツ軍高級将校の通訳として雇われ、それが機縁となってドイツの大学に奨学金つきで学ぶことができるようになった婦人は、戦後はドイツへの恩返しのために生きてきたという。 第二次世界大戦ではとかくドイツは悪者でソ連が連合軍のため正義の味方みたいに思われているが、ユダヤ系は別にして一般のウクライナ人にとってドイツ軍はソ連による抑圧からの解放者と受け取られていたことが分かる作品でもある。 複雑なヨーロッパ事情を知るのに有益。 例によって新潟では上映予定が今のところないんだけど、どこか持ってきませんかね?

45.「All is lost」 3/19、TOHOシネマズシャンテ(日々谷)。 評価★★★★ アメリカ映画、J・C・チャンダー監督作品。 ヨットに一人乗っていた男 (ロバート・レッドフォード) が、気が付くとどこかから流れてきたらしいコンテナのせいで船の横腹に穴が空いてしまっており、しかも周辺には陸地が見当たらないという状況の中で、必死にサバイバルをはかる、というお話。 登場人物は一人だけで、セリフもほとんどないのだが、ヨットマンがたった一人で様々な手段を講じつつ生き延びようとし、嵐に逢ってもみくちゃにされたり、船舶が通りかかっても気づいてくれなかったり・・・・・といった物語進行はきわめてリアルで、見ていて銀幕から目が離せなくなる。 タイトルの意味も、最後まで見るとそれなりに納得できる。 お薦めである。 実は最初有楽町で 『ラヴレース』 の夜の部を見るつもりでいたら、満員で入れないと言われてしまい、近くの映画館で今からでも間に合うものを探して見てみた作品で、つまり予定していなかったのだが、予想外の収穫だった。 例のごとく今のところ新潟での上映予定がないのだけれど、新潟にも持ってきてもらいたい。 なお 『ラブレース』 のほうはその後シネ・ウインドでの上映が決まったので、有楽町では見損ねたけど結果的にはよかったということか。 【追記】 その後、この「All is lost」は新潟市でも5月中旬からユナイテッドで上映されることが決定した。

44.「17歳」 3/19、シネスイッチ銀座。 評価★★★ フランス映画、フランソワ・オゾン監督作品。 17歳の高校生であるヒロイン (マリーヌ・ヴァクト) は、バカンスで知り合ったドイツ人青年と初体験を済ませた後、パリに戻ってからケータイを媒介にして娼婦業を始める。 しかし或る老人とは何度も交渉を持つ中で、老人は行為の最中に腹上死してしまい・・・・。 これといった内容があんまりなくて、要するに17歳の美しい娼婦を演じるマリーヌ・ヴァクトが惜しげもなく脱いで裸身をさらしセックスシーンを演じているのを楽しむだけの映画である。 彼女をめぐっては家族が売春を知ってショックを受けるなどの場面もあるけど、別にそういう方面での描写が優れているとか、問題提起をしているとか、そういう感じはしない。 エッチな興味で見るだけの作品。

43.「東京難民」 3/19、有楽町スバル座。 評価★★★☆ 佐々部清監督作品。 東京の某私大生が学費未納で大学を除籍になり、なおかつ住んでいたアパートからも部屋代未納で追い出されてしまい、ネットカフェで夜を明かしながらアルバイトで食いつなぐものの、やがてヤクザが経営するホストクラブに雇われる身となって・・・・というように、若者が転落していく過程を追っている。 最近、若者の貧困とか、セイフティネットの構築なんかがよく言われるわけだが、そういう方面に興味のある方は見ておいて損はない。 もっとも主人公の若者にはかなり甘いところもあって、もう少し勉強しておけよと言いたくなるシーンもないではない。 また、作中の弱者がみな 「いい人」 なのも、かえってこの映画の奥行を浅くしているようにも思えるが、ともあれ一見の価値はあろう。

42.「それでも夜は明ける」 3/18、新宿武蔵野館。 評価★★★★ アメリカ映画、スティーヴ・マックィーン (同名の有名俳優とは別人) 監督作品。 米国アカデミー賞作品賞をとったというので話題の映画でもある。 南北戦争以前のアメリカ。 北部で自由黒人として、妻子とともに幸福に暮らしていた男が、騙されて監禁され、南部に送られて奴隷として売られ、12年間を過ごすという実話に基づいている。 当時の黒人奴隷の仕事の様子や、雇う側の暮らし、雇用主の妻の態度、聖書が奴隷使役と全然矛盾なく信奉されていたことなどが、リアルな映像で捉えられている。 率直に言ってすごく目新しいとか、映画として独特の面白さがあるというのではないが、奴隷制の実態を正面切ってきっちりとまじめに映像化しているところが買いの作品であろう。

41.「早熟のアイオワ」 3/18、新宿武蔵野館。 評価★★☆  アメリカ映画、ロリー・ペティ監督作品、2008年。 5年前の映画だけど、作中に登場するジェニファー・ローレンスとクロエ・グレース・モレッツがそれぞれ最近ブレイクして日本でも人気が出ているので、それで改めて輸入されたということらしい。 ジェニファー・ローレンスは当時18歳、この映画ではミドルティーンの高校生の役。 家が娼館で、母も娼婦であり、なおかつ黒人男に入れあげている。 ジェニファー・ローレンス演じる高校生はその男にはそれなりの愛情を持っていたが、或る日レイプされて処女を奪われてしまうという筋書き。 またクロエ・グレース・モレッツは当時10歳で、母から面倒を見てもらえず飲み屋に預けられてそこで酔客とコミカルな会話を交わすという設定。 要するに家庭に恵まれない少女たちが、それでもどっこい生きてます、という映画で、これはこの映画を撮った女性監督の実際の体験に基づいているのだそうだ。 そういう意味では一見の価値はあるかもしれないが、映画として面白いかと言われたら、うーん、どうかな、という答になりそう。 あくまでジェニファー・ローレンスのハイティーン時代やクロエ・グレース・モレッツの子供時代を見たい人向けだろう。

