映画評2013年

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 2013年に見た映画をすべて紹介。 5段階評価と短評付き。

  評価は、★★★★★=今すぐ映画館に駆けつけるべし (大傑作につき見ないと一生の損)。 ★★★★=十分な満足感が得られる (いい作品だから見てごらんよ)。    ★★★=平均的 (見て損はない)。 ★★=劣る (カネと時間が余ってたらどうぞ)。 ★=駄作 (カネをドブに捨てるようなもの)。 ☆は★の2分の1。

 

168.「利休にたずねよ」 12/31、AEC新潟西。 評価★★★ 山本兼一原作、田中光敏監督作品。 茶道で有名な千利休 (市川海老蔵) の後半生を、茶道に美を追求する姿や、若い頃に高麗出身の女に惚れた過去などをも含めて、秀吉に切腹を命じられるまでを描いている。 茶道や、何気ないものの美しさを表現する映像はなかなか魅力的だ。 しかし、人物造型、とくに秀吉 (大森南朋) のそれがきわめて浅く、これが映画のドラマ部分をいちぢるしく損なっている。 原作未読なので、原作のせいか、映画化するに際しての脚本あるいは監督がマズいのかは知らないが。 高麗の女を演じるクララこと韓国女優イ・ソンミンが魅力的。 他方、中谷美紀演じる妻については、単に夫に従順な良妻というだけでなく、もう少し夫の心の中にいる女との葛藤を表面に出してもよかったのではないかと思われた。 最後近くでそういう部分が多少出るが、これだけでは夫婦の形を描くのには足りないだろう。 これで今年の映画見納めとしました。

167.「ベニシアさんの四季の庭」 12/30、シネ・ウインド。 評価★★★ 菅原和彦監督作品。 英国貴族の家庭に生まれながら、貴族の生活になじめず、インドをへて日本にやってきた英国女性の生き方を紹介するドキュメンタリー。 最初は東京に住んでいたが、やがて京都に移り、2度の結婚で3男1女をもうける。 現在は京都・大原の古家を買って住んでおり、庭にハーブなどを植えて、そうした植物を活かした料理作りをしたりして生活している。 他方、長女が男の子を出産してから統合失調症になり、また二度目の夫も一時期別の女性に心を移してしまうなど、決して順調な生活ではないが、とにもかくにも一人の英国女性がたどった運命を追った、それなりに印象深い映画になっている。

166.「飛べ! ダコタ」 12/27、シネ・ウインド。 評価★★★ 油谷誠至監督作品。 昭和21年、まだ敗戦の余韻が残っている時代に、英国の軍人を乗せた飛行機が佐渡に不時着したという実話を映画化したもの。 村長 (柄本明) をはじめ、村民は対応に大わらわ。 他方、いまだに英国人を敵視する元軍人もいる。 そうした中、飛行機を飛ばすべく浜辺に臨時滑走路を作ろうと村民達は力を合わせて働き、英国人たちもしだいに村民と融和していく・・・・というようなお話。 実話が元だそうだが、多分それなりに脚色もしてあるのだろうと思う。 その脚色かと思われる部分が、やや現代的で甘い感じがするのだが、悪い映画ではない。 ただ、文部科学省推薦、的な作りだな、とは感じました。 村長役の柄本明に味があった。

165.「恋の渦」 12/25、シネ・ウインド。 評価★★★ 大根仁監督作品。 若い男女9人の、恋愛譚というか、相互の思惑や同棲相手との駆け引きや感情の行き違いなどをコミカルに描いている。 それなりに面白いけれど、少し冗長な感じがしないでもない。 もともとは舞台劇だったそうで、舞台なら場所が限定されている分、濃密な空間が出来上がるのだろうけれど、この映画の場合、場所は限定されているけれど、演劇とは異なりどうしても広がりのようなものが感じられてしまうので、その分やや冗漫な印象が残るのかもしれない。 138分の作品だけど、もう少し削ったほうがよかったのでは。 しかし一見の価値は十分にある。 ただ、私としてはいかにも下流的な若者群像 (学生でなければフリーターや風俗業) に、何となくひっかかりを覚えたのではあるが。

164.「武士の献立」 12/21、AEC新潟西。   評価★★★★ 朝原雄三監督作品。 江戸時代の加賀前田藩。 代々、城中の料理を担当する包丁サムライとして務めてきた家柄の次男坊である若者 (高良健吾) は、本来なら恋仲の一人娘の家にムコとして入るはずが、兄が急逝したために家の跡取りとなり、気の乗らないままに勤務していた。 そこに、江戸勤務中の父 (西田敏行) に料理の腕と知識を見込まれた娘 (上戸彩) が嫁いで来た。 年上でしかも一度離婚歴のある彼女を敬遠していた若者だが、彼女に料理の知識を仕込まれて城内でも評価が高まり・・・・。 料理を通して公的な評価のみならず夫婦としての絆を深めていく若い二人のお話。 ここにお家騒動の話もからんでくる。 すごく斬新とか深いとかいうような作品ではないが、脚本が非常にまとまりよくできていて、2時間ほどよい感動と笑いのうちに見終えることができる。 肩を怒らせずに気楽に楽しむべき映画だけど、クライマックスの饗応シーンで料理の膳がいくつも並ぶところは迫力。

163.「カノジョは嘘を愛しすぎてる」 12/17、AEC新潟西。 評価★★★ 小泉徳宏監督作品。 音楽仲間とバンドをやり、作曲とベースを担当していた若者 (佐藤健) は、プロになるに際してベースをあきらめて別の奏者と交代し、作曲に専念するようになっていたが、そのことに鬱屈した感情を抱えていた。 ふとしたことから女子高校生 (大原櫻子) と知り合い交際するようになるが、彼女にもバンド仲間があり、やはりプロ化の誘いが・・・・。 というようなお話で、基本的には恋愛譚なんだけど、そこにミュージシャンと音楽事務所の論理がプラスされているところがミソ。 私は作中に出てくる音楽には興味がもてないので主として恋愛譚として見たけれど、この種の音楽が好きな人には音楽映画としても楽しめるかも。 評価は恋愛物として見た場合。

162.「かぐや姫の物語」 12/14、AEC新潟西。 評価★★★ 高畑勲監督によるアニメ。 日本の古典として有名な 『竹取物語』 をベースに、若干の肉付けをしてできている。 絵が水彩画のように淡白で、独特の味わいがある。 物語も悪くないけれども、宮崎駿の『ナウシカ』にも見られた自然賛美的な雰囲気、そしてヒロインの少女性の表出というところがメインになっているようである。 筋書き上の工夫がもう少しあれば、という気もした。 とはいえ、かぐや姫に求婚する貴族たちの顛末をはじめ、2時間強をまあまあ退屈せずに見られる作品に仕上がっている。

161.「ポルトガル、ここに誕生す」 12/13、シネ・ウインド。 評価★★ ヨーロッパの名のある監督4人がポルトガルを舞台にした短編映画を作った。 その4編を集めたオムニバス映画。 第一話はアキ・カウリスマキ監督による 「バーテンダー」、第二話はペドロ・コスタ監督による 「スウィート・エクソシスト」、第三話は、ビクトル・エリセ監督による 「割れたガラス」、第四話はマノエル・ド・オリヴィエラ監督による 「征服者、征服さる」。 ・・・・うーん・・・・・率直に言って面白くなかったな。 第三話は、100年以上続いた紡績工場の、工員が集団で昼食をとっている写真をもとに、実際にその工場に勤務していた人へのインタビューを主体に構成されていて、いちばんまともだった。 ただ、写真のイメージ喚起力のほうが映画より上だってのは、監督にとって名誉にはならないよなあ。 最後のオリヴィエラの作品は、ポルトガルが発祥した場所を映し出していて観光的な興味は喚起するけれど、オチがあれじゃね。 100歳を越えているから、仕方がないんだろうけど。

160.「キャプテン・フィリップス」 12/10、AEC新潟西。 評価★★★☆ アメリカ映画、ポール・グリーングラス監督作品。 実際にあった事件をもとにしたものである。 アフリカのソマリア沖を、アフリカ向けの援助物質を載せたコンテナ船が航行していたところ、海賊に襲われて多額の金を要求された。 船長 (トム・ハンクス) は様々な交渉を経た後に何とか船の金庫にあった3万ドルだけで彼らを下船させることに成功するが、その際に脱出用の救命ボートに自らも人質として乗せられてしまう。 アメリカ海軍が迫ってくるが、人質がいるのでなかなか手を出せない。 果たして船長の命は・・・・というようなお話。 前半は緊迫感に満ちた展開で楽しめる。 後半、救命ボートに乗ってからの展開がややごたごたしていて、やや落ちるかなという印象だった。 

159.「日本の悲劇」 12/6、シネ・ウインド。 評価★★ 小林政広監督作品。 妻に先だだれた老人 (仲代達矢) とその息子 (北村一輝) のお話。 老人は一周忌をきっかけに部屋に籠もって飲食も断ち、ミイラになろうとする。 息子はといえば、ノイローゼから自殺未遂を起こし、妻子に去られ、しかも東日本大震災でその妻子を失うという痛手を負っている。 息子は何とか父との対話を行おうとするが・・・・。 一言で言って、安易な感じがした。 例えば息子は部屋に籠もった父を何とかしようとするが叫ぶばかり。 私なら部屋のドアをぶちこわすくらいのことはするけどね。 大の男が泣き叫ぶだけじゃ、みっともないだけだよ。 それから息子がノイローゼで自殺未遂に至ったのは会社勤務が上手くいかなかったからか何なのか、よく分からない。 その辺をちゃんと描かないと、老父と二人きりになって比較的まともにやっているところに説得性がでてこない。 最後にテロップで東日本大震災の犠牲者数と、日本における年間の自殺者数を出しているけど、辻褄合わせにしか見えない。 安易と私が言うのは、東日本大震災と自殺者数を組み合わせれば衝撃的だろうと思い込んで、必要な描写を省いている監督の姿勢を指している。

158.「すべては君に逢えたから」 12/3、AEC新潟西。 評価★★★ 本木克英監督作品。 クリスマス・イブ及び東京駅をモチーフにしたオムニバス的な映画。 何組かのカップルの話が盛り込まれている。 メインは、東京と仙台で遠距離恋愛をしているカップル (木村文乃、東出昌大) のお話と、東京に出て演劇に打ち込んだものの芽が出ず故郷に帰ろうとしている女性 (高梨臨) とやや高飛車な青年社長 (玉木宏) の偶然の出会いのお話。 この二つでは後者がなかなかよくできている。 これ以外にいくつかのお話が絡む。 個々のストーリーに割ける時間は短いので、全体としてクリスマス・ムードだとか恋愛ムードだとかを楽しんでおけばそれでいい映画だろう。 肩肘張らずに軽く楽しみたい人には薦められる。

157.「ルノワール 陽だまりの裸婦」 11/30、UCi新潟。 評価★★☆  フランス映画、ジル・ブルドス監督作品。 画家ルノワールが晩年に豊かな体をした若いモデルと出会って創作意欲を刺激される、というお話。 そこに息子のジャン (後年映画監督となったジャン・ルノワール) が第一次世界大戦に出征するというお話がからむ。 映像は美しく、あたかもルノワールの絵のごとくだが、脚本はあまり面白く出きていない。 モデル役の女優もあんまり私好みではない。 或いは史実に忠実に作ったのかも知れないが、フィクションでもいいからもう少しドラマ性を持たせてほしいものだ。

156.「ナイトピープル」 11/29、シネ・ウインド。 評価★★★ 門井肇監督作品。 スナックを営む青年 (北村一輝) のところに、雇ってくれないかという若い女 (佐藤江梨子) がやってくる。 彼女のおかげで店は繁盛するが、やがて警視庁の捜査一課勤務だった (過去形) という刑事 (杉本哲太) が訪ねてくる。 彼の話では、女は過去に恋人の男と一緒に大金強奪にかかわった犯罪者で、恋人に捨てられて自首して更生後なのだという。 しかし刑事の話には裏があり、また女の正体もさらなる裏があり、さらにはスナックを営む青年にも過去が・・・・。 二転三転する物語で、まあまあ楽しめる映画になっている。 ただ、映画的な重みがあまりなく、テレビドラマでもいいような。 私はサトエリのファンなので見に行ってみたのだが、彼女もちょっと年をとったかなあ。 頬骨の張り出しが時として気になった。 もう31歳になってるんだね。 早くいい人を見つけて欲しい。 いなきゃ私でもいいけれどね(笑)。

155.「トゥ・ザ・ワンダー」 11/28、シネ・ウインド。 評価★★★ アメリカ映画、テレンス・マリック監督作品。 離婚歴があり小さな娘をかかえた若いヨーロッパ人の女 (オルガ・キュリレンコ) が、知り合ったアメリカ人の男 (ベン・アフレック) と愛し合うようになるが、二人の関係は迷走を重ね・・・・。 というような筋書きは、実はこの映画の場合あまり重要ではない。 映像が詩的で全体の構成だとか進行も詩的で、必ずしも明確な輪郭を持ってはいないからだ。 でもそこがこの映画のいいところなのだ。 ただし、そういう作品であるだけに112分は少し長すぎ。 ほかに教会の聖職者 (バビエル・バルデム) だとか、よく分からない女性 (レイチェル・マクアダムス) だとかが出てくるけれど、余計な感じがする。 主役二人が魅力的なのだから、あくまで二人の関係を詩的に、例えばバレエのごとくに表現するということに徹して80分程度に削れば、もっと優れた映画になったのではないかと思う。

154.「ウォールフラワー」 11/24、TOHOシネマズ・シャンテ(日比谷)。 評価★★☆ アメリカ映画、スティーヴン・チョボスキー監督作品。 アメリカの高校生の交友や恋愛などを描いた青春映画。 主人公は内気な男の子で、高校生活になじむのに苦労するが、やがて或る兄妹が友人となってくれ、また彼の文学的才能を認めてくれる教師も現れて、しだいに充実した高校生活を送れるようになる、というような筋書き。 友人になってくれる兄妹がこの映画の魅力。 特に兄を演じるエズラ・ミラーがいい。 と、ここまでなら合格点の映画なのだが、ほかに主人公と亡くなった叔母との関係というのが間欠的に出てきていて、これが不出来なのである。 省いたほうがよかった。 これで平均以下の出来になってしまって、残念。

153.「父ありき」 11/24、神保町シアター。 評価★★★ 小津安二郎が昭和17年に監督した映画。 妻に先立たれてひとりで息子を育てている男 (笠智衆) の話。 戦前の日本が舞台である。 彼は金沢で中学教師をしていたが、箱根に修学旅行に行った際に生徒が無断で芦ノ湖にボートを漕ぎ出して溺死するという事件が起こる。 彼は責任をとって辞職し、故郷の村に帰って旧友である住職の世話で村役場に勤めるが、息子が中学に進学してカネもかかるようになったため、東京に出て民間企業のサラリーマンとなる。 息子は地方の中学高校 (いずれも旧制) をへて仙台の帝大に進学、卒業後は秋田の工業高校に教師として赴任し (息子の成年後は佐野周二)、相変わらず父とは一緒に暮らせない。 やがて息子に縁談の話が出るが・・・。 映像は戦後の小津の作品と同じような感じで、日本家屋や親子の対話を様式感を強調しながら映し出している。 また父子の会話は現代なら気恥ずかしくて不可能だろうなと思うくらいマジメである。 映像は比較的良好だが、雑音が多くて会話がよく聞き取れない部分があるのが残念。

152.「狂走セックス族」 11/23、シネマヴェーラ渋谷。 評価★★ 皆川隆之監督作品、1973年。 お金持ちのお坊ちゃんが渋る父親を知り合いの美人局におどさせて、なんとか750のオートバイを手に入れ、それでかねてから自分たち若者のバイク族を狙って取り締まりをしていた白バイの警官 (渡瀬恒彦) を出し抜くが、やがて警官も復讐に・・・・というようなお話。 タイトルにあるようにセックスシーンもそれなりにあるけど、なんかバイクブームの風俗に乗じたような映画で、全体に充実感に乏しい。

151.「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」 11/23、シネマヴェーラ渋谷。 評価★★ 石井輝男監督作品、1969年。 江戸川乱歩の 『パノラマ島奇談』 などをもとに脚本を作り映画化したもの。 しかし、どうも乱歩の世界をうまく再現できたとは思われない。 特にパノラマ島の再現には完全に失敗している。 また最後近くの近親相愛は話が性急で説得性に乏しい。 ああいう幻想世界は、いっそアニメならばうまく表現できるのかも知れないね。 或いは、今ならCGが発達しているから別の結果になったかも。

150.「花と龍」 11/21、新文芸坐(池袋)。 評価★★★ 下(↓)に続いて見た中村錦之助特集の一本。 山下耕作監督、1965年。 明治時代、四国に生まれた男 (中村錦之助) が、狭い日本を脱出して満州に行きたいと思うものの、ふとしたことから知り合ったブラジル行きを希望する女 (佐久間良子) と結ばれて、北九州の沖仲仕をまとめる役をして、やがて組長にまで出世していく、というお話。 ヤクザは、今では暴力団と呼ばれて完全な無法者あつかいだけど、かつては冲仲仕など日雇い労働者の集まりが○○組と名のっていたわけで、そういう世界を描いた映画として、今の目で見ると結構面白いところがある。 主人公は争いを好まないのだが、やむを得ない事情や他組の悪辣な手段に我慢がならずに、というパターンが守られている。 平和主義なんですね。 淡路恵子が女賭博師の役で出ている。 藤純子のお竜さんに先立つこと3年。 ちなみに監督もお竜さんの第一作 『緋牡丹博徒』 に同じ。

149.「独眼竜政宗」 11/21、新文芸坐(池袋)。評価★★★ 新文芸坐の中村錦之助特集で見た映画。 河野寿一監督作品、1959年。 戦国時代末期、伊達藩の若き藩主・政宗 (中村錦之助) が、秀吉の派遣した暗殺団に襲われて片目を失うものの、やがて元気を取り戻して藩主として再出発するまでを描いている。 でも見ていてアレと思うところも結構ある。 若殿として近隣のお姫様 (大川恵子) と見合いをするのだが、思うところあって政宗のほうで断っているのに、彼が片目を失った直後に床に伏すと姫君が見舞いに来たり (見合いで断られたお姫様がそんなことするわけないでしょ)、別に農民の娘 (佐久間良子) と仲がよくなったり (身分違いが明瞭なのにそんな仲になるわけないでしょ。 妾にするならアリだろうけど)、「ありえねー」 というエピソードが多くて笑えるのだ。 まあ昔の時代劇って (或いは今でも) こういうものだったのかも知れないね。 佐久間良子はこのときちょうど二十歳。 ういういしい美しさは、後年のちょっとすました感じとは違っていて新鮮味がある。

148.「セイフ・ヘイヴン」 11/20、ヒューマントラストシネマ有楽町。 評価★★★☆ アメリカ映画、ラッセ・ハルストレム監督作品。 事情があって家庭を捨て警察の手を逃れて長距離バスに乗り、海辺の小さな町にやってきて住み着いた若妻。 そこで土産物屋を営む青年は、妻に病死されて子供ふたりを育てていた。 やがて彼と親密になる彼女。 しかし、警察の手が徐々に延びてきていた。 はたして彼女は何をしでかしてこの町に逃げてきたのか・・・・。 若い既婚女性が人生をやり直すというお話で、彼女を追う警察、そして住み着いた町で彼女を助けてくれる女性に、それぞれからくりがある。 すごく新鮮というほどではないし、定型的な部分もあるけれど、それなりに楽しめる映画になっている。 ヒロインを演じるジュリアン・ハフも魅力的。 

