映画評2009年

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 2009年に見た映画をすべて紹介。 5段階評価と短評付き。

  評価は、★★★★★=今すぐ映画館に駆けつけるべし (大傑作につき見ないと一生の損)。 ★★★★=十分な満足感が得られる (いい作品だから見てごらんよ)。    ★★★=平均的 (見て損はない)。 ★★=劣る (カネと時間が余ってたらどうぞ)。 ★=駄作 (カネをドブに捨てるようなもの)。 ☆は★の2分の1。

 

163.「のだめカンタービレ 最終楽章前編」 12/31、WMC新潟。 評価★★★ 武内英樹監督作品。 人気マンガおよび人気TVドラマの映画版。 ここでは、千秋がぼろぼろになっているフランスの伝統オケを立て直すという筋書きで映画としてのまとめを図っているようだ。 あらかじめ原作かTVドラマを見ていないと、特に脇役がどういうキャラであるかが分からず、戸惑う人も多いだろう。 逆に原作やTV版をよく知っている人からすると、大いに楽しめると言えるのだろう。 私は原作マンガは読んでいるので、まあまあ楽しめたけど、かといって映画として特に優れた出来だというほどでもなく、ようするに時代の流行の中で大衆に受ける映画、というのに過ぎないだろうと思う。

162.「釣りバカ日誌20ファイナル」 12/30、WMC新潟。 評価★★ 朝原雄三監督作品。 20回続いたシリーズも今回でおしまいだそうである。 特に愛好していたシリーズではないが、最後だというので見に行ってみた。 おなじみの人物が出てくるので、このシリーズが好きな人にはまあいいのだろうけれど、そうでない人間から見るとかなり間延びしていて、エピソードの作り方やオチの付け方が下手であり、失礼ながらこういう映画に満足している人ってどういう人なのかなあ、なんて思ってしまう。 でもこの手の映画にこういうことを言うのは、野暮かも知れないけどね。

161.「エロス+虐殺 (ロング・ヴァージョン)」 12/30、シネ・ウインド。 評価★★☆ 1970年、吉田喜重監督作品。 私はだいぶ前にロングじゃないヴァージョンで見たことがあるが、ロング・ヴァージョンでは初めて見た。 3時間半を越える長さ。 今の目で見ると、現代の部分と大正期の過激な原理主義者たちを描いた部分が、うまくつながっているとは思われない。 しかし逆に描写では現代部分のほうが過激で、大正期の大杉榮や伊藤野枝たちは肌を見せることがない。 伊藤野枝を演じる岡田茉莉子はこの頃すでに30代後半になっており、実際の伊藤野枝は大杉と同棲を開始した頃は20歳を越したばかりだったことを考えると、どう見ても無理がある。 つまり若気故の過激さが、岡田にはうまく出せていないのである。 その過激さを現代部分で代行させようとしたような趣きがあるが、性の解放が唱えられた70年前後ならリアリティが感じられたのかもしれないが、今見るとかなり安っぽくて、ちょっと評価する気にはならない。 

160.「湖のほとりで」 12/24、シネ・ウインド。 評価★★☆ イタリア映画。 アンドレア・モライヨーリ監督作品。 湖のほとりの小さな町。 ある日、湖岸で若い娘が殺されているのが発見される。 犯人は誰か、そして動機は? ・・・・いちおうミステリーなのだが、映画は必ずしも犯人探しだけに光を当てているのではなく、小さな町に住む様々な人々の暮らしぶりや、捜査にあたる警部の家庭事情なども小さからぬ役割を担っている。 ただし、メインはあくまでミステリーなはずで、そこだけ見るとどうも物足りない。 多様な人々の描写は悪くないだけに、謎解きがうまくリンクしていないのは残念である。 映像は美しい。

159.「秋津温泉」 12/24、シネ・ウインド。 評価★★★☆ 1962年製作、吉田喜重監督作品。 岡田茉莉子の映画出演100作を記念して、彼女自身の企画により作られた作品だそうである。 戦争中に、胸を病んだ学生(長門裕之)と、母が中国地方の温泉旅館主と再婚したためにこの地に暮らしている若い娘(岡田茉莉子)が出会い、やがて恋に陥るが、文学志望の青年と、跡取り娘として旅館にとどまらなければならない少女は結ばれることがない。 しかし、折りを見ては温泉旅館を訪ねてくる彼と、結婚せずに温泉旅館の女将として暮らす彼女は、いつしか関係を持つようになり・・・・というような筋書き。 二人の出会いや、その後の逢瀬などは丁寧に時間をかけて描かれていて、今どきの邦画では味わえない情緒纏綿たる魅力をたっぷり堪能できる。 ただ、次第に心を俗化させていく青年の背景描写は、もう少し時間をかけてやったほうが、より説得的だった。 

158.「映画 レイトン教授と永遠の歌姫」 12/21、UCI新潟。 評価★★★★ 橋本昌和監督作品。 もともとはゲームだそうである。 その登場人物を用いて劇場版アニメに仕立てたもの。 図柄は、ゲームが元になっているせいかあまりリアリスティックではなく、いわゆるマンガチックである。 背景なども宮崎アニメと異なってさほど細かく描き混まれていない。 しかしお話の展開はなかなか面白く、ちょっとシュールなところもあるけれど、最後まで二転三転して観客を引きつける。 なおかつ人間ドラマとしてもそれなりである。 日本のアニメは水準が高いと実感させてくれる佳作。

157.「パブリック・エネミーズ」 12/15、UCI新潟。 評価★★★ アメリカ映画。 マイケル・マン監督作品。 アメリカ大恐慌時代に実在した銀行強盗をモデルにした映画。 主演のジョニー・デップのファンにはいい映画かも知れない。 しかしそうでない人間にとっては、やや長すぎるし、話の筋が単調であり、なおかつ恋愛や男同士の友情や裏切りといった、こういう映画に欠かせない部分の描写もあっさりしていて、どこか物足りない感じが残る。 大恐慌時代のアメリカの風物は、それなりによく描きこまれていると思うので、そういう方面から楽しむのも一興か。

156.「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」 12/8、UCI新潟。 評価★★★ 佐藤祐市監督作品。 高校でイジメに合い、中退して引きこもっていた主人公(小池徹平)が、一念発起して就職しようとするが、なかなか雇ってくれる会社が見つからないなか、ようやく小規模なIT企業に採用されたものの、そこにはトンデモ社員がそろっていた・・・・・。 そこそこ面白いし、主人公を救ってくれる唯一まともな社員役の田辺誠一もなかなかいい。 ただし最後のあたりはややご都合主義でまとめた感じが強い。

155.「イングロリアス・バスターズ」 12/5、UCI新潟。 評価★★★☆  アメリカ映画、クエンティン・タランティーノ監督作品。 ナチス時代のヨーロッパを舞台に、ナチス狩りに乗り出すインディアンの血が混じったアメリカ軍人 (ブラッド・ピット)、逆にユダヤ人や連合国のスパイを狩るナチスドイツの大佐 (クリストフ・ヴァルツ) らの動きを、映画チックな描写をふんだんに盛り込んで、なおかつフランスとドイツの美人女優 (メラニー・ロラン、ダイアン・クルーガー) も魅力的に用いて、史実を多少ねじまげながら描いた作品。 面白いと言えば面白い。 特にナチの大佐役のクリストフ・ヴァルツが非常にいい。 ただし、含蓄に富むとか、後々まで考えさせられるというような映画ではない。 その場限りの面白さを楽しもうとする人にはお薦め。

154.「アンを探して」 11/30、シネ・ウインド。 評価★★  日本・カナダ合作、宮平貴子監督作品。 祖母 (吉行和子) と二人で暮らす17歳の少女 (穂のか) は、祖母が17歳だった戦争直後期に知り合って 『赤毛のアン』 を教えてもらい、なおかつ初恋の対象となったカナダ人を探すためにカナダのグリーンゲイブルスに旅行する計画をたてていたが、直前に祖母が亡くなったため、ヒロインは一人でカナダに旅行し、目的の人物を突きとめようとする、というお話。 うーん・・・・ヒロインがものすごく頼りなく、自閉的で、周囲のカナダ人に支えられ助けられないと事実上何もできないような女の子であることに、私は苛立ちを覚えました。 17歳だったらもう少ししっかりしていないといけないんじゃないの? これじゃ、日本の高校生は自分では何もできないから周囲に助けてもらわないといけないのです、と宣伝しているみたいなものだ。 制作側は、そういうこと、考えていなかったのかなあ。 大人でしっかりしたカナダ人と、小学生みたいなヒロインとの対照性は、作品そのものを小学生並みに見せてしまう。

153.「Clean」 11/27、シネ・ウインド。 評価★★★ 仏・英・カナダ合作、オリヴィエ・アサイヤス監督作品。 ミュージシャンである英国人の夫を麻薬のせいで亡くしたミュージシャンのアジア系女性(マギー・チャン)。 一人息子も夫の両親が引き取っている。 そんな中、彼女はなんとか薬中毒から立ち直って健全な暮らしをし、息子と暮らそうと努力する・・・・・。 私はマギー・チャンが好きなので見に行ったのであるが、彼女の魅力がどの程度捉えられていたか、疑問。 話の進行も何となくかったるいし、やや退屈。 ただ、ヒロインの義父役のニック・ノルティが非常にいいので、合格点を付けておきますけれど。 こういう初老男性の魅力をさりげなく出せる男優、アジア系だったらいるだろうか?

152.「脳内ニューヨーク」 11/25、シネマ・ライズ(渋谷) 評価★★☆ アメリカ映画、チャーリー・カウフマン監督作品。 ニューヨークで演劇の演出家をやっている主人公(フィリップ・シーモア・ホフマン)が、妻子と別れたり、新しい女性と関係したり、新しい演劇を作るべく努力するというお話であるが、話が進行している中で、現実と想像の区別がつかなくなっていくところがミソ、なんだろうな。 だけど、こちらとしてはアメリカ知識人の自意識を延々と見せつけられているような感じで、率直なところそんなに面白いとは思えなかった。

151.「大洗にも星はふるなり」 11/25、テアトル新宿。 評価★★★ 福田雄一監督作品。 クリスマスイブの夜、大洗の海岸の海の家に、夏の間そこでアルバイトに従事した若者たちとマスターが集まった。 一緒にアルバイトをしていたチャーミングな女の子 (戸田恵利香) から全員に 「来て欲しい」 と手紙が届いたからだった。 集まった若者たちは、自分が彼女から愛されているのだと思い込み、マスターまで同じ主張をし始める。 果たして彼女の真意はどこにあるのか、なぜ何人もの人間に気を持たせる手紙を書いたのか・・・・。 というような謎を秘めた喜劇である。 喜劇としては結構笑えるので合格点。 ただし脚本はあまり考え抜かれているとは言い難く、後から考えるとかなりご都合主義的だったり、いい加減だったりするところがある。

150.「パンドラの匣〈はこ〉」 11/25、テアトル新宿。 評価★★ 太宰治原作、冨永昌敬監督作品。 戦後間もない頃の日本で、喀血した若者がちょっと変わった療養施設に入り、そこで淡い恋をする、というようなお話。 若者が恋する看護婦を芥川賞作家の川上未映子が演じ、ほかに看護婦役で仲里依紗が出てくる。 うーん、率直に言ってあまり面白みを感じなかった。 戦争直後の、既成の価値観が崩壊したあとの、奇妙な施設と、そこに居住する患者たちの奇妙さや浮世離れしたところがこの作品の見せ場なのだろうが、その辺が中途半端というか、もう少しデフォルメしないと戦後60年以上をへた現代には通用しないんじゃないですか、と言いたくなった。 ヒロインの川上さん、美人作家として名を売っているが、動いている姿を拝見して、ほどほどの美人かな、と思いました。 

149.「パリ・オペラ座のすべて」 11/24、ル・シネマ(渋谷)。 評価★★ フランス映画、フレデリック・ワイズマン監督 (アメリカ人) によるドキュメンタリー。 全然予備知識なしで見たのが失敗だった。 これはバレエの映画である。 パリ・オペラ座ではバレエ以外にも出し物があるはずだが、「すべて」 を紹介しているわけではなく――だから 「すべて」 という邦題はミスリーディングである。 原題は 「ダンス。パリ・オペラ座のバレエ」 であるが、それをなぜこんな具合に変えたのか――バレエに限って、その練習風景や運営側の議論などを映し出している。 バレエに興味のある人や習ったことのある人には面白いのだろうが、私にはいささか退屈だった。 おまけに作中出てくるバレエはほとんど現代作品で、古典は締め出されている。 ★★という評価はそのような映画をバレエに興味のない人間が見たものとして出しているので、そのつもりで。 ドキュメンタリーだが、バレエそのものについてあまり解説もないし、運営についても同様である。 だから、繰り返すが、これはあくまでバレエに興味のある人向けの映画に過ぎない。 くれぐれもお間違えなく!

148.「ジェイン・オースティン 秘められた恋」 11/23、TOHOシネマズ・シャンテ (日比谷)。 評価★★☆ 英国映画、ジュリアン・シャロルド監督作品。 『高慢と偏見』 などの小説で有名な女流作家オースティン。 彼女は未婚で生涯を終えているが、実は激しい恋をしたことがあったという最近の学説をもとにした映画。 ヒロインをアン・ハサウェイが演じている。 当時の風俗や服装などはそれなりによく再現されているようだ。 ただし、女流作家の恋愛譚として面白いかというと、どうもイマイチなのである。 ヒロインはある時は驚くほど大胆であり、ある時はしらけるほど分別臭く、まあそういう分裂気質の人だとして描きたいのかも知れないが、映画としてまとまった感銘が得られるかというと、いささか疑問。 アン・ハサウェイがあまり私の好みに合わないせいもあるかも知れないが、演技面で見てもあんまり味わいが感じられない。  

147.「副王家の一族」 11/23、ル・シネマ(渋谷)。 評価★★★☆ イタリア映画、ロベルト・ファエンツァ監督作品。 19世紀のシチリアを舞台に、そこに生きる貴族の暮らしぶりや家族内部の対立、時代への対応などを描いている。 題材的からして有名なヴィスコンティの 『山猫』 と似ているが、あちらとは違ってこの映画に父として出てくる公爵は文字どおり家父長専制の人で、カネにも汚く、あまり共感が持てない人物として描かれている。 しかし歴史的な絵巻物としては十分な面白さがあり、人間のエゴを見つめる視点は貴族を美化していない分、『山猫』 よりむしろリアリティを感じさせると言ってよい。 公爵の娘役のクリスティーナ・カポトンディが初々しい美しさで目を惹く。 ヨーロッパ系の歴史映画が好きな方にはお薦めである。 新潟でも上映して欲しいものだが。 

146.「永すぎた春」 11/21、神保町シネマ。 評価★★★★ 三島由紀夫原作、田中重雄監督作品、1957年、カラー。 父が会社重役である東大生 (川口浩) と、東大近くで古本屋をしている家の娘 (若尾文子) とが婚約した。 しかし結婚は卒業してからと言われた二人は、永い婚約期間を過ごすが、彼にも彼女にも意外なところから誘惑の手が・・・・・。 というようなコミカルなお話で、今見ても喜劇としてよくできているし、当時の風俗もそれなりに面白い。 さらに、娘の兄 (船越英二) が盲腸で入院して、そこの看護婦 (八潮悠子) に惚れて婚約するが、看護婦の実母が下層階級出身でねじくれた性格であり、そのことがもとで兄の方の縁談は破談になってしまう。 ここのところが、全体が喜劇なのにも関わらず部分的に悲劇的な味を出しており、この映画全体に意外な深さというか、予定調和に終わらない厳しさを付与していて、忘れがたい印象を残すのである。

145.「足摺岬」 11/21、神保町シネマ。 評価★★★ 田宮虎彦原作、吉村公三郎監督作品、1954年、モノクロ、スタンダードサイズ。 昭和9年という時代背景をもとに、貧しい苦学生 (木村功) がアカの嫌疑を掛けられて投獄されたり、やはり貧しいアルバイト中学生が特高に言われなき嫌疑でひったてられ、挙げ句の果てに自殺したり、といったお話。 その一方で当時の貧しい人々の暮らしがじっくり描かれていて、そうした部分にはそれなりにリアリティがある。 ただ、特高があまりに無茶苦茶な行動をとっている――理由がないのに大学生や中学生を引っ立てる――のは、そういう場合もあったのだろうけれど、きわめて平板な悪者としてしか警察を見ることができない作者等の限界を示しているような気がしないでもない。 設定に複雑さや意外性がないのである。

144.「ドゥーニャとデイジー」 11/20、K’sシネマ (新宿)。 評価★★ オランダ・ベルギー合作映画、ダナ・ネクスタン監督作品。 アムステルダムに住む生粋のオランダ娘であるデイジーと、モロッコからの移民二世のドゥーニャ。 二人は大の仲良しだが、宗教も異なれば、昔風の家族の中で暮らすドゥーニャに対して、未婚の母である実母、そしてそのパートナーである男性と暮らすデイジー。 ある時デイジーは妊娠してしまうが、生むべきかどうか迷い、モロッコにいるという実の父を訪ねて旅をする。 奇しくもドゥーニャも事情があって父母の故郷であるモロッコに移っていたが、デイジーの父探しの旅に付き合うはめに・・・・・。 いわゆるロードムービーと呼ばれる類の映画で、モロッコの様子はそれなりに興味深いが、物語としては単調だし、あまり深くもない。 ただ、ドゥーニャ役のマリアム・ハッソーニが可愛いのが見どころかな。

143.「プール」 11/16、UCI新潟。 評価★★☆ 大森美香監督作品。 いわゆる癒しの映画。 タイを舞台に、なぜかそこで暮らしている小林聡美などの日本人たちの様子が、大学卒業を間近に控えて母 (小林聡美) を訪ねてくる女子学生 (伽奈) の目を通して描かれている。 現実味があまり感じられない作品で――例えば彼らがどうやって生活費を稼いでいるのか全然分からない――そういうものとして見ればそこそこ面白いけど、それだけで納得できない向きにはどことなく物足りなさが残るのもたしか。 伽奈の魅力もあまり活かされていない。