40.「危険旅行」 3/17、新文芸坐 (池袋)。 評価★★☆ 中村登監督作品、1959年。 新文芸坐の有馬稲子特集より。 才女として有名な作家 (有馬稲子) が、あまりの多忙さに音をあげて失踪。 出版社の記者 (高橋貞二) は記事にしようとひそかに彼女に近づき、一緒に彼女の出身地である九州に旅行する。 やがて彼は彼女に愛情を抱き、書いた記事を出版社に渡すことを断念しようとするが (この辺の筋書きは 『ローマの休日』 のパクリかな)、別の社員が記事を横取りして雑誌に発表してしまい、二人の仲は犬猿のごとくに。 しかし彼女の故郷でむかし幼い彼女の世話をしたばあや (沢村貞子) は二人に真の愛情があると見抜いて一計を案じ・・・・。 ロードムービーで、観光映画的なところはそれなりにあり、当時人気のあった俳優が何人も出ているけれど、今見てみると映画としての面白さはさほど感じられない。 

39.「充たされた生活」 3/17、新文芸坐 (池袋)。 評価★★★ 羽仁進監督作品、1962年。 新文芸坐の有馬稲子特集より。 かつて劇団で演劇に打ち込みながら、今は結婚して平凡な生活を送っている若い女性 (有馬稲子)。 しかし夫の仕事はうまくいかず、先行きも怪しい中、彼女は離婚して劇団に戻ろうとする。 劇団の内部にも色々な人間模様があるが、おりしも1960年の安保闘争時代。 劇団員にも政治的な動きが顕在化する。 彼女もそこに巻き込まれ、また劇団に戻るにあたって世話になった演出家から求愛されて・・・・。 一面で若い演劇志望の女の生き方を、他面で安保闘争時代の社会を描いている映画。 時代に関してはドキュメンタリー的な側面もかなりある。 ただし完成がその2年後であるせいか、視点が安保批判に凝り固まっているという印象はない。 あくまで時代を切り取った作品だ。 安保闘争以外のヒロインの生き方に関しても、いわゆる商業映画とはやや異なった、ドキュメンタリー的な映像を監督は意図的に作り上げているようだ。 それが作品に新鮮味を与えている。

38.「あなたを抱きしめる日まで」 3/16、ル・シネマ (渋谷)。 評価★★★☆ 英国映画、スティーヴン・フリアーズ監督作品。 今は老いているヒロイン (ジュディ・デンチ) は、若い頃にアイルランドの修道院で暮らしていながら、戒律に背いて男と刹那的な交渉を持ち、男の赤ん坊を生んだ経験があった。 そして赤ん坊は彼女の意思に反して養子としてどこかへ送られてしまったのだった。 ヒロインはその後ふつうに結婚して娘をもうけるが、若い頃のことはずっと隠し通してきた。 しかし老いた現在になってどこかへ送られてしまった息子の消息が気になり始め、娘にそのことを打ち明ける。 娘はBBC記者の経験がある中年男とたまたま知り合ってこの件を相談し、男は行方不明の息子の捜索を引き受けて、ヒロインと男は協力して色々と調べていくのだが・・・・・。 この映画、そういう息子探しの話かと思っていたのだが、そしてそれは一応そのとおりではあるのだが、そちらは期待したほどではない。 むしろ、息子探しをする過程での、かつては修道院暮らしをしていた老婦人の天衣無縫な性格と、オクスフォード大卒のインテリである元BBC記者との、学歴やキャリアの差から来る独特の滑稽なやりとりやコンビのあり方などに見るべき点が多い。 修道院の実態などはおそらく実際の様子を反映しているのだろうが、私としてはその辺をもう少し追及して欲しかった。 

37.「かしこい狗 (いぬ) は、吠えずに笑う」 3/12、シネ・ウインド。 評価★★★★ 渡部亮平監督作品・脚本。 ぴあフィルムフェスティバルでエンタテインメント賞と映画ファン賞をダブル受賞したという映画。 冴えない (という設定になっているけど、結構可愛い。mimpi*β――ミンピと読むそうだ――が演じている) 女子高校生が、同じクラスの可愛い女の子 (岡村いずみ) と仲良くなって親友として付き合い、最初は友達ができてよかったと思っていたものの、やがて相手の行動に不可解な部分があることに気づき・・・・というような筋書き。 前半は女の子同士の友情物語として、後半は・・・・まあ、見てのお楽しみである。 主演二人が可愛いし、映画として結構よくできていると思う。  この作品、新潟ではシネ・ウインドの単独上映で、しかも毎日夜の部 (18時50分から) 1回のみで、3月14日までしかやっていない。 そんなこと言われてもと嘆く向きもいようが、映画ファンなら絶対見て損はない。 無理に時間を作っても見に行きましょう。 

36.「銀の匙 Silver Spoon」 3/10、UCI新潟。 評価★★★ 吉田恵輔監督作品。 原作は人気漫画でテレビアニメにもなったそうだが、私は未読・未見。 札幌の有名私立中学で落ちこぼれて、半ば捨て鉢で帯広の農業高校で酪農を学ぶことになった主人公の男の子を中心に、ブタやウシの飼育だとか、ばんえい競馬だとか、北海道の酪農家の経営状況だとか、色々な問題や現実がちりばめられた青春物語。 悪くはないんだけど、酪農をめぐる色々な知識を分かりやすく入れておくというところに意を用いすぎて、人間のドラマという点ではいささか物足りない。 あんまり期待せずに現代の酪農の実態を知るというくらいの気持ちで見ればいいかもしれないね。 

35.「椿姫ができるまで」 3/10、シネ・ウインド。 評価★★★   フランス映画、フィリップ・ベジア監督作品。 2011年のエクサン・プロヴァンス音楽祭でオペラ『椿姫』が上演されるに際して、その練習の模様を映画化したもの。 ヒロインを演じるナタリー・デセイ、演出家のジャン=フランソワ・シヴァディエ、指揮者のルイ・ラングレ、そしてロンドン交響楽団、それから名前が分からないけど練習時にオーケストラの代わりに伴奏で練習を助ける女性ピアニストなど、色々な役割の人がでてきて、オペラ上演にこぎつけるまでの模様が何となく分かる。 ただ、欧米のドキュメンタリーにありがちなことで解説がつかないので(女性ピアニストが代役で説明している箇所はあるけど)、もう少し親切に作れないのかな、という気もした。 ナタリー・デセイのヴィオレッタを始め、このオペラの有名場面はたっぷりと楽しむことができる。