147.「父の秘密」 11/20、ユーロスペース(渋谷)。 評価★★★ メキシコ映画、マイケル・フランコ監督作品。 妻を交通事故で失った中年男の料理人は、一人娘を連れて遠い町に転居する。 彼はそこで職を見つけ、娘は新たな学校に通い始める。 しかし妻を事故で死なせたことがトラウマになっている彼はなかなか新しい環境になじめない。 他方、娘は学校でイジメにあって・・・・。 予告編から予想していたのとはかなり違う内容で、娘がイジメを受けるお話がメインなのである。 そこは結構リアル。 でも結末が 「えっ?」 なのだ。 まあ、心情的には分かりますけどね。 娘役のテッサ・イアが可愛い。 こういう可愛い女の子は、もう少し友人づきあいに用心深くあるべきじゃないかなあ、とおじさんは思うぞ。

146.「眠れる美女」 11/20、イメージフォーラム(渋谷)。 評価★★☆ イタリア、フランス合作、マルコ・ベロッキオ監督作品。 植物状態にある人間の死の問題を扱っている。 イタリアの国会で、17年間昏睡状態にある女性の延命措置をやめる法案の提出をめぐって、国会議員が悩む。 彼には以前、類似状態の妻を死なせた過去があった。 また、娘が同様の状態にある別の家庭の物語と、自殺願望を持つ若い女性を救おうとする医師の物語がこれと並行して展開される。 ・・・・シリアスな内容だけど、逆に言うと命は大切だという大前提から作られていることが明らかで、延命が本当に大事なのかという哲学的な問いかけはあんまり感じられない。 最初に結論ありきの映画なのでした。

145.「ある女学生の日記」 11/15、シネ・ウインド。 評価★★☆ 北朝鮮映画、イム・ラエ監督作品、2007年。 北朝鮮映画を見る機会はあまりないので、物珍しさから鑑賞してみた。 以前怪獣映画 「プルガサリ」 を見て以来である。 物語は、父が研究所勤務でめったに帰宅しない家庭で育っている女子高校生が、母、祖母 (父の母)、そして妹の3人で留守宅を守りながら、進学に悩んだり、父を恨んだりしながら暮らしていき、やがて理工系の大学進学を決めるまでを描いている。 将軍様の歌を合唱するシーンがあるとか、教室などには金日成と金正日の写真が掲げてあるとか、多少の北朝鮮臭はあるけれど、家庭や進路に悩む普通の女子高校生を描いた映画としてまあまあの出来であろう。 ただし恋愛は全然描かれていない。 また映像はあまりよろしくなくて、全体に鮮明さを欠いているし、人物がみな上下に圧縮されたような映り方になっているのが難。

144.「太陽を盗んだ男」 11/12、シネ・ウインド。 評価★★★★☆ 長谷川和彦監督作品、1979年。 私はむかしロードショウで見たのであるが、このたびシネ・ウインドで上映されたので34年ぶりに見てみた。 中学校の理科教師 (沢田研二) が、プルトニウムを東海村の原発から盗み出し、それで原爆を作り出し、政府に脅しをかけるというお話。 昔見ていいなと思った映画でも、年月をへて再度見てみると失望する場合もあるけれど、この映画は違った。 忘れているシーンも多かったが、それを含めて十二分に楽しめた。 この時期の邦画を代表する作品だと思う。 虚無的であると同時にアナーキーな青年の心情をジュリーがよく表現している。 話の進行も巧みでなおかつ脚本が遊び心に満ちており、2時間半近い長尺の作品だけど全然飽きない。 ジュリーの女装シーンやカーチェイスのシーンなどサーヴィスも満点。

143.「ハナ 奇跡の42日間」 11/12、シネ・ウインド。 評価★★★★ 韓国映画、ムン・ヒョンソン監督作品。 1991年に千葉市で行われた世界卓球選手権で、韓国と北朝鮮が合同チームを作り、女子が団体戦で最強とされる中国を破って優勝したという実話をもとにした映画。 ただし個々のエピソードはフィクションが多いような印象である。 ともあれ、同じ民族ながら異なる国家体制のもとで暮らし卓球に打ち込んでいる選手たちが、ごたごたを経てしだいにチームの和を作っていくところは、定型的ながらよくできている。 北朝鮮の監視員による統制の厳しさもリアルだ。 南北選手の男女間の恋愛などはかなりありがちな感じだが、双方のトップ選手同士のライヴァル意識と友情はよく描けている (北朝鮮のトップ選手を、日本でもおなじみのペ・ドゥナが演じている)。 クライマックスの決勝で中国とぶつかるシーンは感動的。 私は卓球を描いた映画だというので見に行ってみたのだが、卓球ファンならずとも楽しめること請け合い。

142.「ルームメイト」 11/11、UCI新潟。 評価★★★★ 古澤健監督作品。 交通事故で入院した若い女性 (北川景子)が、そこで看護婦 (深田恭子) と知り合い、ルームメイトとして一緒にマンションで暮らすようになる。 最初は意気投合して楽しい生活だったが、やがてその看護婦に奇妙なところがあることに気づいて・・・。 というところまでだと、実はこの映画の最初のあたりにしか触れていないことになるのだが、ネタバレしてはいけないので、あとは映画館で見て下さいと言うしかない。 脚本はよくできており、主演ふたりが嫌いでなければ十分楽しめます。

141.「ダイアナ」 11/8、UCI新潟。 評価★★★★ 英国映画、オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督作品。 英国王室の皇太子妃になりながら離婚し、パパラッチに追いかけられる中で交通事故死したダイアナ。 この映画はそのダイアナが死ぬ2年前から、パキスタン出身で英国で外科医として勤務している男性とふとしたことから知り合い、恋愛に陥る様子を描いている。 貴族出身で英国の皇太子妃にもなった白人金髪女性が、アジアの有色人種でありイスラム教徒でもある男性と恋をするというのは相当にインパクトがある話。 ダイアナが王室というくびきを逃れて心のままに生きようとしながら、別種の壁につきあたり、また有名人であるが故に報道関係者に追い回されながら必死に生きている様子は、観客の胸を打たずにはおかない。 どういうわけか一般の評判はイマイチらしいけど、素直に見ればよくできた映画だということが分かるはず。 音楽の使い方もいい。 特にバッハ・ファンなら、出てくる音楽がよく吟味されて選ばれていることが分かるだろう。 主演のナオミ・ワッツも見事。

140.「カイロ・タイム 異邦人」 11/3、シネ・ウインド。 評価★★★ カナダ・アイルランド合作、ルバ・ナッダ監督作品。 雑誌編集者である中年女性 (パトリシア・クラークソン) は、国連職員でガザ地区にいる夫とカイロで落ち合う約束でやってくるが、仕事に多忙な夫は現れず、代わりに世話をしてくれるのが夫の助手をしていたエジプト人男性タレク (アレクサンダー・シディグ) だった。 慣れぬカイロでホテルの一人暮らしに戸惑う彼女を優しくサポートする彼。 そのうちに・・・。 不倫に至る筋書きなのかと思っていたが、精神的なよろめき、程度に終わっている。 まあ、何でもベッドシーンを入れればいいというものでもないから、これはこれで一品かなとも思う。 現実にはこのくらいの精神的な浮気で終わる人妻も結構いるかも。 でも映画としてはちょっと物足りないかな。 ただ、カイロ市内の様子や、タレクのかつての恋人だった女性の娘の結婚式に招待されてふたりでアレクサンドリアまで出かけていくシーンなど、見ているとエジプト旅行をした気分になれるところは悪くない。

139.「タイピスト!」 11/2、UCI新潟。 評価★★★ フランス映画、レジス・ロワンサル監督作品。 1950年代のフランスで、田舎から出てきた娘が事務秘書として雇われるが、タイピストとしての才能を発見され、雇い主の独身青年の特訓で国内のタイピストの競技会に出場し、さらには世界大会へ。そして青年との間には愛が・・・・というようなお話。 展開は読める映画だけど、ロマコメと考えればまあ悪い作品ではない。 あと、ヒロインを演じるデボラ・フランソワがオードリー・ヘプバーンに似ていて、また作り手もそれを意識しながら作っているようなところがある。 筋書きからするとさしずめ 「マイ・フェア・レディ」 かな。 ヒロインの魅力で持っている作品とも言えそう。

138.「42 世界を変えた男」 11/1、AEC新潟西。 評価★★★☆ アメリカ映画、ブライアン・ヘルゲランド監督作品。 第二次大戦後すぐ、大リーグで初めて黒人としてプレイした実在の人物を描いた映画。 黒人差別がまかりとおっていた当時のアメリカでは、当然ながら風当たりが強い。 見ていると、なるほどこういう風に差別されていたんだということがよく分かる。 また、当のドジャーズでも、選手たちが黒人選手導入反対の署名を集めたりする。 そうした圧力をはねのけるのが、黒人選手採用を決めたチームのゼネラル・マネージャー (ハリソン・フォード)。 黒人選手には絶対に怒るなと言い含めた上で、陰に陽に援助の手をさしのべる。 ・・・・非常に正攻法の映画で、また事実に依拠してもいるので、娯楽映画的な面白さだけを求める向きにはやや物足りないかも知れないが、細部までしっかりと作ってあり、本物の魅力とでも言いたくなるような手堅さがある。 そこを楽しむべきであろう。 

137.「マリリン・モンロー 瞳の中の秘密」 10/30、UCI新潟。 評価★★★★ アメリカ・フランス合作、リズ・ガルバス監督作品。 ドキュメンタリー。 生前マリリン・モンローと接点のあった人物へのインタビューや、彼女の映像、また写真などを多数そろえている。 私はモンローは特に好きでもなくて、映画史の一コマを見るつもりで映画館に行ってみたのだが、予想以上に面白かった。 モンローのすべてが捉えられているわけではないが、モデルから映画俳優になりながらも、時代の要請でセクシー・アイドル路線で行かなければならず、また同時期の女優でもエリザベス・テイラーと比べるとギャラがものすごく安かったらしい。 途中で20世紀フォックスと訣別してニューヨークに移り、改めて演技を学んでいる。 のちに映画会社とは和解するが、この一件である程度自分の希望を通せるようになったらしい。 また2度目 (ディマジオ) と3度目 (アーサー・ミラー) の結婚についてや、睡眠剤の使用量が増えていったことなど、しだいに彼女が精神的に追い詰められていく過程がよく分かるようになっている。 たくさんの映像や写真で、一般に流布しているモンローのイメージとは違う彼女の姿を見ることができるのも貴重。

136.「潔く柔く (きよくやわく)」 10/27、UCI新潟。 評価★★★ 新城毅彦監督作品。 23歳、会社つとめのカンナ (長澤まさみ) は、高校時代に幼なじみだった男子同級生 (高良健吾) を交通事故で失ったことがトラウマになっていた。 たまたま仕事の関係で知り合った少し年上の男性 (岡田将生) と時々会うようになるが、彼も実は幼い頃に幼なじみの女の子を事故で失う体験をしていた。 二人は過去を抱えて生きながら、何となく惹かれ合っていき・・・。 少女マンガが原作だそうで、まあ行き着くべきところに行き着くのではあるけれど、そこに至るまでの過程を楽しむ映画だろう。 長澤まさみや岡田将生が好きな人にはそれなりだと思う。 長澤まさみも 『ロボコン』 時代から比べるとずいぶん大人っぽくなったね。

135.「クロワッサンで朝食を」 10/26、シネ・ウインド。 評価★★★ フランス・エストニア・ベルギー合作、イルマル・ラーグ監督作品。 飲んだくれの夫とは別れ、子供二人は自立し、老母を看取って一人暮らしになったエストニア人中年女性 (ライネ・マギ) が、パリで一人暮らしの老婦人 (ジャンヌ・モロー) を世話する仕事を得て、憧れの花の都に赴くが、エストニア出身だというその老婦人はかたくなで、ひどく扱いにくかった、というお話。 巷ではジャンヌ・モローが出るというので話題のようだけど、私はむしろライネ・マギの、中年ながら整った容姿に惹かれました。 若い頃は絶世の美人だったんじゃないかと。 それから、かつては老婦人の若い燕だったという役で出てくるパトリック・ピノーだが、かのジャン・レノそっくりで、私はてっきりレノだとばかり思って見ていました。 似ている俳優っているんだね。 筋書き的には、中盤までは砂糖もミルクも入っていない苦いコーヒーみたいだが、最後は砂糖とミルクが入って、凡庸な終わり方になっていたのが残念。

134.「トランス」 10/24、UCI新潟。 評価★★★ 英米合作、ダニー・ボイル監督作品。 オークションの会場を襲って有名絵画を襲う計画を立てた数人のグループ。 内部にいて絵画を直接持ち出し途中で仲間に渡す役の男がいた。 しかし仲間が逃亡先で堤を開いたところ、額縁だけで肝心の絵画は入っていなかった。 持ち出し役の男は絵画をどこに隠したのか。 当日のショックで覚えていないと言い張る彼を、仲間たちは精神分析の専門家である女医に診せる。 治療が進む中、女医も実は絵画に興味があって・・・・。 話としては、途中までの筋書きの進行が途中から別様に見えてくる巧みさがあって、まあ悪くはない。 ただ、もう少し構図がはっきりと見えるような作りにしてほしかった。 やや錯綜していて、見終えた後のすっきり感が足りないような。

133.「蠢動 しゅんどう」 10/23、AEC新潟西。 評価★★★☆    三上康雄監督作品。 江戸時代享保期の山陰は因幡藩を舞台に、幕府に隠れて凶作に備えた新しい田畑を開発していた藩が、幕府から派遣された剣術指南に探りを入れられて、ことが露見しそうになるというところから話が始まる。 かつて因幡藩は或る事件で幕府から咎めを受けそうになったが、その時は藩士のひとりが責任をかぶって切腹し、かろうじて事なきを得たという経緯があった。 今回、藩は幕府の剣術指南を暗殺し、それを藩士の個人的な怨みによるものと見せかけようと画策する。 その結果・・・・。 雪の西日本山岳地帯にロケをしたという風景の中を、藩士たちがひたすら歩き、そして闘いにいたるシーンが美しく、またリアルでもある。 音楽の代わりに、クライマックスでは和太鼓が使われている。 キャストは地味目だし目を惹くような派手な演出もないが、堅実でしっかりと作られた時代劇。 

132.「人類資金」 10/22、AEC新潟西。 評価★☆ 阪本順治監督作品。 原作を私は読んでいないのだが、カネをかけていないマイナーな映画ならともかく、(ロシアやNYや東南アジアにロケもしているなど)カネをかけているメジャー邦画でこれくらいひどい映画も珍しい。 筋書きはたるんでいて緊張感に乏しく、なおかつ行き当たりばったりで説明も不足している。 映像には魅力がなく、せっかくのキャストを活かせていない。 最後の解決も子供だまし。 阪本監督、映画監督を廃業なさい、と言いたくなっちゃうくらいの出来。 映画館に行くのはカネの無駄です。 私はポイントがちょうどたまっていたので無料鑑賞したのだが、時間を無駄にしたと立腹してしまった。 

131.「クロニクル」 10/19、UCI新潟。 評価★★☆ アメリカ映画、ジョシュ・トランク監督作品。 平凡な高校生3人がふとしたことから超能力を身につけてしまう。 物を念力で動かし、空中を飛ぶこともできる。 最初は仲間にウケたり、校内の催しで超能力を披露して悦に入っていた彼らだが、しかし1人が病気の母のために高価な薬代を工面しなくてはならなくなり・・・・。 超能力ものではあるが、スーパーヒーローになるわけではなく、平凡なままでその能力の使い道に四苦八苦するというところがミソの映画。 また、1人はカメラオタクで何でも撮影してしまうのだが、そのシロウトっぽい映像がいつの間にかこの映画の映像として使われている、つまり、日常的な出来事だということが、つたない映像によって強調されているところが新鮮、らしい。 ただ、最初はそれでいいとしても、85分の映画をそれだけで持たせるのは難しい。 低予算映画ながらアメリカでは新鮮さが受けて大ヒットしたそうだが、映画を見慣れた人間を唸らせるにはちょっと足りないような気がしました。

130.「偽りの人生」 10/18、AEC新潟西。 評価★★★ アルゼンチン・スペイン・ドイツ合作、アナ・ピターバーグ監督作品。 中年男アグスティン (ヴィゴ・コーテンセン) はブエノスアイレスで医師として働いていたが、妻との子供のない生活に何か空虚なものを感じていた。 他人の赤ん坊を養子にする話が進行していたが、不意に何もかも嫌になった彼は土壇場で話をなかったことにしようと言い出し、妻と対立してしまう。 そこに、しばらく会っていなかった双子の兄ペドロ (モーテンセンの二役) が訪れ、自分は末期ガンだと告白。 そんな兄を殺してしまったアグスティンは、兄を装って、兄の住んでいるデルタ地帯に移り住む。 しかし、犯罪者として生きていた兄とそれを囲む人々の暮らしは、医師として首都に暮らしていたアグスティンの予想とはかなり異なっていた・・・・。 双子の一方は医師で他方は犯罪者、そして医師が犯罪者を装って暮らすという話はおもしろそうな感じがするけれど、予想外に地味で、もう少し何か盛り込めないのと言いたくなる映画だった。 また、都会で妻との暮らしが行き詰っているという設定もイマイチ説得力が不足している。 この映画で興味深いのは、ペドロの住むデルタ地帯の風景だ。 川沿いに家がぽつりぽつりと散在しており、舟が交通機関の役割を果たす。 或いは喬木が続く林の独特な雰囲気。 ちょっと行ってみたくなる景観は一見に値する。 ドラマとしてはたいした出来ではない。

129.「最愛の大地」 10/12、AEC新潟西。 評価★★☆ アメリカ映画、アンジェリーナ・ジョリー製作・監督。 1990年代、ユーゴスラヴィア解体後のボスニア・ヘルツェゴビナで、セルビアがモスリムに対して虐殺とレイプの限りを尽くしたときの模様を映画化したもの。 モスリム狩りが続く中、セルビア人の青年将校が愛情を寄せていたモスリム女性をかばって、ひそかに男女の関係を続ける様を軸とし、戦時下の旧ユーゴの情勢を描いている。 しかし時代や地域情勢について、歴史や問題点をそれなりに盛り込みながら説得的に理解させる社会派的な作品になりおおせているかというと、どうも物足りない。 虐殺やレイプを描くのはいいが、それがどういう歴史的経緯から来たのかはもう少し丁寧になぞるべきだ。  単にヒューマニズムを訴えればそれでいいというものではない。 軸になっている男女関係もやや単調。 アンジェリーナ・ジョリーの映画監督としての力量には 「?」 マークがつきそう。