142.「笑う警官」 11/14、UCI新潟。 評価★★☆   角川春樹監督作品。 美人女性警官が殺された。 以前交際していた男性警官に嫌疑がかけられ、姿をくらました彼に対してはなぜか射殺命令まで出される。 そこには警察内部の暗黒が関わっていた・・・・。 推理物としてそこそこ楽しめる。 ただし、悪がどこにあり、それを最終的にどう解決するかという肝心要の部分では、スッキリ感がイマイチなのが難点か。 舞台が限定されていて、ダイナミズムがないと言うか、どことなく閉塞感があるのもマイナス。

141.「あの日、欲望の大地で」 11/13、WMC新潟南。 評価★★☆  米国映画。 ギジェルモ・アリアガ・ホルダン監督作品。 それぞれ家族を持つ男女の不倫愛、母の不倫に気づく長女、その長女が一緒になった相手は・・・・・・というような主筋を、時間的に順々に語るのではなく、過去と現在をばらばらにしてシャッフルする形式で描いている。 最初は、人物の関係や、少女時代の誰が大人になってからの誰なのかよく分からず、そこが緊張感につながっていてそこそこ面白いと思えるのだが、後半になって筋書きや人物関係が分かってくると底が見えてしまい、人物描写の浅さや人間関係の描き込みの不足が露呈してきて、ちょっとしらけた気分になってしまう映画だ。

140.「のんちゃんのり弁」 11/10、シネ・ウインド。 評価★★★ 緒方明監督作品。 ダメ亭主と別れて幼稚園児の娘を連れて母の住む実家に帰った三十女 (小西真奈美) が、仕事を探すうちに、弁当作りを始めようと決意し、修行のために近所の飲み屋に手伝いに出たりして・・・・・・というようなお話。 わりにきっちり作られた作品で悪くないなと思ったけれど、ただ、中学時代の同級生の扱いが何となく納得行かず、飲み屋のおやじ (岸部一徳) がいい味を出しているのが救いだが、もう少し脚本を工夫すれば傑作になったのではないか、惜しい、といったところ。

139.「天使の恋」 11/10、Tジョイ新潟万代。 評価★★★☆ 寒竹ゆり監督作品。 ケータイ小説が原作らしい。 売春でリッチな、しかし自堕落な生活を送っていた女子高生が、偶然知り合った30代の大学講師に恋をし、それまでの生活を改めて何とか相手と両思いになろうと努力するという筋書き。 あんまりリアリティみたいなものはないが、見ていて結構面白く、映画の原点、或いは恋愛物フィクションの原点はこういうところにあるのではないか、と感じさせられた。 ヒロインを演じる佐々木希が非常な美少女で魅力的だし、相手役の谷原章介もぼけっとした独特の味を出していていい。

138.「あなたは私の婿になる」 11/9、UCI新潟。 評価★★★ 米国映画。 アン・フレッチャー監督作品。 NYの出版社に勤務するモーレツ社員のヒロイン(サンドラ・ブロック)は、カナダ国籍でありながら米国滞在手続きの更新を怠ったため国外退去を命じられてしまった。 そこで彼女は、グリーンカード (永住権) を得るために、自分の秘書である若い男性社員 (ライアン・レイノルズ) との偽装結婚を思いつく。 話の行きがかり上、相手の実家を訪ねる羽目に陥った彼女だが、相手の実家で家族の情愛に触れて・・・・・・・というような筋書きのコメディ。 予告編から判断した限りではドタバタ喜劇なのかと思っていたが、あんまりドタバタではなく、むしろ人情喜劇みたいなところがある。 その意味では意外な面白さがないとも言えないが、しかしハッピーエンドに持っていくためには最初の設定が十分ではなく、やや物足りない印象もある。 

137.「幸せはシャンソニア劇場から」 11/3、UCI新潟。 評価★★★★  フランス映画。 クリストフ・バラティエ監督・脚本。 1936年、人民戦線時代のパリを舞台に、いったん閉鎖された下町の娯楽劇場を何とか再建しようと頑張る従業員たちの姿に、恋や父子の情愛などをからめて描くフランス風人情映画。 ドイツではすでにヒトラーが政権をとり、フランスでも左右の対立が激化していた頃だが、そうした背景のなか、小さな劇場をめぐる様々な人間模様が魅力的。 またヒロインのノラ・アルネゼデールは、1989年生まれというから、この映画に出演したときは弱冠19歳だが、すばらしい美人で、ここのところフランス映画は美人女優が払底しているのかと言いたくなる状態が続いていただけに、今後の活躍が期待される。 しかしこの映画、新潟ではあと3日しかやっていないので、フランス映画・ヨーロッパ系映画ファンの新潟市民はお見逃しなく。

136.「沈まぬ太陽」 10/26、UCI新潟。 評価★★★ 山崎豊子原作、若松節朗監督作品。 日本を代表する航空会社に勤務する男・恩地 (渡辺謙) が、組合活動のために冷や飯を食わされてアジアやアフリカといった僻地の海外勤務を長年強制され、その後日本に戻ったと思ったらジャンボジェットの墜落事故がありその遺族対策に追われ、次には新会長 (石坂浩二) のもとで会社の健全化をはかろうとするが社内抗争に巻き込まれる、というお話。 最初は主人公と同じく組合活動に従事しながら、途中で自分の立身出世のために翻意する同僚 (三浦友和) が副主人公となっている。 途中10分の休憩を入れて3時間半ほどに及ぶ長尺の映画で、カネをかけていることも分かるけど、原作小説 (私は未読だが) を多分大幅にカットして映画化したために、筋書き面で単純だったりよく分からなかったりする部分が目立ち、がんぱったけどイマイチ、という印象になってしまっている。 むしろ、第1部 (海外勤務) なら第1部だけで1本の映画にし、最初から3部作として映画化したほうが良かったのではないか。

135.「美代子 阿佐ヶ谷気分」 10/25、シネ・ウインド。 評価★★★☆ 坪田義史監督作品。 70年代、マンガを 『ガロ』 誌に書きながら恋人の美代子と阿佐ヶ谷で同棲していた安部慎一の物語。 ただしリアリズムにこだわった作品ではなく、フィクションとして作られた部分もあり、また恋人美代子役の町田マリーが魅力的なので、日本的な貧乏くささを脱した悪くない映画になっている。 編集者役の佐野史郎も味があっていい。 

134.「さまよう刃」 10/20、WMC新潟。 評価★★  益子昌一監督作品。 妻を病気で亡くし、女の子を一人で育てていた中年男 (寺尾聡) が我が子を暴行虐殺され、その犯人である少年たち (=未成年) に復讐を敢行する、というお話。  未成年者の犯罪をどう裁くか、被害者の親族の立場は・・・・・といった重いテーマを含んだ映画だが、筋書きの細かいところが粗雑で、登場人物の心情や行動にもあまり納得がいかず、残念ながら、という出来に終わってしまっている。 どうも日本映画って、作り方が下手になってきているんじゃないだろうか。

133.「クヒオ大佐」 10/18、Tジョイ新潟万代。 評価★★ 吉田大八監督作品。 結婚詐欺師のお話なんだけど、面白くなりそうでいて、ならない。 作り方、下手なんだな。 それから主演の堺雅人も、合っていない感じ。 詐欺師の複雑さが出せていない。 見どころは詐欺師の犠牲になる松雪泰子だけかなあ。 

132.「夏時間の庭」 10/16、シネ・ウインド。 評価★★ フランス映画。 オリヴィエ・アサイヤス監督作品。 母の暮らしていた郊外の家を、その死後に相続した三人の子供たち――といってももう大人――が、結局は売り払うというお話。 話の軸は、過去の思い出がつまった家を売らねばならないという郷愁と哀愁のはずだが、あんまりそこがうまく出ていない。 或いは、長男と次男と長女のそれぞれの事情や思惑の葛藤も見どころのはずだが、そこもイマイチなのである。 最後で、死んだ母の孫が出てくるけれど、そこも唐突。 うーん・・・・・・

131.「火天の城」 10/15、UCI新潟。 評価★★★ 田中光敏監督作品。 織田信長が作らせた伝説の城である安土城。 その建築の物語である。 物語の骨格がしっかりしていて、信長を演じる椎名桔平や建築師役の西田敏行も悪くなく、たくさんの人々が協力して城を作っていく過程はそれなりにきちんと描かれている。 ただ、人間関係の描写はありきたりだし、それは仕方がないにしても、城を作る話であるのだから、建築の技術的な細部をもう少し描いていれば傑作になったのではないかという気がする。 惜しくも普通の出来にとどまった、という印象。

130.「カイジ」 10/12、UCI新潟。 評価★★☆ 佐藤東弥監督作品。 コンビニでバイトをして暮らす冴えないフリーターの若者 (藤原竜也) が、友人の借金の保証人になったばかりに巨額の負債を抱え込み、それを何とかできる機会があるとそそのかされて、一発逆転の望みを実現しようと怪しげな船に乗り込み、そこで同様の境遇にある若者たちとゲームで対決する・・・・・というようなお話。 ゲームを描く映画として作られたのかと思って見ていたが、それにしては変に人間模様の描写が長いし、かといって若者のフリーター問題を真正面から取り上げた映画というには足りないので、中途半端な感じしか残らない。

129.「ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ」 10/11、UCI新潟。 評価★★★☆ 太宰治の同名の小説を映画化したもの。 根岸吉太郎監督作品。 ヒロインを演じる松たか子が実に見事である。 太宰を彷彿とさせる飲んだくれの作家 (浅野忠信) を亭主に持ちながら、夫のこしらえた大借金を慌てず騒がず酒場で働きながら返済していくナチュラルな姿がすばらしい。 酒場の夫婦を演じる伊武雅刀と室井滋もいい。 戦後間もない頃の鉄道だとか街の様子もなかなかよく再現されている――こういう細部にいい加減な日本映画がわりに多いので、本作品の見事さがいっそう際だつのである。 

128.「女の子ものがたり」 10/10、UCI新潟。 評価★★★ 西原理恵子原作、森岡利行監督作品。 最近ヒットが出ない女性マンガ家 (深津絵里)。 そんなとき、過去を振り返ると仲良しの友人がいたことを思い出す。 その思い出をたどることでスランプから抜け出すというお話だが、映画は少女時代の友情をメインに描いている。 四国の、どちらかというと下層の人々の中で暮らした少女時代のヒロイン。 その様子と、結局そうした人々から離反しながらも、彼らを忘れられないところが、今の日本人の心象風景にどこかマッチしているようだ。 

127.「ココ・シャネル」 10/2、Tジョイ新潟万代。 評価★★★☆   米伊仏合作、クリスチャン・デュゲイ監督作品。 シャネルの一生を描いた映画。 『ココ・アヴァン・シャネル』 に比べると、デザイナーとして成り上がっていくシャネルの経歴は分かりやすいし、男関係も映画チックに作られているので、一般受けということで言えばこちらかな、という気がする。 ただし、そのために、人間の人生が物語では捉えられない分かりにくさを持つことだとか、時代性から来る男女関係の微妙な綾、などは、あまりこの作品からは感じられなくなっている。 分かりやすい映画を好む人にはこちら、微妙な陰影を好む人にはあちら、と言えるだろうか。

126.「アンティーク 西洋骨董洋菓子店」 10/1、WMC新潟。 評価★★☆ 日本のマンガを原作にした韓国映画。 ミン・ギュドン監督作品。 甘い物が好きでもないのに洋菓子店を開いた男。 その彼が菓子職人として雇ったのは、かつて自分に愛情を告白したゲイの男であった。 その他、プロボクサーから足を洗い菓子職人をめざす男など、変なメンツを揃えて洋菓子店はスタートする。 しかし、一方ではフランス人のゲイが昔のヨリを戻そうと菓子職人に迫り、他方ではオーナーの男には少年時代に誘拐された体験があり、その体験が実は・・・・・・・というような、かなりはちゃめちゃな内容。 うーん・・・・マンガとしてはこれでも成立するんだろうけど、実写映画としてはどうかな。 私としては無理が感じられるように思うのだが。 

125.「人生に乾杯!」 9/28、シネ・ウインド。 評価★★★ ハンガリー映画。 ガーボル・ロホニ監督作品。 わずかな年金で暮らす老夫婦が、生活に窮していき、銀行強盗を敢行する様子と、それを追う警察の無能ぶりを、多少のユーモアをこめて描いている。 ものすごく面白いというほどではないが、老夫婦がピストルを突きつけて強盗をする様子が見どころか。 矛盾の多い社会体制や、警察の内部事情、庶民の体質なども、それなりに描かれている。

124.「空気人形」 9/28、UCI新潟。 評価★★★☆   是枝裕和監督作品。 独身男の欲望を満たすために作られた空気人形。 ところがその人形が生命を持ってしまう。 昼間、男の留守中に街を歩く人形は、様々な人間と出会うが、誰もが孤独で、人形のように中身がからっぽなのを彼女は知っていく・・・・・。 悪くすると非常に俗っぽい映画になりかねない設定だが、さすが是枝監督というべきか、現代人の孤独を鋭く描いた佳作になっている。 人形役を演じるのは韓国女優のペ・ドゥナで、これがまたはまり役なのである。 彼女なくしてこの映画は生まれなかった。

123.「南極料理人」 9/27、WMC新潟。 評価★★☆ 沖田修一監督作品。 ひょんなことから、南極の高地に設置された基地で越冬する日本隊員に付き添って毎日の料理を作ることになった男 (堺雅人) のお話。 極地観測や研究の合間に訪れる食事の時間は、しかししばしば喜劇的な様相を呈する。 また男ばかり数人が暮らす日常にも、しばしば悲喜劇が訪れる・・・・。 まあ、そこそこ面白いんだけど、日本的な笑いから一歩も出ていないし、この手の映画はどうも古くさいという気がする。 もっと斬新な笑いに挑戦した映画を作って欲しい。 こういうのに拍手しているようじゃ、ダメだと思うなあ。

122.「カムイ外伝」 9/21、UCI新潟。 評価★★☆ 崔洋一監督作品。 白土三平による有名なマンガの実写映画化。 しかし、やや 「カムイ伝」 的な要素も入り込んでいるようだ。 まあ、映画は2時間持たせなくてはならないわけで、それには 「カムイ外伝」 のような、忍者同士の秘術を駆使しての闘いだけでは埋まらないのだろうけれど、カムイの徹底した孤独感や、秘術をいかに作り出していくかといった苦労が前面に出てこないと、本当の意味での 「カムイ外伝」 にはならないんじゃないか――そんなことを考えた。 あと、カムイが松山ケンイチなのはいいとして、ヒロインが小雪って、ないでしょ。 もっと線の細い美人を使ってくださいな。

121.「ココ・アヴァン・シャネル」 9/20、WMC新潟南。 評価★★★☆ フランス映画。 アンヌ・フォンテーヌ監督作品。 デザイナーとして有名なココ・シャネルの前半生を描いている。 すなわち、シャネルが有名になってからではなく、有名デザイナーになるまでの、海の物とも山の物ともつかない不安定な少女・若年期を扱っているところがミソ。 この映画では――実際にもそうだったらしいが――バルザンという金持ちの男がかなり大きな比重を持っている。 行き場がないシャネルが、以前知り合いだったというだけの理由で彼の城を訪ねていって、そこに長期間逗留するのである。 それだけの余裕のある男がいて、シャネル (この段階ではまったくの無名の貧しい少女にすぎない) の居候を認めてくれたからこそ、後年のシャネルがあるわけだ。 映画にはもう一人、ハンサムな英国人も登場し、このバルザンの城でシャネルと知り合って、彼女の才能を認めデザイナーとして自立するよう勧めるという筋書きになっている――実際にもそうだったらしい――のだが、私にはむしろバルザンの、いい加減さを含めた鷹揚さが、シャネルを生んだように感じられた。 バルザン役のブノワ・ポールブールドが非常な好演。 ヒロインのオドレイ・トトゥは、やや弱い印象。 

120.「男と女の不都合な真実」 9/20、WMC新潟南。 評価★★☆ アメリカ映画。 ロバート・ルケティック監督作品。 TV局のプロデューサーとしてバリバリのキャリアを積んでいるヒロイン (キャサリン・ハイグル)。 しかし視聴率が低下気味で、てこ入れしないと担当の番組もなくなりそう。 そこに、下品なシモネタを濫発する男 (ジェラルド・バトラー) の採用が上部の意向で決まってしまう。 ヒロインは不満だったが、彼の下品なジョークのお陰で視聴率は急上昇。 彼はヒロインに、本当の恋愛を知らないだろうと核心をつき、オレの言うとおりに振る舞えばいい男と恋愛関係になれると主張する。 ヒロインはその気になり、彼の言うとおりにして、やがてハンサムなボーイフレンドができるのだが・・・・・・。 喜劇だけれど、かなり下品でテレビ局向きじゃない言葉やジョークを連発するところが愉快なだけで、あとはありがちなストーリーである。 

119.「真夏の夜の夢」 9/18、シネ・ウインド。 評価★★ 中江裕司監督作品。 沖縄の小さな島を舞台に、そこに棲む精霊と、都会での不幸な恋愛に疲れて戻ってきた若い女性 (柴本幸) とのお話。 精霊を信じる心を忘れかけている島の住民たち、小さいときに精霊と話をしていたことを思い出すヒロインなどが、繰り広げる、ちょっとドタバタな物語である。 うーん、あまりカネをかけずに作っているということが分かっちゃう映画で、見どころはヒロイン・柴本幸のコメディエンヌぶりくらいかなあ。 

118.「BALLAD 名もなき恋のうた」 9/18、Tジョイ新潟万代。 評価★★★ 山崎貴監督作品。 こないだ不幸な事故で亡くなった臼井儀人氏の 『クレヨンしんちゃん』 の劇場版アニメ 「嵐を呼ぶアッパレ! 戦国大合戦」 を実写映画化したもの。 私はアニメのほうは未見。 小学生とその父母が戦国時代にタイムスリップし、周囲の大国から脅かされている小国にたどりつくが、、そこでは美しい姫君 (新垣結衣) が身分違いながら幼なじみの武士 (草なぎ剛) と密かな相思相愛の関係にあり、しかし勢力のある隣国の領主 (大澤たかお) から求婚されて悩むという筋書きである。 時代劇として見るといささか現代的な価値観が支配的だし、武士たちの最終的な振る舞い方にも甘さがあって、普通の時代劇ファンには向かないが、一家で見る一種の変形ホームドラマとして見れば、そこそこの出来であろう。