34.「劇場版 仮面ティーチャー」 3/5、UCI新潟。 評価★★ 守屋健太郎監督作品。 原作はマンガで、テレビドラマにもなったようだが、私はいずれも未見。 最初に、たぶんテレビドラマ版の要約みたいなものが説明的に入る。 それから本筋。 かつて主人公の仮面ティーチャーが高校生の頃に、ぐれていたのを救ってくれた恩師が、副校長として教育省から派遣されてきた。 実は恩師は主人公を教えた後、熱血教師ゆえに生徒にふるった鉄拳が体罰とされて教師をクビになり、自分の教育的信念を否定されたことから、過激な秩序維持主義者に変貌していた。 校内秩序維持のため、不良生徒にはどんどん鉄拳をふるい、さらには新生徒会を創設して生徒自身に生徒を監視させるシステムを導入する。 これに疑問を抱く主人公はかつての恩師と対決するが・・・・。 テレビ版はどうなのか知らないが、この映画版は鉄拳制裁に愛があるかないかという極めて単純な違いにこだわって、教育の本質だとか微妙さに全然肉薄できていない。 鉄拳制裁が一律に悪いとは思わないけど、それにしてもこの映画って、要するに格闘もので、お前は 「クローズセロ」 かっ、と突っ込みたくなる。 実際、ラストシーンはそんな感じだしね。 あと、マドンナ教師役の大政絢、セクシー過ぎて、こんな教師がいたら男子高校生は気が散って全然勉強に身が入らないんじゃないかと、余計な心配をしてしまいました(笑)。

33.「ジョバンニの島」 3/5、AEC新潟西。 評価★★★★ 西久保瑞穂監督作品、アニメ。 第二次大戦に敗北した直後の日本。 その中の北方領土である色丹島を舞台に、祖父および父と暮らす小学生の兄弟を通して、突然島がソ連軍に占領される中、日本人とロシア人の子供たちが大人の思惑とは無関係に相互交流をする様子が描かれている。 ソ連軍は暴力をともなう厳しい占拠を行うが、日本人少年とロシア人少女の幼い恋も進展する。 やがて日本人は島を強制的に退去させられるが、直接本土に向かうのではなく、いったん樺太(サハリン)に移される。 少年と少女の別れ。 そして少年たちの父は強制労働に狩り出される・・・・。 実際にあったことをもとにしたアニメであるが、ソ連軍に対する政治的な告発のような内容ではない。 事実を淡々と物語りつつも、豊かな詩情にあふれ、また少年たちが宮沢賢治の 『銀河鉄道の夜』 を好むという設定によって (このアニメのタイトルは 『銀河鉄道の夜』 の主人公の名から来ている)、北の島での様々な事件や出会いがこの童話的な小説内の出来事になぞらえられているなど、巧みな工夫も凝らされている。 終戦直後の樺太でソ連軍が侵攻してきたために生じた悲劇は映画にもなって比較的知られているが、色丹島の出来事は一般にはほとんど知られていないのではないか (私も知らなかった)。 その意味でも、また、昨年大ヒットした宮崎アニメ 『風立ちぬ』 に劣らない出来のアニメ作品という意味でも、ぜひ劇場でごらんになることをお薦めしたい。 宮崎アニメほど宣伝していないし、上映館も少なく、新潟市ではイオンシネマ新潟西の単独上映だが、私が見に行ったときは私を入れて2人しか観客がいなかった。 すぐれたアニメなのに勿体ない。

32.「マーニー」 3/1、シネ・ウインド。 評価★★☆ アルフレッド・ヒッチコック監督作品、1964年。 ヒッチコックは金髪の女性が好きだったそうで、この映画にも金髪のティッピー・ヘドレンが主演している。 ・・・・・のだが、このヘドレンという女優、私の好みで申し訳ないけど、全然魅力を感じない。 たしかに整った顔立ちかもしれないけど、男を惹きつけるものに欠けている。 むしろ、准ヒロインで出てくるダイアン・ベイカーのほうがよほどチャーミング。 こちらは黒髪ですけどね。 筋書きは、盗癖があり男嫌いでもあるヒロインを、そうと知りつつお金持ちの男性 (ショーン・コネリー) が結婚によって救おうと努力する、ということなんだけど、こちらも通俗的なフロイト心理学が応用されていて、私としてはあんまり説得性を感じないし、またお話としてだらだら続いていて、展開にキレがない。 どちらかというと失敗作でしょう。

31.「エレニの帰郷」 2/26、Tジョイ新潟万代。 評価★★★☆ ギリシア・イタリア・ドイツ・ロシア合作。 事故で亡くなったギリシアの巨匠テオ・アンゲロプロス監督の遺作。 タイトルは、先の作品 「エレニの旅」 を意識して日本の輸入元がつけたもので、原題は 「時間 (時代) の塵埃」。 ただし、ヒロインの名はエレニである。 とはいえ、前の 「エレニの旅」 のヒロインとは別人。 第二次大戦直後に、事情があってギリシアからソ連に移住した女性エレニと、彼女の夫となる男と、もう一人彼女を愛する男の、三人の生涯が、アンゲロプロスらしくリアリズムによってではなく、象徴的で詩的な映像によって綴られている。 いつもながら映像の楽しみはたっぷりと盛り込まれているし、イタリア、ドイツなど、ヨーロッパ各地の時代ごとの状況もさりげなく盛り込まれている。 エレニは最後に老いて死ぬが、孫娘も同じエレニという名で、幼いエレニが駆け出すところで映画は終わりとなる。 この作品が20世紀三部作の第二作で、アンゲロプロスが生きていればおそらくは、この幼いエレニの成長が第三部で描かれたのではないか。 それが見られないのは残念と言うしかない。 なお、新潟市ではTジョイの単独上映で一日一回しかやらない。 私が見に行ったときは、昼過ぎながら10人くらいの観客数だった。 あと数日しか上映していないので、お早めに。