128.「麗しのサブリナ」 10/12、シネ・ウインド。 評価★★★★ 言わずと知れたオードリー・ヘプバーン主演の名作。 1954年、ビリー・ワイルダー監督作品。 多分、30年ぶりくらいに見てみた。 ずいぶん忘れているところがあって、そうだったかなと思いながら楽しんだ。 この映画、時代設定がよく分からないのだが、ニューヨークの警官が馬に乗っているのである。 また、サブリナはパリに行って淑女として戻ってくるわけだが、パリはこの映画ではちゃんと出てこない。 つまり、実地に飛んで撮影していないということ。 経費の関係かなあ。 それから、主演の三人 (ヘプバーン、ハンフリー・ボガート、ウィリアム・ホールデン) はもちろんだが、脇役が充実しているということ。 特に富豪兄弟の父役であるウォルター・ハンデンと、サブリナの父役のジョン・ウィリアムズがいい。 脇役が充実している映画はやはり出来がいいのだと納得。 サブリナの父のせりふ 「富豪が貧乏人と結婚すると民主主義的だと賞賛されるが、貧乏人が富豪と結婚してもそうは言われない」 がかなり効いている。 昔見たときも思ったけれど、ヘプバーンとボガートってミスマッチみたいで、そこがかえってこの映画では良い結果を生んでいるような。 

127.「パパの木」 10/11、シネ・ウインド。 評価★★☆ フランス・オーストラリア合作、ジュリー・ベルトゥデェリ監督作品。 オーストラリアの田舎でそれなりに幸せに暮らしていた夫婦と子供たちだが、夫が急死してしまう。 家のそばには巨大な樹木が生えていて、6歳の娘 (モルガナ・デイヴィス) は樹木がパパだと言い、そこから離れたがらない。 しかし妻 (シャーロット・ゲンズブール) にはやがて別の男ができる。 娘は反発して・・・・。 前半の展開はまあまあだけど、後半がイマイチなのである。 新しい男に惹かれる母が、父が忘れられない娘と対立するいっぽうで、家族のこれからをどうするかという問題に悩む、はずなのに、その辺が脚本で十分に描かれていない。 そして結末もご都合主義で幕となる。 脚本力の弱さが残念な映画。 見どころは、最初に出てくるが、一軒家をトラックで運送するシーン、そして6歳の娘を演じるモルガナ・デイヴィスのかわいらしさ。

126.「ランナウェイ 逃亡者」 10/5、UCI新潟。 評価★★★ アメリカ映画、ロバート・レッドフォード監督&主演。 ヴェトナム戦争を契機とした1970〜80年頃の反戦・反体制運動にコミットしていた世代もいまや老境。 しかし、かつて過激な運動の過程で銀行強盗をして守衛を殺してしまったグループがあった。 その一人である女性が、長年別名で主婦業を営んでいたことがバレてFBIに逮捕されたのを契機に、他の仲間たちにも捜査の手が伸びる。 かつてこのグループの一員だったが故に銀行強盗にも加担したと疑われている主人公 (レッドフォード) は、しかし実際は銀行強盗には加わっておらず、現在は別の名で弁護士業を営み、自分よりかなり若い妻との間にできた近く12歳になる娘を、妻が早世したために一人で育てていた。 そんな彼の過去を、若い新聞記者が記事にしてしまう。 そこから彼の逃亡劇が・・・・。 逃亡者となった主人公が昔の仲間を訪ねて、情報や助力を得ながら逃げ延びていくのが筋書きだが、逃げること自体がこの映画のテーマなのではなく、むしろ彼が久しぶりに再会する昔の過激派仲間が今はどうしているかという、一種同窓会的な描写がミソとなっている。 ただ、そういう過激派の同窓会がでは特別の感慨をもよおさせるかというと、どうもその辺が弱いのである。 主人公が銀行強盗に加わっていなかったことを立証できる立場にある女性の動きも、ややご都合主義の臭いがする。 ただし、むかしこのグループの捜査に加わっていた元警官に 「実は」 があって、ここが少しほろりとさせる。 

125.「ブルーノのしあわせガイド」 10/4、シネ・ウインド。 評価★★★ イタリア映画、フランチェスコ・ブルーニ監督作品。 ローマで気ままな一人暮らしを楽しむ中年男ブルーノ。 職業はゴーストライター兼家庭教師。 その彼のところに、息子を半年だけ預かって欲しいという女性が。 じつはその子の父親はブルーノ自身だった。 息子はしかし問題児で、勉強には目もくれない。 父親であることに目覚めたブルーノは何とか息子を教育しようとするのだが・・・・。 あまり深刻にならずに軽く楽しむべき映画だが、最後のあたりはちょっとご都合主義なところもある。 ブルーノが自伝のゴーストライターを務める女優役のバルボラ・ボブローヴァがなかなか魅力的だ。

124.「そして父になる」 10/2、AEC新潟西。 評価★★★☆ 是枝裕和監督作品。 病院で生まれたばかりの赤ん坊が取り違えられ、他人の子供を育てていたと判明した2つの家族。 子供はすでに6歳。 一方は東京のデラックスマンションに住むエリートサラリーマン一家、他方は前橋に住む電気器具販売店。 2つの家族はそれぞれに苦悩しながら解決策を模索する。 結局は何度か一緒に過ごす機会をもうけたあと、子供を交換するのだが・・・・・。 実際にあった事件にヒントを得た映画らしいが、あくまで監督のこだわりというか、家族に対する考え方が随所に表れている作品である。 その辺をどう評価するかが、この映画の評価にも影響を与えそう。 キャストは、エリートサラリーマンの福山雅治、電気商のリリー・フランキーなど、達者な役者がそろっており、子役も悪くない。

123.「ビザンチウム」 9/26、TOHOシネマズ・シャンテ(日比谷)。 評価★★★ 英・アイルランド合作、ニール・ジョーダン監督作品。 バンパイアである自称姉妹、実は母娘が青年と知り合う。 彼は母の残したホテルを所有しているが無能だった。 そこで母娘は彼のホテルを利用して商売を始めるが、娘のほうは別の病弱な青年と知り合ったことをきっかけに自分の生き方に疑問を抱く。 そして二人がバンパイアになった経緯とは・・・・・・。 吸血鬼のお話なので吸血シーンはあるけれど、ホラー映画というよりは、それを変形した人生譚になっている。 まあまあ面白いけれど、インパクトはやや弱いかな。 バンパイアの世界にも男性中心主義があるという設定が、少し可笑しい。 ヒロインを演じるシアーシャ・ローナンはバンパイアの雰囲気が全然ない 「清く正しく」 風の美少女なんだけど、ミスマッチングを楽しめばいい。

122.「マリア・ブラウンの結婚」 9/26、早稲田松竹。 評価★★★☆ ドイツ映画、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品、1979年。 いわゆるニュー・ジャーマンシネマを代表する作品だが、私も見たのは初めてである。 第二次世界大戦中に兵士である男性とあわただしく結婚したヒロインが、夫が戦死したと知らされて、戦後の混乱期のドイツでキャバレーに勤務してアメリカの黒人軍人に見初められるが、彼と結ばれかけた晩に死んだはずの夫が戻ってくる。 その場で黒人の軍人を殺してしまう彼女だが、夫が罪をかぶって服役する。 彼女は夫のために仕事を探すうちに、裕福なフランス人実業家に見初められ・・・・。 戦後の混乱期をたくましく、しかし本人の意識ではあくまで夫への貞節を守りながら生き抜いていく女のお話。 映画チックで娯楽的な要素もそれなりにあり、楽しめる。 また戦後西ドイツの社会や歴史がそれなりに作品からうかがえる。

121.「甘い鞭」 9/25、丸の内TOEI。 評価★★★★ 石井隆監督作品、R18+。 原作は大石圭の小説だそうだが、私は未読。 ヒロインの高校生時代を間宮夕貴が、その15年後の女医時代を檀蜜が演じている。 ヒロインは高校生時代に近所の引きこもり男によって地下室に監禁され一ヶ月にわたり乱暴された過去があった。 男を殺して逃げ出して、長じて女医になってからも、表向きの昼間の仕事以外に夜のお仕事を抱えている。 現在の彼女の夜のお仕事と15年前の過去とが交互に映し出され、女子高校生モノと女医モノのポルノグラフィーが並行して楽しめるのがミソ。  他方で、性的な快楽の追求の果てに何が訪れるかという問題にも触れている。 美しいヒロインふたりが裸体を余すところなくさらしており、筋書き的にも工夫が凝らされていて、この手の映画としてよくできていると思う。

120.「私が愛した大統領」 9/24、ル・シネマ(渋谷)。 評価★★☆ 英国映画、ロジャー・ミッシェル監督作品。 アメリカの大恐慌時代から第二次大戦時代に君臨したフランクリン・D・ルーズヴェルト大統領。 その彼 (ビル・マーレイ) が、仕事や家族関係に疲れ果て、あるとき従妹 (ローラ・リニー) の手助けを求めてくる。 彼女はそれに応じるが、困難な政局ばかりでなく、強い母や妻に囲まれた大統領が求めているものが何かを察して、しだいに彼との独特な関係にとりこまれていく・・・・。 面白そうな映画だと思ったのだが、そして途中までは期待通りだったのだが、残念ながら尻すぼみで、「え、これで終わりなの?」 でした。 途中で英国王 (映画 『英国王のスピーチ』 のジョージ6世) 夫妻がアメリカの助力を求めにやってくるのだが、このエピソードが大きく扱われすぎていて、肝心要のヒロインと大統領との関係が背景に押しやられている。 作り方を間違えたと言うしかない。 

119.「許されざる者」 9/20、AEC新潟西。 評価★★★ 李相日監督作品。 クリント・イーストウッド主演の同名映画のリメイク。 明治初期の北海道を舞台に、幕末には幕府方ながら人斬りとして恐れられた主人公 (渡辺謙) が、その後北海道でアイヌ女性と結婚しひっそりと暮らしていたものの、妻に死なれ生活も楽ではなく、かつての仲間 (柄本明) から誘われて賞金を稼ぐために、女郎に重傷を負わせた男を追うという物語。 そこに、北海道のある地域を暴力的に支配する官憲の長 (佐藤浩市) が絡んでくる。 ・・・・北海道の雄大な自然など映像面では見どころが多いけど、筋書き的には、いちどは亡妻との約束で人を殺さないと誓った男がどういうふうに考えを変えていくのかがイマイチ伝わってこず、どこか説得力に乏しい印象が残る。 幕末戦争の幕府方 (敗者)、アイヌ、女郎という、いわば弱者による三者同盟がかなりくっくりと描かれているところが、良くも悪くも監督の意向を反映しているのであろう。

118.「海と大陸」 9/19、シネ・ウインド。 評価★★★ 伊・仏合作、エマヌエーレ・クリアレーゼ監督作品。 イタリア領ながら本土から遠く離れて地中海に浮かぶ島リノーサ島。 漁業も昔に比べて不振で、老人と嫁と孫息子 (老人の息子はすでに死去) の3人家族も、所有する漁船が老朽化しており、転業を迫られている。 そんな或る日、海で遭難しかかっているアフリカからの不法難民を発見した老人と孫息子は、不法を承知の上で溺れかかっていた数人を救出。 しかし警察に咎められて船は使用禁止になってしまう。 警察からかくまって自宅に隠した子連れのアフリカ女性は妊娠しており、やがて出産。 といって貧しい彼らに養う余裕はなく、出て行って欲しいと思うものの・・・・。 地中海に浮かぶ島の産業問題、そしてアフリカからの不法難民問題がからむ社会派的な映画。 漁業不振から敢行に活路を見出そうとする島民たちや、観光でやってくる本土の若者たちとの交流など、様々な場面があるが、むろん真の解決がどこにあるかは容易には決められない。 ただ、今現在のイタリアの島民たちが抱えているいくつもの難題ははっきりと浮かび上がってくる。 地域的な問題にこそ、現在の地球が直面している問題がはっきりと表れていると認識させられる映画だ。

117.「ローマでアモーレ」 9/17、シネ・ウインド。 評価★★★★ 米・伊・西合作、ウディ・アレン監督作品。 アレンはこのところヨーロッパの都市を舞台にした映画をいくつも作っているが、これはその中でもよくできたほうだと思う。 といっても筋書きはかなりはちゃめちゃで、いくつかの男女関係などが並行して描き出されているのだが、それぞれに映画らしく (?) 進行はテキトーだし奇想天外だしご都合主義的なのである。 ただ、それがこの映画にあっては欠点とはなっておらず、むしろ映画の楽しさをそのまま純粋に観客が味わうことを助けてくれている。 老いの闊達さ、のようなものがアレンに生まれてきているのではないか。 或いは、舞台がローマだからかもしれない。 肩肘張らずに、頭をからっぽにして、気軽に楽しく見るのが正解。 国際的に配給される映画には初登場らしいイタリア女優アレッサンドラ・マストロナルディが美しい。

116.「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」 9/13、シネ・ウインド。 評価★★★ アメリカ映画、佐々木芽生監督作品。 同じ監督による「ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人」 の続編である。 要するにアメリカに住む平凡な夫婦が、現代アートのコレクションを趣味にしていて、瞠目すべきコレクションを作り上げるというお話。 むろんお金持ちではないので、自分で買える価格であること、自宅マンションに飾れる大きさであることが条件になっている。 さて、前作ではその夫婦の生きてきた軌跡とコレクションの内容を紹介したのだが、今回は老いた二人がコレクションを美術館に寄付する話がメインになっている。 しかし点数が多すぎて一つの美術館にはとても収納しきれないので、全米50の州の各1館に50点ずつ寄贈されることになったのだそうだ。 二人は自分のコレクションを見るために全米の美術館めぐりをする。 もっとも、夫ハーブのほうは老齢ですでに車椅子の生活になっており、途中で亡くなってしまうのだが。 ともあれ、現代美術に接したこともない田舎の人々もこれによりアートへの接近が容易になったこと、また、アメリカでも経済不況により閉館する美術館が増えてきていることなど、アートをめぐる色々な事情が伝わってくるドキュメンタリー映画である。

115.「ザ・フューチャー」 9/12、シネ・ウインド。 評価★☆ 米独合作、ミランダ・ジュライ監督作品。 LAで同棲している三十代の男女が、飼い猫の入院を機に新しい生き方を模索するが、結局女は別の中年男と同棲することになり、男はひとり残されて暮らす・・・・というようなお話。 入院していた飼い猫は、どちらも期限までに引き取りに来なかったので、処分されてしまう。 つかみどころのない映画で、筋書きもいい加減なら、映像的にも特に見どころもないし、ファンタジー的な要素も若干はあるけどたいしたこともないし、女性監督がみずから主演しているんだけど特に美形でもないし胸も尻も薄いし・・・・。 要するにほめるところが見当たらないのである。 芸術のつもりで、出来上がったのはナッシングでした、という感じかな。 ウインドももう少しマシな映画を持ってきてもらいたいものだ。

114.「25年目の弦楽四重奏」 9/7、AEC新潟南。 評価★★★☆ アメリカ映画、ヤーロン・ジルバーマン監督作品。 長年一緒に弦楽四重奏団として演奏してきた4人。 うち、第二ヴァイオリンの男とヴィオラの女は夫婦。 ところが或る日、いちばん年長のチェリストがパーキンソン病にかかり、引退を申し出る。 新しいチェリストを探さなくてはならないが、このアクシデントを機に、4人の人間関係に思いがけない暗雲が垂れ込め、予期せぬ出来事が続発し・・・・。 4人がベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番を演奏することになっていて、この曲が全体を通して使われているところが、作品の統一的なイメージを高めるのに寄与している。 4人の人間模様もかなり色々あって、結構ハードな映画になっている。 最後の収め方がやや安易というか、強引な感じがするけど、クラシック音楽ファンは見ておいて悪い作品ではない。

113.「サイド・エフェクト」 9/6、AEC新潟西。 評価★★★ アメリカ映画、スティーヴン・ソダーバーグ監督作品。 英国出身ながらアメリカで精神医として働いている中年男 (ジュード・ロウ)は、或る女性患者 (ルーニー・マーラ) が精神的に不安定なため、薬を処方する。 彼女は、夫がちょっとしたきっかけで犯罪を犯し、刑務所から出所してきて新しい暮らしを始めたばかりであった。 ところが、その女性患者は夫を刺殺してしまい、しかもその記憶がないという。 処方した薬に問題があったのか、それとも・・・・? というような筋書きで、前半は結構面白い。 後半に行くとちょっと筋書きがあやふやになるというか、それまでは精神医が一種の視点人物の役割を果たしていたのに、彼の行動が果たしてまともなのかどうか分からなくなってくる。 ただ、そこのところが作品全体の質を高めるのに寄与しているかというと、微妙なのだ。 もう少し切れ味の鋭い刃物ですぱっと斬ったような解決が欲しかった。

112.「さよなら渓谷」 9/3、AEC新潟西。 評価★★★☆  大森立嗣監督作品。 母親の子殺し事件が起こり、その母親がアパートの隣りに住んでいる若夫婦の亭主 (大西信満) のほうと関係があったと供述したところから、彼も警察から取調べを受ける。 このネタを追う週刊誌記者 (大森南朋) は、調べていくうちに彼が以前女性暴行事件を起こした経歴があることを突き止める。 はたしてその妻 (真木よう子) は夫の過去を知っているのか。 さらに調べていくと意外な事実が・・・・。 夫婦のミステリアスなあり方から、女性暴行という重いテーマを浮かび上がらせる作品である。  主演の真木と大西はいずれも好演している。 ただ、週刊誌記者の大森南朋はちょっと冴えないし、脚本も週刊誌記者の夫婦関係にもある程度時間を割いているのだが、ここは余計な感じがする。 大西と真木の夫婦関係に絞った映画にしたほうがまとまりがあって良かったのではないか。 

111.「天使の分け前」 9/2、シネ・ウインド。 評価★★★   英・仏・伊・ベルギー合作、ケン・ローチ監督作品。 英国を舞台に、下層階級の出で暴力沙汰にあけくれていた若者が、恋人が赤ん坊を産んだことをきっかけにまともな生活を送ろうとする、というお話。 予告編では、たまたまウィスキーの鑑定に才能があってということだったので、その方向でまじめに働くという話なのかと思っていたら、少し違っていて・・・・・。 コミカルな展開の映画だけど、細部にはあまりこだわってはいけないみたい。 大雑把な気持ちで楽しむべき映画、なんでしょう、多分。

110.「夏の終り」 8/31、UCI新潟。 評価★★☆ 瀬戸内晴美原作、熊切和嘉監督作品。 昭和30年代前半の日本を舞台に、夫と幼い娘を捨てて若い男 (綾野剛) のもとに出奔したが、その後彼と別れて妻子ある中年作家 (小林薫) の囲われ者になっている女性 (満島ひかり) が、若い男と再会して、二人の男の間で揺れる様子を描いている。 のらくらして変に優しい中年作家を演じる小林薫はなかなかいいが、満島ひかりは全然肌をさらしていないし (笑)、綾野剛にも若い男らしいギラギラした欲望みたいなものがあまり見えない。 何より、彼らの関係や一人一人の思惑や性格を突き詰めて表現することをしない監督の、手際の悪さにうんざりした。 この監督は以前の 『海炭市叙景』 でもそうだが、漠然と映像を積み重ねていくことしかできない人で、こういう、不倫と三角関係といった脚本の映画には向いていないんじゃないかな。