117.「グッド・バッド・ウィアード」 9/11、Tジョイ新潟万代。 評価★★★  韓国映画。キム・ジウン監督作品。 戦前の満州を舞台に、非常に価値の高い何かのありかを示している地図をめぐって、泥棒 (ソン・ガンホ) とギャングのボス (イ・ビョンホン) と賞金稼ぎ (チョン・ウソン) の3人が三つ巴になって争い、そこに闇市を取り仕切る一団と満州の日本軍がからんでくる、という筋書き。 派手な取っ組み合いや撃ち合いが次々と繰り広げられるので、活劇が好きな人にはいい映画だと思う。 最後に意外なオチもある。 ただ、私としては派手なシーンはもう少し控え目にして頭脳で勝負する部分を増やしてもらいたかったが、これは私がトシをとっているためかもしれない。 3人のヒーローの中では、やはりチョン・ウソンの格好良さが光る。 『デイジー』 や 『私の頭の中の消しゴム』 でもそう思ったが、彼はアジアを代表する美男俳優だと思う。

116.「扉をたたく人」 9/11、シネ・ウインド。 評価★★★★ アメリカ映画。 トム・マッカーシー監督作品。 妻には先立たれ、息子も独立している老教授。 大学での講義も惰性でやっている。 たまたまニューヨークでの学会に出るためにそこに所有しているアパートを久しぶりに訪れたところ、無断で宿泊している若い移民カップルを発見。 しかし行き場のない彼らに宿泊を許す。 そして彼らと付き合う中で老教授は新しい自分を発見していくのだが、9・11以降のアメリカは移民に厳しく、やがて・・・・・。 アメリカでも最初はわずか4館での公開から始まったが、評判が良くて270館にまで拡大されたという映画で、実際それも当然と思わせる出来。 派手なところはないけれど、実にきちんと作られている。 主演の4人がいずれも役にぴったりはまっており、淡々とした筋書きの中からアメリカの現状と異なる階層・出自の人間関係などが浮かび上がってくる。 まだ見ていない方にはお薦めである。  

115、「3時10分、決断のとき」 9/8、WMC新潟。 評価★★★★ アメリカ映画。 ジェームズ・マンゴールド監督作品。 最近では珍しい西部劇。 ギャング団のボスであるラッセル・クロウが魅力的なダーティヒーローを演じている。 話は彼と、苦労しながら牧場をやっているものの借金を抱えて家族関係もぎくしゃくしているクリスチャン・ベイルの二人を主人公とする。 カネを運ぶ馬車を襲って大金をせしめたクロウだったが、町で女と遊んでいる間に捕縛されていまう。 しかし彼を裁くためには駅のあるユマまで彼を連れて行かねばならず、途中でギャング団が奪回に動く可能性が大だった。 借金に悩むベイルはこの危険な仕事を敢えて引き受けるのだが・・・・・。 二人の対照的な男に、ベイルの長男 (ローガン・ラーマン) やギャング団の次席 (ベン・フォスター) もからんで、伝統的な西部劇を意識しながらも、同時に新しい人間像を示そうとしていて、見応えのある西部劇となっている。 この映画が新潟市でわずか1週間しか上映されなかったのは何とも残念。 ハリウッドではあるが大手会社の作品ではないので、配給の関係でそうなったらしいが、何とかならなかったものか。 

114.「ノーボーイズ、ノークライ」 9/4、UCI新潟。 評価★★  日韓合作、キム・ヨンナム監督作品。 夜に韓国から日本に船で密売品などをこっそり運び日本在住のおじに届ける仕事をしているヒョング (ハ・ジョンウ) と、そのおじに雇われている日本人・亨 (妻夫木聡) との付き合いと、やがて訳あっておじから追われるようになる二人の逃避行を描いている。 新潟市の万代シティなども出てくるので新潟の映画ファンには一見の価値があるかもしれないが、作品自体の質はあまり高くない。 裏社会に生きる人々の暗さみたいなものがあまり伝わってこないし、筋書きにも特筆すべきところがないし、映像にもさほど魅力がない。 何となく話が続いていくような感じなのである。 うーん・・・・・

113.「セント・アンナの奇跡」 9/1、WMC新潟南。 評価★★★★☆ アメリカ映画、スパイク・リー監督作品。 発端は1980年代のニューヨーク。 郵便局の窓口係員が、切手を買いに訪れた客をいきなり射殺する。 捜査の結果、係員の住宅にはいわくありげな彫刻が隠されていた。 第二次大戦中にナチスドイツによって爆破された貴重なルネッサンス時代の彫刻の一部分であった。 なぜ彼はそんなものを持っていたのか。 それは約40年前、彼が第二次大戦中に米軍の黒人部隊の一員としてイタリアでナチスドイツと戦った過去に由来していた・・・・・。 というところから始まって、大戦中実在した米軍の黒人部隊の苦闘、軍の中にあっても差別されていた実態、そして彼らが偶然にイタリア人少年を発見してかばおうとする中でイタリア人の住む村に入り込み、そこで村の人々やパルチザンと交流するさまが描かれている。 一方で映画チックな謎解きの面白さが、他方で差別されながらも必死に敵と戦っていた黒人たちの様子が観客を捉えて離さない。 またイタリア人やナチスドイツにしても、固定的な描き方はせずに、彼らの内部にも様々な人間がいたのだということを分からせるように脚本が作られているし、イタリアの風景がまた実に映画的なのである。 2時間40分かかる作品だが、ヤワな私小説みたいなぬるい邦画に物足りなさを感じている映画ファンには断然お薦めである。 

112.「キャラメル」 8/30、シネ・ウインド。 評価★★ レバノン映画。 ナディーン・ラバキー監督・主演作品。 レバノンのベイルートを舞台に、そこのエステサロンに勤務する女性、そこを訪れる女性、近所に住む老姉妹などの日常生活を綴った映画。 レバノン映画というとめったに見る機会がないので、街の景観や人々の暮らしぶりによほど珍しいところがあるのかと期待したが、さほどでもなく、まあ西洋の街に準じるような、ただし少し乾いた印象はあるけど、そんなところである。 女性たちの物語にしても、不倫だとか、結婚を控えた娘の悩みだとか、老いらくの恋だとか、ありがちな内容なのである。 というわけであまり感心はしなかったけれど、監督と主演を兼ねるナディーン・ラバキーがちょっとびっくりするくらいの美貌の主で、監督としてはともかく、今後も機会があったら女優として見てみたいと思わせられた。

111.「色即ぜねれいしょん」 8/28、Tジョイ新潟万代。 評価★★ 田口トモロヲ監督作品。 原作はみうらじゅんだそうである。 1970年代半ばの京都の高校生が主人公で、彼らの青春を描いている。 が・・・・・自分の国の映画をクサすのは気が進まないけど、はっきり言って最近の邦画はダメダメじゃないかね。 こんなぬるい作品を作って喜んでいるようじゃ、先は暗いと思うな。 すべてが中途半端で、カッコよくもなければ、みっともなさに徹しているわけでもなく、ほどほどのぬるい空間の中に浮遊している感じなのである。 本気で作ってんのか、コラ!と言いたくなりますね。 見ていて退屈するばかり。 これだったら、いっそB級に徹して若者同士のポルノグラフィーでも作りなさいってば。 生半可な私小説はもう飽き飽きしました。

110.「トランスポーター 3 アンリミテッド」 8/20、WMC新潟。 評価★★★ リュック・ベッソン脚本・制作。 オリヴィエ・メガトン監督作品。 ジェイスン・ステイサム主演のシリーズ第3作。 今回は、環境会議を利用して悪をたくらむ一味から腕にブレスレットを付けられてしまい、それが車から一定距離以上離れると爆発するという代物なので、あくまで運び屋としての職分に徹するしかない、という状況下で、何者かよく分からない若い女と一緒に依頼品を運ぶことになる。 犯人の真の狙いは何か、若い女の正体は・・・・・などの謎を抱えながら、途中でおなじみのアクションシーンも入れて話は進む。 エンタメとしてそれなりに面白い。 今回は若い女の影がかなり濃いところが特徴かな。 彼女がもう少し美人だといいのだけれど。 

109.「台湾人生」 8/19、シネ・ウインド。 評価★★★ 酒井充子監督作品。 かつて台湾には日本人がいた。 日本から台湾に出稼ぎに行った人ではない。 日清戦争に勝ってから第二次大戦に負けるまで台湾は日本領だったのであり、現地人はそこで日本語を学び日本人として生きていたのである。 それは必ずしも強制だとか差別だとか押しつけとは受け取られていない。 たしかにそういう部分もあったが、しかし近代日本の一員と位置づけられた彼らは、意欲的に日本人たろうとしたのだ。 日本の敗戦後、大陸から蒋介石の国民党がやってくるが、現地人からすれば国民党は日本人よりはるかに悪質で馴染めないものであった。 この映画は、すでに高齢になっている元日本人たちに取材して、彼らが受けた教育や、戦争中の仕事などを語ってもらったドキュメンタリーである。 小泉の靖国神社参拝は当然とする彼らの日本人ぶりに、歴史の複雑さをあらためて感じさせられる。

108.「私は猫ストーカー」 8/15、シネ・ウインド。 評価★★☆  このところ夏枯れで、映画館ではあまり見たい映画をやってない。 夏休みになるといつもこう。 シネコンは何作品も上映しているわけだから、2つや3つ、大人向けの作品を入れておいてもらいたいものだ。 それはさておき、この映画である。 鈴木卓爾監督作品。 東京の下町を舞台に猫と見ると跡をつけまわす若い女 (星野真里)、彼女がアルバイトをする古本屋――ここも猫を飼っている――、そして彼女たちが暮らす街のたたずまいや人々の様子などを静かに描写した映画。 淡々とした進行のなかに、様々な猫たちの個性、おもしろい人、おいしいものを売っている店などが浮かび上がってくる。 ハリウッドのアクション映画なんかに疲れた人にはいいかも知れない。 ただ、日本映画のこういう 「作らない」 ところを評価するかどうかは、微妙な問題だけど。

107.「嗚呼、満蒙開拓団」 8/6、シネ・ウインド。 評価★★★ 羽田澄子演出・ナレーターによるドキュメンタリー。 大戦期、それもしばしば終戦間際になってから国策で満蒙に入植し、日本の敗戦とともに家屋を捨てて逃亡せざるを得なくなった人々の体験を、証言をもとにして掘り起こしている。 私は満州やそれに関する政策についてはよく知らないのだが、この映画を見ると、敗戦と同時に関東軍の高級軍人から優先して撤退し、民間人を置き去りにしているのにはあきれ果てた。 軍人はまず民間人を守り、自分は最後まで踏みとどまるのが職務であろうに、何やってたのかなあ、と思った。 戦後日本の軍隊へのタブー意識も、単に敗戦アレルギーからだけではなく、やはり戦前の軍人の体質にも要因があったのだと改めて痛感した。 それと、国の呼びかけに応じて満蒙に出ていった日本人の、日本での実家が最後に映されるところが、この問題を多面的に捉えていて優れているところだろう。 長野県の山奥の、まさに猫の額ほどの土地しかなかった人たちが、広い満洲に憧れたのも分かるのである。 今のように第二次・第三次産業中心で仕事に土地があまり要らない時代とは根本的に違っていたということ。 ほかに、かの地で亡くなった日本人の墓が中国人によって建てられた話など、興味深いエピソードが出てくる。

106.「サマー・ウォーズ」 8/4、Tジョイ新潟万代。 評価★★★ 細田守監督作品、アニメ映画。 夏休み、数学少年である高校生の健二は憧れの先輩・夏希に頼まれて、彼女の曾祖母の住む長野県上田市に同行する。 曾祖母の住む陣内家は由緒ある家柄で、広壮な邸宅には曾祖母の90歳の誕生日を記念して市内から沢山の親戚が集まっていた。 むかし風の大家族を前に、婚約者だと夏希に紹介された健二はずっこけそうになるのだが、やがてネット上のトラブルから世界中が危機に陥る事件が発生。 健二は大家族たちと協力して事件に立ち向かおうとする・・・・。 ネット上の事件はさしたるところもないが、昔風の大家族をアニメで描くというところに新鮮味がある。 様々なキャラクターがそれぞれ持ち味を発揮していて、エンタメとしてまあまあよくできていると思う。 ただし、深さというか、心情の掘り下げのようなものはなく、あくまで軽快な進行で見せるアニメである。

105.「そんな彼なら捨てちゃえば?」 8/1、WMC新潟。 評価★★ アメリカ映画。 ケン・クワピス監督作品。 現代社会に生きる5人の女性と、その夫やボーイフレンドとの関係を、群像劇として描いている。 私としてはスカーレット・ヨハンソンが出ているので映画館に足を運んだのであるが、露出度は比較的高いので悪くないかなと思いながら見ていたのだけれど、どうも彼女の役はいつもセクシーだけど男と恒常的な関係を結べない女といったところで、彼女のファンである私からすると、もっと彼女の魅力が活きるような設定がないのか、と言いたくなる。 ヨハンソンのほか、ジニファー・グッドウィン、ジェニファー・コネリー、ジェニファー・アニストン――やれやれ、皆同じようなファーストネームだなあ――、ドリュー・バルモアがヒロインとして出ている。 特に好みの女優が出ているというのでなければ、見なくてもいい映画じゃないかな。 もっともこれはあくまで私のような中年男向けのアドヴァイスですけど。

104.「アマルフィ 女神の報酬」 7/30、WMC新潟。 評価★★★ 西谷弘監督作品。 イタリアが舞台の日本映画。 外交官として在イタリア日本大使館に赴任してきた黒田 (織田裕二) は、偶然から、娘を誘拐された日本女性 (天海祐希) の夫を装って誘拐犯と交渉を行う羽目に。 おりしもG8がイタリアで開催される直前で、日本大使館も外相を迎えるため大忙しだった。 やがて誘拐事件とG8との意外な接点が見えてくるのだが・・・・・。 イタリアの美しい景色や観光名所が随所に織り込まれているので、見ていて楽しいし、筋書きもまあまあよくできている。 ただし、厳密に考えると色々設定上の無理もうかがえないではないのだが、肩の凝らないエンタメとして、一見の価値はあると思う。

103.「ヘルサイユの子」 7/24、シネ・ウインド。 評価★★★    フランス映画。 ピエール・ショレール監督作品。 幼い男の子を連れた未婚の母が、たまたま読んだ新聞記事を頼りに新しい仕事を求めに行く途中、ヴェルサイユ宮殿の近隣の森で放浪生活を送る青年と出会う。 一夜を共にしたあと、若い母は姿を消してしまい、青年は残された子供と一緒に暮らす羽目になる。 同じ森に暮らす同類の男たちも子供を可愛がるが、やがてやっていけなくなり、青年は対立関係にあった父の家を訪ねる。 渋る父も孫 (だと思っている) の存在に態度を和らげ、同居を認める。 ・・・・・というようなお話なのだが、この筋書き説明では伝わりにくいと思うけど、この映画の中心は子供 (しかも結構かわいい) である。 したがって子供映画大好きという方にはお薦めできる。 ただし、どうも納得行かないのが我が子を置き去りにしていった母の無責任ぶりである。 しかも映画の最後でその辺が詰められずに終わってしまうため、それまでの悪くない展開が台無しになってしまう。 惜しい。 なお子供を押しつけられる青年を演じるギョーム・ドパルデューは、有名な俳優ジェラール・ドパルデューの息子で、父との確執をへて俳優として活動をしていたが、この映画を撮った直後に亡くなっている。

102.「スイート・スイート・ビレッジ」 7/24、シネ・ウインド。 評価★★★☆ イジー・メンツェル監督作品。 チェコ映画。 1985年頃の製作。 先週シネ・ウインドで見たイジー・メンツェル監督の映画が2本とも面白かったので、また見てみた。 チェコの田舎を舞台に、知恵遅れの青年と、その面倒を見る中年男、そして二人を囲む村の人々の暮らしぶりが、ユーモラスに綴られている。 俳優の選び方、そして話の進み方に独特のところがあり、くすくす笑いながら見られるのは先の2作品と同じ。 そしてここでも、不倫の人妻だとか、どことなく誘惑げな美人教師だとか、魅力的な女たちが登場するところもいい。 いやー、メンツェル監督っていい映画作りますね、気に入っちゃいました。

101.「ディア・ドクター」 7/20、WMC新潟南。 評価★★★★ 西川美和監督作品。 老齢化が進む農村を舞台に、そこに勤務する医師と、彼に診察してもらう村人たちの関係を描いている。 やがて医師は失踪してしまうのだが、この映画で大事なのはそういう事件の謎解きよりも、医師と周囲の人たちの関わり方のほうだと思う。 医師役の主演・笑福亭鶴瓶、その看護婦役の余貴美子、子供たちが独立して離村してしまい一人暮らしをする老女役の八千草薫などの、中高年俳優が健闘している。 これに比べると、研修医役の瑛太や、八千草薫の娘で都会勤務の医師役の井川遙は物足りない。 もっと演技を勉強してほしいものだ。 西川美和の映画は、前作の 『ゆれる』 は――世間的な評価は高いようだが――駄作だったけど、これは悪くない出来だと思う。

100.「英国王 給仕人に乾杯!」 7/16、シネ・ウインド。 評価★★★★☆ チェコ映画、2007年。 イジー・メンツェル監督作品。 2007年ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞受賞作。 初老の男が15年間ぶちこまれていた牢獄から出所するところがからこの映画は始まる。 出所した男の行状と、彼が若かった頃にプラハのレストランやホテルで給仕をしていた時の体験談とが交互に映し出され、彼の半生と、その背景になっている時代の変化が徐々に分かってくる仕組み。 彼が関係を持つ娼婦館の女や、ホテルで大金持ちのお相手をする女、高級レストランの二階でこれまたお金持ちの男たちが囲む食卓の中央で半裸をさらしている女・・・・・・うん、メンツェルの監督の選ぶ女優は、ここでも皆美しく私好み。 いいですねえ、映画はこうでなきゃ。 さて、時代はやがてナチスドイツにチェコがズデーデン地方を奪われ、やがて全体が保護国扱いになってしまう頃。 しかし主人公はレジスタンスの闘士になったりせずに、ドイツ女性と結婚してアーリア人扱いされたことを喜んでいる。 この辺りの展開も、単純な正義漢の物語じゃなく、アイロニーに満ちた筋書きになっているのがいい。 で、主人公の結婚相手でヒトラーに心酔する女性を演じるのが、何年か前に映画 『白バラの祈り』 で反ナチスの少女闘士ゾフィー・ショルを演じたユリア・イェンチである、というのが、実に何というか、皮肉めいていて愉快なのである。 ただし、彼女はそれまでこの映画に登場していた娼婦やそれに準じる女性たちの美貌に比べると、ちょっと劣るというか、男をそそるところに欠けている。 つまり、メンツェル監督の女の好みに合わない女優だと思うわけで、ナチスを支持する女性役だからわざとそういう女優を使ったのかなあ、なんて思うのは、うがちすぎでしょうか。 とにもかくにも面白い映画で、お薦めである。 でも私が見に行ったときはほんの数人しか客がいなかった。 新潟の映画ファンを自認する人なら、見逃してはいけません!