30.「キック・アス ジャスティス・フォーエバー」 2/24、UCI新潟。 評価★★★ 米英合作、ジェフ・ワドロウ監督作品。 2010年に公開されてヒットした前作の続編。 前作は、ふつうの高校生がスーパー・ヒーローに憧れてコスチュームをつけ 「キック・アス」 と名乗って悪と戦うがひどい目に会い、しかしなぜか実際に強力な戦闘能力をもつ中年男とその幼い娘のペアと出会って・・・・というようなお話で、このスーパーガール的な幼い娘である 「ヒットガール」 を演じるクロエ・グレース・モレッツが大の男を次々と倒すところが爽快だというのでヒットした。 で、今回の続編にも彼女は登場。 しかし成長して高校生となり、父亡き後、後見人の中年男性に厳しく監視されているという設定。 後見人は彼女がスーパーヒーローではなく普通の女子高校生となることを期待する。 他方で、キック・アスである男の子はなぜかいまだに高校生。 彼はあくまで彼女と組んでスーパー・ヒーローを演じようとする。 また、彼に協力する他のスーパー・ヒーローも何人か登場。 だが、それに対抗する悪役たちも現れて・・・・・。 うーん、話がどことなく拡散気味。 スーパー・ヒーローがふだんの市民的な生活の中で自分の位置に悩むってのは、スパイダーマンなんかもそういう設定になっていて、最近のこの手のお話は単に正義の味方が悪をやっつけるというだけの単純な筋書きでは行かなくなっているわけなので仕方がないだろうけれど。 いずれにせよ中心はヒットガールなのだから、タイトルも彼女にして、あくまで彼女中心の物語にしたほうがすっきりまとまった映画になっただろうに。 

29.「危険なプロット」 2/22、AEC新潟南。 評価★★★ フランス映画、フランソワ・オゾン監督作品。 元文学青年の中年高校教師が、作文の才能のある男の子に作文を書かせると、自分が同級生の家庭内に入りこみ、その中で好奇心を満たしていくような連続物を何度かに渡って提出してくる。 その内容にも惹かれて作文を書かせていくうちに、次第に内容はきわどくなり・・・・。 設定に工夫が凝らされた映画。 主人公の少年、その少年が入り込んでいく家庭、そして指導する教師とその妻の関係と、三つの中心点がそれぞれに動いて筋書きの展開を面白くしている。 ・・・・のだけれども、最後のあたりがどうも、期待したほどに盛り上がらないのである。 フランス流にこぎれいにまとめましたという印象で、どこか喰い足りない感じが残るのが、ちょっと残念。 少年が入り込んでいく家庭の夫人役で出てくるエマニュエル・セニエが相変わらず美しい。

28.「共喰い」 2/19、AEC新潟西。 評価★★☆ 青山真治監督作品。 原作は田中慎弥の同名の芥川賞受賞小説だが、私は未読。 西日本のこぢんまりとした町を舞台に、暴力的な父の血が自分にも流れているのではと恐れながら過ごしている男子高校生の、ガールフレンドや若い義母や、近所に住み魚屋を営んでいる実母との交流を描いている。 地方都市の風景などは映像的によく撮れており、雰囲気は悪くないが、肝心の人間関係はどこか通り一遍で、浅い印象しか残さない。 作品で最大の問題となるはずの暴力性も、父に関してもあまりたいした迫力がないし、特に主人公の男子高校生については、全然と言っていいほど観客に伝わってくるものがない。 言葉だけで済ませているような感じで、これじゃダメだと思うな。 原作はどうなのか知らないが、男の子はもっとワルに撮らないと。 これじゃ、実母や義母やガールフレンドの手の平の上で動いている幼稚な男子高校生にしか見えないですよ、青山監督。

27.「大統領の執事の涙」 2/15、UCI新潟。 評価★★★★ アメリカ映画、リー・ダニエルズ監督作品。 戦前、南部で白人に父を殺された黒人少年が逃亡し、ひょんなことから執事の仕事につく。 やがて彼は仕事振りを認められてホワイトハウスで大統領の執事に。 アイゼンハワーから始まってケネディ、ニクソン、そしてレーガンに至るまでの大統領に仕える。 その間、彼の長男は大学まで進むが、公民権運動に積極的に関わり、逮捕歴も。 地道に仕事に励む父は息子からすれば白人の権威に妥協している黒人と見え、父子の対立は深まる。 ・・・・・というような筋書きで、一方で戦後の公民権運動前後の時期における黒人父子の対立を、他方で歴代のアメリカ大統領が差別に対してどのような政策で臨んだかという経緯を描いている。 何人もの大統領に扮するそれぞれの役者の演技ぶりも見もの。 また、肝心のホワイトハウス内での白人職員と黒人職員の待遇差別など、アメリカの黒人差別の実態には今さらながら驚かされる。

26.「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」 2/14、シネ・ウインド。 評価★★★ 米英独合作、ジム・ジャームッシュ監督作品。 要するに吸血鬼の映画なのだが、何しろ監督がジャームッシュだけあって、普通のドラマティックな吸血鬼ものにはなっていない。 弦楽器やディスクの再生装置に凝っているオタク的な吸血鬼が登場。 その妻や妻の妹などとの関係の中で、のらりくらりと話は進む。 ジャームッシュ流の独特の雰囲気を楽しめれば悪い映画ではないが、吸血鬼ものの緊張感や恐怖感などを求める向きにはお薦めできない。

25.「麦子さんと」 2/13、UCI新潟。 評価★★☆ 吉田恵輔監督作品。 兄 (松田龍平) とふたりきりで暮らす若い女性 (掘北真希)。 父はすでに亡く、母には捨てられたと思っていたが、或る日その母 (余貴美子) が姿を現し、同居をもちかける。 兄は恋人と同棲するため家を出て、ヒロインは結局母と二人で暮らすことになるが、やがて母は肝臓ガンで死ぬ。 遺骨を故郷の墓に埋葬するため彼女は初めて母の故郷に旅立つが、そこで母の意外な過去が・・・・。 話としては、母の意外な過去を通して、嫌っていた母の本当の姿を知るということなんだろうけれど、どうも脚本がイマイチ冴えない。 話の作り方や展開の仕方が下手。 もう少しましな脚本家に頼めば、いい映画になったろうにと惜しまれる。

24.「シェルブールの雨傘」 2/13、シネ・ウインド。 評価★★★ フランス映画、ジャック・ドゥミ監督、1964年。 言わずと知れた、カトリーヌ・ドヌーヴ主演による有名なミュージカル映画。 デジタル・リマスター版で上映されたので、およそ30年ぶりに見てみた。 昔見たときは、名高いテーマソングを別にすれば凡庸な映画だなと思ったけれど、今回見てみて、まあそんなに悪い作品でもないかと考え直した。 別れたら生きていけないなどとほざいていたくせに、別の男とあっさり結婚する女の他愛のなさは、まあ 「女はみんなこうしたもの」 の一種と思っておけばいいだろうし、男女間の関係はそもそもこういうものなのだろうと、年をとった今となると納得する。 二人が別れるきっかけは男が徴兵されてアルジェリアに派遣されるから。 作品内の最初の時代は1957年であり、そろそろアルジェリア独立戦争が迫っていた頃なのだ。 つまり、ミュージカルといえども時代の刻印はそれなりにあるわけで、そういう見方をすればまあまあの映画と言えるだろう。