109.「ペーパーボーイ 真夏の引力」 8/27、AEC新潟西。 評価★★☆ アメリカ映画、リー・ダニエルズ監督作品。 1969年のフロリダを舞台に、大学を中退した青年ジャック (ザック・エフロン) が、無実の罪を着せられたと思しき刑務所内に収監されている中年男 (ジョン・キューザック) に恋する女性 (ニコール・キッドマン) に惹かれながら、同時に新聞記者である兄 (マシュー・マコノヒー) およびその友人である黒人記者 (デヴィッド・オイェロウォ) と共に事件の解明に乗り出していく様子、そしてこうした人物たちの奇妙な人間模様や意外性を追った作品。 ・・・・・いちおう主軸は事件の解明ではあるが、それ以外に主人公の青年の年上の女性に対する片思いだとか、徐々に明らかにされる意外な人間関係だとか、当時はアメリカ南部ではまだ人種差別的な考え方が根強かったところだとか、色々な要素が入っていて、まあ1969年当時のアメリカ南部の雰囲気を味わいたい人にはいいかなとも思う。 だけど、アメリカ映画にありがちな散漫な風俗描写が、どうも作品のグレイドを低くしてしまっているような印象である。 作中重要な役割を果たす沼沢地の風景は、ちょっと面白い。 ちなみにこの映画、新潟ではAEC新潟西の単独上映だが、観客は私を入れて4人のみだった。 106にも書いたけど、新潟市の映画をめぐる状況、どうにかしなきゃ。

108.「処女の泉」 8/22、シネ・ウインド。 評価★★★ シネ・ウインドのベルイマン特集の一本。 1959年、モノクロ。 むかし見たけれど、細部はすっかり忘れていた。 今回見てみて、まず女中役の少女が北欧のオーディン神をおがんでいるのに注目した。 これ、キリスト教徒のお話なんだけど、主人一家がキリスト教徒であるのに対して、下層階級は地元の神をおがんでいるんだね。 キリスト教は本来は北欧にとって外来の神で、率直に言えば押し付けられた宗教なわけだが、上流が外来神をおがんでいるのは、例えば明治維新以降の日本で上流階級にクリスチャンが比較的多かったことなどを考えてみると、興味深い。 次に、この屋敷のお嬢さんがかなり甘やかされた存在だということがしっかり描かれている。 そのお嬢さんが、寝坊をして (甘やかされているからです)、遅れて教会へのろうそく奉納に出発するところから話が始まっている。 単に、清らかな乙女が無法者にランボーされる話ではないってことですね。 その辺、注意して見ると面白いかも。

107.「野いちご」 8/21、シネ・ウインド。 評価★★★☆ シネ・ウインドのベルイマン特集の一本。 1957年、モノクロ。 私も見たのは初めて。 年老いた大学医学部教授が、名誉教授の称号を授与されることになるけれど、ふと思いついて自家用車で目的地に旅する、というお話。 同居している息子の妻も同乗する。 一種のロードムービーで、途中で拾った若者たちだとか、子供ができないまま何となく息子とは疎遠になっている嫁の悩みだとか、教授の若かりし頃の思い出だとか、途中で90代になる老母のところに立ち寄るエピソードだとか、色々な出来事や昔の記憶が展開されている。 最初近くで教授が見る不気味な夢は死を暗示しているのだろうけれど、必ずしも悲愴な、或いは虚無的な話ではなく、暗さと明るさが交錯するようなところあって、私としては今回見たベルイマンの4本の中ではいちばん面白かった。 

106.「欲望のバージニア」 8/20、Tジョイ新潟万代。 評価★★★ アメリカ映画、ジョン・ヒルコート監督作品。 原題は "Lawless"。 アメリカ禁酒法時代のバージニアを舞台に、禁じられている酒を密造して大もうけしている3兄弟と、それを追う取締官のお話。 といっても、本来は法律で禁じられたことをやっている3兄弟が悪役、それを追及する取締官が正義のはずなのだが、この映画ではそれが逆転しており、3兄弟は、正義とは言わないけれど色々必要があって仕事をそれなりにやっている存在、取締官は権力をカサにきたキザな悪役となっている。 3兄弟の次男を演じるトム・ハーディの存在感が抜群であり、それ以外の男たちも悪役の取締官を含めて個性に満ちていて、俳優の魅力は十分。 ただし筋書き的にはもう一工夫欲しいし、女優陣が添え物程度なのは、今欧米の女優の中でも最も旬なミア・ワシコウスカが登場しているだけに、ちょっと惜しい。 ・・・・なお、この映画、新潟ではTジョイ新潟万代の単独上映だけど、私が見に行ったときは観客が他にはいませんでした。 百人定員のホールで一人きりで映画を見るのも悪くない気分ではあるが、新潟市での俗受けしない映画の上映状況が改めて浮き彫りになったような感じ。 また、Tジョイもはっきり言うけど宣伝が下手。 サイトで単独上映をもっと宣伝すべきなのに、上映日が近づくと逆にサイトからこの作品の紹介が消えてしまっていたりしている――これは、近日上映予定のコーナーのキャパシティがあまりないせいで、新しく映画の情報が入ると古いほうから消えていくので、まだ上映になっていない作品が消えてしまうという現象が生じるのだ。 Tジョイさん、もっとサイト作りに工夫しなきゃ、ダメだよ!

105.「第七の封印」 8/20、シネ・ウインド。 評価★★☆   シネ・ウインドのベルイマン特集の1本。 1956年、モノクロ。 むかし見たのだけれど、今回改めて見たら全然内容は覚えていなかった。 中世ヨーロッパを舞台に、騎士が死神とチェスをするシーンで有名だけど、終末論的な雰囲気に包まれたヨーロッパ中世の諸相や、その中で唯一明るさを体現している芸人一家の様子がそれなりに印象的。 ではあるけれど、タイトルにも表れている黙示録的な怖さが十分表現されているかどうかとなると、やや疑問。 むろん滑稽味も含めた中世時代の描写なんだろうけど、やや作りが見えすぎる、という気がしました。

104.「秋のソナタ」 8/15、シネ・ウインド。 評価★★ シネ・ウインドでイングマール・ベルイマン特集が組まれている。 これはその1本。 1978年の作。 牧師である夫、障害者である妹と暮らす女性 (リブ・ウルマン) が、すでに初老の年齢に達しながらもピアニストで派手な母親 (イングリット・バーグマン) を自宅に招待するが、そこで昔の母娘関係をめぐって口論になる、というようなお話。 この映画、私は公開された当時一部分を見ているが、母娘のバトルがつまらないので途中で退場した経験がある。 今回は我慢して通して見たけど、やっぱりつまらない。 だいたい、娘は小さい頃の母親との関係ばかり問題にしているけれど、同年齢の友人はいなかったんだろうか。 こういう、親離れがいつまでたっても出来ない女ってのには、私はまったく同情を感じない。 母親なんてうっちゃっておいて、自分で友達を見つけたり好きなことを勝手にやりゃいいじゃん、という感じでね。

103.「ローン・レンジャー」 8/6、UCI新潟。 評価★★★☆ アメリカ映画、ゴア・ヴァービンスキー監督作品。 西部に鉄道が敷かれ始めた頃を舞台に、インディアンと融和的な開拓を目指す良心的な白人であるヒーローと、悪質な白人に一族を皆殺しにされたインディアンの生き残りの二人組が、欲深い白人たちを相手に活劇を繰り広げるお話。 特に最後の、列車内での格闘シーンが面白いし、途中もまあまあよく出来ていて楽しめる。 ただ、2時間半もあってやや長すぎるのが難点。 もう少し削ったほうがエンタメとしてまとまりがよくなってのでは、と惜しまれる。 

102.「映画 謎解きはディナーのあとで」 8/3、AEC新潟西。 評価★★★★ 土方政人監督作品。 原作は東川篤哉のミステリーで大ヒットし、TVドラマにもなったが、私はどちらも未読未見。 アマゾンなんかの書評では原作はボロクソに言われていて、ミステリーとしての充実度ではなく、大財閥のお嬢様が刑事をやっていて、その執事が探偵役を務めるという設定が面白いんだろうと推測していた。 で、この映画である。 お嬢様刑事 (北川景子) が休暇をとって執事 (櫻井翔) とともに大豪華客船でシンガポールに向かうが、途中で殺人事件が・・・・という展開。 色々な伏線が張られていて、登場人物も多様だし、謎もひとつだけではない。 エンタメとしてそれなりに楽しめるように作られており、お金を出して見る価値が十分ある映画になっている。 なお私としては、お嬢様刑事役の北川景子より、船内の歌手役の桜庭ななみちゃんの魅力にほれぼれ・・・・・。

101.「八月の鯨」 7/31、シネ・ウインド。 評価★★★ アメリカ映画、リンゼイ・アンダーソン監督作品、1987年。 リプリントによるフィルム上映で、わりに有名な映画だけど、私は初見。 要するに海辺に住む老姉妹の日常を淡々と描いた作品で、夏になると沿岸に鯨が来るのでそれを見るのが楽しみという設定なんだが、鯨は私の見る限りでは画像としてはあらわれない。 つまり、不在の主人公が鯨、ってことになるのかな。 老姉妹のやりとりは、退屈しない程度には面白いかもしれないが、こういう老人映画は私の趣味ではない。 ロシア革命時に亡命してきた元貴族のじいさんだとか、仕事に際してはやたら大きな音をたてる大工だとか、サブの人物に工夫があるので、なんとか持っているような印象である。

100.「終戦のエンペラー」 7/27、UCI新潟。 評価★★★★ アメリカ映画、ピーター・ウェーバー監督作品。 ただし日本人プロデューサーも加わっている。 第二次大戦に負けた日本にマッカーサー元帥が乗り込んできたとき、問題になったのは昭和天皇の処遇だった。 戦犯として扱うべきか、或いは・・・・。 この映画では、知日派であるフェラーズ准将 (マシュー・フォックス) がマッカーサー元帥 (トミー・リー・ジョーンズ) の右腕となって働く一方で、かつて愛し合った日本女性 (初音映莉子) の行方を追いながら (この部分はフィクション)、ポツダム宣言受諾にいたるまでの日本側の内部抗争、さらに日本文化の本質を知っていく、という筋書きである。 昭和天皇の国内向け放送はレコードで流されたが、このレコード盤をめぐる争いなど、史実はそれなりに再現されている。 ただし映画だから、史実の完全な再現を期待するのは無理で、むしろアメリカと日本が、大戦が終わった直後に、文化的相違などをめぐってそれなりに対話を交わす部分が、本作品の核心となっている。 ちなみに、初めのあたりで近衛文麿 (中村雅俊) がフェラーズ准将に、日本は帝国主義国家だったアメリカや英国の真似をしただけだ、と述べるシーンがあって、日本人プロデューサーが加わっているとはいえ、ハリウッド映画にもポストコロニアリズム的認識が浸透してきたのかなあと感心してしまいました。

99.「言の葉の庭」 7/25、Tジョイ新潟万代。 評価★★★☆ 新海誠監督の最新アニメ。 40分程度の中編 (なのかな)。 将来は靴職人になりたいと思っている高校一年の少年。 雨の降る日は1限の授業をさぼって新宿の公園で過ごす習慣があった。 ある雨の日、公園のあずまやで二十代の女性と同席する。 チョコを食べながらビールを飲む彼女とは、ちょうど梅雨どきだったので、その後もしばしば出会い会話を交わすようになっていく。 しかしある日・・・・・。 新海監督らしく、絵がすばらしく美しい。 筋書きも、ふだんは詩情重視で話の面白さはイマイチの新海監督としてはまあよくできているほうだろう。 とはいえ40分くらいの作品だから、あくまで絵や詩情がメインで筋書きはサブという新海監督の特質は変わらない。 他に、「だれかのまなざし」 という掌編アニメを併映。 2作合わせても1時間に満たないが、料金は千円均一。

98.「嘆きのピエタ」 7/24、シネ・ウインド。 評価★★★☆ 韓国映画、キム・ギドク監督作品。 ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞。 みなしごとして育った青年。 非常識な利息をつける高利貸の取立人をしており、返せない相手には身体障害者となることを強いて、その保険金で返すように強要している。 そんなあこぎな商売をしている彼のもとに、昔あなたを捨てた母親だと称する中年女性が現れる。 最初は警戒心もあって相手を邪険に扱っていた青年も、やがて母と子の暮らしに馴染んでいく。 が・・・・・。 テーマは母性なんだろうけど、キム・ギドク監督だけあって一筋縄ではいかない展開となる。 ただ、映画としてはそれなりに面白いが、進行にどこか人工的なものが感じられ、それが韓国映画特有の、人間の汚い部分にことさら触れる作風とあいまって、国際映画祭で最高賞をとるほどの作品なのかなあ、という印象につながっていった。 聖よりは俗を感じさせる、と言えばいいのだろうか。

97.「風立ちぬ」 7/20、UCI新潟。 評価★★★☆ 宮崎駿の最新アニメ。 ゼロ戦の設計で知られた堀越二郎の半生と、堀辰雄の有名な小説 『風立ちぬ』 を合わせた筋書きとなっている。 関東大震災のときにたまたま同じ列車に乗り合わせていた縁で知り合った帝大生の二郎と、裕福な家庭の令嬢菜穂子。 数年後に軽井沢で再会した二人は婚約するが、菜穂子は肺結核に冒されており、とりあえず山上の療養所へ。 二郎は夢の中でイタリアの著名な飛行機設計家と交流しつつ、ドイツ留学をへて飛行機の設計者となる。 おりしも戦時で、彼も欧米に負けない戦闘機の設計に心血をそそぐことになる。 そこに、菜穂子が療養所から出てやってくる。 命を縮めても二人で一緒に暮らすことを選ぶ二郎と菜穂子。 ・・・・・というような筋書きなんだけど、進行は淡々としていて、はらはらどきどきするようなところは少ない。 いわば大人向けのアニメというか、人生を夢のように振り返るという意味合いが込められたアニメだと感じられた。 そのつもりで鑑賞しましょう。

96.「殺人の告白」 7/16、シネ・ウインド。 評価★★★★☆ 韓国映画、チョン・ビョンギル監督作品。 15年前に起こった連続殺人事件。 殺人魔を追った刑事 (チョン・ジェヨン) も、相手と格闘の末に大怪我をし犯人を取り逃がしてしまう。 そして15年が過ぎて時効となったとき、真犯人だと名乗り出た男がいた。 殺人鬼としてはあまりに美しい青年 (パク・シフ) で、彼は殺人の体験を本にして出版。 容姿の美しさも手伝って一躍マスコミの寵児となり、本もバカ売れ。 刑事は歯噛みするが、時効とあっては彼に手出しはできない。 被害者の遺族にはしかし彼を狙う動きも出て・・・・。 奇想天外な展開の映画で、カーチェイスや格闘シーンにも迫力があり、2時間スクリーンから目を離せないこと請け合い。 新潟では7/26までの上映だけど、新潟の映画ファンはお見逃しなく!

95.「監禁探偵」 7/14、UCI新潟。 評価★★★ 及川拓郎監督作品。 向かい側のアパートに住むチャーミングな女の子を盗撮していた若者 (三浦貴大) は、あるとき女の子が何者かに室内で襲われるのを目撃する。 あわてて駆けつけると、女の子はすでに殺されており、若者は呆然。 しかしその直後に別の若い女性 (夏菜) が彼と死体を見て悲鳴をあげる。 犯人と誤解されたと思った彼は彼女を気絶させ、自分のアパートに監禁。 しかし真犯人を探さなければいずれ警察などからも自分が犯人と疑われてしまうだろう。 彼は何とか真犯人を突き止めようとするのだが・・・・・。 という設定はとても面白い。 だけど展開がイマイチなんだね。 若い男女が二人きりで一つの部屋にいるという状況設定が、必ずしもうまく活かされていない。 つまり、エロス不足ってこと。 真犯人の意外性はまあ十分だけど、どこかハズしたところから持って来ている感じで、ミステリー映画として十分な満足感に達するところまでは行っていないような。 

94.「ホーリー・モーターズ」 7/13、シネ・ウインド。 評価★★★☆ 仏独合作、レオン・カラックス監督作品。 女性運転手つきのリムジンに乗った男が、その日の予定に従って、様々なメイクをし、様々な人生の場面に遭遇しつつ様々な役割を演じていく様子を描いている。 とはいえ、その中には殺人者だとか、自分も瀕死の重傷を負うなど、理性的に受け取るなら理不尽な場面も多く含まれている。 また、日本のゴジラ映画の有名なテーマ音楽が使われるなど、過去の著名な映画作品へのオマージュ的な側面もある。 要は、整合性のある一貫した筋書きではなく、場面の面白さや奇抜さ、或いはしみじみとした人生模様など、多様な要素がぶちこまれているオムニバス作品なのであり、そういうものとして楽しめばいいのである。 私はこれまでカラックスの映画は若干見ているけど、これがいちばん面白く見られました。

93.「スプリング・ブレイカーズ」 7/12、AEC(イオンシネマ)新潟西。 評価★★★☆ アメリカ映画、ハーモニー・コリン監督作品、R15。 アメリカの女子大生4人組が、春休みに刺激を求めて常夏のフロリダへ旅行を計画。 しかし肝心の先立つものがない。 そこで彼女たちは覆面をしてレストラン強盗を敢行、みごとに(?)資金をゲットして旅行に出かける。 そこで青春を謳歌するうちに、バッドボーイと知り合いになり、さらなる不良行為へとエスカレート・・・・。 この映画、主演の4人の美少女がビキニ姿を惜しみなく披露し、なおかつそれ以外の女の子も多数出演しており、胸当てをはずすガールも多数登場 (さすがに下ははずしていない)。 老人映画や落ち目の40歳女優を主演にした映画にうんざりしていた私にカツを入れてくれました。 とにかく単純に見ているだけで楽しい。 また女の子たちの悪行が無邪気で、本当はイケナイんだけど、赦しちゃおうという気持ちになってしまう。 うん、こういうガールズムービーこそが映画なんだよねえ。 老人映画なんか糞食らえなのだ。    

92.「モネ・ゲーム」 7/9、UCI新潟。 評価★★★ アメリカ映画、マイケル・ホフマン監督作品。 1966年に製作された『泥棒貴族』のリメイクだそうだが、オリジナルのほうは私は見ていない。 雇い主である大富豪からひどい扱いを受けた美術鑑定家が、復讐のために贋物のモネの「つみわら」の絵をひそかに制作して本物と称して雇い主に大金で買わせようとたくらむ、というお話。 ところがことはなかなか思うようには進まず、美術鑑定家自身も窮地に追い詰められて・・・・・というふうに筋書きは進んでいく。 ほどほど面白いけど、贋物の絵の所有者ということにさせられるヒロインのキャメロン・ディアスがすで四十歳ということで、残念ながらイマイチ魅力がない。 おまけに下着姿の半ヌードまで披露していて、観客をしらけさせてくれる。 アメリカ映画界って、有名女優ならトウが立っても使うのかなあ。 もっと若くてキレイな女優、いないの?

