諏訪内晶子『ヴァイオリンと翔る』(NHK出版)1300円  

 著者はヴァイオリニストで、1990年のチャイコフスキー国際コンクールで18歳にして優勝を飾り、一躍有名になった。著名なコンクールで最年少優勝、おまけに美人ということも手伝って、無責任な週刊誌からは皇太子の結婚相手にどうかと書き立てられるなど、話題には事欠かなかった。当時各地からコンサートの依頼が殺到し、新潟にも来てブルッフの協奏曲をひき、私も(この曲は好まないのだけれど)聴きにいったものである。

 その後余り消息を聞かないなと思っていたら、彼女の書いた本が出た。早速買って読んでみたところ、アメリカに留学中なのだそうだ。普通、著名なコンクールで優勝すればそれを勲章にすぐさまプロの演奏活動を開始しそうなものだが、それを避けて勉強を続けているのは偉いと思う。ジュリアード音楽院に在学しながら、他大学の講義も聴講して音楽以外の幅広い教養を身につけようと努力するところなど、一部の怠惰な新大生にも見習ってほしい(人○学部情○○○課程の××君、君のことだよ)。

 日欧の音楽コンクールの雰囲気の違いを初め、随所に考えさせられる部分がある。クラシック・ファンばかりでなく、これからどう生きて行くか真剣に考えている人なら誰にでも興味深い本であろう。

 以上で紹介はおしまいだが、蛇足をつけ加える。このところ有名人のエッセイは花盛りで、音楽家もその例外ではない。中村紘子や岩城宏之は言わずもがな、堀米ゆず子のエッセイ集も最近出た(『モルト・カンタービレ』NTT出版、1300円――値段まで同じ!)。彼女も15年前エリーザベト王妃国際コンクールに優勝、国際的に活躍しているヴァイオリニストである。両女性ヴァイオリニストのエッセイを読み比べた私は、二人の資質の違いのようなものを感じた。

 一口でいうと、堀米ゆず子のエッセイはいかにもエッセイ風である。軽やかで、適度に面白く読みやすく、コンクール優勝から結婚出産までの15年を点描画のようにさっと200ページにまとめている。余りに典型的にエッセイ風、それ故に面白さがパターン化されてしまってかえってつまらないような気がする。(堀米さん、ごめんなさい。デビュー盤のブラームス・ソナタ集はちゃんと買いましたから赦してください。)

 これに比べると諏訪内晶子の本からは幾分固い印象を受ける。読物としてソツなくまとめようとするのとは違って、不器用なほどの真摯な思索のあとがうかがえて、そこが面白いのだ。無論それは欠点にもなり得るわけで、ふくらみに乏しいという評価もできよう。例えば、コンクールで競い合った外国の若手演奏家とも演奏を離れれば友人として気軽につきあっていけたと著者は書くが、彼ら一人一人の持っている人間的な個性のようなものは行間からは伝わってこない。わざと書かなかったのかも知れないが、大学での一般教養もすべて音楽に資するためとする著者の、言うならば遊びのない姿勢のためもあるのではないか。私はこれを必ずしも悪いとは思わない。そういう時期も必要だと思うからだ。

  ただ、読んでいる間に韓国出身の大ヴァイオリニスト鄭京和(チョン・キョンファ)のことを思い出した。彼女が結婚して出産した後、子供のためならヴァイオリンをやめてもいいと思ったと雑誌で語っているのを読んで私は感動したものだ。無論本当にやめられたら困るが、そこまで考えた彼女の演奏にはきっと新しい何かが加わったに違いないと思ったからである。(ちなみに私は残念ながら鄭京和の実演を聞いたことがない。新大の環日本海研究会の皆さん、研究発表会ばかりではなくたまには近隣諸国の名演奏家を招聘して音楽会をやりませんか?)

 その意味で、諏訪内晶子には何年かたったらまた本を書いてほしい。別段いたずらにプライバシーを公開しろというのではなく、そういう経験をへた何かを感じさせる演奏ができるようになれば、おのずと二冊目の本も書けるに違いないと思うからである。

                               (新潟大学生協発行・書評誌『ほんのこべや』第10号〔96年春〕掲載。2000年1月、ここに転載)

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