「女流棋士」の呼称を難じる朝日新聞の非常識

 

 半年余り前のことで恐縮だが、朝日新聞におかしな記事が載っていたので批判しておきたい。

 2001年1月21日付けの家庭欄に載った 「花もあらしも――将棋の女性プロ第1号 元女流名人・王将 5段 蛸島彰子さん」 である。

 無署名のこの記事は、次のように書き出されている。

 「『女流棋士』 とは女性の棋士を意味する将棋界の固有名詞だが、そもそも将棋に 『女流』 も 『男流』 もない。 呼称から男社会がうかがえる。 〔蛸島彰子は〕 そんな世界にたった一人で飛び込んだ第一号の女性プロだ。」

 この文章にはおかしなところがいくつもある。 まず、「女流棋士」 という名称だが、これは男性棋士に対して実力で劣っていても女だから特別にプロ扱いしましょうということで作られた制度である。

 大方の人間の知っていることだが、プロ棋士をめざす人はまず奨励会というプロ棋士養成機関に入る。 ここで4段になれればプロと認められる。 4段になれるのは1年に4人のみ。 一定年齢までに4段になれなかった人は奨励会を退会しなくてはならない。 つまり、プロになれなかったということである。 だから、将棋のプロとは4段以上であり、奨励会での初段から3段までの段階では、まだプロではないのだ。

 この記事に書いてあるところでは、蛸島彰子は奨励会に入りはしたものの、20歳で初段となった段階で退会している。 つまり、プロになれなかったということなのである。

 であるから、「そんな世界にたった一人で飛び込んだ第一号の女性プロだ」 という文章は明らかに間違っている。 「プロになりたくて飛び込んだ女性の第一号だが、挫折してプロにはなれなかった」 と書くべきところだろう。

 そんな蛸島が 「プロ」 になれたのは、その後 「女流棋士」 という制度ができたからだ。   上述のように、この制度は、男に実力で劣っていても女だからプロ扱いしましょうという趣旨で成立したのである。   段位の基準も正規のプロ棋士の場合とは違っているから、名乗る場合は必ず 「女流5段」 というふうに 「女流」 をつけなければならない。

 もし段位に 「女流」 と付けられるのが嫌なら、奨励会で勝ち抜いて4段をとればいいのである。 プロ将棋界は、別段それを禁じてはいない。 蛸島も奨励会に入ったのだから、実力さえあれば4段をとれていたはずである。 とれなかったのは、彼女が女だからではなく、実力がなかったからに過ぎない。

 そして、現在のところ 「女流」 ではなくて正規のプロ棋士になった女性、つまり奨励会の激しい競争を勝ち抜いて4段になった女性は、皆無である。

 だから、「呼称から男社会がうかがえる」 というのは笑止千万である。 「実力から言って男社会なのだが、お情けで女にも活躍の場が与えられている」   と書くのが正解なのだ。

 無論、個々の勝負では、女流棋士が男性棋士に勝つケースは珍しくない。   しかしそれは、アマチュアでもプロ棋士に勝つ場合があるのと同じである。   プロとは、実力者のひしめくなかで沢山の戦いを行いつつ圧倒的な勝率を上げる人間に許される称号で、偶発的に勝つだけではプロの名に値しないのである。

 断っておくが、私は将棋に強いわけでもなければ、特に興味を持っているわけでもない。 コマの動かし方程度の知識しかないズブのシロウトである。 その私でも、将棋のプロ棋士に関する以上のような事情は知っているのである。 つまりこの記事は、その私が読んですら呆れるくらい非常識なものだったということだ。

 この記事の最後に蛸島の言葉が紹介されているが、これがまた奇妙奇天烈な代物である。

 「女性のトップが男性棋士のどの辺にあるのかという議論をしているのは、将棋界ぐらい。 たくさんの人たちの記憶に残る、女性の勝負をみせていけるようにしたい。」

 つまり、女の棋力は男に劣っていても、女の将棋は男の将棋とは別種の価値がある、ということであろう。

 蛸島が女性として初めて、男性に混じってプロ棋士を目指したこと自体は大いに結構である。 だが、そこで挫折したからといってこういう言説を弄するとすれば、負け犬の遠吠えと受け取られても仕方がないのであって、蛸島にその自覚がないらしいのは、彼女の知性を疑わせるに十分である。

 或いは、仮に百歩譲って 「女性特有の将棋」 なるものがあるとしよう。 とすれば、それはこの記事の冒頭の文句とは全然論理的に合致しない。 冒頭では 「将棋に 『女流』 も 『男流』 もない」 といっていたのだが、最後の蛸島の言い分からすれば、「将棋には 『女流』 と 『男流』 とで明確な違いがある」 としなければならなかったはずだ。

 この記事は、かくも無茶苦茶で知性のかけらもない駄文なのであった。

                                                                                                                                                                       (2001年9月10日掲載)                                            

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