91.「真夏の方程式」 7/5、AEC(イオンシネマ)新潟南。 評価★★★☆ 西谷弘監督作品。 資源の開発か、環境保護かで揺れる岬のはずれにある某田舎町に、学者による説明会に参加するためにやってきたガリレオこと湯川学が、たまたま宿泊した宿で起こった殺人事件に巻き込まれていく。 この事件の背後には、15年前に東京で起こった殺人事件があった。 というような筋書きのミステリーで、ミステリーとしてはまあまあの出来じゃないかな。  ただし第一の殺人事件については、動機面で不十分と思えた。 子供嫌いの湯川博士が、ことの成り行きで小学生に物理学の面白さを伝授する展開が、ほほえましい。 福山雅治って、男から見ても絵になりますね。

90.「カルテット! 人生のオペラハウス」 7/5、AEC(イオンシネマ)新潟南。 評価★★   英国映画、ダスティン・ホフマン監督作品。 引退した音楽家専用の老人ホームに入っているご老体たちのお話。 老人間のいさかいや和解、老人病にともなう滑稽譚、そしてホームを維持する目的もあって行われる音楽会を開くまでの色々などが描かれている。 うーん・・・・こういう老人映画って、88にも書いたけど、面白くないんだよね。 というか、少なくともこの映画は面白くないのだ。 ダスティン・ホフマンは、俳優としてもさほど好きじゃないけど、監督としてもダメですね。 ・・・或いは、こういう映画を見てしみじみと人生を回顧するほど、私は枯れてないというだけの話なのか。 或いは、自分が老いてきているから、逆に老人映画が好きになれないのか。 いずれにせよ、老人映画は当分見ないでおこうと思いました。 シワだらけのばあさんより、若い美女が登場する映画のほうが10倍もいいよねえ。

89.「メモリーズ・コーナー」 6/29、シネ・ウインド。 評価★★  フランス・カナダ合作、オドレイ・フーシェ監督作品。  阪神大震災被害者の現在、ということで取材をしにきた若いフランス人女性のジャーナリストが、家族を失って一人暮らしをしている元ジャーナリストの男 (阿部寛) と出会い、その話に興味を持って、役所に付けられた通訳 (西島秀俊) がなぜかとめにかかるのも聞かずに彼に取材を続けようとするのだが、やがて・・・・・・というような筋書き。 何と言うのか、ラフカディオ・ハーンの時代ならいざ知らず、フランス人の日本への認識って今でもこの程度なのかな、と思ってしまうくらいの内容です。 ヒロインの女性ジャーナリストを演じるデボラ・フランソワが美人なのが唯一の見どころだけれど、でも脱いでいないしね (笑)。  

88.「愛、アムール」 6/29、シネ・ウインド。 評価★★★ 仏・独・墺合作、ミヒャエル・ハネケ監督作品。 2012年カンヌ映画祭パルムドール受賞作。 パリに住む老夫婦を主役に、妻の発病により夫が老老看護に追われるようになる、というお話。 看護の細部はきちんと描かれていて、そういう描写に興味のある人にはそれなりかも知れない。 しかし私には退屈だった。 ようやく最後近くになってハネケらしさが出てくるのが救い、というか、映画としては救いである。 最近、老人が主役の映画が増えているような気がするのだが、私はその手の映画はあまり好まない。 私自身もう還暦だし、あと10年かそこらもすればこの映画のようなお話は身にしみてくるという考え方もあるかもしれないが、シワだらけの老人が主役の映画より、美しい若い男女が主役の映画を私は見たいんだな。

87.「オブリビオン」 6/28、WMC新潟。 評価★★★ アメリカ映画、ジョセフ・コシンスキー監督作品。 近未来の地球を舞台に、異星人が襲来して、かろうじて地球人が戦いに勝利を収めるが、地球は荒廃して済めなくなってしまい、外惑星の衛星への移住を促進しつつある、という設定。 トム・クルーズ演じる主人公は地球に残っており、美しい女性のパートナーと一緒に残った施設の管理・パトロールなどの仕事をしている。 ところが或る日、ロケットが地球に不時着し、生き残った地球人女性の口から意外な真実が・・・・・。 SF映画として見ると、すごく新奇な内容というほどではないが、まあまあ楽しめるくらいのレベルには達していると思う。 トム・クルーズが美女ふたりに囲まれる図式も悪くない。 ただし最後のあたりの決着の付け方には、私としてはかなり 「?」 な印象を持ったと述べておく。

86.「100回泣くこと」 6/28、WMC新潟。 評価★★★☆ 廣木隆一監督作品。 大倉忠義と桐谷美玲を主役に、難病ものと記憶喪失ものを組み合わせたような筋書きの映画。 まあ、そういう定型の筋書きを持つ映画としてそれなりに楽しめるのではあるが、この映画の一番の見どころは映像だと思う。 廣木監督独特の、特に室内では照明をあまり使わずに、独特のアングルや場所から人物の動きや会話を追っていく手法が、結構面白いというか、リアルな感覚を生み出している。 照明をあまり使わないのでやや暗い感じもあるのだが、それが逆に、典型的な筋書きを持つ作品の平板さを減じ、主役二人と観客との距離を縮める効果を挙げているのではないかと思われた。 ただし、筋書きの進行はもう少し巧みであって欲しい。 最後近く、ややもたつき気味なので。

85.「ガラスの仮面ですが THE MOVIE 女スパイの恋! 紫のバラは危険な香り」 6/25、UCI新潟。 評価★☆ 谷東監督作品。 原作は言わずと知れた美内すずえの国民的な少女マンガ (私も好きですけど) であるが、そのパロディとして作られたスパイものギャグ・アニメ。 というので怖いもの見たさ的な気持ちで映画館に行ってみたのだが、残念ながらハズレだった。 まず、このアニメはフラッシュ・アニメ (というらしい) で、人物の顔やなんかは固定。 せいぜい汗が流れるとか、目が白目になるとか、その程度の変化しかない。 つまり、作画に時間と手間をかけていない。 また、宣伝が先行して内実がない、というかいい加減に作ったことを最初から暴露しつつお話が進み、つまり手抜き行為に居直って作品が作られているので、何これ、な出来になっている。 筋書きもいい加減、というか、幼児向け巨大ロボットもの的な展開でおしまい。 この映画、1200円均一なのだが、通常ならシニア料金適用年齢の私には逆に割高だし、そうじゃなくても、1時間弱の長さと手抜きを告白しながら繰り広げられるお粗末アニメなので、せいぜい500円じゃないか、という気がしました。 うーん、このところハズレの映画ばっかりだなあ・・・・

84.「俺はまだ本気出してないだけ」 6/20、Tジョイ新潟万代。 評価★ 福田雄一監督作品。 原作はマンガらしいが、私は読んでいない。 見て損した、とためらいなく言える出来でした。 喜劇のつもりなんだろうけど、笑えない。 全般的に薄っぺらで、どこにも見るべきところがない。 筋書きもご都合主義のオンパレード。 映像も特に斬新さはない。 何なのかな、これ。 今年の日本映画はわりにいいかなと春頃までは思っていたのだが、こんな駄作が出てくるようじゃ、韓国映画に負けるしかないんじゃない?

83.「二郎は鮨の夢を見る」 6/20、シネ・ウインド。 評価★★☆ アメリカ映画、デヴィッド・ゲルブ監督作品。 銀座に出店している高級鮨屋さん、およびその創設者である小野二郎氏を追った映画。 酒は出さず、つまみも出さず、ただ鮨を食うだけの店。 しかも1人前最低3万円だそうだから、私には無縁な鮨屋ではあるけれど、まあ映画で見ておくくらいなら罰も当たるまいと思って映画館に足を運びました。 でも、何で1回3万円もするのか、よく分からなかった。 食材の原料費なんかが具体的に数字で出てくるわけじゃないからね。 作る工夫や、跡継ぎの苦労なんかはそれなりに伝わって来るけれども。 むしろ、昔の魚市場が映像で出てくるのだが、そこでのマグロのバカでかさと、現在の魚市場でのマグロ魚体の小ささとの差が、ちょっとショックだった。 海の資源は確実に枯渇に向かっている。 何とかしなくちゃね。

82.「塀の中のジュリアス・シーザー」 6/19、シネ・ウインド。 評価★★☆ イタリア映画、パオロ・タヴィアーニ+ヴィットリオ・タヴィアーニ監督作品。 イタリアでは、刑務所の囚人に演劇をやらせ、それが更正に役立っているらしい。 で、この映画である。 シェイクスピア原作の「ジュリアス・シーザー」を囚人たちが演じる様子、およびその練習風景を描いている。 ただし、そういうドキュメンタリーとして分かりやすく作られているのではなく、作品自体が芸術たらんとしているので、あまり分かりやすくはない。 その辺、どうなのかな、と思う。 もっとドキュメンタリーとしての作りに徹したほうがよかったんじゃないか。

81.「華麗なるギャツビー」 6/18、UCI新潟。 評価★★★ アメリカ映画、バズ・ラーマン監督作品。 原作はフィッツジェラルドの有名な (ただし私はあまり好まない) 小説。 何度目かの映画化だそうだけど、私はこれ以外は40年ほど前に作られたロバート・レッドフォード主演のものしか見ていない。 で、今回はディカプリオ主演で、彼が思いを寄せる女性がキャリー・マリガン、彼女の親戚で語り手的な役割を演じるのがトビー・マグワイアである。 はかない恋のために巨額のカネを投じるせつない男の役は、結構ディカプリオに合っていると思う。 それから、語り手として、また主要人物のつなぎとしての役割を果たすマグワイアが意外に好演。 これに比べると、キャリー・マリガンは薄情なバカ女というには足りないし、といって観客を魅了するヒロインというにもイマイチで、中途半端な気がした。 というより、彼女、ミスキャストかも知れないね。 バカにも見えない代わりに、すごい美人でもないのだから。

80.「マイ・キングダム」 6/14、クロスパル新潟 (にいがた国際映画祭)。 評価★★★☆ 中国・香港映画、ガオ・シャオソン監督作品。 原題は 「大武生」。 上海が外国の租界になっていた時代を舞台に、京劇のアクションスターがお互いに強さを競い合うお話。 そこに清代末期、皇帝一家を暗殺する話がからんでくる。 その辺の政治がからむ部分は見ていてよく分からかったのだが、アクションシーンや、美しいヒロイン (バービー・スー)をめぐる義兄弟の感情のもつれ、殺された師をめぐる彼女の微妙な行動、などなど、映画チックで見ていて飽きない作品。 

79.「思秋期」 6/13、クロスパル新潟 (にいがた国際映画祭)。 評価★★★☆   英国映画、パディ・コンシダイン監督作品。 妻を亡くして一人暮らしの初老の男。 荒れた生活で、愛犬を蹴飛ばして死なせてしまう始末。 たまたま、店を構えている中年女性と知り合うが、彼女には家庭に悩みがあった・・・・。 中高年男女が出会って惹かれあうというお話ではあるのだが、その過程はなかなか波乱万丈というか、甘いタッチとは無縁の映画であり、そこがかえって面白さにつながっている。 この監督、これまで私は 『イン・アメリカ 三つの小さな願いごと』 しか見てなかったけど、注目株かもしれないな。

78.「ぼくたちのムッシュ・ラザール」 6/13、クロスパル新潟 (にいがた国際映画祭)。 評価★★★ カナダ映画、フィリップ・ワラルドー監督作品。 カナダのフランス語圏であるモントリオールを舞台に、小学校で若い女教師が自殺してクラスの子供たちがショックを受けているところに、代わりに教師になろうと申し出てきた中年男がいた。 アルジェリアで長らく教師をやっていたと称する彼は、しかし実際には別の経歴の主であった。 けれども担任に自殺されて心の傷を負った生徒たちは風変わりな授業を通して成長していく・・・・・という筋書きにいちおうはなるらしいのだが、どうも授業シーンにあまり説得性がなく、生徒が中年男の授業で立ち直るという筋書きには見えない。 原題はたんに「ムッシュ・ラザール」で、どちらかというと中年男と子供たちそれぞれに人生がある、みたいな映画なんじゃないかな。 悪くはないけど、ちょっと物足りない感じもするし、あとフランス語圏の作品ならではのフランス語イデオロギー臭が感じられるのが難点だ。 

77.「きっと、うまくいく」 6/12、UCI新潟。 評価★★★★ インド映画、ラージクマール・ヒラニ監督作品。 インドの名門工科大学を舞台に、三人の学生がエリート意識の高い学長との確執を耐え忍びながら、自分流の生き方を見つけていくまでのお話。 あっけらかんとした筋の運びで、インド映画にしてはミュージカル的な要素は少なめで、若さは必ず硬直した老人に勝ち、恋は必ず成就し、正義は必ず通俗的な悪に勝つという、きわめて分かりやすく娯楽要素の強い作品。 でも、面白いんだな、これが。 日本の映画監督もこういう、映画の原点的な作品を見て、魅力的な作品を作ってほしいものだ。

76.「ザ・マスター」 6/11、UCI新潟。 評価★☆ アメリカ映画、ポール・トーマス・アンダーソン監督作品。 第二次大戦を終えて復員した兵士 (ホアキン・フェニックス) が、しかし戦時中に精神を病んでうまく社会に適応できず、やがて新興宗教の教主 (フィリップ・シーモア・ホフマン) に惹かれてその活動の中に入っていく、というお話。 この、宗教とヒーローとの付き合いが、だらだらと続き、めりはりがなく、結末もあいまいなままに終わっていて、きわめて退屈。 こんな退屈な映画、よく作れるものだとあきれ果てた。 

75.「眠れる美女」 6/5、神保町シアター。 評価★★   吉村公三郎監督作品、1968年、モノクロ。 やはり川端康成原作映画特集の1本。 全裸の少女と添い寝できる秘密の宿を教えてもらった老人がそこに通う、という物語。 この映画では、その本筋だけでは時間が足りないからと見てか、主人公の老作家の若かりし頃の女性関係だとか、中年期に人妻と密通した体験、さらには今現在彼を悩ましている末娘の結婚問題などなどが絡んでいる。 しかし他の筋が入り込みすぎて、肝心要の部分はいささか物足りない。 また他の要素も全体でまとまりのある感銘を喚起するところには程遠い。 要するに、駄作ってことですね。

74.「伊豆の踊り子」 6/5、神保町シアター。 評価★★★☆  西河克己監督作品、1974年。 川端康成原作映画特集の1本。 川端の作品の中でも有名な小説の何度目かの映画化である。 主演は当時人気絶頂だった山口百恵と三浦友和だが、映画での共演は本作品が初めてだったようだ。 そのせいもあってか、また百恵はまだ15歳だったこともあって、まだ子供である踊り子と、大人になりかけの旧制高校生の短いつきあいという原作どおりの筋書きはそれなりに再現されている。  ただし、映画なのでやはり二人に淡い恋愛感情はあるという設定にしなくてはならず、そのため、逆に、当時はエリートだった旧制高校生と、一般人からさげすまれている旅芸人である踊り子という、言うならば階級格差の問題が前面に出ている。 西河克己監督はこの作品の約10年前にも同じ原作で、吉永小百合・高橋英樹のコンビによって映画を作っているが、それに比べると階級格差の問題が本作はかなり強く打ち出されているし、またそれはラストシーンにも表れていて、吉永・高橋版では、主人公の旧制高校生がのちに大学教授になり過去の旅を思い出すという形で話が進み、なおかつ最後で教授の教え子である男子学生 (浜田光夫) がダンサーの女の子 (吉永の二役) と結婚するという結末が入っており、世代が変わることで階級差が克服されるという暗示がなされ、一種の救いになっていたのに比べると、この山口百恵・三浦友和版ではそういう救いがどこにもないラストで、ちょっとやりきれない気分になる。 その分、原作にない厳しさが出ているとも言えるし、或いは川端の原作がそういう階級の問題をあまり表に出さずにいた一種の偽善性を衝いたものとも言えるかも知れない。 

73.「黒の超特急」 6/4、ラピュタ阿佐ヶ谷。 評価★★★☆ 増村保造監督作品、1964年、モノクロ。 東海道新幹線が開通して、山陽方面への延伸が計画されかけていた頃のお話。 岡山で不動産業をしているがうだつが上がらない青年 (田宮二郎) は、東京から来た業者 (加東大介) に頼まれて工場用地をまとめて地権者から買い集める。 それなりに利益はあったが、あとで実は新幹線の敷地だと分かる。 東京の業者は転売して巨額の利益を得ていた。 しかし新幹線の路線はまだ公になっておらず、不正な政治的な動きが絡んでいそうだと見込みをつけた岡山の業者は、何とか東京の業者の裏にいる人間の正体をさぐろうとする・・・・。 利益をあさる人間が何人も暗躍するお話で、あさましい人々の騙しあいというような筋書きだが、他方で、高度成長期の日本が持っていたヴァイタリティのようなものも感じられる。 こういう映画、最近の日本は作れなくなっているのでは。 

72.「野火」 6/4、ラピュタ阿佐ヶ谷。 評価★★☆ 市川崑監督作品、1959年。 大岡昇平の有名な小説の映画化、モノクロ。 第二次大戦のレイテ島戦線で、アメリカ軍に押し捲られ敗色濃厚な日本軍。 何より食物がろくにない。 主人公はあるときは仲間と、あるときは一人でさまよう。 米軍の攻撃でちりぢりになるが、やがて倒れたところを以前一緒にいた日本兵に救われ、肉を口に含まされる。 サルの肉だというのだが・・・・。 内容的には原作を忠実に映像に直しているが、原作にあった格調高い抽象的な哲学性のようなものがまったく感じられない。 原作は単に戦場の悲惨さを日本的なリアリズムで描いた作品ではないので、そういう視点から見ると失敗作ではないかと思う。

71.「百年の時計」 6/3、テアトル新宿。 評価★★★☆ 金子修介監督作品。 高松を中心とする香川県の宣伝映画みたいな内容ではあるが、内容的には結構充実している。 地元出身で国際的に活躍している現代美術作家 (ミッキー・カーチス) を呼んで展覧会を企画する高松市の美術館。 しかしやってきたご老体はわがままじいさんで担当の女性 (木南晴夏) はふりまわされっぱなし。 だが、彼の過去のロマンスがしだいに明らかになる。 それは人妻 (中村ゆり) との道ならぬ恋であり、またそれが彼を現代美術作家として立たしめた契機でもあった・・・・・。 地元を走っている私鉄・琴電がうまく活かされており、現代美術という難しいテーマを、地元の観光宣伝と巧みに組み合わせているところは、なかなかうまい。 新潟でも上映して欲しい。 なお、本物の香川県知事もゲスト出演している。

70.「孤独な天使たち」 6/3、渋谷シネパレス。 評価★★ イタリア映画、ベルナルド・ベルトルッチ監督作品。 久しぶりのベルトルッチ作品というので期待したのだが、意外につまらなかった。 14歳の孤独癖のある少年が、学校のスキー旅行をサボって、1週間の間自宅マンションの地下室に隠れて過ごそうとする。 ところがそこに異母姉がころがりこんでくる。 彼女はなにやら怪しげな雰囲気で、芳しからざる大人の世界の一面を持ち込んでくるようで・・・・。 というような筋書きなんだけど、案外淡々と話は進み、まあ姉がヤク中だったりするなど怪しいところが見どころなんだろうけれど、それが映画の面白さにつながっておらず、少年は最初から最後まで受身だし、二人の間に何事かが起こるわけでもない。 うーん・・・・