23.「もうひとりの息子」 2/7、シネ・ウインド。 評価★★★☆ フランス映画、ロレーヌ・レヴィ監督作品。 イスラエルとパレスチナ。 隣接しながら対立する国家・民族だが、18年前の混乱期に、双方の家族が設けた赤ん坊が病院で取り違えられ、それぞれ他方の家族によって育てられていたというフィクション。 それが判明して戸惑う本人と家族。 やがて双方は何とか相互の交流を始めて・・・・。 尖鋭な対立状況が厳然と存在する地域での赤ん坊取り違え事件によって、困難な状況ながらお互いの理解と融和を進める人々を描いている。 日本では一般に知られていない現地の事情も描かれているので、作品サイトなどで背景を勉強しておいたほうが良い。 現実にはイスラエル全体とパレスチナ全体との融和はそう簡単には進行しないだろうが、そういう希望を託した映画が存在すること自体は結構なことだと思う。 日本人としては現地の風景や言語事情など、ふうんと思える箇所がそれなりにある。

22.「ブリングリング」 2/5、AEC新潟南。 評価★★★ 米英日仏独合作、ソフィア・コッポラ監督作品。 アメリカで実際あった事件をモデルにした映画。 女子高校生たちが映画俳優などのセレブの高級住宅に侵入して、泥棒行為を繰り返す、というお話。 決して貧しくはない家庭の女子高校生たちの荒廃した精神と、セレブの住宅の豪華さおよびシロウトでも簡単に侵入できちゃう無防備ぶりが印象的。 捕まったあとの彼女たちのふてぶてしさも印象的。 今どきの女子高校生ってこういうものなんだろうなあ。 童心主義の教育評論家には多分理解不可能だろう。

21.「アメリカン・ハッスル」 2/5、UCI新潟。 評価★★☆ アメリカ映画、デヴィッド・O・ラッセル監督作品。 実在の事件をモデルに、詐欺師がFBIと組んでおとり捜査をやるように見せかけて、実は・・・・というようなお話。 ただし、そういう筋書きがストレートに展開されるのではなく、主人公とその妻および愛人との関係だとか、余計なものがかなり付いている。 見方によってはその余計な部分が面白いということも言えるかもしれないが、私としては余計な部分はやはり余計だとしか思えなかった。 進行があまり緊密ではなく、途中出てきた人物がどうなったのか、よく分からなかったりする。 この監督、前作の 「世界にひとつのプレイブック」 もそうだったけど、どうも私に合わないみたい。

20.「ウルフ・オブ・ウォールストリート」 2/4、AEC新潟西。 評価★★☆ アメリカ映画、マーティン・スコセッシ監督作品。 実在の投資家をモデルに、詐欺的な投資話や法律違反の投資により巨万の富を築き上げた男、およびその仲間たちの行状を描いている。 酒、女、麻薬、種々の贅沢などにカネをつぎ込むハイな暮らしぶりは、この映画の作り自体がそれに合わせるようにハイテンションになっていることにより裏打ちされている。 まあ、そういうテンションが好きな人にはいいのだろうが、私にはどうも馴染めなかった。 麻薬におぼれるところなど、アメリカの病がよく出ているとは思うが、そういう病への批判的な視点はあまり感じられない。 それに3時間というのは長すぎる。 最後はFBIに逮捕されるのだが、3時間あるならFBIの捜査や動きを描くのにもっと時間をかけるべきだったと思う。

19.「世界一美しい本を作る男 シュタイデルとの旅」 2/3、シネ・ウインド。 評価★★★ ドイツ映画、ゲレオン・ヴェツェル+ヨルク・アドルフ監督作品。 シュタイデルという造本家の仕事を追ったドキュメンタリー。 この映画で判断する限り、写真集など高価な本が多いようだ――1冊1万ドルで限定300部なんて本が出てきた。 投資目的で本を買う人がいることを私も初めて知りました。 写真の色の調整や、どういう紙を使うかなどについて細かい打ち合わせが行われている。 国内だけでなく、フランスやアメリカ、アラブからも注文が来るので、しばしば飛行機に乗って出張している。 やはり、本人と顔を合わせての打ち合わせが一番手っ取り早い、ということらしい。 また、戦後ドイツ最大の作家であるギュンター・グラスが出世作 『ブリキの太鼓』 の出版50周年を記念した版を出すときの仕事も映し出されている。 欧米のドキュメンタリーの通例どおり、必ずしも仕事の手順や内容がしっかりと説明されているわけではないが――その代わりアラブで携帯のカメラを用いた隠し撮りをするテクニックは披露されている――なるほど、こういう世界もあるのだ、と実感することができた。

18.「恋のマノン」 2/1、シネ・ウインド。 評価★★☆ シネ・ウインドのカトリーヌ・ドヌーヴ特集の一本。 フランス映画、ジャン・オーレル監督作品、1967年。 原作は『マノン・レスコー』。 しかし冒頭がいきなり羽田空港の国際線ロビーで始まる。 ドヌーヴ演じるマノンは男連れでファーストクラスのパリ行きに乗るのだが、彼女の美しさに目をつけた別の男からパリ空港でクルマに乗るところで誘われ、あっさり前の男を捨てて新しい男に乗り換える。 ・・・なので、その後も次々と男を乗り換えるのかというと、なぜかそうではなく、最初に乗り換えた男に縛られっぱなし。 率直に言って面白くなかった。 ドヌーヴの魅力もあまりうまく捉えられてはいない、というか、こういう映画を見ると、ドヌーヴってたいした女優じゃないなと思えてきてしまうんですね。