99.「厳重に監視された列車」 7/16、シネ・ウインド。 評価★★★ チェコのイジー・メンツェル監督28歳の作品。 1967年のアカデミー賞外国語映画賞受賞作。 モノクロ、スタンダードサイズ。 第二次大戦中にナチスドイツに占領されたチェコの小さな駅を舞台に、父親の後をついで駅員になった青年が、童貞をいかに捨てるかに悩む様子、そして中堅の駅員が駅を利用してアヴァンチュールを楽しむ様子が描かれている。 独特のユーモラスな雰囲気が、まず貴重。 中堅駅員のお相手をする女たち、そして青年が童貞を捨てる相手の熟女が、いずれも美貌。 映画はまず女優がキレイでないと、という私の映画理論 (?) からすると、メンツェル監督は非常によろしい、ということになる。 結末の妙も含め、一見に値する映画だ。 

98.「守護天使」 7/3、Tジョイ新潟万代。 評価★★☆  佐藤祐市監督作品。 怖い鬼嫁 (寺島しのぶ) に虐げられながら暮らす冴えない中年男 (カンニング竹山) は、ある時駅で転んでしまい、親切にしてくれた可愛い女子高生 (忽那汐里) に恋をしてしまう。 調べてみると、名門お嬢様学校の生徒だが、なぜか彼女のブログには売春を匂わせる記述が。 しかしこのブログには裏があると感じた彼は、彼女を守りたい一心で仲間 (佐々木蔵之介、ほか) に頼み込んで行動を開始するのだが・・・・・。 うーん、設定は面白いけど、脚本がイマイチよくできていない。 カンニング竹山のキモさはよく出てますけどね。 なお、ヒロインの忽那汐里 (これで、くつなしおり、と読むそうです。うーん、アイドルの名前は難しくなる一方) が可愛いし、準ヒロインの波瑠 (はる、と読むそうです。なんで最近のアイドルや女優は姓と名が揃ってないのが多いんだろう?) も魅力的。

97.「ある公爵夫人の生涯」 7/2、Tジョイ新潟万代。 評価★★★★ 英仏伊合作。 ソウル・デイブ監督作品。 英国18世紀に実在したデヴォンシャー公爵夫人の物語。 名門貴族に嫁いだ美しいヒロイン (キーラ・ナイトレィ) は、しかし世継ぎの男の子を生むことができず、夫はやがて妾を作って同じ邸宅内に住まわせてしまう。 ヒロインはその一方で政治活動に興味を抱き、若い政治家志望の青年と恋に落ちるが・・・・・。 筋書きはともかくとして、まず18世紀の英国大貴族の暮らしが目を惹く。 広壮な屋敷やきらびやかな衣裳だけでも一見の価値がある。 当時は男性は――バッハやヘンデルの肖像画を見ればわかるように――かつらをかぶっていたが、女性もかなり重そうなかつらをかぶっていたので、肉体的な負担は大変なものだっただろうと分かってくる。 貴族も楽じゃないのだ。 ヒロインを演じるキーラ・ナイトレィもキレイだが、公爵役のレイフ・ファインズが貴族のつらさみたいなものを微妙に表現しているところがいい。

96.「それでも恋するバルセロナ」 7/1、UCI新潟。 評価★★ ウッディ・アレン監督作品。 スペインに旅行にやってきた若い女性二人組(スカーレット・ヨハンソン、レベッカ・ホール)。 二人はたまたま当地の画家(バビエル・バルデム)と知り合い、誘われて一緒に小旅行にでかける。 やがて二人はそれぞれに違った場面で彼と関係を持つ。 しかし彼には別れた前妻(ペネロペ・クルス)がおり、彼女が彼のもとに帰ってきたことから・・・・・。 というような筋書きで、美女(しかも3人)と野獣だから面白いんじゃないかと期待して見に行ったけど、いかんせんアレンの映画だけあって、面白くなりそうなところでならず、せっかくの美女3人を十分に活かせず、といったところ。 ナレーションで筋書きが進行するのだが、そのナレーションがどうにも凡庸で、かえって登場人物たちの微妙な感情を描きそこなっているようだ。

95.「マン・オン・ワイヤー」 6/27、シネ・ウインド。 評価★★★ 英国映画。 ジェームズ。マーシュ作品。 9・11事件で崩落したニューヨークの世界貿易センタービルだが、まだこのビルが健在だった1974年、、双子ビルの屋上に綱を張って綱渡りをしたフランス人男性がいた。 この映画は、この 企画がどのように (むろん秘密裡に) 立ち上がっていき、実行に移されたのかをドキュメンタリーとして作成したもの。 ビルの内部に入り込み、こっそりツインタワーに綱を渡すところ、そしてその上で綱渡りをするところが、何とも言えずスリリングだ。 事件後の処分が、また愉快。

94.「デカローグ 9/10」 6/25、ユーロスペース(渋谷)。 評価★★★ 54歳で亡くなったポーランドの映画監督クシシュトフ・キェシロフスキ。 その没後10周年に、ユーロスペースで本邦初公開作も含めてキェシロフスキの特集が組まれている。 新潟在住の当方としては、東京出張中に 「デカローグ」 全10作中の第9話と第10話(合計で2時間弱)を見るのがやっと。 第9話は、30代ながら性的不能になり医師に離婚したらとまで言われた外科医と、KLM勤務のその妻との物語。 夫の不能にもかかわらず別れようとはしない妻だが、大学生と短い間だが不倫してしまう。 それを知った夫と、不倫を後悔する妻との関係は・・・・・。 妻役の女優がなかなかセクシーでいい。 私の好きな 『ふたりのベロニカ』 にも出てきた架空の作曲家ブーデンマイヤーがここにも登場する。 第10話は、偏屈な父に死なれた兄弟の物語。 兄にはすでに妻子がいる。 父は切手のコレクションを残していたが、専門家に見せたところ、莫大な値打ちのつく品だと言う。 そこで兄弟はコレクションを盗難から守ろうとさまざまな策を講じるのだが・・・・・・。 うーん、ちょっと滑稽で、なおかつ残酷なお話。   

93.「白い魔魚」 6/25、神保町シアター。 評価★★★ 舟橋聖一原作、中村登監督作品、1956年。 岐阜の老舗の紙問屋の娘・竜子 (有馬稲子) は東京の大学に通い、同級の演劇青年・種夫 (石浜朗) と相思相愛の関係にある。 しかし実家が倒産する苦境に。 債権者の青木 (上原謙) は、妻を亡くしたばかりであったが、紙問屋を救う代わりにと竜子に結婚を申し込む。 若いが将来が見えない恋人と、実家を救う条件として結婚を申し込んできた資産家の中年男とのあいだでヒロインは悩む・・・・。 何となくこの時代にはありがちなストーリーのような気もするが、ヒロイン有馬と若い恋人役・石浜の美貌がみどころ。 ふたりともまだ若く、学生でまったく違和感がないし、やっぱり映画は美男美女が出て来なきゃ、と麻生久美子あたりが主演の映画を見てうんざりした後だと痛感してしまいます。

92.「サガン ――悲しみよ、こんにちは――」 6/25、ル・シネマ(渋谷)。 評価★★★ フランス映画。 ディアーヌ・キュリス監督作品。 戦後フランスや先進国で一世を風靡した作家フランソワーズ・サガンの半生を描いている。 男と長持ちする関係が築けない人で、お金の管理ができない人で、しかし誰かと一緒でないと暮らせない人で・・・・・・うーん、困った人なのであった。 サガンというと、今の若い人は名前も知らないだろうけれど、ワタシの若い頃は新潮文庫に翻訳がたくさん収録されていて、しかし硬派きどりの生意気な文学青少年なんかにはバカにされる存在だったのだった。 そういう意味では、純文学の評論家からなんかは結構否定的に捉えられている村上春樹なんかと近いところに立っていた人だったのかもしれない。 この映画はそのサガンの半生を描いていて、特に芸術的でもなく、まあふつうの面白さである。 人間関係なんかにはよく分からないところもあった。 都会でなく田舎に一軒家を買って住んでいた、というのは意外。

91.「インスタント沼」 6/24、テアトル新宿。 評価★★★ 三木聡監督作品。 またまた麻生久美子の映画か (笑)・・・・私は麻生久美子って好きじゃないんだけどね。 美人だとは全然思わない。 私としてはこのあたりの年齢なら中越典子なんかいいんじゃないかと思うが。 彼女なら美人だしコミカルな演技もこなせるし、私だったら絶対中越典子を起用するけどなあ。 なんて言っても仕方がないだろうが、どうも最近、日本の一般大衆の美意識とワタシの美意識のズレを痛感することが多くなっている。 困っちゃうなあ。 ・・・・・・閑話休題。 三木監督ならではの、脱力系喜劇、だそうです。 まあ、笑えなくもないお話ですが、なんかかなりいい加減な作りだという気もする。 でも、タイトルの 「インスタント沼」――これにはちゃんと意味があるのだ――を初め、それなりに考えているのかもしれない。 ま、そんなことはどうでもいか、という気にさせられる映画です。 そこそこ面白い、けど、ヒロインがワタシ好みじゃないので、減点してこの点数。 

90.「ウルトラミラクルラブストーリー」 6/24、シネカノン有楽町2丁目。 評価★★☆ 横浜聡子監督作品。 青森県の農村地帯。 祖母と住む青年(松山ケンイチ)は若干知恵遅れの気がある奔放な人間。 そこに都会からやってきた新任の幼稚園の先生(麻生久美子)があらわれて、青年は恋に落ち、なんとか先生と両思いになろうと努力を開始するが・・・・。 どことなく87(↓)と類似した印象を受けた映画。 ふつうの人と、ふつじゃない人との交流ということで。 ただし、この映画では麻生久美子は――田舎に移り住んだ理由にはふつうでないところがあるが――ふつうの人で、知恵遅れの青年からのアプローチを正面切って受けとめることができず、受動的なままに終わっているところが物足りない。 最後のシーンも、とってつけたよう。

89.「偽れる盛装」 6/23、新文芸坐(池袋)。 評価★★★☆ 吉村公三郎監督作品、1951年、モノクロ。 京都の祇園を舞台に、芸者の母を持つ二人の娘 (京マチ子、藤田泰子) の対照的な生き方を描いている。 姉は売れっ子芸者として男を手玉に取り、お人好しの母が昔の旦那の息子に義理立てして借金をするのに立腹しながらも、男からカネを搾り取ってやっていくが、妹は花柳界には目を向けず、戦後にふさわしい新しい生き方を模索している。 この二人の描き分けが見事。 藤田泰子という女優は、私はこの映画で初めて見たが、男をそそるような美人ではないけれど、家庭をもったらしっかりやっていきそうな、健康的な魅力にあふれている。 一方、彼女と恋仲になる若い頃の小林桂樹がいかにも頼りなさそうで、こういう冴えない男でも年を取ると風格が出てくるものだなと今さらながらに痛感したことであった。 筋書きの上では、こんな封建的なところなんか出ていっちゃいなさいと、友人から励まされた妹が東京へ向けて旅立つところで幕となるが、母の経済的苦境を救うのは古い花柳界で生きる姉のほうであり、必ずしも新時代の讃歌といった見方では収まらない幅を持つ映画だと思う。

88.「痴人の愛」 6/23、新文芸坐(池袋)。 評価★★☆ 谷崎潤一郎の有名な小説の映画化。 1949年、木村恵吾監督作品、モノクロ。 ヒロインのナオミを京マチ子が、彼女に翻弄される男を宇野重吉が演じている。 原作を読んだのはずいぶん前であまりよく覚えていないのだが、この映画ではヒロインの妖しい魅力やそれに拝跪する男のマゾヒスティックな快感といったものが、あんまり出ていない。 たしかに京マチ子は奔放なのだが、戦後間もない頃の風俗描写的な感じが強く、必ずしもセクシーではない。 若かりし頃の宇野重吉も、なんか重みがなく、その分、女に振り回される男の哀感が出ていない。 或いは、谷崎の小説は小説だからこその魅力というもので成り立っているのかもしれず、映画というジャンルには限界があるからだろうか。 16ミリのフィルムによる上映のせいか映像もボケぎみ。

87.「路上のソリスト」 6/22、TOHOシネマズ・シャンテ(日比谷)。 評価★★☆ アメリカ映画。 ジョー・ライト監督作品。 ロサンゼルスの新聞記者である主人公は、ふとしたことから素晴らしい技巧と音色でヴァイオリンを奏でている路上生活者と知り合う。 かつて名門ジュリアード音楽院に在籍していて、その当時はチェロを弾いていたという彼を何とか立ち直らせようと、主人公は彼についての記事を書いたり、ロサンゼルスのクラシック音楽関係者を紹介したりと、さまざまな努力を重ねていくのだが・・・・・。 実話をもとにしている映画だそうで、サンフランシスコのスラム街の描写など、リアリティがあるし、音楽を媒体とした人と人とのつながりを、あくまで現実をベースに描こうとする意図は分かるが、映画作品として成功しているかどうかは別の話で、どうもうまくいっていないように思える。 純文学ならこういうのもアリだと思うけどねえ。

86.「愛を読むひと」 6/19、UCI新潟。 評価★★★★  原作はドイツ現代作家シュリンクの『朗読者』で、スティーヴン・ダルドリー監督による映画化。 米独合作で、舞台はドイツだが、作品内では英語が使われている。 戦後間もない時期、15歳の少年がベルリン市内でふとしたことから30代半ばの女性と知り合い、一夏のあいだ関係を持つ。 彼女は男の子に文学作品を朗読してもらうことを好んだ。 それから数年後、大学の法学部生となった少年は授業の一環で裁判を見学に行く。 すると、あの女性が被告席にすわっていた。 彼女は戦時中、ユダヤ人強制収容所の看守をしており、そこで火事の際に囚人を見殺しにした罪に問われていた。 裁判が進むなかで、少年は或る重大な事実に気づく。 その事実を告げれば、裁判は被告に有利になるが、しかし・・・・・。 ナチ時代の犯罪行為というと戦後ドイツ文学や映画の定番のような感じもあるが、ここではごくふつうのドイツ女性が生活のために選んだ職業、そして職業上の義務と人道的観点の整合性という、地味ながら重要な問題が、大上段に振りかぶることなくしっかりと映像化されている。 主演のケイト・ウィンスレットもいい。 お薦め。 

85.「スラムドッグ$ミリオネア」 6/18、WMC新潟南。 評価★★★☆ ダニー・ボイル監督作品。 米英合作。 今年のアカデミー賞を何部門も制したという話題作。 舞台はインド。 孤児となって兄と二人だけで育ったジャマールは、ふとしたことからテレビのクイズ番組に出場する。 難問を次々と解いて、2000万ルピーまであと1問というところにこぎつける。 貧しくろくな教育も受けていない彼が、なぜクイズの難問に答えることができたのか。 映画ではテレビ番組と、その直後の警察の介入、および主人公の育ったすさまじく貧しいスラムの様子 (そして彼の境遇) が交互に描かれる。 クイズ番組で勝ち上がったり、幼なじみの女の子に再会するシーンなど、どちらかというとおとぎ話的な色合いが濃いけれど、同時にインド・スラム街の悲惨さや残酷さが描かれてもおり、おとぎ話にリアリスティックな側面を付加している。 そうした両面性がこの映画の魅力だろう。 アメリカや日本みたいな先進国だったら、こういう筋書きは魅力を持たない。 インドが舞台だからこそ、という作品。

84.「ホルテンさんの初めての冒険」 6/11、シネ・ウインド。 評価★★☆ ノルウェー映画。 ベント・ハーメル監督作品。 電車運転士のホルテン氏は定年直前。 いよいよ最後の電車を運転する前の晩、彼の精勤を讃える会合に出席しようとした彼はふとしたことから知らない人の家に紛れ込んでしまい、お陰で翌朝運転するはずの電車に乗り遅れてしまう。 そこから始まる彼の奇妙な旅。 日本人としてみると、日頃あまりノルウェー映画は見る機会がないので、ノルウェーの鉄道だとか景色、街の様子、店の中などなどがもの珍しく、それだけで楽しく見ることができる。 ただしホルテン氏の出会う人々や事件に関しては、やや面白さが不足ぎみか。