69.「ロマン・ポランスキー 初めての告白」 6/3、イメージ・フォーラム(渋谷)。 評価★★★☆ 英・伊・独合作、ローラン・ブーズロー監督作品。 映画監督ポランスキーがインタビューでこれまでに生涯を語っている映画。 幼少期にポーランドで過ごしゲットーを体験していること、その後映画に目覚めたが、名作 (だと私は思う) 『水の中のナイフ』 は社会主義のポーランドでは酷評されたこと、その後西側で映画を作っていたが、アメリカで婦女暴行容疑で起訴され、被害者との間では和解が成立したものの、検事が執拗に拘禁にこだわり、結果ポランスキーはヨーロッパに脱出したこと、その後、スイスの映画祭に招待されたところ、アメリカからの要請で逮捕されてしまったこと、などなど。 この、婦女暴行容疑とアメリカ検察のしつこさが、なかなか面白い。 ちなみにその後被害者はポランスキーを擁護し、検察の姿勢を批判しているそうである。 このほか、一度結婚しながら妊娠中の妻を事故で失ってしまったこと、二度目の結婚が 『フランティック』 にも出演した美人女優エマニエル・セイナーとで (う、うらやましい!     でもポランスキーは小柄だから妻のほうが背が高いのだな) この結婚はうまくいっていることなど、色々な情報が盛り込まれている。 ポランスキーの作品を評価する人間には一見の価値があると思う。

68.「女のみづうみ」 6/2、神保町シアター。 評価★★★ 吉田喜重監督作品、1966年。 川端康成原作映画特集の1本。 有名百貨店部長の夫 (芦田伸介)、小学生の息子と暮らす女 (岡田茉莉子)。 彼女は年下の室内装飾家を愛人としていた。 あるとき彼にせがまれてヌード写真を撮ることを許すが、そのネガをハンドバッグに入れて自宅に帰る途中、何者かに襲われてハンドバッグを奪われてしまう。 やがて彼女には脅迫の電話が・・・・・。 かなり俗っぽい設定だが、途中からヒロインや犯人、そして愛人の青年とその婚約者も石川県の温泉地に旅をしたりして、ちょっとロードムービー的な雰囲気になる。 さらには浜辺で映画を撮影しているシーンが入ったりして、映画を問う映画 (メタ映画) になろうとするかのようなところもある。 またラストはちょっと 「え?」 になっており、やはり監督が芸術映画にしようとしたんだろうなと思えるのだが、残念ながら成功していない。  岡田茉莉子の不倫の人妻ぶりを楽しんでおけば、それでいいのじゃないだろうか。 

67.「恐怖と欲望」 6/1、オーディトリウム渋谷。 評価★★ アメリカ映画、スタンリー・キューブリック監督作品、1953年。 のちに 「博士の異常な愛情」 や 「2001年宇宙の旅」 で有名になるキューブリック監督の初期作品で、モノクロ、1時間ほどの映画。 最初に、特定の国を舞台にしたのではないと断りが入る。 戦時中、飛行機を撃墜されて敵軍の領土に不時着し、なんとか味方の陣営に帰ろうとする中尉と兵士3人。 夜陰にまぎれて川をイカダで下ればと考えるが、ほどなく兵士ではない若い女に発見され、やむを得ず彼女を拘束する・・・・。 兵士が戦争によって陥る異常な心理を描きたかったのだろうけど、あまり面白くないし、脚本も練りが足りない。 千円払って見たのだが、お金を出すほどの映画じゃないというのが私の感想でした。 

66.「イノセント・ガーデン」 6/1、TOHOシネマズ・シャンテ(日比谷)。 評価★★★☆ アメリカ映画、韓国人のパク・チャヌク監督作品。 父にかわいがられて育った若い娘 (ミア・ワシコウスカ)。 その父が急死し、葬儀の場に見慣れぬ男 (マシュー・グード) が現れる。 彼は亡き父の弟、つまり娘にとっては叔父だった。 長らくヨーロッパに滞在していたのだという彼は、娘とその母 (ニコール・キッドマン) の暮らす豪邸に居座る。 しかし叔父の存在自体を知らなかった娘の周囲で、次々と不可解な事件が起こる。 やがて・・・・。 というようなミステリアスな展開の映画だけれど、映像の美しさや音楽の巧みさでまず楽しめる。 ミステリーではあるのだが、謎解きの展開は緩慢。 最後の説明はやや短くて不親切な感じも残るけれど、意外性は十分。 見て損はないと思うので、新潟でも上映して欲しい。 追記: その後、新潟でもユナイテッドで7月20日からの上映が決定した。

65.「偽りなき者」 5/31、シネマ・ジャック&ベティ(横浜・黄金町)。 評価★★★ デンマーク映画、トマス・ヴィンターベア監督作品。 離婚して妻および長男と別居している中年男 (マッツ・ミケルセン)。 彼は幼稚園に勤務しているが、あるとき、昔からの親友の娘でもある幼女が、性的な扱いを彼から受けたと解釈できる発言を中年女性の保母の前で行う。 実はそれは思春期で女の子に興味のある兄の発言を模倣したものに過ぎなかったのだが、中年保母はろくに調べもせずに中年男が幼女に性的な行為を行ったと見なし、他の保母たちに言いふらすと同時に、離婚している中年男の妻にまで電話で通告する。 中年男はクビになり、警察から取調べを受け、近所の商店からは追い出され・・・・・。 見ているとコワくなる映画だが、他方で、デンマークってこういう具合にろくに調べもしないで人を犯罪者扱いする国なのかなあ、と首をかしげた。 デンマークでも都会ではなく田舎が舞台なので、知的ならざる偏見だらけの人間がたくさんいて、ということなのかも知れないけどね。 でも、例えば 『それでもボクはやってない』 に比べると事の経過が大雑把すぎる気が。

64.「建築学概論」 5/26、新宿武蔵野館。 評価★★★☆ 韓国映画、イ・ヨンジュ監督作品。 学生時代にお互い惹かれあいながらも素直に愛情を表現できずに別れた男女が、15年後に再会して・・・・というお話。 タイトルが硬いが、これは男が建築学専攻であること、女は音楽専攻だけど教養科目として建築学概論を取り、そこで男と出会うというところから来ている。 ただし、タイトルは単に出会いの場を表現するだけではなく、15年後の再会にも建築が絡んでおり、その意味で作品全体のモチーフを表現しているとも言えるのである。 素直に愛情を相手に伝えられない男女の物語と、建築とが、たくみに融合されていて、それなりの作品に仕上がっていると思う。 主演の女優二人もなかなかチャーミングだ。

63.「愛さえあれば」 5/25、TOHOシネマズ・シャンテ (日比谷)。 評価★☆   デンマーク映画、スサンネ・ビア監督作品。 この監督はもともと好きではないのだが、世評は悪くないようなので上京中の貴重な時間を使って見てみたのだが、「こんな映画、褒めるなよ! バーロー!」 と言いたくなるくらいの駄作だった。 ヒロインは中年女性で病気もちであり、それを尻目に愛人を作った夫に愛想尽かしをして、別のハンサムな中年男 (元007のビアース・ブロスナン) に乗り換えるというお話なんだけど、全然リアリティがない。 例えば夫は愛人を作るわけだが、自宅で情事に励んでいて妻に見つかる。 今どきだもの、モーテルやラブホテルくらいいくらでもあるでしょ? さらに、夫は愛人同伴で娘の結婚式に出席する。 いくらなんでもそこまでやる男っていないんじゃない? それくらいなら、そもそも結婚式に出ないよ。 さらに、そのあとなぜか夫は愛人と別れる。 ここんとこ、何の説明もなくいきなりなのだ。 要するに、作り方が無茶苦茶で下手くそなのである。 繰り返す。 こんな映画、褒めるなよ!

62.「バチェロレッテ あの子が結婚するなんて!」 5/24、WMC新潟。 評価★★☆ アメリカ映画、レスリー・ヘッドランド監督作品。 かつて高校時代の同級生だった女の子たち4人。 ところがそのうちで一番肥満体な子が結婚することに。 残りの独身女3人 (キルスティン・ダンスト、ほか) は大ショック。 それでも友達の結婚式前夜、祝福するために集まるのだが、祝辞は嫉妬まじりの悪態に近くなり、おまけに酔って騒ぐうちに花嫁衣裳を破いてしまう。 さあ、大変。 3人は何とかしなくてはと慌て始めるのだが・・・・。 女同士の友情の難しさと、結婚式前夜の騒動をコミカルに描いた映画。 高校時代を回想する場面ではあちらのサブカルネタなどが使われていて、日本人にはついていきにくい。 その後の展開も、まあまあ悪くはないが、すごく面白いというところまではいかない。 アメリカの女の子の過酷な現実を見せられると、男としては・・・・・な気分になってしまいます。

61.「カミハテ商店」 5/22、シネ・ウインド。 評価★★☆ 山本起也監督作品。 山陰地方の小さな町の、自殺の名所である断崖のそばで古めかしい店を出している初老の女 (高橋恵子)。 自殺者は断崖に行く前にこの店に立ち寄ってコッペパンと牛乳を買い、それを胃に収めてから飛び降りるのが常。 そうした自殺者を見つめつづけてきた女と、都会に住むその弟 (寺島進) の冴えない日常、などなどが描かれている。 もう少し独特に面白い映画かと期待していたのだが、案外そうでもなかった。 邦画にありがちな、何となくの雰囲気で見せて、それで終わってしまうのだ。 絶望感を突き詰めるわけでもなく。 でも音楽だけはよかったなあ。 ちなみにカミハテとは上終と書いて、その地の地名である。

60.「セデック・バレ 第二部 虹の橋」 5/22、シネ・ウインド。 評価★★★ 下記57の続き。 第一部から数日を経て見てみたが、第一部に比べると面白さに劣る。 戦いの場面の連続で、それも原住民が日本軍に勝っているシーンがほとんどであり、いささか単調な感じがする。 原住民の部族間の対立も描かれているが、そこでの部族ごとの論理の相違とか、また同じ部族でも男女間での立場の違いとか、日本の軍人内部での考え方の相違とか、ドラマの脚本にもっと工夫を凝らしたほうが良かったのではないか。 もう一つ、芸がないな、という印象だった。

59.「アンナ・カレーニナ」 5/21、WMC新潟南。 評価★★★☆ 英国映画、ジョー・ライト監督作品。 トルストイの有名な小説の映画化。 ただし、演劇的な手法を一部とりいれており、ふつうのリアリズム映画とはやや異なるところがある。 場面にもよるけど、舞踏会のシーンだとか、競馬のシーンなんかはこの手法がなかなか効果的だと思う。 主演のキーラ・ナイトレイの美しい人妻ぶり、不倫相手の若い将校役のアーロン・テイラー=ジョンソンの美男ぶりもなかなか。 アンナの夫役で出ているジュード・ロウが、今までとはちょっと違う感じの役で、それなりに見せている。 総合的に見て、傑作というほどではないけれど、悪くない水準の作品だと思う。 ・・・・が、新潟ではWMC南の単独上映だというのに、私が行った回は私を入れて中高年の男が2名、若い女が2名の、合計4人の観客しかいなかった。 アンナと立場が近い(?)有閑マダムは何をやっているのかな。 東京だとこの手の映画には有閑マダム風のご婦人がたくさん来ているものだが。 新潟には有閑マダムなんていないのだろうか。 それとも新潟の有閑マダムは韓流だとかクドカンあたりにイかれているのだろうか・・・・・?? こんな入りじゃ、ますます新潟にヨーロッパ映画が来なくなっちゃう (嘆息)。

58.「駆ける少年」 5/17、シネ・ウインド。 評価★★☆ イラン映画、アミール・ナデリ監督作品、1985年。 30年近く前に作られた映画で、ナント三大陸映画祭でグランプリを受けているそうだが、ようやく日本でも公開がなされたということらしい。 いわゆるストリート・チルドレンを描いている。 中心となる少年は、海辺で空き瓶を拾ったり、靴磨きをしたり、好きな飛行機の写真が載っている雑誌を買ったり、文字を習おうと小学校の夜間部に通ったりする。 ただ、はっきりとした筋書きが一本通っているわけではなく、少年の日常を淡々と映し出すことに意を用いているようだ。 ストリート・チルドレンの悲惨さを強調するような社会派ドラマというよりは、貧しい少年を主人公にした芸術映画、というような感じ。 ただ、そういう作品であるだけに、1時間30分ほどの長さでも少し退屈してしまう。 もう少し+αが欲しいような気がするけれど、そうなると作品の純度が下がってしまうだろうなあ。

57.「セデック・バレ 第一部 太陽旗」 5/17、シネ・ウインド。 評価★★★☆ 台湾映画、ウェイ・ダーション監督作品。 日本統治時代の台湾で実際に起こった事件を題材にしている。 台湾の山奥に住む先住民が、あるきっかけから叛乱を起こし日本軍と戦うお話。 この第一部は、先住民族の暮らし、日本の統治が進む中で彼らのもとの暮らし (狩猟、他の部族との抗争) が否定され、近代化政策のもとで差別され卑屈な暮らしを強いられる様子、そして或る事件を契機として叛乱を起こし、現地の日本人を皆殺しにする――女子供を含む――までを描いている。 先住民もともとの暮らしぶりが面白い。 狩猟に生きるというだけではなく、他部族との戦いでは敵の首を斬ることを名誉とする。 つまり、彼らは首狩り族なのだ。 そういう彼らの、或る意味血なまぐさい生き方がきっちりと描かれているところが、この第一部の最大の見どころだと思う。 他方、日本人のほうの描き方はいささか浅い。 前評判では、日本人の中にもいい人もいるという面も描いているという話だったが、あまりそういう描写は出てこないし、現地人をいじめる日本人俳優は顔の悪い (安っぽい) のが揃っていて、もう少し悪役として迫力ある俳優がいなかったのかな、と思ってしまう。 まあ、先住民の高貴なる野蛮が、文明の野蛮に立ち向かうという構図そのものは、平板なヒューマニズムに収まらないところがあって、悪くないんじゃないか。

56.「探偵はBARにいる 2」 5/15、WMC新潟。 評価★★★ 橋本一監督作品。 第1作が好評だったので作られた第2作。 私は第1作もあんまり買わなかったのだけれど、この第2作も、うーん、という感じ。 まあ、あまり深く考えずに見る分には悪くない映画で、女のヌードとか、格闘シーンだとか、カーチェイスだとかがちりばめられているので、息抜きに映画でも、という軽い気持ちの方には薦めないでもない。 だけど、探偵が登場する以上ミステリーであるわけで、ミステリーとして、探偵モノとして見ていると、どうしようもなくいい加減だし、探偵は 「もう廃業すれば?」 と言いたくなっちゃうくらい無能だし、困るなあ、なのである。 ヒロインの尾野真千子の性格設定なんかも、一見面白いようでいて実はデタラメなんじゃないか。 もともと私は尾野真千子って好きじゃない (美人のうちに入らないと思う) せいもあるんだけれど。

55.「県庁おもてなし課」 5/11、WMC新潟。 評価★★★   三宅喜重監督作品。 高知県を舞台に、観光促進をめざす県庁のおもてなし課勤務の公務員が、かつて画期的な提案をしながら容れられずに県庁を追われた人材に意見を聞くなどして仕事をするというお話だけど、どちらかというと仕事の内容よりは、バイトで入った女子(堀北真希)との恋愛だとか、高知県出身作家と上述元県庁マンの娘との恋愛だとかが中心になっている。 特に目新しいところもないけれど、普通に楽しめるくらいの出来にはなっている。 ヒロインの堀北真希が、あいかわらずいい味を出しているし、元県庁マンの船越英一郎の存在感も悪くない。

54.「僕の中のオトコの娘」 5/5、シネ・ウインド。 評価★★☆ 窪田将治監督作品。 無能で会社を辞めざるを得なくなった若者が自宅に引きこもっていたが、ネットを通じて女装を知り、そこから社会復帰の糸口をつかむ、というお話。 この映画、ポイントがどこにあるのか、やや曖昧。 女装の世界を一般人に分からせるというなら、女装に至る動機――たぶん人により様々だろうから――を女装者ごとに明らかにするとか、家族との関係も人ごとだろうからその多様性も描くとか、そういう親切さが必要だと思うんだけど、その辺が物足りない。 かといって、無能な若者が引きこもりになりながらも女装を通じて社会復帰するという、その社会復帰に重きをおいているのだとすると、普遍性があまりないんじゃないだろうか。 そもそも、この映画の冒頭に描かれている主人公たる若者の無能さは相当にひどくて、この無能さが女装によって改まるものなのか。 改まるとすればそこにどういう心理的・精神的な契機がひそんでいるのか、その辺も考えて話を作ってもらわないとね。 というわけで、描かれている世界は物珍しいけど映画としては不足かな、と思いました。

53.「大脱走」 5/3、Tジョイ新潟万代。 評価★★★☆ アメリカ映画、ジョン・スタージェス監督作品。 1963年。 有名な映画だけど、ちゃんと見たかどうか記憶が不確かで、「午前十時の映画祭」 で上映されたのを機に見に行ってみました。 3時間近い大作だけど、退屈しない。 脱出劇だけでなく群像劇としても面白い。 しかし今の目で見ると、戦争映画にしてはかなり牧歌的だ。 何度も脱獄jを繰り返しても銃殺になるわけでもなく (最後ではなるけどね)、収容所でおとなしくしていれば待遇だってそんなに悪くない。 最近の戦争映画での悲惨でリアルな描写だとか、ナチスドイツがユダヤ人のみならず、ソ連や東欧の占領地ではかなり現地人に対しても暴力的に振舞っていたことが分かるような描き方をした映画に慣れた目でみると、ちょっとのんびりしすぎというか、古きよき時代の映画だな、という感想が湧いてくるのを抑えきれない。 60年代前半というと、アメリカ映画もまだ古典期だったんだね。  

52.「ヒッチコック」 5/1、WMC新潟。 評価★★★ アメリカ映画、サーシャ・ガバシ監督作品。 有名な映画監督であるヒッチコック (アンソニー・ホプキンス) とその妻 (ヘレン・ミレン) の夫婦生活、および 『サイコ』 を製作する際の映画会社とのゴタゴタだとか撮影の難渋だとか俳優との色々を描いた作品。 映画を作るって、資金の調達をはじめ、映画会社首脳との意見の調整だとか、結構厄介なものなんだなと分かる。 また、ヒッチコック夫妻の夫婦としての実態や、女優に対するヒッチコックの微妙な態度など、有名映画監督の内実がそれなりに描かれていて、勉強にはなる。 ただ、映画としてすごく面白いかというと、どうかなという気が。

51.「明日の空の向こうに」 4/30、シネ・ウインド。 評価★★★★ ポーランド・日本合作、ドロタ・ケンジェジャフスカ監督作品。 なお日本との合作となっているのは、日本側でこの監督にほれ込んでいる人物が資金を提供したということらしい。 内容的にはポーランドとロシアの映画である。 それはさておき、ポーランド近くのロシアで、親のない浮浪者の少年3人が、苦労して国境を越えてポーランドに入るが、結局は送還されてしまう、という筋書きだけど、この映画で大事なのは筋書きではない。 一種の映像詩として見るべき映画。 特に3人の少年のうち最年少のオレグ・ルィバが天才的にかわいくて、いわゆる絵になる子供であり、彼を見るためだけでも一見の価値がある。 これは素材の勝利と言うべきだろう。 それ以外に廃線跡の風景だとか、少年たちをめぐる大人たちの表情だとか、色々と見どころが多い作品。 ただし筋書きだけをたどって映画を見る人には向かないので、そのつもりで。 なお邦題がイマイチな気がするのだが、私はポーランド語が分からないけど、某サイトによると原題は”Tomorrov Will Be Better”の意味だそうである。 もう少しカッコいい邦題はなかったのかなあ。 いい作品にはセンスある邦題を!