17.「小さいおうち」 1/31、AEC新潟西。 評価★★★★ 山田洋次監督作品。 昭和初期の東京を舞台に、小ぶりな、しかしモダンな赤い屋根の家に住む家族 (玩具会社の重役、妻、男の子) と女中、それに会社の若手である青年との物語。 筋書き的には、奥さん (松たか子) と青年 (吉岡秀隆) の不倫が中心になるが、この映画のポイントはそういう筋書きよりも、昭和初期における東京中産階級の暮らしをていねいに再現するところにあると思う。 日中戦争はすでに始まっているが、日常生活はごく普通に営まれ、徐々に物質が乏しくなってくるものの、日米戦争で日本側が苦しくなってくる昭和18年までは、不倫を含めて普通に生活が営まれている。 この女中 (黒木華) が後年老いてから (倍賞千恵子)、姉の孫である青年 (妻夫木聡) に昭和初期の体験を語るという形式でお話は進む (彼女自身は独身をとおしたので孫はいない)。 昭和初期というと戦争というイメージでしか捉えられない現代の青年に、日常生活が実際はどうだったのかを語ってきかせる倍賞千恵子の姿は、山田洋次監督の姿でもあろう。 私は山田洋次はあまり好きではないのだが、この映画は悪くない出来だと思う。 ただ、最後に現代に戻ってから、生き残りの人物を訪れるあたりは、やや冗長だし感傷過多になる。 もう少しすっきりと終わるべきだった。

16.「黒いスーツを着た男」 1/29、シネ・ウインド。 評価★★☆ フランス映画、カトリーヌ・コルシニ監督作品。 車の販売修理会社で長年下積みとして働き、社長令嬢と恋仲になって結婚間近な青年 (ラファエル・ペルソナーズ)。 ところが或る日、仲間と一緒にドライブしている途中でひき逃げ事件を起こしてしまう。 仲間からは事故は隠せ、忘れろと言われるが、徐々に被害者のことが気になり始める。 他方、ひき逃げされて重体に陥った男は不法移民で、妻は病院への支払いに困ってしまう。 また、事故現場を目撃していて警察に通報した女性は、妊娠しているが、相手の恋人と同居するかどうかでもめている。 この映画は加害青年、目撃した女性、被害者の妻という三者三様の姿を描くというコンセプトで作られているらしい (原題は 『三つの世界』)。 しかしその目的が達成されているかどうかは疑問。 特に目撃女性と加害者の関係は説明不足。 また彼女の恋人との関係もよく分からない。 主人公のラファエル・ペルソナーズはアラン・ドロンの再来と言われる、ちょっと陰のある美青年で、『太陽がいっぱい』 のような犯罪サスペンス映画なのかと期待して見たところ、むしろ人間関係みたいなものが中心で、監督が女性のせいというと差別的だと言われそうだが、コルシニ監督が主演の個性を殺しているように思われた。

15.「危険な関係」 1/26、AEC新潟西。 評価★★★☆  中国映画、ホ・ジノ (韓国) 監督作品。 18世紀フランスのラクロによる有名な小説を原作に、舞台を1931年の上海に移している。 知人の女性 (セシリア・チャン) から、自分を捨ててうら若い処女と結婚しようとしている愛人に復讐するため、その処女を犯してほしいと頼まれたプレイボーイ (チャン・ドンゴン) は、それを断り、貞節と評判の高い未亡人 (チャン・ツィイー) を落とせるかどうかで賭けをする。 技巧を弄して近づくプレイボーイを拒絶していた未亡人は、やがて心が揺らいで、彼に傾斜していく。 しかし彼のほうでも、賭けのつもりが彼女に本気で惚れてしまい・・・・。 舞台背景や服装などはゴージャスで、ムードは申し分ない。 チャン・ドンゴンのプレイボーイぶりや、セシリア・チャンの美貌もなかなかいい。 ただ、貞節な未亡人が徐々に陥落していく過程は、やや性急な感じで、ここがこの作品の勘所なのだから、もう少し丁寧に脚本を作って欲しかった。 しかし十分楽しめる映画であることは請け合います。 

14.「暗くなるまでこの恋を」 1/25、シネ・ウインド。 評価★★☆ フランス映画、フランソワ・トリュフォー監督作品、1969年。 カトリーヌ・ドヌーヴ特集の一本。 インド洋に浮かぶフランス領の小島で工場を経営する男 (ジャン=ポール・ベルモンド)。 文通を通じて婚約した女性が船でやってくるのを港まで迎えに行くが、目当ての女性は現れない。 ところがその直後、文通相手だと名乗る美しい女 (カトリーヌ・ドヌーヴ) と出会うのだが、彼女は交換した写真の姿とはまるで違っていた。 容姿で判断されるのが嫌だから別の写真を送ったのだ、と彼女は言う。 二人は結婚式を挙げて一緒に暮らす。 しかし、その女には不審なところが徐々に目立ち始める。 やがて彼は、彼女が本物ではないことを知り・・・・。 前半はサスペンス風で、舞台となっているインド洋の島の風景なども魅力的だしなかなかいいのだが、後半の逃避行のところが凡庸で、いささか退屈になってしまう。 この映画は、のちにアントニオ・バンデラスとアンジェリーナ・ジョリー主演により 『ポワゾン』 というタイトルでリメイクされているけれど、リメイク版のほうがよくできていると思う。

13.「黒執事」 1/24、AEC新潟西。 評価★★★ 大谷健太郎・さとうけいいち監督作品。 コミックが原作だそうだが、そちらは私は読んでいない。 原作にこだわりがある人には不評気味らしいけど、あくまで一本の独立した映画として見て、そこそこ面白いと思う。 名門伯爵家の夫婦が何者かに殺され、残された女の子は、跡継ぎは男子と決まっているので男装をして伯爵家を継ぎ、悪魔である執事の助けを借りながら犯人を捜そうとする・・・・・という荒唐無稽なお話だけど、見せ場が多いし、何より執事を演じる水島ヒロの独特な雰囲気がこの映画をしっかりと支えている。 男装の伯爵令嬢役の剛力彩芽もかわいいし、その叔母役の優香もお色気と味がある。 そのほか、奇妙なメイドも登場。 執事とメイドという、昨今流行のアイテムを活かしたフィクションと割り切って楽しめる人にはそれなりの作品だろう。

12.「いとしきエブリディ」 1/21、シネ・ウインド。 評価★★ 英国映画、マイケル・ウィンターボトム監督作品。 英国の田舎町に暮らす夫婦と子供4人の家族。 ただし、夫は刑務所に入っている。 なぜかは分からない。 妻はしばしば子供たちを連れて刑務所に面会に行く。 子供たちは少しずつ成長していく。 要するにそれだけの映画である。 子供たちは実際のきょうだい4人を使ったそうだが、でもそれだからどうということもない。 何のためにこういう映画を撮ったのか、分からない。 よく分からないけど面白いという映画もあるけど、これはそうではない。 面白くないし、そもそも面白くしようという意志も製作側にないみたい。 困りますよね。 子供が出てくる映画なら何でも、という人にはいいかも。