83.「ハゲタカ」 6/11、Tジョイ新潟万代。 評価★★★ 大友啓史監督作品。 日本の某自動車会社が中国系ファンドからTOBの対象とされる。 それを防ごうと会社側は日本のファンドに逆のモーションをかけるよう依頼して・・・・というような、最近の国際的な企業買収とか金融の動きとかを材料にしたドラマ。 それなりに面白いし、主役の大森南朋と玉山鉄二が好演しているところもいい。 ただし、筋書きは最初の辺りが一段落すると、ちょっと進行が緩慢になり、矢継ぎ早に色々な動きが出て目が離せない展開になるのかと期待した観客からすると、ちょっとゆるむかな、という感じ。 玉山鉄二演じる中国人が或る情念を隠し持っているという設定も、描き方が不十分。

82.「ガマの油」 6/10、Tジョイ新潟万代。 評価★★ 役所広司監督作品。 役者の役所広司が初めて監督をしたというので話題になっている。 筋書きは、投資家で億万長者の主人公 (役所) が、交通事故で息子を失ってしまう (当初は意識不明) ところから始まる。 息子は、少年院から出所する友人を迎えに行く途中で事故にあったのだった。 たまたま息子のケータイにガールフレンドからかかってきた電話に出た主人公は、息子と取り違えられてしまい、真相を告げることだできずに息子を装って電話に出続ける羽目に陥る・・・・・。 というようなお話だけれど、率直に言って出来はよろしくない。 全体を一貫して貫くものがなく、脚本は場当たり的で、登場する役者たちにも、小林聡美以外は魅力が感じられない。 タイトルになっているガマの油は、主人公の少年時代の回想として出てくるのだが、今ひとつ意味が不明である。 主人公の生き方に影響を及ぼしたという設定らしいのだけれど、どうも映画を見ていてそういうふうには思えないのである。

81.「BABY! BABY! BABY!」 6/9、Tジョイ新潟万代。 評価★★★ 両沢和幸監督作品。 観月ありさ主演の出産コメディ。 松下由樹や藤木直人など、「ナースのお仕事」に出ていた面々が登場しており、筋書きは軽いタッチの喜劇なのであんまり真面目に受け取らない方がいいと思うが、出産の知識が随所に出てくるし、それらしい作品に仕上がっている。 谷原章介が破天荒なフリーカメラマンに扮していて、面白い。

80.「小三治」 6/5、UCI新潟。 評価★★★ 康宇政監督作品。 落語家の柳家小三治の活動を追ったドキュメンタリー。 寄席に出ているところや、その裏側、弟子との関係、地方都市での定期的な出し物などなど、小三治の仕事ぶりが分かる。 弟子に特に手取り足取り教えることはしないなど、小三治のもっている仕事哲学めいたものが、漠然と伝わってくる。 すごく面白いというほどではないけれど、それなりのドキュメンタリーと言えるだろう。

79.「我が至上の愛 アストレとセラドン」 6/4、シネ・ウインド。 評価★★☆ エリック・ロメール監督作品。 八十代後半のロメールとしては最後の映画になりそうだという。 原作は17世紀のフランス作家オノレ・デュルフェの牧人小説 『アストレ』。 舞台は5世紀のロワール地方。 牧人のセラドンとアストレは恋仲だが、ふとしたことからアストレはセラドンが浮気をしていると誤解し、もうあなたとは会いたくないと言ってしまう。 失意のセラドンは川に身を投げて死のうとするが、下流の瀬で高貴な女性に救われる。 彼女は美男のセラドンに同居を迫るが、あくまでアストレを想うセラドンはこっそり逃げ出して・・・・・。 というようなお話で、牧歌的な雰囲気が悪くないけれど、もう少し短くまとめて欲しいという気がする。 特に後半はちょっと退屈。 また、セラドンは最後に女装してアストレに近づくのだが、アンディー・ジレはたしかに相当な美男だけれど、女装にはちょっと無理がある感じ。

78.「スタートレック」 6/4、Tジョイ新潟万代。 評価★★☆ J・J・エイブラムス監督作品。 かつてテレビドラマおよび映画として有名になった作品だが、今回はリメイクというか、作り直して新たなスタートを切ったということらしい。 ただし、私は前作もテレビドラマも知らないので、まったくの新作を見る気分で鑑賞した。 宇宙を舞台とした、戦争あり友情ありの物語だけれど、作品進行がいくぶん性急で、もう少しじっくり話を進められないのかなと思った。 もっともこれは私が年をとったためであるかも知れず、若い人にはこのくらいでちょうどいいということもあろう。 最近は例えば007シリーズも展開がものすごく急で、ついていくのに苦労する私なのであるけれども。

77.「消されたヘッドライン」 6/1、WMC新潟。 評価★★★★  米英合作。 ケヴィン・マクドナルド監督作品。 政治家と関係のあった若い女性の死をめぐって、ヴェテラン新聞記者と駆け出しのウェブ・コラムニストである若い女性が事件の真相を追うお話。 派手なアクションだとか、CGを駆使したバトルだとかの、若い人に喜ばれそうな内容ではないが、細部まで丹念に作られていて、或る程度映画を見ている中年以上の観客には十二分に楽しめる作品だと思う。 中年太りした冴えない記者を演じるラッセル・クロウと、ハンサムでカッコいい政治家を演じるベン・アフレックの対比が見事。 若い女性コラムニストのレイチェル・マクアダムスや、新聞社の管理職であるヘレン・ミレンといった女優陣も、一見地味なようだが味があって良い。

76.「お買いもの中毒な私!」 5/30、WMC新潟。 評価★★★☆ アメリカ映画。 P・J・ホーガン監督作品。 タイトルどおり、お買い物中毒な若い女性 (アイラ・フィッシャー) が主人公の映画だけど、筋書きはそれだけではなく、ヒロインの恋愛や、本当にしたい仕事、同性の友人との友情など、色々な要素が入っている。 そしてそれらがなかなかうまく配分されていて、筋書きも、特にきわだったところはないけれど良く練られており、最後はお決まりの結末に至るので安心して見ていられる。 女性だけでなく、男性が見てもそれなりに面白い小佳作。

75.「チョコラ!」 5/28、シネ・ウインド。 評価★★☆ 小林茂監督作品。 ケニアのストリート・チルドレンを追ったドキュメンタリー映画。 企画と作る側の意図はそれなりに伝わってくるし、真摯な態度には敬意を表したいけれど、ドキュメンタリーの作り方はもう少し考えた方がいいのではないだろうか。 単にアフリカの貧しい人たちの暮らしを表面から捉えるだけでは、この問題の深刻さは伝わってこない。 具体的な数値を挙げて、観客に分からせる工夫がないといけないのではないか。 例えばケニア国内の児童の何パーセントがストリート・チルドレンなのか、義務教育をきちんと終える者のパーセンテージはどの程度か、といったことは、漠然とストリート・チルドレンの映像を見ているだけでは分からないわけで、映像と、分析的な資料を組み合わせた映画を作ってほしかったと思う。 なお、この映画の制作には新潟県の映画人が協力している。

74.「重力ピエロ」 5/28、Tジョイ新潟万代。 評価★★☆ 伊坂幸太郎原作、森淳一監督作品。 仙台市を舞台に、連続放火事件と現場に残された暗号めいた文字の謎を追う兄弟 (加瀬亮、岡田将生) を主人公にした映画。 しかし、筋書きが謎解きなのかと思いきや、途中から家族の問題に移行していく。 暗号の謎と家族の問題がうまくリンクしているかというと、私にはそうは思えなかった。 映画としてまとまりを欠いている印象があるのは、その二つの融合に失敗しているからだと思う。 また、家族問題にしても、当人たちがどの程度深刻に捉えているのかあまりよく分からず、場面場面の瞬間的な映像の鮮やかさはあるものの、その底は案外浅い気がした。 しかし、弟を演じる岡田くんは、相変わらずすごいイケメン。 彼を見るだけでもいい、という女性もいそう。

73.「モノクロームの少女」 5/24、Tジョイ新潟万代。 評価★★  五藤利弘監督作品。 新潟県の栃尾市 (正確には現在は長岡市の一部) を舞台にした物語。 地震で壊れた中学校舎。 あるときその母校に入ってみた男女高校生二人は、木箱に入った美しい少女のモノクローム写真を発見する。 誰の写真なのか、二人は何とか突きとめようとして・・・・・。 設定としてはなかなか面白いのだが、展開が単調だし、間延びしていてあまり感心しない。 上映時間99分だが、この内容なら70分でも十分だろう。 写真の謎については、もう少し入り組んだ事情を考えた方がいいと思う。 また、写真の謎解きと並行して高校生の三角関係が描かれているのだが、これがまた凡庸なのである。 新潟県を舞台にしているので褒めたいのはやまやまだけれど、残念な出来栄えと言わざるを得ない。 新潟県が舞台の映画というと、以前にも 『愛してよ』 が新潟市での物語ということで作られているが、これまたあまりぱっとしなかった。 地元を舞台に映画を作れば何だっていい、というものでもあるまい。 質を追求した映画を誘致してほしいものだ。 

72.「ひぐらしのなく頃に 誓」 5/23、UCI新潟。 評価★ 及川中の監督・脚本作品。 一昨年に作られた 『ひぐらしのなく頃に』 の続編で解決編、というふれこみなので見てみたのだが、ヒドイ!と叫びたくなった。 第一作は作中で提示された謎を全然解決せずに先送りにしていたのだが、この映画ではそれを解決するのではなく、ぜんぶチャラにして勝手に別の物語を作りました、というようなものなのだ。 しかも作り方がかなり杜撰だし、脚本がなっていない。 コラ、及川中、今度会ったらただじゃおかないぞ! って、これまでにも会ったことはないんだけど (笑)。 いずれにせよ、このデタラメ監督の映画はもう二度と見ないぞっ。

71.「セブンティーン・アゲイン」 5/20、WMC新潟。 評価★★★ アメリカ映画。 バー・ステイアーズ監督作品。 かつて17歳の頃バスケ部のヒーローで、バスケで奨学金つきの大学進学を目前にしていた主人公 (ザック・エフロン) は、或る事情から進学をあきらめて恋人と結婚する。 20年後、彼は妻とは離婚寸前で、高校生の娘・息子とも疎遠。 そんなある日、彼はなぜか17歳の肉体に戻ってしまう。 しかし生きている時代は今現在のまま。 彼は昔通っていた高校に 「転校」 して入り、娘や息子と同じ学校でなんとか現状を打開しようと努力し始める・・・・・。 すごく面白いというほどではないが、そこそこよく出来ていて、後味もいいし、また副筋で出てくる中年美人の校長の設定が愉快。 料金分の価値はありそう。 

70.「フィッシュ・ストーリー」 5/17、WMC新潟南。 評価★★★ 中村義洋監督作品。 隕石が接近していて地球滅亡が間近な近未来。 そこから時間はさかのぼって、一見無関係そうないくつかの物語が交錯して語られる。 やがて切れ切れの物語は一本の糸で結ばれていく。 手法的に言うとさほど斬新さはなく、できあがった物語も奇異ではないが、物語の内実にどこか希望めいたものが感じられる。 といって、地球滅亡のお話だから希望というのではなく、少しでも前進して生きようという意欲というか、漠然とながら新しい眺望が開けてきそうな予感というか、そういったものが感じとれる映画だ。

69.「天使と悪魔」 5/15、UCI新潟。 評価★★★★ ロン・ハワード監督作品。 ローマ法王が死去し、新しい法王を選ぶコンクラーベがバチカンで始まる頃、次期法王の有力候補とされる枢機卿4人が誘拐され、暗殺を予告されるという事件が起こる。 法王庁からのたっての要請で事件の解明に乗り出したハーヴァード大学のラングドン教授 (トム・ハンクス) だが、事件にはキリスト教批判で知られる18世紀の秘密結社イルミナティと、最新の物理学実験室から生まれた反物質とが関わりを持っていた・・・・・・。 『ダヴィンチ・コード』に続く映画だが、内容的にはすっきり分かりやすくまとまっていて、最後まで目が離せないし、よくできたエンターテインメントだと思う。 これでヒロインがもう少し魅力的なら言うことなしなんだが。 それから、コンクラーベの様子は普通の人にはまず実際に見学する機会はないから、見ものだろう。 そういうもの珍しさを含めると、お薦め作品と言える。

68.「PARIS パリ」 5/14、シネ・ウインド。 評価★★☆ フランス映画。 セドリック・クラピッシュ監督作品。 現代パリに生きる人々を、3人の子供を持つシングルマザー (ジュリエット・ビノシュ) と心臓病で余命短いと宣告されたその弟 (ロマン・デュリス) を中心として、美人女子学生に恋する大学教授や、八百屋の中年男、パン屋の中年婦人、アフリカからフランスに不法入国しようとするアフリカ人青年などなどを交えて群像劇として描いている。 作品のテーマを一言で言うとパリ住民たちの哀歓ということだが、この手の映画は 『巴里の空の下セーヌは流れる』 など以前にもあったわけで、そうした伝統の中で作られているのだと思う。 そして本作品ではヒロインは市役所で移民たちの相談にのる仕事をしているし、海を渡ってフランスに不法入国する青年の姿も描かれているので、そこに時代の影が感じられる。

67.「バーン・アフター・リーディング」 5/8、UCI新潟。 評価★☆ アメリカ映画。 コーエン兄弟監督作品。 うーん・・・・・。 作った側は、相当に工夫を凝らして作ったつもりなんだろうけれど、私にはまるっきり面白く感じられなかった。 空振り三振、というところだろう。 キャストは豪華だが、その豪華さはいささかも活かされず、みなものすごく堅苦しい演技を強いられているみたい。 下手ウマじゃなく、ウマ下手かなあ。

66.「名探偵コナン 漆黒の追跡者(チェイサー)」 5/1、WMC新潟。 評価★★★☆ 山本泰一郎監督作品。 コナン・シリーズも回を重ねたが、今回はコナンが体を小学生に縮めさせられた黒衣の犯罪者たちが再登場。 彼らの正体をめぐる謎に連続殺人事件がからみ、なかなか面白い展開になっている。 阿笠博士の駄洒落も意外なところで意外な役割を果たしている。 多数の刑事が登場するが、彼らの性格描写と筋書きとの絡みにもう一工夫あれば申し分なかった。

65.「グラン・トリノ」 4/30、WMC新潟。 評価★★★ アメリカ映画。 クリント・イーストウッド監督・主演。 朝鮮戦争に兵士として参加した経験を持つ老アメリカ人(クリント・イーストウッド)は妻に先立たれ、別の場所で暮らしている息子二人とも疎遠になっている。 かつては中流白人が住んでいた彼の住宅街も、今はアジア系住民が大半で、息子からも 「50年代の価値観のまま」 と揶揄される主人公は面白くない。 しかし隣の家に住むアジア系住民とふとしたことから関わりを持つようになった彼は、そこの気弱な青年を何とか真のアメリカ人に生まれ変わらせようと考え、彼なりの努力を始めるが、それを妨害する不良アジア系青年たちがいた。 やがて事件が・・・・・。 武骨な老アメリカ人を演じるクリント・イーストウッドがなかなかいい。 最初は差別的にアジア系住民に接していたのが、だんだん心を開いていくところもよくできている。 アジア系の若い女の子二人もカワイイ。 筋書きの最後の展開については、人により色々な受け止め方がありそう。 私としては、やや物足りない感じがしたのだが。 

64.「大阪ハムレット」 4/29、シネ・ウインド。 評価★★ 三石富士朗監督作品。 大阪に住む一家の暮らしを描いた映画。 というだけでは分かりにくいが、亭主が急逝して葬式が営まれ、なぜか亭主の弟 (岸部一徳) が一家と一緒に暮らし始めるところから始まる。 話が進むに連れて、一家の三人の息子はもしかしたらそれぞれに父が違うかも知れないという事情が分かってくる。 ただ、そういう事情で一家が解体するわけでもなく、肝っ玉母さんふうの母親 (松坂慶子) は最後にまたまた妊娠してしまうのである。 うーん・・・・・率直に言ってあまり面白くなかった。 それと、息子三人はそれぞれに事情を抱えているのだけれど、その展開がぬるいのである。 日本映画的な安っぽさと表層性。 こういう映画は評価できませんね。

63.「ザ・バンク 墜ちた巨像」 4/24、UCI新潟。 評価★★☆ 米英独合作。 トム・ティクヴァ監督作品。 巨大な銀行をめぐる犯罪を捜査する国際捜査官 (クライブ・オーウェン) がニューヨーク検事局の女性スタッフ (ナオミ・ワッツ) とともに国際的な犯罪を追うお話。 舞台はドイツから始まって、ニューヨーク、フランス、イタリア、そしてイスタンブールとめまぐるしく移動し、いかにも国際犯罪をめぐる話らしいのではあるが、設定とか展開とかはありがちで、主人公ふたりにもさほど魅力がなく、日頃映画を見つけない人にはスリリングでいいかもしれないけど、或る程度映画を見ている人には新鮮さがないルーチンワーク的な作品としか思えないだろう。

62.「ミルク」 4/23、Tジョイ新潟万代。 評価★★★ アメリカ映画。 ガス・ ヴァン・サント監督作品。 1970年代のサンフランシスコを舞台に、ゲイへの偏見と闘いながら自ら市政委員 (市会議員みたいなものか) になり、ゲイから職業を奪おうとする保守派の動きに対抗していった男ミルク (ショーン・ペン) の半生を描いた映画。 1970年代というと、アメリカでは公民権運動がかなり浸透していた頃だと思うのだが、それでも保守派からのこういう動きが露骨に出るあたり、キリスト教社会のゲイへの不寛容がひしひしと感じられるし、またそれに対抗するゲイたちの運動も激しくならざるを得ないということが納得できる。 主役のショーン・ペンはともかくとして、ゲイとして登場する男たちは美形が多いので、私はその方面の趣味はないけど、楽しめる人には楽しめそう。