50.「約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」 4/30、シネ・ウインド。 評価★★★ 斉藤潤一監督作品。 昭和36年、三重県名張市の葛尾で起こった事件で、地元住民の懇親会で女性に出されたぶどう酒に毒が入っており、6人が死去した。 同じ地区に住む奥西容疑者 (若い頃は山本太郎、老いてからは仲代達矢) が逮捕され自白し、しかし裁判では自白内容を否認して、地裁では無罪だったが、高裁・最高裁で死刑となった。 その後何度か再審請求を出しており、とちゅう一度名古屋高裁で認められたものの、検察の特別抗告により別の名古屋高裁裁判長が再審を棄却し、そのあと最高裁で毒物鑑定について慎重に検討するよう指示があったが、その後の高裁でも再審は棄却された。 この映画は、そうした事情をフィクションとノンフィクションの映像を交えてわかりやすく説明している。 私の好みからすると、前半は被告の母 (樹木希林) が前面に出すぎで、ちょっと母子ものっぽくて閉口したが、後半になると奥西被告が殺人犯として名を挙げられて以降の地元民の証言の変化だとか、物的証拠とされたものも再鑑定などにより有罪の証拠としては怪しいことが判明して来ていることなどが指摘され、この事件の有罪判決に疑問符がつくことがだんだん納得いくようになっている。 また、再審請求を棄却した裁判官が出世して、認めた裁判官はその直後に裁判官を辞めていることも分かり、裁判官の世界への疑問もさりげなく説かれている。 したがって惜しむらくは、前半母親にこだわり過ぎて事件の真実の解明が後半回しにされていること、それからぶどう酒びんのキャップ(王冠)についた歯型の新鑑定が何を明らかにしたかの説明が不親切でよく分からなかったこと――ここが是正されればいっそうの佳作となったであろう。

49.「HK 変態仮面」 4/26、Tジョイ新潟万代。 評価★★★ 福田雄一監督作品。 マンガ原作の実写映画。 体が大きく正義感も強いがケンカに弱い高校生(鈴木亮平)が、なぜか女性のパンティをかぶると超能力をもつ正義の味方に変身・・・・という、かなり崩れたお話なのだが、まあまあ面白いかな。 ちょっとスパイダーマンのパロディになっている部分もあり。 それから、主人公が思いを寄せる女子高校生役の清水富美加がかわいい。 他愛もない役だけど、最近、こういう役をうまくやれる若くてかわいい女の子、案外少ない気がする。 その意味で、この映画は半分は清水富美加のPVになっているかも。

48.「霧の中の風景」 4/20、シネ・ウインド。 評価★★★☆ ギリシア・フランス合作、テオ・アンゲロプロス監督作品、1988年。 シネ・ウインドで昨秋から毎月1週間だけ上映されているアンゲロプロス特集の第6回で最終回。 ギリシアで母と三人暮らしの姉弟。 父はドイツにいると聞かされていた二人は、逡巡の末、ドイツ行きの国際急行列車に切符もないままに乗る。 しかし、実は二人は私生児であり、ドイツに父がいるというのは母の嘘であった。 けれどもいったん旅に出た二人は、さまざまな人間と邂逅しながらさすらい続ける。 いつもながら豊かな映像イメージに裏打ちされた作品で、ただ、特に姉が子供から女の部分をもつ少女へと成長していく過程 (ただしかなり・・・・なところもある) が盛り込まれているところが目新しい。 旅芸人たちとの出会いなど、過去の作品を想起させる部分もあり、最後はかなり象徴的な映像表現でしめくくっている。 こういう映画って、アンゲロプロスにしか作れないな、としみじみ思わされる作品。

47.「リンカーン」 4/19、UCI新潟。 評価★★★ アメリカ映画、スティーヴン・スピルバーグ監督作品。 かの有名なリンカーン大統領の晩年を扱っている。 すなわち、大統領として2期目に入り、南北戦争の帰趨もほぼ決しかけているが、憲法に修正条項として奴隷禁止を盛り込もうとしての努力が最大の焦点となっている。 それには議会の三分の二以上の賛成が必要なのだけれど、その確保が難しい。 そのために多数派工作に乗り出さざるをえないし、時には嘘も方便となる。 議会での妥協含みの議論とか、政治が今も昔も変わらないこと、リンカーンも、演説はたくみでユーモアもあるが、そういう点では普通の政治家であったことが分かるような描き方であり、決して超人的で正義の塊のようには描いていない。 つまり単純な意味での偉人伝にはしていないのである。 ただし、そういう捉え方が映画として面白いかどうかとなると、やや微妙。 まあ単純な偉人伝では今どきの世の中には通用しないだろうけれど。

46.「眠れぬ夜の仕事図鑑」 4/17、シネ・ウインド。 評価★★☆ オーストリー映画、ニコラウス・ゲイハルター監督作品。 邦題はかなり意訳 (?) で、原題は 「Abendland」、つまり西洋・ヨーロッパということだが、文字どおりには 「夕方の地」 の意味。 これは、ヨーロッパがアジア・オリエントを東側、つまり日が昇る場所ということで朝の地と言い (朝鮮や日本が中国を意識して 「朝日が鮮やか」 「日の昇る国」 と名乗ったのと同じ原理)、対して自分たちを夕日の沈むところとしたことから来ている。 ・・・・・まあ、御託はともかく、これは夕方から夜にかけてのヨーロッパ各地の模様を映し出した一種のドキュメンタリー。 しかし説明が省かれているので、見ていてよく分からない部分もあるし、脈絡なく色々な土地の色々な職業の人々を出されても、うーん・・・・・なのだ。 不法難民を出身地の送り返す役目の女性だとか、寝たきり老人ホームで夜に老人に寝返りをうたせてあげる職業だとか、監視カメラで夜の繁華街を映し出して監視している人々だとか (それにしても監視カメラってかなり街に浸透してるんだね)、それなりに 「ふうん」 な部分もあることはあるのだけれども。

45.「舟を編む」 4/13、UCI新潟。 評価★★☆ 石井裕也監督作品。 辞書作りのお話なんだけど、設定が不自然で楽しめなかった。 主人公を演じる松田龍平がコミュニケーション能力をまったく欠いたオタクとして出てくるんだけど、広辞苑並みの厚さを持つ辞書を (ちょっと継子扱いされている部門とはいえ) 作るとなると、当然版元はそれなりの大出版社。 今どきの大出版社が、いくら院卒とはいえあんなオタクを採用するわけがない。 しかも最初は営業部に配属されているしね。 大出版社に入るのがどれほど大変か、(コミュニケーション能力を含めて) エリートしかいない職場であることを、作る側は全然理解していない。 だいたい、辞書作りは単にこつこつと単語カードを作るだけの作業じゃないでしょ。 最後の追い込みでは応援を呼んだりしなきゃならないから、それなりのコネを持っていたり、人間関係を仕切る能力も必要なのだ。 また、彼の女性関係も月並み。 いや、「ボクたちの交換日記」 でも月並みだったけど、あの映画では私好みの女優が3人も出ていたので赦したけど(笑)、この映画は宮崎あおいだけだし、彼女、嫌いというほどではないが別段好きでもないし、どんな映画に出ても同じようなキャラクターでもう飽きてるんだよね。 はっきり言うけど、彼女、映画に出すぎです。 或いは製作側が新しい女優を発掘する能力に欠けてるってことかな? とにかく、ほめるような映画じゃありません。

44.「ジャンゴ 繋がれざる者」 4/6、UCI新潟。 評価★★☆ アメリカ映画、クエンティン・タランティーノ監督作品。 南北戦争直前のアメリカを舞台に、奴隷として束縛されていた黒人の男 (ジェイミー・フォックス) が、ふとしたことからアメリカを旅行し賞金稼ぎをしているドイツ人 (クリストフ・ヴァルツ) に救われ、自分も賞金稼ぎをしながら、別の奴隷主に買われてしまった妻を取り戻そうとする、というお話。 黒人が主役の西部劇という触れ込み。 前半はまあまあ面白い。 だけど、自分の妻を取り戻そうとして奴隷主 (レオナルド・ディカプリオ) に2人が近づいていくあたりから、西部劇としてのテンポがにぶり、面白さが希薄になる。 時間的にも3時間近い長い作品だが、後半が無駄な気がする。 筋書き的にも最後あたりはやや無理があり、もっと切り詰めた映画作りを心がけてもらいたいと思った。 役者ではドイツ人の賞金稼ぎを演じるクリストフ・ヴァルツがいい。 逆に、奴隷主のディカプリオはミスキャストというか、そもそも後半の脚本が悪いのでやりようがなかったんだろうけどね。

43.「世界にひとつのプレイブック」 4/6、UCI新潟。 評価★★  アメリカ映画、デヴィッド・O・ラッセル監督作品。 妻の不倫現場を見て暴力行為に及んだために教師という職業を失い精神病院に入れられた男。 何とか退院して、保護観察付だが両親と暮らし始めた彼は、何とか妻とのヨリを戻そうとする。 他方、夫を事故で失い精神的に追い詰められて職場の人間とセックスしまくったためにクビになった女が近所にいる。 この両者が出会って、お互いの人生を立て直すためにダンスの競技会に出ようと練習を始める・・・・。 というふうに一応の筋書きはなるのだけれど、人生を立て直すための努力より、むしろこの二人がいかに周囲とうまくいかないか、また二人で付き合うようになってもいがみ合いばっかりしているかが上映時間の大半を占めており、率直に言って、こういう人たちが現実にいたらお付き合いしたくないなと思ってしまった。 つまり、主役二人にあんまり共感できなかったということで、どうも作る側の計算に狂いがあったとしか思われない。 変な人ほど好きだという映画愛好家にはいいのかも(笑)。

42.「相棒シリーズ Xデイ」 4/5、Tジョイ新潟万代。 評価★★★★ 橋本一監督作品。 「相棒」 シリーズ映画版の一作だが、今回は水谷豊はロンドン出張中という設定で、ちょっとだけの出演。 その代わりにコンビを組むのが川原和久と田中圭なのだが、警視庁捜査一課所属で熱血漢の前者と、コンピュータ犯罪課所属で冷静な後者はまったく息が合わず、皮肉の応酬となる。 このやりとりが滅法面白い。 また犯罪そのものも、副題にあるように日本の経済や金融が破綻した場合は・・・・という想定が使われており、財政が大赤字の現実の日本からすればありえない話ではないところが、なかなかいい。 最後に明らかになる真犯人の正体などはやや物足りない感じだが、上述の刑事ふたりのやりとりとテーマの切迫性からして、このシリーズ映画版の中では最高の出来と言えるだろう。 うん、今年の邦画は好調だ。 

41.「セブン・デイズ・イン・ハバナ」 3/28、シネ・ウインド。 評価★★☆ フランス・スペイン合作。 ハバナを舞台にした7人の監督によるオムニバス映画だが、舞台以外にもごくわずか、ストーリーに全体のつながりのようなものもある。 月曜日から始まって日曜日で終わる7話構成。 ただし出来は、水曜日の 「セシリアの誘惑」(フリオ・メデム監督) と金曜日の 「儀式」(ギャスパー・ノエ監督) 以外はぱっとしない。 この2作だけは注目して見た。 他はやや眠かった。

40.「ボクたちの交換日記」 3/27、UCI新潟。 評価★★★★ 内村光良監督作品。 小出恵介と伊藤淳史を主人公に、高校卒業と同時にお笑いコンビを結成しながら、売れずに三十歳を迎えた二人の日常と、意を決してお笑いコンテストに挑む様子を描いている。 実はあまり期待せずに見に行ったのだが、意外な傑作だった。 まず、ふたりの日常や、お笑いネタを考える際の色々など、細かいところを丹念に描いているのがいい。 また、小出恵介は外交的でおしゃべりで、いかにもお笑い芸人を目指しそうに見えるのに対し、伊藤淳史は逆に寡黙で内気で、お笑い芸人なんかに向いていないように見えるのだが、実はネタを考えるのは伊藤の役目、というところも、芸人のあり方の真実のようなものを垣間見させてくれるうまい設定。 コンテストの進行も、ちゃんと他のコンビの芸がいくつも出てくるなど、変な省略をせずに観客を納得させてくれる作りになっている。 全体の筋書きはありがちな感じかも知れないが、進行はやや曲線的なので、類型的な印象はない。 添え物程度の役ではあるけれど、長澤まさみ、木村文乃、川口春奈の三人の女優も美人ぞろいで、見ていて楽しめる。 男の脇役陣もなかなかいい。 というわけで、お薦めできる映画。 今年の邦画は、「映画 鈴木先生」 といい、結構充実しているかもという予感がしてきました。

39.「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」 3/25、UCI新潟。 評価★★★ 英・米・アラブ首長国連邦合作、ジョン・マッデン監督作品。 老いた英国人たちが、かつての植民地であるインドで老後を過ごそうとして出かけていったら、というお話。 タイトルのホテルが、老後の安寧を保証してくれる場所のはずだったのだが・・・。 悪くはないんだけど、登場人物が何人もいるので、個々の人物の描写は短く、おおざっぱになりがち。 それもあって、各エピソードの深さもあまりなく、特に後半の収斂のさせかたなどはやや安易で類型的になっている。 もう少し型破りな面白さがある映画かと期待したので、少し残念。

38.「永遠と一日」 3/23、シネ・ウインド。 評価★★★☆ ギリシア映画、テオ・アンゲロプロス監督作品、1998年。 シネ・ウインドのアンゲロプロス特集の第5弾。 死期を自覚した老詩人 (ブルーノ・ガンツ) が旅に出ようとするが、途中で偶然ストリート・チルドレンの少年と知り合いになる。 少年はアルバニアのギリシア系住民だった。 少年をアルバニアに戻そうとする老詩人は、しかし彼と離れられなくなり、二人で彷徨することになる。 その合間合間に、かつて若い妻と過ごした日々が脳裏によみがえり、現実と過去の区別が曖昧になっていく・・・・・。 アンゲロプロス特有の象徴的表現や、過去と現在の自由な往還、独特のイメージなどが楽しめる。 またアンゲロプロスの映画では鉄道が重要なイメージを担う場合が多いが、この映画ではバスがその役割を果たしている。

37.「サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ」 3/20、シネ・ウインド。 評価★★★ アメリカ映画、クリス・ケニーリー監督作品。 1世紀を超える歴史を持つ映画だが、現在、フィルム上映がデジタルに移行しつつある。 この映画はさまざまな監督や撮影監督にインタビューしながら、フィルムの特徴とデジタルの特徴、またこの20年ほどのデジタル技術の進展を明らかにしようとしたもの。 フィルムのほうがいいという監督もいれば、逆の監督もいる。 デジタルは保存がきくという意見もあるが、逆に、ビデオ媒体は再生装置がくるくる変わるから将来再生できなくなる可能性が高いという監督もいる――これは映像に限らずそうで、オーディオを思い返せば、かつてのSPレコード、LPレコードなどは再生装置がなくなりつつある。 要するに色々な意見があるわけだが、それでも全体としてデジタルへの移行はとめられないだろう。 技術の進展への監督ごとの反応の違いが興味深いドキュメンタリーだ。

36.「フライト」 3/20、WMC新潟。 評価★★☆ アメリカ映画、ロバート・ゼメキス監督作品。 アメリカの国内路線の飛行機が整備不良により異常を来たし、あわや墜落というところを、敏腕の機長 (デンゼル・ワシントン) は超人的な操縦技術を駆使して郊外に軟着陸、わずかな死者を出しただけで大部分の乗客は助かった。 マスコミに英雄扱いされる機長だが、実は彼には弱みがあって・・・・。 この映画、予告編で予想したのとはかなり違った展開になっている。 それは別に構わないのだが、事故の原因と機長の弱みが結びついていないという致命的な欠点があり、事故は単に機長の弱みが露呈するきっかけ (原因ではなく) に過ぎないのだ。 脚本の不出来と言うしかない。 冒頭の飛行機の異常シーンは結構迫力があるだけに、惜しい。 

35.「ルビー・スパークス」 3/16、UCI新潟。 評価★★☆ アメリカ映画、ジョナサン・デイトン+ヴァレリー・ファリス監督作品。 小説の処女作で大ヒットを飛ばしたものの、その後の作品が浮かばないでいる若い作家 (ポール・ダノ)。 たまたま夢で理想的な女性に出会い、それを小説化しようとしていたところ、夢の中の女性が現実に姿を現して・・・・・。 アイデアとしてはまあ面白いんだけれど、女性が現実化したあとの脚本がイマイチなのである。 また、ヒロインを演じるゾーイ・カザンが――有名なエリア・カザンの孫だそうな――私の目にはあんまり可愛く見えない、というのも難点。 もう少し脚本とキャスティングを工夫していればそれなりの作品になったのにね。 それともアメリカの映画界もどこかの国の政治家と同じく二世三世が幅をきかしているのかな?