11.「永遠の0」 1/19、UCI新潟。 評価★★★★ 山崎貴監督作品。 百田尚樹の原作はベストセラーだそうだが、私は未読。 第二次世界大戦で海軍航空隊のパイロットであった祖父 (岡田准一) の実像を求めて、平成の時代に生きる孫たち (吹石一恵、三浦春馬) が、生き残ったかつての軍人たちを訪ねて歩き、徐々に祖父が何者であったかが分かってくるというお話。 海軍航空隊随一の臆病者と言われていた祖父の実像が少しずつ判明してくるところと、特に戦争末期、特攻隊と関わる中で自分の生き方を変えざるを得なかった飛行士の悲劇とが、非常によく映し出されている。 主役の矛盾含みの性格には私はもう一つ納得できないものを感じたが、作品全体としての出来栄えは上の部類に入ると思う。 興行的にヒットしているそうだけど、そうだろうなとうなずける映画である。  

10.「楽隊のうさぎ」 1/17、シネ・ウインド。 評価★★  鈴木卓爾監督作品。 中学に進学した内気な男子が、幻覚の (?) うさぎに導かれるままに吹奏楽部に入り、そこで生きがいを見出す、というお話。 主人公の男の子を初め、吹奏楽部にはシロウトの中学生たちが扮しているそうな。 ・・・・こういう映画って、褒めないといけません、みたいな雰囲気になりやすいんだけど、でもこの出来じゃ褒めるのは無理だろうな。 主演の男の子に全然生気がない。 最初は生気がなくて徐々に生き生きしてくる話かと思って見ていたけれど、最後まで生気がないのだ。 いや、彼はシロウトだから演技が下手でも仕方がないでしょという言い訳は、この映画では通用しない。 なぜなら吹奏楽部の顧問教師役の宮崎将も、担任教師役の小梅も、さっぱり生気がないからだ。 この二人はシロウトではない。 つまり、監督がそういう演技をしろって指導しているわけでしょう。 これじゃダメですよ。 ダメなものはダメ、とはっきり言わないと、邦画のレベルは上がりませんよ。

9.「ジャッジ!」 1/16、UCI新潟。 評価★★ 永井聡監督作品。 某広告代理店の無能社員 (妻夫木聡) が、お得意先から持ち込まれた無理目な広告を、国際広告コンテストで優勝させないとクビになるというとんでもない難題を持ち込まれて四苦八苦、という喜劇。 ・・・・なんだけど、どうもネタが内輪っぽい。 国際コンテストなので外国人も多数登場するのだが、このコンテスト自体インチキ臭い。 まあ、喜劇なんだからそれでもいいわけだが、いくら喜劇だってお粗末じゃないの、もう少し何とかならなかったのかい、と言いたくなっちゃう映画。 徹頭徹尾国内向け、って作品ですね、これ。 笑えりゃなんでもいい、という人にはいいかも。

8.「さよなら、アドルフ」 1/13、シネスイッチ銀座。 評価★★★☆ オーストラリア・ドイツ・英国合作、ケイト・ショートランド監督作品。 原題は 「ローレ」。 第二次大戦末期と直後のドイツが舞台。 父がナチ親衛隊将校だった少女ローレは、戦後すぐ両親が姿を消したため、妹、双子の弟、そして生まれて間もない赤ん坊を抱えて、南ドイツの自宅から祖母が住む北ドイツのシュレスヴィヒ・ホルシュタイン地方まで旅をせざるを得なくなる。 戦時中はヒトラーを崇拝していた彼女だが、旅の途中でユダヤ人虐殺の惨状を知る。 そしてユダヤ人らしい青年と出会い、助けられるのだが・・・・。 邦題はヒトラーを指していて、ナチスもの映画の一つと思わせるが、むしろ本作品は戦後の困難な状況の中で少女が再出発する物語だろう。 途中で出会うユダヤ人らしい青年との微妙な関係も、特異な状況下ではあるが、思春期における異性との出会いと別れと位置づけられる。 監督はオーストラリア出身の女性で、ここではナチスの罪を追及するというよりは、ミドルティーンの少女の心情を描くことに全力を傾けているようだ。 そういう視点から見れば、悪くない映画だと思う。 ヒロインのローレを演じるサスキア・ローゼンダールはドイツの若手女優だそうで、なかなかチャーミング。

7.「熱波」 1/13、渋谷アップリンク。 評価★★★ ポルトガル・ドイツ・ブラジル・フランス合作、ミゲル・ゴメス監督作品。 2部に分かれており、現代のポルトガルと1960年代のアフリカが舞台。 第1部は現代ポルトガルでの退屈な日常生活が味気なく描かれている。 第2部は、第1部で亡くなった老婦人とかつて不倫関係にあったという老男性の回想で、1960年代のアフリカがその舞台となる。 ここはなかなか面白い。 2部ともモノクロ画像だが、第2部は作中のセリフはなく、語り手の男性が状況を説明するだけ。 ポルトガルが植民地を失う直前のアフリカにおける、ポルトガル人たちの気ままな生活や愛欲が、一瞬の輝きのごとくに映像化されている。 しかし独立運動の影も射していて、男女の不倫関係が長続きしなかったこととポルトガルが植民地を喪失せざるをえない情勢とがパラレルだと感じられるようになっている。

6.「皇帝と公爵」 1/13、シネスイッチ銀座。 評価★★★ フランス・ポルトガル合作、バレリア・サルミエント監督作品。 邦題は 「ナポレオン皇帝とウェリントン公爵」 の意味でつけたようだが、やや問題あり。 ナポレオンはこの映画には登場しない。 肖像画は出てくるけど。 原題は 「ウェリントン・ライン」 で、ラインはこの場合は戦争時に敵の侵入を防ぐための一連の要塞、つまり防御線の意味なのだ。 この映画は、19世紀初頭のポルトガルを舞台に、フランス軍と英・ポルトガル連合軍の戦いで、戦略上の理由からウェリントン将軍が味方の軍勢を自分が作らせたウェリントン・ラインまで撤退させる様子を描いている。 戦争映画だけれど戦闘シーンはほとんで出てこず、むしろ撤退する軍人や民間人の様々な風俗や葛藤を描く群像劇なのである。 そこで問題は群像劇として面白いかどうかなのだが、当時の軍人や民間人の様子が分かるのは興味深いが、ドラマとして見るとやや散漫と言うしかない。 何組かの男女関係も出てくるが、掘り下げが足りないような。