61.「未来を写した子どもたち」 4/23、シネ・ウインド。 評価★★★ アメリカのドキュメンタリー映画、2004年。 ロス・カウフマン+ザナ・ブリスキ監督作品。 第77回アカデミー賞最優秀ドキュメンタリー賞受賞作。 女流フォトジャーナリストであるブリスキが、インドはカルカッタの赤線地帯を取材しているうちに、この地区に住む子供たちに写真を教えるようになる。 売春婦の家庭に育ちろくな教育も受けていない彼らは、しかし優れた写真を撮るようになり、ブリスキはなんとか子供たちにまともな教育を受けさせて売春街の社会環境から脱出させようと動き始めるのだが・・・・・。 売春街の子供たちが撮った写真がすばらしいし、彼らを取り巻く困難な環境も伝わってくる。 いかに子供たちがこの環境から抜け出そうとしても、親などが許さない、という事情も見えてくる。 ブリスキの努力も胸を打つが、こういう仕事に関してはやはり個人のできることには限界があり、政府や大きなNGO組織などを動かしていくしかないと思う。 

60.「クローンは故郷をめざす」 4/17、シネ・ウインド。 評価★★★ 中島莞爾・脚本&監督作品。 事故で生命を失った宇宙飛行士 (及川光博)。 しかし彼は事前に、万一の場合は自分のクローンを作ることに同意していた。 そしてクローンが作られるのだが・・・・・。 SF的な設定に、主人公の幼年時代の母 (石田えり) と双子の弟との思い出がからみ、さらにはクローン技術で孫娘を甦らせながらもスキャンダルに巻き込まれて蟄居させられている老博士 (品田徹) などが出入りして、ちょっと不思議な雰囲気の作品に仕上がっている。 ただ、その雰囲気がともすれば 「日本の懐かしい風景」 に流れるし、老博士のシーンももう一つSF的なエグさに欠けているのが惜しい。 作りようによってはかなりの傑作になったと思うのだが。

59.「エグザイル 絆」 4/10、シネ・ウインド。 評価★★★ 香港映画。ジョニー・トー監督作品。 中国返還をひかえたマカオを舞台に、かつての盟友をボスに命じられて殺さなければならないギャングたちの姿を、男同士の友情と絆の雰囲気を濃厚に漂わせながら描いている。 非常に男の格好づけを重視して、そこに映画の鍵があるという作品。 男だって外見が大事なんです、中身より――というか、中身は外見のかっこよさで決まる、という、ある意味男の本音をそのまま映画にしているところが、まあ悪くないんじゃないかと思います。

58.「トワイライト 〜初恋〜」 4/8、UCI新潟。 評価★★☆ アメリカ映画。 キャサリン・ハードウィック監督作品。 離婚した母が再婚することになって、それまで母と暮らしていた女高生が父の住む町に引っ越した。 そこで出会った不思議な男の子に彼女は惹かれてゆく。 彼はなんと、ヴァンパイアだった・・・・・というお話だけれど、ヴァンパイアの話にしてはあんまり恐くない。 そもそも、恋する相手が吸血鬼という二律背反に悩まなければこういった映画は面白くならないはずだが、最近のアメリカの社会を反映してか、なんとヴェジタリアンのヴァンパイアで、人の血は吸わず動物ので住ませているという健全ムードが、私に言わせればダメなのである。 もっと危険な恋を描いてくれなきゃ、この種の映画は凡庸な出来栄えに終わるに決まっているのだよ。

57.「鬼畜」 4/4、浅草名画座。 評価★★★☆ 松本清張原作、野村芳太郎監督作品、1978年。 妻と二人で印刷屋を営む男(緒形拳)は、こっそり別の女(小川真由美)とのあいだに三人の子供を設けていた。 しかし印刷の仕事が左前になって収入が減り、女にカネを渡すことができなくなったため、女は子供を連れて怒鳴り込み、喧嘩の挙げ句に子供を置いたまま姿を消してしまう。 妻(岩下志麻)はもちろん激怒。 こんな子供の面倒など見ないと言われた男は、最初は自分で何とか育児をと思うが、やがて疲れ果て、また妻のそそのかしもあって、何とか子供たちを・・・・・・・と考えるようになり・・・・・・・・。 どうにもやりきれない気持ちになる映画。 緒形拳のダメ男ぶり、岩下志麻の鬼継母ぶりが実にハマっているので、なおさら。 こういうアンチヒューマンな映画、今どきの監督にはなかなか作れないだろうなあ、なんて書くのも年寄り臭いかな。

56.「宮本武蔵」 4/4、浅草名画座。 評価★★★ 内田吐夢監督作品、1961年、中村錦之助主演。 ここでは、関ヶ原の戦いで野望を抱いて西軍に加担し、敗戦となってかろうじて逃れたものの、一緒に参戦した友人が救ってくれた女と一緒になって姿をくらまし、それを友人の母に知らせるために故郷の村に帰るがそこでも追われる身となり、やがてつかまるが、沢庵和尚の機転と友人の許嫁であるお通の献身によって何とか逃走し、やがて悟りを開くまでを描いている。 佐々木小次郎はまだまだ出てこない段階なのであんまり盛り上がらないけれど、沢庵和尚を演じている三國連太郎が独特の存在感を示していて好演。 中村錦之助が演じる若い武蔵の傍若無人ぶりもいい。 今どきの役者じゃなかなかこうはいかないだろうな、なんて書くのは年寄り臭いか。

55.「緋牡丹博徒 お命戴きます」 4/4、浅草名画座。 評価★★★ 藤純子主演の有名なシリーズ第7作、1971年、加藤泰監督作品。 足尾銅山事件を思わせるような公害で悩まされる農民たち、それを企業幹部や高級軍人に訴える地元の組長(鶴田浩二)は、陰謀によって殺されてしまう。 たまたまその直前に賭博場のもめ事で彼に救われたヒロインは、その仇を打とうと・・・・・。 藤純子の活躍ばかりが目立つが、鶴田浩二にももう少し活躍する場面を与えたかったという印象。 公害がテーマになっているところに時代を感じる。 1960年代後半は 「公害」 という言葉が流行語になった時代であり、環境庁 (現在の環境省) が発足したのはちょうどこの映画が作られた1971年のことである。

54.「フロスト × ニクソン」 4/4、新宿武蔵野館。 評価★★★★ アメリカ映画。 ロン・ハワード監督作品。 1974年、ウォーターゲート事件によって大統領辞任に追い込まれたニクソン。 その3年後、英国やオーストラリアでテレビの司会業に従事するフロストは、ニクソンにインタビューするテレビ番組を作ろうと構想する。 その資金調達の苦労、そして実際にニクソンと一対一のインタビューを開始すると、海千山千のニクソンに翻弄されてしまうが・・・・・。 インタービューでの両者の対決も面白いが、ニクソンという人間の複雑さや抱えているトラウマを、フランク・ランジェラが見事に表現しているところが見どころだ。 いわば殉職したライヴァルであるケネディに比べるととかく悪役イメージの強いニクソンであるが、この映画を見るとその人物の奥行きや陰影に圧倒される。 加えて脚本もよくできており、充実した二時間を過ごせること請け合い。 新潟でも上映して欲しい映画だ。

53.「氾濫」 4/3、シネマヴェーラ渋谷。 評価★★★☆ 増村保造監督作品、1959年。 主人公 (佐分利信) は某薬品会社の研究員だったが、その発明が製品化されて大ヒットしたため重役になっている。 しかし内心では重役より研究員のほうが自分に向いていると思っている。 この映画は彼を中心に、彼の周囲に出入りする家族や友人や会社関係者や若手研究者や愛人関係にある女性などなどを描いているが、基本的にだれもがエゴイストで、自分のことしか考えておらず、主人公はことごとく裏切られ続ける。 そうしたどうしようもない人間関係が実にリアルに描かれている。 人間の嫌な側面をうんざりするくらいに徹底的に追いかけた作品だ。 女優では主人公の娘役の若尾文子も悪くないが、むしろ愛人役の左幸子が妖しい魅力を出している。

52.「武蔵野夫人」 4/3、シネマヴェーラ渋谷。 評価★★ 溝口健二監督作品、1951年、モノクロ・スタンダードサイズ。 大岡昇平原作で、武蔵野の地主の家に生まれたヒロイン(田中絹代)が大学教授の夫の浮気に悩まされながら、従弟の青年の求愛を必死にしりぞける様子を描いている。 私は原作は高校時代に読んで、面白くないなと思ったのだが、今回映画化されたものを観て、やっぱり面白くないと言わざるを得ない。 ヒロインが不倫しそうでしないのが物足りないということもあるが、しないならしないで心理的な葛藤をもう少しねちっこく描かないといけないと思うのだけれど、案外さっぱりしていて、したがって残るものがないのである。 田中絹代もあまり魅力がない。 むしろ準主役で出てくる轟夕起子のほうがいい。

51.「昴 ―すばる―」 4/1、Tジョイ新潟万代。 評価★☆ 日中合作。 リー・チーガイ監督作品。 幼い頃に双子の弟を病気で失ったヒロイン(黒木メイサ)が、バレエを通じてのしあがっていく過程を描いた映画。 しかし、はっきり言って駄作でしょう。 マンガが原作らしいんだけど、多分その内容を無理に詰め込もうとしたせいで、筋書きの展開が強引だし、登場人物の描写が不足していて、「なんでこうなるの?」 「この人、なぜこういう行動をとるの?」 と言いたくなる箇所がいっぱい。 主役の黒木メイサにも魅力がないし、どうしようもないと思うなあ。

50.「イエスマン」 3/30、WMC新潟。 評価★★★  アメリカ映画。 ペイトン・リード監督作品。 ジム・キャリー主演のコメディ。 何にでもノーを言ってしまう後ろ向きな銀行員が、あるきっかけから何にでもイエスと答えることにしたところ、人生が変わり、恋人もできて・・・・・というようなお話。 アイデアは悪くないし、脚本もまあよくできている。 ただ、私は最近喜劇不感症になっていて、めったな喜劇では笑えなくなっているらしく、この映画でも笑えなかった。 もっとも、見に行ったときは客は10人くらいだったけれど、上映中笑い声は一度も聞こえなかったから、他の客もあんまり笑えなかったんじゃないかと思うのであるが。

49.「ワルキューレ」 3/28、UCI新潟。 評価★★★☆ ブライアン・シンガー監督作品。 第二次世界大戦末期、ヒトラー暗殺計画を実行に移したドイツ軍人たちのグループがあった。 その史実をもとに、中心になったシュタウフェンベルク大佐 (トム・クルーズ) の動きを追いながらこの事件を描いている。 ハリウッドの制作で主演がトム・クルーズだというので娯楽映画的に作られているのではと先入観を抱いていたが、実際にはかなりストイックで、史実に忠実な作りになっているようだ。 ちょっとドキュメンタリー風。 したがって楽しみで映画を見る人には物足りないかもしれないが、この事件のあらましを知りたい人にはお薦めできる映画となっている。

48.「昼顔」 3/27、シネ・ウインド。 評価★★★ フランス映画、ルイス・ブニュエル監督作品、1966年。 有名な映画だが、久しぶりに見てみた。 忘れているシーンがほとんどだったが、この映画、美しい女優がこんなにたくさん出てきてたっけ、と改めて感心。 ヒロインのカトリーヌ・ドヌ^ヴだけじゃなく、他の女優もみな美しい。 やっぱり女優は美人じゃなくちゃ、と思います。 最近の日仏の映画界を見ていると、その点で危惧の念が・・・・・

47.「この自由な世界で」 3/26、シネ・ウインド。 評価★★★ 英国映画。 ケン・ローチ監督作品。 英国を舞台に、東欧や中近東などから不法に入国してくる難民らに仕事を斡旋する女性の姿を描いている。 彼女自身も甲斐性なしの夫とは別れて小さな子供を抱えており、ピンハネをやって難民からカネをまきあげたりしながら必死に暮らしているのだが、時にはイランからの難民に同情して住居を探してやったりもする。 そうした、強欲であると同時に献身的なところもある矛盾に満ちたヒロイン像はなかなか興味深いが、結末にはちょっと映画的な甘さもあるようだ。

46.「二重の鍵」 3/26、シネ・ウインド。 評価★★ フランス映画。 クロード・シャブロル監督作品、1959年。 ブルジョワの家庭を舞台に、隣家の若い女と不倫関係になっている当主、それをなじる妻、放埒な若者と婚約している令嬢、などなどが登場するなか、殺人事件が起きる。 しかし事件は謎解きという側面からするとあっけないし、その動機についてもちゃんとした説明がなされておらず、相当いい加減に作った映画という印象を受けた。 見どころは放埒な若者を演じる若き日のジャン・ポール・ベルモンドと、美人女優三人 (当主の不倫相手、令嬢、女中) か。

45.「ホノカアボーイ」 3/23、UCI新潟。 評価★★★ 真田敦監督作品。 恋人と別れたことをきっかけに、ハワイのホノカアに長期滞在してそこの映画館に勤務する若者 (岡田将生) と、彼の周囲に暮らす日本人・日系人の姿を描く映画。 話の筋は淡々としていてドラマチックな展開にはならないし、では地味ながら考えさせられる話なのかというとそういうわけでもなく、要するに特にどうってことはないのであるが、映像はきれいで、絵になるシーンが次々と出てくるところがまあ買いだろうか。

44.「夜明けのマルジュ」 3/20、シネ・ウインド。 評価★★☆ フランス映画。 ヴァレリアン・ポロズウィック監督作品、1976年。 フランスの田舎に暮らす裕福な青年と美しい妻と幼い男の子。 青年は出張でパリに出る。 そしてそこの娼館で蠱惑的な娼婦 (シルヴィア・クリステル) と出会い、彼女におぼれるのだが、ある日彼のもとに届いた手紙には・・・・・・。 むかし一世を風靡したシルヴィア・クリステルが演じる娼婦、および彼女のセックスシーンが売り物の映画。 言い換えればそれ以外の部分はかなり杜撰。 もっとも青年の美しい妻も結構魅力的だし、最初に夫のそういうシーンがあったりするので、最初からそれなりに楽しめはするけれど。

43.「心中天網島」 3/19、神保町シアター。 評価★★★ 篠田正浩監督作品、1969年、モノクロ。 近松門左衛門原作の映画化。 黒子を登場させるなど、人形浄瑠璃的な雰囲気を濃厚に出して、アートとしての映画を強く意識した作品である。 そういうところはまあまあ面白いが、愛し合う男女の心中というテーマでいうと、4日前に見た増村保造の 『曾根崎心中』 にどうも見劣りがする。 男女の強い愛情や、女の気迫に満ちた情念という点で、観客に迫ってくるところが希薄だからだ。 ヒロインの遊女は岩下志麻、妻子がありながら遊女に惚れる男が中村吉右衛門、その健気な妻を岩下志麻が二役で演じているところが見どころか。 これは、女に対して家庭の良き妻と性的魅力のある遊女という二面性を求める男の心情を表現しているのだろう。 ただし、岩下は家庭の良き妻の方はうまくやっているが、遊女の色っぽさではイマイチの感。 なお、私が見たとき、フィルムの状態がかなり悪かった。

42.「ロルナの祈り」 3/19、恵比寿ガーデンシネマ。 評価★★☆ イタリア・フランス・ベルギー合作。 ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟監督作品。 国籍を変えるために偽装結婚しているヒロインが、麻薬中毒である名目上の夫に同情を感じるようになっていくが、偽装結婚を商売にしている仲間からは容赦ない態度をとるよう迫られて・・・・・というようなお話。 『ロゼッタ』 でカンヌ映画祭を制した兄弟監督の作品で、語り口というか、淡々と登場人物の動きを追う手法は 『ロゼッタ』 と共通している。 ただし、日本人には話の主筋が見えてくるまで少し時間がかかるのと、ヒロインが――『ロゼッタ』 の少女とどことなく雰囲気が似ているが――『ロゼッタ』 ほど魅力的ではないので、映像からの快感という点では見劣りがする。 また、幻想によって現実を裁くような形で作品を閉じているので、これでいいんだろうかと思ってしまう私でした。 なお、原題は 「ロルナの沈黙」 である。

41.「ラースと、その彼女」 3/18、下高井戸シネマ。 評価★★☆ アメリカ映画。 クレイグ・ギレスピー監督作品。 いつまでも結婚しないしガールフレンドもいない内気な青年。 隣の建物に住む兄夫婦も心配している。 しかし青年はある日、人間と同じ大きさの人形を 「ぼくのガールフレンド」 と言って紹介する。 戸惑いながらも彼に合わせて振る舞う兄夫婦。 そして街の人たちも青年に合わせた行動を余儀なくされて・・・・・。 テーマ的にはピグマリオン・コンプレックス (人形愛) なのかなと思って見たのだが、実際は人形を愛する青年よりも、彼を囲む人たちの気づかいや気苦労などに焦点が当てられた映画である。 最初のうちはおかしくてくすくす笑いながら見ていたのだが、やがて悲しきなんとやらといった感じで、だんだん笑えなくなる。 しかしそれでこの作品が観客に向けて迫ってくるような重い何かを持ち得たかというと、どうもよく分からないのである。 喜劇にはなり切れていないし、青年の人形愛が突き詰められているわけでもないし、気遣いに疲れてしまう街の人たちの悲喜劇(?)を捉えているわけでもない。 最後はガールフレンド (同じ会社で、かねてから主人公に好意をもっているという設定の女の子) ができそうになるところで終わるのだが、こういう終わり方でいいのだろうか? でも、アメリカも日本に劣らず 「気配り社会」 なんだな、とは思ったし、アメリカ映画でもこういう、いわゆるハリウッド大作とは全然雰囲気の違う作品があるのだなと感心はしました。 

40.「ラ・ボエーム」 3/18、テアトルタイムズスクエア(新宿)。 評価★★★ オーストリー・ドイツ合作。 ロバート・ドーンヘルム監督作品。 プッチーニによる有名なオペラを映画にしたもの。 音楽は原作のままで、しかし映像は映画的に作られている。 主役と準主役の合計4人は本物のオペラ歌手が演じている。 ヒロインのミミを演じるアンナ・ネトレプコがたいへん美しい。 相手役のローランド・ビリャソンもいいし、他に準主役の二人も歌の面では文句なし。 オペラ・ファンにはもちろん、そうでない人にも気軽に映画料金でオペラの醍醐味を味わうのによい作品だと思う。

39.「パッセンジャーズ」 3/17、TOHOシネマズ・みゆき座(日比谷)。 評価★★ アメリカ映画。 ロドリゴ・ガルシア監督作品。 飛行機が墜落したが、わずかながら生存者がいた。 ヒロイン(アン・ハザウェイ)はセラピストとして彼らが事故でこうむった心的ショックを治療しようとするが、患者の一部が姿を消すなど彼女の周囲には不可解な現象が続き・・・・・。 というような話なのだが、何というのかな、この映画は最後のオチがすべて。 で、そのオチ自体、むかし有名な映画で使われたものなので、新鮮味がないし、またそこに持っていくまでの筋書きも行き当たりばったりの感じで、カネを出して見るほどのものじゃないという印象でした。

38.「ディファイアンス」 3/17、TOHOシネマズ・シャンテ(日比谷)。 評価★★★★ アメリカ映画。 エドワード・ズウィック監督作品。 第二次世界大戦中、ポーランドにナチスドイツが侵攻してきたためにユダヤ人は迫害を受ける。 それを逃れてベラルーシの森の中に逃げ込んだユダヤ人たちがいかに困難を克服して生き延びたか、実話をもとに映画化がなされた作品だという。 リーダーとして全体をまとめる男の役を、最近は007のイメージも強いダニエル・クレイグが演じており、また旧約聖書の 「出エジプト記」 と重ね合わされたシーンもあるなど、象徴的であると同時に写実的であり、重厚で見応えのある映画になっている。

37.「いのちの戦場 アルジェリア1959」 3/16、渋谷シアターTSUTAYA。 評価★★★★ フランス映画。 フローラン・エミリオ・シリ監督作品。 ヴェトナム戦争を扱った映画は多いが、同じく植民地の独立戦争でありながら、アルジェリア独立戦争を扱った映画はきわめて少なく、旧宗主国であるフランスでは今までなかったという。 こうした事情はフランスという国の体質を暗示しているが、そのタブーに挑んだのがこの映画である。 残酷な戦争の実態を、市民的な良識を持ったまま戦争の中に放り込まれるフランス軍中尉を中心にして描いている。 残酷なのはフランス軍側だけではない。 独立軍のほうにしても現地人を虐殺するなどしているのである。 悲惨な戦争の様子がきわめてリアルに描かれており、そこにはフランスの栄光はもちろん、アルジェリア独立の高揚感のようなものもない。 ただただ残酷でむなしい。 醒めた視線で現実をえぐった映画だ。  

36.「曾根崎心中」 3/15、神保町シアター。 評価★★★★ 増村保造監督作品、1978年。 江戸期の浪花の街を舞台にした心中物だが、これはヒロインを演じる梶芽衣子のためにある映画である。 ここでの彼女はひたすら美しく、かつ愛の信念を貫く女としてひたすらすさまじい。 彼女の一挙手一投足や表情の変化から目が離せなくなる。 こんなに美しくひたむきな女に愛されたら、こりゃ心中するしかないなと思えてくる。 彼女の魅力はこの映画を見ないでは語れない。

35.「ダウト あるカトリック学校で」 3/15、TOHOシネマズ・シャンテ(日比谷)。 評価★★★ ジョン・パトリック・シャンレー監督作品。 1960年代、公民権運動などで大きく変わりつつあったアメリカ。 その時代のカトリック教会と教会が運営する中学校を舞台に、時代の流れに合わせて教会も変わらねばと考える神父 (フィリップ・シーモア・ホフマン) と、厳格な態度を崩さないシスターの女性校長 (メリル・ストリープ) の対立を描く映画。 校長はふとしたことから、神父が生徒に同性愛を強いているのでは、という疑いを抱く。 この疑惑をめぐる二人の対立を軸に、時代の流れと教会、信仰のあり方、教育のあり方などが問われている。 もともとは演劇作品だそうで、なるほど、劇としては面白いのだろうと思われるシーンが多々ある。 ただし映画としてはもう少し表現のしかたに工夫が必要だろうし、登場人物の数を増やすなどして幅をもたせていればもっと重厚な作品になったのではないか、という気もする。

34.「ヤッターマン」 3/14、UCI新潟。 評価★★★ 三池崇史監督作品。 テレビアニメの実写版だそうだが、私はアニメの方は未見。 で、この映画も見るつもりもなかったのだが、悪役で登場する深田恭子がいいと評判になっているので映画館に足を運んでみた。 なるほど、こりゃ中年男に人気が出るのも当然。 こういう悪役で魅力が出る女優って、いるわけですよね。 この映画、彼女のためにあるようなものだ。 続編の制作も決定しているらしい。  

33.「エヴァの匂い」 3/14、シネ・ウインド。 評価★★★☆ ウインドでフランス映画シリーズが始まった。 そのうち1本を見てみた。 ジョセフ・ロージー監督作品、1962年作、モノクロ。 制作はロベール&レイモン・アキム。 ジャンヌ・モロー演じる娼婦が、デビューしたばかりの作家 (スタンリー・ベイカー) を翻弄して破滅に追い込む様子を、ヴェネチアやローマを舞台に描いている。 男への媚態を見せずに男を魅惑し翻弄するジャンヌ・モローの姿は興味深いが、私個人の好みとしては彼女にそれほど夢中になる男の気持ちがよく分からない。 つまり、モローは私の好みではない。 むしろ作家の妻となる女性を演じるヴィルナ・リージの美しさが絶品で、オレだったら美人の奥さんのほうを大事にするけどなあ、と思ってしまった。 まあ、自分に好意を抱いてくれる女より、振り向いてくれない女のほうに夢中になる男の哀しいサガは分かりますけど。 ただしこの映画、ヴェネチアなどのイタリアの街を背景にしていて、建物もクラシックで造形的であり、そうしたところで映画的な面白さが味わえるところがいい。

32.「エレジー」 3/10、WMC新潟。 評価★★★ イザベル・コイシュ監督作品。 老大学教授 (ベン・キングズレー) と若い女子学生 (ペネロペ・クルス) の恋愛物語。 教授のほうは、かつては結婚していたこともあったが、今は束縛を嫌い、中年女性実業家がセックスパートナーとして時々訪ねてくる生活を送っている。 若い女子学生が本当に自分に気があるのか、疑心暗鬼にかられながらものめりこんでいく・・・・。 うーん、映像はきれいだし、ベートーヴェンのディアベッリ変奏曲を初めとする音楽もなかなか洗練されているし、悪くはない映画なのだけれど、話の筋書きとしてはちょっとインパクトが弱い気がする。 多分それは、若い女子学生のほうが真剣に老教授を愛しているのか――もしそうならそのことが彼女の家族に波紋を呼ぶなどの描写が必要だろう――、それとも一時の気まぐれなのか――その場合は彼女はもう少し老教授に対して奔放な態度をとるべきだろう――その辺の描写のつっこみが不足しているからではないか。 ペネロペ・クルスはセックスシーンで大胆に裸体を披露しているので、その辺はいいと思うんだけど (日本の女優も見習って欲しい)。 

31.「ジェネラル・ルージュの凱旋」 3/7、UCI新潟。 評価★★★★  中村義洋監督作品。 前作 『チーム・バチスタ』 に続くシリーズだが、今回は阿部寛と竹内結子のコンビはあまり大きな役割を果たさない。 代わって、救急医療センター長役のの堺雅人が、意外な配役ながら、そして破天荒な性格の医師のようでいて要所を締めて独特のヒーローを演じている。 救急医療という現代的な問題に光を当てたドラマで、推理ドラマとしてはやや弱いが、医療現場の描写の迫力にはなかなかのものがある。 最初はあんまり医師ふうに見えない堺雅人が、最後には立派な医師に見えてくるところが買いだ。 

30.「相棒 劇場版」 3/6、WMC新潟南。 評価★★★ 和泉聖治監督作品。 昨年の映画だが、見逃していた。 続編の映画がまもなく公開というのに合わせてか、この映画も1000円で再上映されたので見てみた。 もともとはテレビのシリーズだそうだが、そちらは私は見たことがない。 ここでは東京の一般市民参加のマラソン大会を舞台に殺人事件が、という趣向だが、肝心のマラソン大会が事件にとって持つ意味合いは実はないも同然で、ちょっと肩すかしを食らったような感じがする。 とはいえ、推理ドラマとしてみると、からくりが何重にもめぐらされているから、面白いことは面白い。 ただし、事件の背景描写には或る種の市民運動を擁護するような趣向があって、やや薬臭い映画になっているのが惜しまれる。

29.「オーストラリア」 3/4、UCI新潟。 評価★★★ 米豪合作。 バズ・ラーマン監督作品。 第二次世界大戦前夜、英国からオーストラリアに旅してきた貴婦人 (ニコール・キッドマン)。 一向に帰国しない夫の様子をうかがうつもりだったが、苦労して内陸部の所有牧場にたどり着いてみると、夫は死んでいた。 彼女は腕のいいカウボーイ (ヒュー・ジャックマン) の助力を得て牧場の牛1500頭を港まで移動させてそこで売り払う計画を立てる。 しかし彼女の邪魔をする者が・・・・・というようなところから始まって、それが一段落すると第二次大戦が勃発して日本軍に空襲される話になる。 映画の作りは非常に古典的で分かりやすく、舞台はオーストラリアだけど半世紀昔の西部劇を見ているみたい。 ただ、アボリジニを政治的に正しく扱おうとする意図がものすごく強く出ているところだけは現代風か。 3時間近くかかる長い映画だが、飽きることはない。 ただし、パターンどおりに作りましたといった作品なので、深みみたいなものも感じられない。

28.「カフーを待ちわびて」 3/4、Tジョイ新潟万代。 評価★★☆ 中井庸友監督作品。 沖縄の小さな島で雑貨店をしてまったりと暮らしている独身青年 (玉山鉄二)。 ある時、学校の同級生にそそのかされて、神社に 「嫁に来ないか」 という願掛けの札をかける。 すると、やがて 「あなたのお嫁さんにしてください」 という手紙が届いて、若く美しい女性 (マイコ) がやってきて家に住みついてしまう。 折しも島には観光開発の話が持ち上がり、住民は賛成反対に割れて・・・・・。 話の主筋から分かるように、メルヘンチックな物語である。 そのせいかどうか、青年と彼女は手をつなぐ止まりで、着衣で抱き合うことすらしない。 同居しているおばばが多少卑猥な言葉を口にするけれど、雰囲気としてはプラトニックなのである。 島の自然描写はきれいだし、まあヒーリング映画だと受け取れば露骨に性的な描写はないほうがいい、ということなのかも知れない。 彼女が誰であるか、といった謎ときはそれなりに工夫されているが、観光開発の話は中途半端に終わっているし、曖昧なままに雰囲気を楽しむ映画なのかな、という印象だった。 なお、最後でテロップが出ても席を立ってはいけません。

27.「羅生門」 2/26、シネ・ウインド。 評価★★★ 1950年公開の、言わずと知れた黒沢明監督のヴェネツィア映画祭グランプリ受賞作がニュープリントで蘇ったというので、映画館に足を運んだが、見てみて、以前見たと思っていたのが勘違いだと気づいた。 私も初めて見たのである。 で、原作は芥川龍之介の 『藪の中』 で、そこに+αを加えているわけだが、どうだろうか。 それで作品の完結性はかえって損なわれているし、では完結しない人間の複雑さがうまく出ているかというと、そこもいくぶん疑問なのである。 あと、二番目の妻の告白のときの音楽がラヴェルの 「ボレロ」 の露骨なパクリで、音楽担当は早坂文雄だそうだが、今なら問題になるんじゃないかなあ。

26.「僕は君のために蝶になる」 2/25、シネ・ウインド。 評価★★☆ 香港映画。 ジョニー・トー監督作品。 ヒロイン (リー・ビンビン) はかつて或る青年と愛し合ったが、たまたま喧嘩をしたあとで彼は彼女の車をバイクで追いかけてきて、事故を起こし死んでしまう。 そのことがトラウマになっている彼女はいまだに薬剤のご厄介になっている。 ところが死んだはずの彼が現れて・・・・・。 うーん、死んだはずの恋人が幽霊になって現れるという話自体は、『ゴースト ニューヨークの幻』 など他にもあるわけで、そういう設定で何を表現したいのかが問題になるはずだが、その辺が曖昧なのである。 ヒロインにはその後言い寄る男が現れて、その男とかつての恋人の行動とに並行的なところがあるのだが、そこもうまく機能していない感じだ。 全体的に中途半端な味。

25.「ハルフウェイ」 2/25、Tジョイ新潟万代。 評価★★★ 北川悦吏子監督作品。 札幌に近い或る町に住む高校生3年生のお話。 ヒロイン (北乃きい) は同級生の男の子 (岡田将生) に恋している。 たまたま彼女の思いを彼が知って、逆に 「付き合って下さい」 と言ってくれる。 そこまでは良かったのだが、札幌の大学に進むつもりの彼女に対し、男の子は早大志望。 東京に行っちゃうならどうして告白したのよお、と彼女はブーたれるが・・・・・というようなお話。 話としてはものすごく単純だけど、単純であるがゆえに悩んでしまう若者の表情みたいなものはよく撮れている。 映像が意図的にシロウトっぽくて、独特な輝きを感じさせるのである。 北乃きいの奔放な女の子ぶりも悪くないし、岡田くんは男もほれぼれするようなイケメン。

24.「チェンジリング」 2/23、UCI新潟。 評価★★★★ クリント・イーストウッド監督作品。 1920年代のロサンゼルスを舞台に、夫と別れて幼い息子を育てている女性(アンジェリーナ・ジョリー)が、息子の行方不明という不幸に遭遇する物語であり、実話をもとにしているそうである。 やがて警察の捜査で息子は戻ってくるが、対面してみると別人であった。 しかし警察はあくまで捜査ミスを認めず、あまつさえ捜査のやり直しを警察に訴える彼女を病人扱いして・・・・・。 20年代のロサンゼルスという都市が警察の腐敗を初めとする暗部を抱えていたことがよく分かる映画で、話の展開は或る意味ダイナミックで、迫力に満ちており、観客を飽かせない。 警察に盲従するばかりの・・・・・(ネタバレになるので書きません) も驚きを誘う。 ただ、別人が息子とされて戻ってきて彼女に押しつけられるあたりでは、例えば近所の人の反応だとか、もう少し何とかならないものなのかな、不自然じゃないか、という気持ちになるし、当局の不正や無能はよく分かるが、人間同士のドラマという観点からすると、パターン化されたところがあったり、やや隙間のようなものも感じられないでもない。 しかし、一見に値する映画であることは間違いないだろう。 私が一番面白いと思ったのは、誘拐犯の描き方だった。

23.「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」 2/20、WMC新潟。 評価★ 米英合作。 サム・メンデス監督作品。 1950年代のアメリカを舞台とする若夫婦 (レオナルド・ディカプリオ+ケイト・ウィンスレット) の物語なのだが、何が言いたいのかさっぱり分からない作品になっている。 ひたすら退屈。 こんなに退屈な映画も珍しい。 これでアカデミー賞候補というのだからあきれる。 ラジー賞の間違いじゃないの。 途中からパリへ行こうという話になるのだが、これまた現実味をまったく欠いており、バカでなければこんな話にはならないだろうなと思ってしまう。 こういう映画を褒める奴の気が知れない、と言っておこう。

22.「秋日和」 2/19、新潟市民プラザ(にいがた国際映画祭)。 評価★★★★ 言わずと知れた小津安二郎監督の名作、1960年作。 実は見る予定ではなく、にいがた国際映画祭ではこの翌日上映の 『アンナ・カレーニナ』 を見て締めくくるつもりでいたのだが、大学の会議が急に入ってしまい、行けなくなり、仕方なくこちらで締めくくりとしたもの。 見たのは多分20年ぶりくらいか。 しかし非常に面白かった。 昔見たときと比べて、喜劇色がかなり強い映画なんだなと気づかされた。 結婚話を進めるときはこういう行き違いや思いがけない展開はありがちで、そこを見事にすくい上げた脚本の妙と、若いころ薬屋の看板娘 (原節子) に熱を上げたという中年男三人組の配役の的確さを褒めるべきであろう。

21.「シークレット・サンシャイン」 2/19、新潟市民プラザ(にいがた国際映画祭)。 評価★★☆ 韓国映画。 イ・チャンドン監督作品。 夫に死なれて、幼い息子と二人でソウルから夫の故郷である密陽 (映画のタイトルはこれを英訳したもののようだ) という地方都市に引っ越してきたヒロイン (チョン・ドヨン)。 しかし息子は誘拐され殺されてしまう。 ヒロインは精神のバランスを失い、キリスト教に救いを求めるが・・・・・。 うーん・・・・・精神のバランスを失ったヒロインの苦しみには迫力があるけれど、全体として何か腑に落ちない感じが残る映画だ。 詳細は省くが、誘拐事件に至るまでのヒロインの行状や性格には観客の共感を得るようなところが希薄で、途中の展開も求心性を欠いている、というか、何となく行き当たりばったりな感じが残るのである。 ヒロインが美人ではないこともマイナス材料か。  

20.「君のためなら千回でも」 2/18、新潟市民プラザ(にいがた国際映画祭)。 評価★★★★ 2007年のアメリカ映画でマーク・フォスター監督作品だが、主たる舞台はアフガニスタンである。 アフガニスタン難民である作家が自分の体験に基づいた小説をアメリカで出版したところベストセラーになり、映画化もされたということのようだ。 主人公はアフガニスタンで少年時代を過ごした。 父は裕福で、家には使用人とその息子がおり、主人公と使用人の息子はほぼ同年齢で仲がよかった。 しかしある時、主人公は使用人の息子に負い目を感じ、彼に無実の罪を着せ、その事件がきっかけで使用人とその息子は家を出ていってしまう。 やがてアフガニスタンにはソ連軍が侵攻し、かねてから共産主義を嫌っていた父は主人公を連れてアフガンを脱出しアメリカに渡る。 成長して作家となった主人公。 その彼のもとに届いた知らせとは・・・・・。 前半は少年同士の友情と裏切りの物語で、背景になっているアフガンの町の情景も興味深く、悪くない展開である。 アメリカに渡ってからの物語はやや類型的になるのだが、そのあと再び過去との接点ができてきて、物語としてうまく締めくくられている印象だ。 ソ連に蹂躙されたりタリバンに暴力的な支配をされたりしてきたアフガンの歴史の流れも伝わってきて、人間の運命と歴史の残酷さの双方がしみじみと感じられる佳作と言えるであろう。 