5.「マイヤーリング」 1/12、TOHOシネマズ六本木。 評価★★★☆ アメリカ映画、1957年、アナトール・リトヴァク監督作品、モノクロ。 オードリー・ヘプバーンの主演作で、テレビ映画として作られ、これまで日本では未公開だったが、デジタル技術により復元されてこのたび公開にいたったもの。 ただし、映像はあまり鮮明とは言いがたい。 お話は、オーストリー・ハンガリー帝国の皇太子ルドルフ (フランツ・ヨーゼフ皇帝の息子) が、貴族の令嬢と恋愛関係になり、しかし既婚者だったため離婚をバチカンに申請するものの認められず、また皇帝たる父からも関係な断つよう迫られて、結局は心中にいたるという、実際にあった事件をもとにして作られている。 ヘプバーンがういういしい貴族令嬢を演じていて、適役。 ルドルフ皇太子役が当時のヘプバーンの夫君だったメル・ファーラーで、これも皇太子という身分の束縛に苦しみ、政治的な過激派や芸術家たちとの交友で憂さを晴らしている青年の役どころを見事に演じている。 言うまでもなく古典的な作りの映画ではあるが、下手な現代映画よりよほどリアリスティックだと思う。 少なくともヘプバーンのファンなら必見の作品だろう。

4.「ブランカニエベス」 1/12、シネマ・イクスピアリ(舞浜)。 評価★★★☆ フランス・スペイン合作、パブロ・ベルヘル監督作品。 タイトルはスペイン語で 「白雪」 の意味。 そのタイトルどおり、白雪姫のお話をスペイン風に仕立て直したもの。 モノクロ、サイレント (ただし音楽は入っている) という、ちょっとアナクロめいた作りも雰囲気を高めていて悪くない。 有名な闘牛士であり資産家でもある男。 美しい妻は妊娠していた。 しかしあるとき、妻が観戦している前で彼は不注意から牛に突かれてしまう。 妻はショックで倒れ、産褥で死ぬ。 生まれてきた女の子は無事だったが、身体障害者となった父は、一見すると献身的な、しかし実は打算的な若い看護婦と再婚し、屋敷に引きこもってしまう。 女の子は祖母に育てられるものの、やがて祖母が亡くなり、父の屋敷へ。 屋敷を牛耳る継母は、彼女を女中代わりにこきつかう。 だがやがて父と再会を果たした彼女は、父から闘牛の技術を学び・・・・。 スペインと闘牛との味付けがされているが、話は原作の白雪姫どおりに進む。 7人のこびとも、こびと闘牛の見世物で食っている一座という設定で出てくる。 ただし、王子様は登場しない。 そこが結末にも影響していて、ここ、何とかならなかったのかなあ、とちょっと疑問に感じました。 結末を除けば悪くない映画だと思う。 なお、都内の上映は終わってしまっていたので、京葉線の舞浜駅 (千葉県) までえっちらおっちら出かけていく羽目に。 映画を見るのも楽じゃないんだよなあ。 新潟に来る予定があれば苦労しなくても済むんだが、新潟市の映画館関係者は何をやってるんだ、コラ! 

3.「ルートヴィヒ」 1/12、有楽町スバル座。 評価★★★ ドイツ映画、ピーター・ゼア+マリー・ノエル監督作品。 バイエルン王国の有名なルートヴィヒ二世が即位してから謎の水死を遂げるまでの生涯を描いた作品。 この材料ではすでにヴィスコンティが著名な映画を作っているが、こちらはどちらかというと事実関係に重きをおいて作られているようだ。 その意味ではそれなりに面白く、特に彼が政治に向いていなかったあたりの事情は、プロイセンやオーストリーやフランスとの関連でよく分かるようになっている。 しかし、当時から美形で有名だったルートヴィヒや、彼の従姉でオーストリーの皇后になっていたエリーザベト (彼女も当時のヨーロッパ王室では有名な美人だった) は役者があまり美男美女ではなく、もう少し何とかならなかったのかな、という気もする。 映画なんだから、俳優の外見の魅力は大事ですよ。 そういう美的な部分で、ヴィスコンティの名作には及ばなかったという印象である。 なおパンフレット(\600)だが、専門家が執筆しておらず、誤植もあり、作りにあまり手間隙かけていないようなのは困ります。

2.「鑑定士と顔のない依頼人」 1/11、TOHOシネマズ・シャンテ(日比谷)。 評価★★★★ イタリア映画、ジュゼッペ・トルナトーレ監督作品。 美術品鑑定士であり競売人としても一流である初老の独身男。 彼は自分でも美術品を多数所有していたが、それはどれも美しい女の肖像画であった。 そんな彼のところに、父母があいついで亡くなったので屋敷の家具調度品などを売りたいという若い女性からの依頼が。 彼はその屋敷に出かけていくが、なぜか依頼人は彼の前に現れない。 仕事を進めていき、契約書を交わす段になっても姿を見せない彼女は、人前に出ることに恐怖を感じる性質なのだという。 そんな彼女になぜか心惹かれる彼は、何とかして相手の姿を見ようと画策して・・・・・。 映画チックで観客の興味をそらさぬように着実に話が進められていく。 これ以上はネタバレになるので書けないけど、見て損はない面白い作品であることは請け合います。 上京して土曜日の夜に見に行ってみたのだが、館内はほぼ満席だった。  公開開始後4週間でこのくらいの入りだから、 「大ヒット」 という興行側の表現に偽りなし。 新潟でも上映してほしいものだが、1月中旬現在で予定なしのようだ。 新潟市の映画館関係者って何をやってるんだろうなあ。 怒るぞ、コラ!

1.「ジンジャーの朝 さよなら、私が愛した世界」 1/4、シネ・ウインド。 評価★★☆ 英国・デンマーク・カナダ・クロアチア合作、サリー・ポッター監督作品。 1960年代の英国を舞台に、教師ながらリベラルでボヘミアン的な資質の父を持った少女(エル・ファニング)が、反核運動に参加したり、父母の不和に悩んだり、というような青春模様を描いた映画。 ただ、1960年代という時代相と、少女の自分でもよく分かっていない葛藤の行方とのどちらに重きがあるのかというと、その辺が曖昧。 別にどちらでもいいし、両方とも描きたかったということなのかも知れないが、何かもう一つまとまりがなく、少女の深みにも、時代層の複雑さにも、迫れていない。

 

 

 

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