19.「ボルベール〈帰郷〉」 2/18、新潟市民プラザ(にいがた国際映画祭)。 評価★★★ スペイン映画。 ペドロ・アルモドバル監督作品、2006年。 夫、そして15歳の娘と暮らすヒロイン(ペネロペ・クルス)。 実は娘は夫との間にできた子ではなかったのだが、ある日失業中の夫は娘に性的関係を迫り、逆に娘に包丁で刺し殺されてしまう。 それを知ったヒロインは一計を案じるのだが、ほぼ同じころ伯母が亡くなり、そこから死んだと思っていた実母について妙な噂が・・・・・。 かなり錯綜した物語であり、最後にも 「えっ?」 がある。 作中の主たる登場人物はほとんど女ばかりで、男はろくでもない役割でしか出てこない。 広く見れば女の人生を描いた映画、ということになろうが、そのせいか、筋書きは結構映画チックなのに、ちょっと眠気に襲われてしまった私でした。 

18.「おいしいコーヒーの真実」 2/17、クロスパルにいがた (にいがた国際映画祭)。 評価★★★ 英米合作、マーク・フランシス+ニック・フランシス監督作品、2006年。 世界市場におけるコーヒーの価格が下落しており、コーヒー豆を生産しているエチオピアなど第三世界の農家にはきわめてわずかのお金しか降りない実態を告発したドキュメンタリー。 いくらコーヒー豆を作っても子供を義務教育にやることすらできないとか、一日8時間コーヒー豆を選別する仕事に従事している女性の日給がわずか0,5ドルだとか、驚くべき現状を報告している。 市場原理とやらに委ねただけでは農作物の適正な価格は実現しないのだということがよく分かる。 私はコーヒーをあまり飲まない人間だから良心の痛みをさほど感じない・・・・・なんてことを言ってはいけませんね。 他の農作物にも類似の事情があるのだろうから。 ちなみにスターバックスやネッスルといったコーヒー関連の世界的大企業は本作品の制作者による取材には応じなかったそうである。

17.「Tatto―刺青」 2/17、シネ・ウインド(にいがた国際映画祭)。 評価★★★  台湾映画。 周美玲(ゼロ・チョウ)監督作品、2007年。 ネットアイドルの女の子と刺青師である若い女性との関係をメインにしたお話なのだが、話の筋書きは分かりにくい。 映画が時間軸に沿って展開せず、過去と現在を行ったり来たりするのに加え、そもそもの物語や人間関係がすっきりしないからだ。 ま、芸術的な映画、と思えばいいのだろうけど。 中心になっているのはヒロイン二人の同性愛で、ネットアイドル役のレイニー・ヤンは実際に台湾の人気アイドルだそうでカワイイし、他方の刺青師役のイザベラ・リョンは宝塚の男役が似合いそうなりりしい美女。 タイプの異なる魅力的な女性二人の絡み合いは、悪くないと言えるかな。

16.「スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー」 2/15、シネ・ウインド(にいがた国際映画祭)。 評価★★☆ ロイ・アンダーソン監督作品。 1969年にスウェーデンで作られた映画であるが、最近、かつて削除された部分を復活させて再上映されているもの。 1970年前後というと、スウェーデンは性解放の先進国というイメージが強かったが、これは14〜5歳くらいの少年少女の愛の物語ということなので、よほど露骨な描写をしているのかと思いきや、さほどでもなく (やっぱり未成年が主人公だから、だろうな)、しかも、少年少女の愛の物語と言い切るには少しくためらう内容なのだ。 つまり、二人の周辺部にいる大人が変な人たちで、その変なところが、よく言えばユーモラスだけれど、悪く言えば作品を破綻させているような印象があるからなのだ。 何だこれ、と思ってしまいました。

15.「ハピネス」 2/15、シネ・ウインド (にいがた国際映画祭)。 評価★★★☆ 例年2月に行われている 「にいがた国際映画祭」 が今年も幕を開けた。 初日の14日は忙しくて行けず、本日午後、なんとか暇を作って見に出かけたうちの1本がこれ。 韓国映画で、ホ・ジノ監督作品、2007年。 酒の飲み過ぎなどで肝臓を悪くした青年が田舎の療養所に送られて、そこで肺を病んだ若い女性(イム・スジョン)と知り合い、惹かれ合って一緒に暮らすようになるが、やがて健康を取り戻した青年には都会の友人たちからの誘惑が・・・・・・という筋書き。 ヒロインのイム・スジョンがとても魅力的。 今どき病気のかよわい女性なんてのは流行らないかもしれないが、ホ・ジノ監督は正面から彼女のいたいたしい生き方と美しさを捉えている。 後半の脚本がもう少し練れていればという気もするが、病気の若い男女が愛をはぐくんでいく前半はすばらしい。 韓流ブームが去ったせいか、こういう佳作まで商業館に来ない新潟の現状はお寒い限りだと言わざるを得ない。 

14.「マンマ・ミーア!」 2/11、UCI新潟。 評価★★★ フィリーダ・ロイド監督作品。 評判のミュージカル映画である。 ギリシアの小さな島でホテル業を営む中年女性 (メリル・ストリープ) の一人娘ソフィー (アマンダ・セイフライド)。 彼女は愛する彼との結婚式を目前に控えていたが、自分の父が誰なのかを知りたいとかねてから考えていた。 たまたま母の日記を盗み読んで、むかし母と関係した男性が3人いると知り、3人ともこっそり結婚式に招待する。 やがて3人はこの島にやってくるが・・・・・・。 実のところ、こういう筋書きだという予備知識しかなかったので、てっきり若いヒロインと3人の元プレイボーイの話かと思っていたのだが、見てみたところ、むしろヒロインの母親とその仲間二人の中年女性が異常にがんぱっているミュージカルであった。 それ相応に楽しい映画であることは間違いないのだが、やたら中年女性ばっかりでしゃばる作りは、見ていてあまり美的ではなく、オバサン御用達映画かと皮肉りたくなる気持ちを抑えきれない。 もっと若者が活躍する筋書きにしてほしいものだ。

13.「ヘブンズ・ドア」 2/9、UCI新潟。 評価★★☆ マイケル・アリアス監督作品。 余命わずかな青年と少女が病院から脱出して海を見に行く、というお話。 それだけなら大したことはないけど、彼らがたまたま病院前に停まっていた高級車を拝借したところ、車内には・・・・・・というようなオマケの話がついていて、そこから事件が色々起こる、ということにもなる。 だがしかし、主役二人 (長瀬智也、福田真由子) は悪くないけど、何かもう一つノレない映画になっている。 彼らの短い人生と、海を見ることとの必然的なつながりがイマイチ画面から伝わってこないように思う。 展開も、期待したほど痛快感がなく、ちょっと退屈。 

12.「007 慰めの報酬」 2/7、UCI新潟。 評価★★★ マーク・フォースター監督作品。 007シリーズ最新作。 前回からダニエル・クレイグがヒーローをやっているが、話の筋も多少前作からの続きのようなところがある。 これも前回からだが、アクションシーンがひどく速くなっていて、ついていくのが一苦労。 ボンドガールも、きれいだけれど、前作同様脱がないのでオジサン観客としては物足りない。 悪の団体が、環境保護団体と見せかけて実は、というところは時代を感じさせるし、実際ああいう団体もありそうな気がする。 色々文句も言いたいけど、エンタメとしてお金を払って見る価値はある映画だと思う。

11.「シャッフル」 2/4、UCI新潟。 評価★★ ビル・ケリー脚本、メナン・ヤポ監督作品。 夫および2人の娘と幸福に暮らしていたヒロイン (サンドラ・ブロック)。 しかしある朝、警官が訪ねてきて、出張中の夫が交通事故で即死したことを告げる。 だが次の朝、ヒロインが目覚めると死んだはずの夫は家の中にいてふだんどおりに過ごしていた・・・・・・。 日によって状況ががらりと変わってしまうという設定の映画なのだが、そうした設定の謎が解き明かされるのではなく、あらぬ方向に話が進むので、私としては 「何だ、これ」 でした。 でも辻褄が合わないことがさほど気にならず、むしろ雰囲気で映画を楽しむ人にはいいかも。

10.「プライド」 1/29、Tジョイ新潟万代。 評価★★★☆ 一条さゆり原作、金子修介監督作品。 少女マンガが原作で、2人の音大に通う少女のバトルを描いている。 一人は裕福に育ったお嬢様 (ステファニー)、もう一人は貧乏な家庭に育った女の子 (満島ひかり) で、ふたりは、後者がバイトで前者の豪邸に掃除をしにきて出会う。 お嬢様はその夜上演されるオペラのチケットを、余っているからと捨てるつもりだったが、たまたまバイトの少女が音大生だと知り、1枚5万円するチケットを彼女にプレゼントし、一緒に観にでかける。 そこで貧しい少女はハイソな社会の住人たちを知り、そうした人々と知り合いであるお嬢様に猛烈な敵愾心を抱く。 しかし、やがてお嬢様の父は事業に失敗して破産、彼女も貧しいアパート暮らしを強いられるようになって・・・・・・。 というふうに、少女マンガ原作らしく、話が極端に振れながら進行するのだが、現実離れしているところがかえって面白く、映画としてそれなりに成功していると思う。 しかし、新潟市ではTジョイの単独上映だったのに、私が行ったときは客が1桁で、わずか2週間で上映打ち切りとなったのは惜しい。

9.「誰も守ってくれない」 1/25、UCI新潟。 評価★★★☆ 君塚良一監督作品。 長男が殺人を犯したためにマスコミから追い回される家族。 犯人の中二の妹 (志田未来) をそうしたマスコミから守れと指令された刑事 (佐藤浩市) は、自身も家族の不和を抱えつつも、与えられた仕事を四苦八苦してやりぬこうとするが、戦う相手はマスコミ関係者だけでなく、守るべき少女の情報を暴露するネットの愉快犯たちでもあった・・・・・。 冒頭近く、息子が殺人犯と分かった夫婦が警察や司法関係者から離婚手続きをとるよう勧められたりと、かなり速いテンポで話は進むが、途中から刑事と少女が中心になってからはやや落ち着いた展開となる。 回りは敵だらけという状況でいかに刑事と少女が安らぎの地を見つけるかが鍵となる。 中二の少女を演じる志田未来がとても魅力的。 私の養女にしたいくらい (笑)。

8.「ザ・ムーン」 1/23、UCI新潟。 評価★★★☆ 米英合作。 デヴィッド・シントン監督作品。 60年代末期のアポロ11号以降、アメリカのアポロ宇宙船で月に降り立った宇宙飛行士は合計12人で、それ以降出ていない。 この映画は、月に行った宇宙飛行士へのインタビューを中心に、NASAの内部映像だとか、練習での事故の映像だとか、月世界の映像だとか、今まで表に出てこなかったフィルムなども含めて映画としてまとめたドキュメンタリーである。 私の好みとしてはもう少し月世界の映像が多かったほうがいいように思うが、宇宙飛行士の回顧談もそれなりに面白く、全体として見応えのある映画になっていたと思う。

7.「恋愛上手になるために」 1/22、シネ・ウインド。 評価★☆ アメリカ映画。 ジェイク・パルトロウ監督作品。 NYを舞台に、作曲家としてなかなか芽のでない男 (マーティン・フリーマン) が、同棲している女性 (グヴィネス・パルトロウ、ちなみに監督は彼女の実弟) とも倦怠期に入り、なぜか夜ごと夢で美しい女性 (ペネロペ・クルス) を見るようになって・・・・・・・というようなお話だが、原題 "The Good Night" とは似ても似つかぬ邦題が付いているのがまず×であり、また映画そのものも全然面白くなくて、最後はとってつけたような終わり方だし、これって、女優のグヴィネス・パルトロウが有名で、その実弟が監督だからってんでかろうじて映画になった程度の作品じゃないですかね。 上映館のシネ・ウインドにも、もっと質の高い作品を持ってこい!と言いたくなりました。

6.「ブロードウェイ♪ ブロードウェイ コーラスラインにかける夢」 1/21、UCI新潟。 評価★★★☆ アメリカ映画。 アダム・デル・デオ+ジェームズ・D・スターン監督作品。 アメリカで70〜80年代に大ヒットしたミュージカル 「コーラスライン」。 それを再演するにあたって出演者のオーディションが行われた。 その模様を映像化した映画である。 高い競争率を勝ち抜いて最終選考に残っていく候補者たちの素顔や演技や歌が興味深いし、また選考する側の表情も面白い。 選ばれる側が大変なのは言うまでもないけれど、選ぶ側にしても責任重大だし、個性の違う候補者のどこを評価するかや、また作品イメージとの整合性だけでなく、場合によっては出演者の個性に合わせて作品を変えていく必要もあるわけで、そういうことをも含めて選ぶという作業もなかなか難しいのだということがよく分かりました。

5.「青い鳥」 1/17、UCI新潟。 評価★★★    重松清原作、中西健二監督作品。 いじめという難しいテーマに挑んだ作品。 いじめが発生して自殺未遂者を出した首都圏の某公立中学。 クラス担任はノイローゼになって休職中。 そこに教育委員会から新しい教師 (阿部寛) が派遣されてくるが、彼は吃音で、あまりにも冴えない印象しか生徒に与えなかった・・・・・・。 この種の物語にありがちな熱血教師ではなく、冴えない――と言っても阿部寛だからすらりとした長身で見栄えはいいけれど――教師によって、いじめに生徒がどう向き合っていくのかを考えさせるという映画。 悪くない内容だと思う。 ただ、いじめを主導した不良がかった生徒の扱いには多少問題がありそうだが、まあ一見に値する作品ではないだろうか。

4.「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」 1/16、WMC新潟。 評価★★★ {F91」(↓) と同じくWMCでの再上映を500円で見たもの。 同じく富野由悠季の脚本・監督だけど、こちらは1988年製作だから、こちらのほうが前だし、扱っている時代も前らしいが、私は登場人物に全然共通性がないなあ、と思いながら見ていた。 筋書きには共通性がある。 つまり、ヒロインにあたる少女が寝返る、というところである。 もっとも 「F91」 のヒロインであるセシリーは貴族のお姫様らしい気品あふれる美少女だったけど、こちらのヒロインであるクェスは八方破れのはた迷惑な美少女なので、持ち味はだいぶ違っているけど。 あと、本作品ではナナイのような大人の魅力を備えた美人も登場するので、趣味に応じて楽しめるけど、先にセシリーの魅力に触れてしまった私としては、どの女性キャラクラーもイマイチとしか思えませんでした、すみません。 あと、「F91」 でもそうだが、登場人物たちのセリフまわしが、一時代の欧米映画や米国テレビドラマのそれを彷彿とさせるところが、何とも言えない味を出している。 なお、観客は私を入れて5人だけだった。 

3.「機動戦士ガンダム F91」 1/16、WMC新潟。 評価★★★ 1991年のアニメ映画。 私はいわゆるガンダム世代には属しておらず、テレビもほとんど見ない人間なので、ガンダム物は今まで一度も見たことがなかった。 ワーナーマイカルで再上映され入場料500円だというので、見てみた。 遠い未来、宇宙に植民地を作った人類。 そのコロニーに対してある日何者かによって攻撃がしかけられる。 そこで・・・・・というようなお話なのだが、筋書きは一度見たくらいでは必ずしもすんなりとは分からない。 登場人物同士の関係も、である。 いや、これは私がガンダム初体験であるためかもしれない。 私としては、ヒロインのセシリー・フェアチャイルドに焦点を合わせて見ていた。 こういう貴族のお姫様である美少女、って私の趣味なんですよね、すみません (笑)。 なお観客は私を入れて4人しかいなかった。

2.「チェ 28歳の革命」 1/12、UCI新潟。 評価★★☆ スティーヴン・ソダーバーグ監督作品。 チェ・ゲバラがキューバで革命軍に身を投じ、軍事的に勝利を収めるまでを描いている。 途中で、アメリカに渡ってそこでインタビューを受けたり国連で演説したりするシーンが頻繁にさしはさまれる。 うーん・・・・どうも見ていて面白みをあまり感じなかった。 なんでアルゼンチン出身で医学生のゲバラが革命を志したのか、みたいなものが出ていない。 また、革命軍の日常の過酷さだとか、戦略の合理性だとか、そういったものが観客に納得のいくように作中で描かれていない。 素材をそのまま投げ出しているような印象なのだ。 もう少し脚本を練って、ゲバラという素材を制作側がどう料理したのかをはっきり打ち出した作品にしてほしかった。 これでは続編は見る気がしないなあ。 

1.「休暇」 1/10、シネ・ウインド。 評価★★★ 吉村昭原作、門井肇監督作品。 刑務所に勤務する刑務官 (小林薫) と死刑囚 (西島秀俊) のお話。 中年まで独身できた刑務官に子連れ女性 (大塚寧々) との結婚話が来る。 たまたま時を同じくして、死刑囚の刑執行の命令が下ってくる。 刑務官は結婚式と新婚旅行のための休暇をとるべく、あえて死刑執行でも最も嫌がられる職務を担当すると申し出て・・・・・・。 と書くと劇的な映画だと思うかも知れないが、全然そうではなく、淡々と死刑囚と刑務官の日常の暮らしを描写していく手法で、死刑の是非とか、罪の償いはいかにあるべきかとか、刑務官の仕事をどう評価すべきかとか、そうしたテーマ性が前面に出てくる作品ではない。 自然主義というとおかしいかもしれないが、変な思い入れを排して、刑務官と死刑囚と死刑という、キワ物的な材料を、その日常性に沿って撮していった、という印象の映画である。 なお、上映館のシネ・ウインドで渡された資料には、新潟日報に掲載された映画評がコピーされてあり、そこには 「死刑を肯定するのは殺人犯と同じ立場に身を置くことだ」 というようなきわめて短絡的な意見が展開されているのだが、映画自体はそんな単純なシロモノではないので、念のため。

 

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