34.「カラカラ」 3/15、UCI新潟。 評価★★ 日本・カナダ合作、クロード・ガニオン監督作品。 老いたカナダ人男性 (ガブリエル・アルカン) が沖縄に旅し、そこでDVの夫から逃亡中の日本女性 (工藤夕貴) とたまたま知り合い、沖縄の自然で癒されたり、沖縄の民俗芸能や民芸品に興味を持ったりする、というお話。 ・・・・うーん、この手の映画、もともと私は好きじゃないんだけど、この映画は脚本も練れていないし、沖縄の基地のあり方に疑問を投げかけているんだけどそれがいかにも表層的だし、二人は出会ってすぐにベッドインしちゃうし (笑)、感心しませんでした。

33.「インターミッション」 3/11、銀座シネパトス。 評価★★ 樋口尚文監督作品。 3月限りで閉館する銀座シネパトス最後のロードショウ作品というので、東京出張最後の2時間を使って見てみた。 舞台が銀座シネパトスで、そこに来る客に色々な俳優が出ているところがミソ。 作品内で上映される映画はほとんどがタイトルのみ示されるが、その作品選択に監督の見識らしきものが示されている。 映画館の支配人役を秋吉久美子がやっている。 ・・・・出演陣はまあ豪華ともいえるけれど、映画としてはさして面白くない、残念ながら。 この監督、映画監督としての実績が全然ない人らしいので―ー電通社員で映画やテレビドラマの評論をやったりしている人らしい――そのせいかな。 一見過激ではあるのだけれど、なんか中身が薄い。

32.「わが町」 3/11、銀座シネパトス。 評価★★★ 川島雄三監督作品、1956年。 明治末期から昭和の戦後すぐくらいにかけての大阪を舞台に、過去にフィリピンで道路建設の難工事に従事した男の、帰国してからの人生を描いている。 まず、ずっとほったらかしにしておいた妻と幼い娘に再会するが、妻は病気で死に、男は人力車業をしながら一人で娘を育てる。 やがて成長した娘には恋人ができるが、男は婚約者に対して娘との結婚を認めてやるからフィリピンに行ってこいと命令。 婚約者はそれに従うが、フィリピンで病死してしまう。 しかし娘のお腹にはすでに子供が。 娘も女の子を生んでまもなく死に、男は今度は孫娘を一人で育てる破目に・・・・・。 強引な大阪男を辰巳柳太郎が、その妻と娘役を若い頃の南田洋子が演じている。 長屋のほかの住人もそれなりの役で出てきて、昔の日本の人情喜劇という言葉がよく当てはまる映画になっている。 なお、フィリピンで日本人が難しい道路工事に挑んで完成させたという史実があることを、私はこの映画で初めて知りました。 バギオという土地だそうである。  

31.「洲崎パラダイス 赤信号」 3/11、銀座シネパトス。 評価★★★ 川島雄三監督作品、1956年。 戦後間もない頃、歓楽街があった東京の洲崎 (現在の江東区) の飲み屋と蕎麦屋を舞台に、若い男女のどうしようもない人生を描いている。 甲斐性なしでお金がない男 (三橋達也) とその恋人 (新珠三千代) は、彼女がかつて勤めていた洲崎の入口にある小さな飲み屋に泊めてもらい、女はそこで働き、男も近くの蕎麦屋で出前持ちの仕事を始める。 飲み屋のおかみ (轟夕起子) は夫に逃げられた身で、小さな男の子二人を独力で育てていた。 女は過去に洲崎で春をひさいでいた経験があり、接客も巧みで、やがて小金を持つ電気屋に気に入られてアパートの一室を借りてもらう。 他方、蕎麦屋に勤める男には、その店の娘 (芦川いづみ) が親切にしてくれて・・・・・。 と書くと、とりとめもない話に思えるし、事実なんだか締りのない話だなと思いながら見ていたのだが、しばらくすると二人の若い男女のどうしようもなさが引き起こす地味な悲喜劇がけっこう面白く思えてくる。 飲み屋のおかみ役の轟夕起子がかいがいしい中年女性を演じてなかなかいい。 

30.「最初の人間」 3/10、シネマ・ジャック&ベティ(横浜・黄金町)。 評価★★★☆ 仏・伊・アルジェリア合作、ジャンニ・アメリオ監督作品。 自動車事故で急死したフランス作家アルベール・カミュの遺作の映画化である。 カミュはフランス植民地時代のアルジェリアで育っているが、自伝的な要素が濃厚な作品。 アルジェリアで育ち、やがてフランスで著名な作家になった中年男が、アルジェリアで暮らしている老母を訪ねるとともに、独立運動に揺れるアルジェリアで、旧守的な植民地政策と過激で暴力も辞さない独立運動との双方を批判して、左右両派から憎まれるという、カミュ自身の体験も盛り込まれている。 また、貧しかった少年時代の思い出、字が読めなかった祖母や母や叔父との暮らし (父は第二次世界大戦で戦死)。 すぐれた教師との出会いも描かれている。 他方で主人公は、かつての同級生であるイスラム系住民と再会し、彼の息子が過激な独立運動ゆえに逮捕され死刑にされかかっていることを知り、何とか助命しようと努力するのだが・・・・。 独立して半世紀たちながら、今なお混迷を続けているアルジェリア。 カミュの当時の発言は左右両派から批判されたが、カミュは間違っていたのだろうかと、改めて考えさせられてしまう作品だ。 というわけで悪くない映画だけれど、カミュの作品や当時のフランス・アルジェリア事情に或る程度通じた人でないと理解が困難な映画でもあろう。

29.「ベラミ 愛を弄ぶ男」 3/9、ヒューマントラストシネマ渋谷。 評価★★★ 英国映画、デクラン・ドネラン+ニック・オーメロッド監督作品。 フランスの作家モーパッサンの有名な長編小説 『ベラミ』 の映画化。 ただし、舞台は原作どおり19世紀のパリだが、製作が英国なので使用言語は英語になっている。 俳優も英米系。 軍隊を除隊したあとカネがなくて困っていた美青年が、ふとしたきっかけからパリの裕福な既婚夫人の寵愛を受けてジャーナリズム界でのし上がっていく物語である。 当時の風俗や出版界の事情などがそれなりに再現されていて楽しめる映画になっているが、キャストはあまり感心しない。 美青年役はロバート・パティンソンで、彼は 「トワイライト」 シリーズで吸血鬼役で売り出した俳優だけど、吸血鬼ならともかく年長女性に寵愛されるような美青年なのだろうかと疑問を覚える。 彼を愛する年長女性3人もイマイチ魅力がない。 この手の映画は俳優の美貌を大切にしなきゃダメだと思うんだが。  

28.「アルバート氏の人生」 3/8、ヒューマントラストシネマ渋谷。 評価★★★☆ アイルランド映画、ロドリゴ・ガルシア監督作品。 19世紀のアイルランドを舞台に、生きるために女の身でありながら男装をし、ホテルでウェイターとして長年働いてきた人物 (グレン・クローズ) を主人公にした物語。 ホテルでの金持ち客や使用人、ホテル経営者の老婦人の様子などが丹念に描かれており、その中で男装のヒロインが現在の仕事をやめ、貯めたお金で小さな店を開こうと考えるお話や、意外なところから友人ができるお話、また、同じホテルに勤務する若い美男ボイラーとやはり若い美人メイド (ミア・ワシコウスカ、私好み・・・笑) との恋仲にひょんなことから関与していく様子などがメインになっている。 脚本はよくできており、ちょっと変わった映画のようだけど、まあ悪くない出来だと思う。 新潟では例によって今のところ上映予定がないんだが、どこかやりませんか? 東北は秋田を除く5県で、ほかの近隣県でも栃木と長野は上映予定が入っていますぞ。

27.「15歳、アルマの恋愛妄想」 3/7、ヒューマントラストシネマ渋谷。 評価★★ ノルウェー映画、ヤンニッケ・シースタ・ヤコブセン監督作品。 15歳の少女アルマが年頃を迎えて、性欲に悩まされ、同級生の男の子とのセックスを妄想したり、セックス・テレフォンを利用したりしているうちに、クラスの中で孤立してしまい・・・・・というようなお話。 エッチなシーンがそれなりにあるのかと期待して見たのであるが、最初のあたりは結構そういうシーンがあるのだけれど、途中から一種の青春映画になってしまい、しかもそれで面白ければまだ良かったのだけれど、どうも面白さが感じられないので、うーん、という感じでした。 ノルウェーの映画人材、あんまり豊富じゃないのだろうか。 人口が日本の20分の1以下だし。 ・・・といっても、映画好きだとか才能のある人はそれなりにいるはずじゃないのかなあ。 

26.「エンド・オブ・ザ・ワールド」 3/7、ヒューマントラストシネマ渋谷。 評価★★☆ アメリカ映画、ローリーン・スカファリア監督作品。 巨大隕石が地球に近づき、NASAによる爆破計画も失敗、地球はあと20日あまりで滅亡してしまうという状況に。 そんな中で妻に去られた男 (スティーヴ・カレル) と、同じマンションに住む女性 (キーラ・ナイトレイ) がたまたま一緒にクルマで旅することに。 男は、かつて別れたが愛していた別の女性に会いに行こうとする。 というのも、その女性から仲直りしたいという手紙が来ていたのに、同じマンションのキーラ・ナイトレイのポストに誤配達されてしまい、おまけに誤配達された手紙をそのままキーラが持ち続けていたために、せっかくのチャンスを逃してしまい、しかもそのことを世界滅亡を控えたこの期に及んで知ったので、せめて会うだけでも、と思ったからであった。 ・・・・というようなお話で、最後はまあ主役の二人が世界滅亡を控えて最後の愛で結ばれるということになるのだけれど、何か物足りないんだなあ。 世界滅亡がなくてもありえるお話――間違いから男女が結ばれるっていうストーリーだから――で、なぜ世界滅亡を持ってきたのか、よく分からないからかも。

25.「みなさん、さようなら」 3/5、WMC新潟南。 評価★★☆  中村義洋監督作品。 ひきこもりの男のお話。 といっても、自宅に引きこもるのではなく、自分が住んでいる町田市の大規模な団地から一歩も出ずに一生を送ろうと決心するという物語である。 主人公はそのため、小学校を出てからは学校に行かず、それでも公立中学の卒業証書をもらい、そのあと団地内にあるケーキ屋に頼み込んで雇ってもらう。 しかしやがて小学校の同級生たちは団地を去り、団地自体が老朽化して外国人の溜まり場になり、主人公も同級生の恋人に振られ(だって団地から一歩も出ないんだから当然でしょ)、徐々に黄昏色が強くなってきて・・・・。 うーむ、なんか主人公の生き方は珍奇ではあっても、説得力が感じられないのである。 表面的な面白さだけを追っていて、日本の団地が抱える問題性だとか時代性を丹念に描いていこうという緻密さみたいなものが欠けている。 日本映画の悪い部分が出てる作品だと思うんだなあ。 

24.「マリー・アントワネットに別れをつげて」 3/2、UCI新潟。 評価★★☆ フランス・スペイン合作、ブノワ・ジャコー監督作品。 フランス革命で命を散らしたマリー・アントワネット王妃。 この映画は革命が起こってヴェルサイユ宮殿から貴族らが逃げ始めるあたりの時期を描いている。 ただし、ヒロインは王妃 (ダイアン・クルーガー) に本を朗読してあげる係の若い女性 (レア・セドゥ) で、彼女が混乱するヴェルサイユ宮殿の中で右往左往しつつも、敬愛する王妃に最後まで離れずに従おうとするが、王妃から、愛する貴族夫人 (ヴィルジニー・ルドワイヤン) が逃亡するのに同行するよう命令を受け、それも途中で暴徒に襲われた場合の用心に貴族夫人と御付の役割を交換して馬車に乗るよう言われて、内心葛藤を抱えながらもそれに従うまでを描いている。 ・・・・・革命で混乱するヴェルサイユ宮殿や、貴族たちの不安な表情、召使たちの日ごろの勤務ぶりなどはよく描かれているけれど、いかんせん、肝心のヒロイン (朗読係) と王妃の関係が不十分にしか描かれておらず、また最後もあっけなくて、劇的な盛り上がりに欠けるのが難点。 ヒロインの王妃への敬愛の念、そして王妃が同性愛的な愛情を寄せる貴族夫人と王妃との関係など、もう少し丹念に描いて、一種の三角関係の葛藤を表現していれば、面白い映画になったと思う。 また、最後でヒロインが孤児であるという経歴が簡単に語られるのだが、なぜ孤児が宮殿の、それも王妃付きの朗読係に出世できたのかの説明がまったくないのも欠点。 

23.「劇場版 とある魔術の禁書目録(インデックス)」 2/28、Tジョイ新潟万代。 評価★★ 錦織博監督によるアニメ。 原作はライトノベルで、TVアニメにもなっているようだが、私はどちらも未見。 ときどき新しいアニメが見たくなるので見てみたのだが、あまり芳しい印象を受けなかった。 そもそも、原作が分からないと理解できない箇所が多すぎる。 筋書きの展開もしっちゃかめっちゃかで、かなり原作をよく知っている人でないと理解不能であるらしい。 いいアニメというのは、そういう難点があってもそれなりに 「うん、ここはいい」 と思えるところがあるものだけれど、このアニメに関してはそういう箇所が見当たらなかった。 うーん・・・。

22.「千年の愉楽」 2/28、シネ・ウインド。 評価★★★ 先ごろ事故で亡くなった若松孝二監督の遺作。 中上健次の小説の映画化だそうである (私は原作は未読)。 紀伊半島の路地 (被差別地域) を舞台に、なぜか女にもてまくるかわりに若いうちに非業の死を遂げる男を輩出する中本という家系を、産婆 (寺島しのぶ) の目から描いている。 中本の男を演じるのは、高良健吾、高岡蒼佑、染谷将太。 特に高良健吾は、せっかく美人の奥さん (石橋杏奈) がいるのに人妻と遊びほうけて、ケシカランというか、うらやましい(笑)。 モテ男の話だけでなく、人生の虚無感みたいなものも描いているわけではあるが、やっぱりモテる話は映画としていいですよね。 映画はこうじゃないきゃ。 モテナイ話を映画にしたって面白くもなんともないんだから。

21.「ゼロ・ダーク・サーティ」 2/23、UCI新潟。 評価★★★ アメリカ映画、キャスリン・ビグロー監督作品。 アメリカの諜報部が、オサマ・ビンラディンの居所をつきとめて、特殊部隊を派遣し殺害するまでの過程をリアルに描いた映画。 中東でのアメリカとイスラム過激派との攻防戦だとか、またアメリカが捕虜へ行っていたリンチの実態、そしてそれがマスコミに叩かれて手詰まりになる様子だとかが、ドキュメンタリーのように描かれている。 そしてふとしたことからビンラデリンの居所が判明して、政府の決断により特殊部隊を派遣する (外国だってのに、相手国家に断りナシにやっているんだからすごいよね、アメリカって) までの過程もなかなかだ。 映画製作者は別にアメリカ側に加担しているわけではなく、アメリカ側の残酷さも淡々と描き出している。 その意味では一見に値するけれど、やや長すぎて単調だし、焦点が絞りきれていないような印象も残る。

20.「シテール島への船出」 2/21、シネ・ウインド。 評価★★★ シネ・ウインドでやっているアンゲロプロス特集の1本。 1984年製作。 ギリシアで革命活動に関わって故国にいられなくなり、ソ連に亡命していた男が、32年ぶりに故郷に戻ってくるというお話。 戻ってきた彼はすでに老人であり、地元に残っていた家族とも必ずしも折り合えない。 おまけにソ連でも別に家族を作り子供も3人いることが分かる。 そういうわけで妻との関係もぎくしゃくするし、地元をスキー場として再開発する話に乗れずに地元民とも対立する。 ・・・・・アンゲロプロスの映画としては筋書きが分かりやすいが、それが逆にアダになっているような気がする。 彼の持ち味であるイメージの世界はここでも健在ではあるが、筋書きに押されるようにしてやや弱めになっている。 戻ってきた男の息子は映画制作に携わっていて、その話がもうひとつの筋書きということらしいのだが、そちらはかなり貧弱な感じである。 ただ、老人は最後に国外追放処分を受けるが、ソ連行きの船は乗せてくれず、国内ではない地帯へおかねばというので、海の上の小さな浮き場に載せられるシーンはすごいなと思った。 84年のカンヌ国際映画祭で脚本賞と国際映画批評家連盟賞を受けているそうだが、それほどの作品かなと少し首をひねった。 まあ、批評家賞なんて取る作品は大抵は 「うーん・・・」 なんですけどね。

19.「ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀」 2/19、Tジョイ新潟万代。 評価★★★ ドイツ映画、フィリップ・カーデルバッハ監督作品。 歴史上も有名な飛行船ヒンデンブルク号の事故を題材にしつつ、そこにドイツ人青年とアメリカ人令嬢の恋愛、そして事故が実は仕組まれたものだったというフィクションを組み込んで映画化した作品。 そこそこ面白いけれど、謎の組み込み方だとか、恋愛の進行などは結構粗っぽいというか、あんまり脚本が練れておらず、もう少し手間と暇をかけて作ってくれよと言いたくなる面もある。 飛行船の内部の模様なんかが分かるという点では勉強にはなる。 なお、タイトルのヒンデンブルグは、正しくはヒンデンブルク――ドイツ語を勉強した人なら分かるはずだけどね。

18.「桃さんのしあわせ」 2/19、シネ・ウインド。 評価★★★ 香港映画、オン・ホイ監督作品。 或る家庭に長年にわたって仕えてきた女中(ディニー・イップ)が老齢になって脳卒中を起こし、体が不自由になってしまう。 幼いときから彼女に育てられ、現在は映画のプロデューサーをしている男 (アンディ・ラウ) は、家族のいない彼女のために親身になって施設を探し出し、また施設にいる彼女の元を頻繁に訪れて世話をする、というお話。 彼だけではなく、彼の母親やほかの子供たちも、使用人というよりは家族のごとくに彼女の容態を心配する。 まあ、ほのぼの劇なんだろうな、とは思う。 日本の女中も、雇う側にもよるが、雇い主と家族同然の関係になる場合があったらしいから、こういう関係もありだろうとは思う。 ただ、男が香港社会のなかで持つ裏社会的なコネだとかも描かれていて、香港ってこういうところなのかなあ、とちょっと引いてしまう。 脳卒中になる前に女中が男のために作る魚料理がおいしそう。 

17.「ムーンライズ・キングダム」 2/18、Tジョイ新潟万代。 評価★★ アメリカ映画、ウェス・アンダーソン監督作品。 アメリカ・ニューイングランド (ボストンなどがある大西洋沿岸北部) の沖にある架空の島を舞台に、そこでキャンプしながら訓練をしているボーイスカウトたちの中から脱走した少年と、同じく近所に住んでいたけど家出した女の子の恋愛模様を描いている。 12歳同士の恋物語ということで、昔はやった 『小さな恋のメロディ』 やなんかを想起するのだけれど、何と言うのか、表現が遊戯がかっており、あまりリアリティに重きをおいていないので、わりに浅い展開になっている。 画面の作り方を含め、一種の童話と見ればいいのかも知れないが、イマイチ買えない作品という印象だった。 ブルース・ウィリスがメガネをかけて警官役をやっているが、そう言われないと分からないくらい 『ダイ・ハード』 などとはイメージが違う。

16.「王になった男」 2/18、Tジョイ新潟万代。 評価★★★★ 韓国映画、チュ・チャンミン監督作品。 17世紀の朝鮮王朝を舞台に、暗殺を恐れる余り自分とそっくりの男を影武者とした王様 (イ・ビョンホン) が病に倒れ、影武者が王様の代わりをすることになるという入れ替わりの物語。 この種のストーリーにはすでに先行作品があるわけで、本作もそういったところに学びながら作られていったような感がある。 しかし出来は悪くなく、最初は王侯としての立ち振る舞いや言葉遣いに慣れない影武者の滑稽さを、そして後半は庶民の暮らしを知らない王侯貴族の政治を何とかまともなものにしようとする影武者の努力と悪戦苦闘をバランスよく描き出していて、なかなか楽しめる映画になっている。 ただし、最後のところはやや処理がまずいような。 類似した筋書きのアメリカ映画 『デーヴ』 のあざやかなラストを見習って欲しいものだが。

15.「映画 鈴木先生」 2/16、UCI新潟。 評価★★★★ 河合勇人監督作品。 原作はコミックでTVドラマ化もされたそうだが、どちらも私は見ていない。 というわけで、未知のものに向かう新鮮な気持ちで見てみたのだけれど、これ、かなりいい線行っている映画だと思う。 都内の公立中学校の国語教師である鈴木先生 (長谷川博己) と、それを囲む生徒たちの物語で、鈴木先生はこの種のドラマにありがちな熱血教師ではなく、また担任をしているクラスの美少女に性的妄想を抱いてしまうようなしょうがない教師でもあるのだが (冒頭がその妄想シーンなので楽しめる 〔笑〕)、他方で自分なりに考えたり悩んだりしながら教育を行っている。 ここでは、生徒会の役員選挙を主材料に、現在の中学生たちの状況や、また教師の姿勢が俎上に乗せられている。 単に中学だけでなく、社会の一般の選挙にも通じる高度な問題だと分かるような筋書きにもなっているところがミソ。 加えて、学内の喫煙所や、卒業生の落ちこぼれの姿を通して、清潔さだけを目指している現代社会が本当に人間のためになっているのかという、教育を超えた問題提起もなされている。 中学は人生の通過点に過ぎないが、だからこそ社会のさまざまな矛盾が在校生たちや卒業生たちの懊悩となって表れてくるのである。 鈴木先生と対立する女教師を演じる富田靖子が怖い・・・・いや、なかなかいい (笑)。 新潟市ではユナイテッドの単独上映で1日の上映回数も少ないが、お薦めである。 

14.「ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ!」 2/15、シネ・ウインド。 評価★★★☆ アメリカ映画、ベス・カーグマン監督作品。 世界各国でバレエ・ダンサーを目指す十代の少年少女が、ニューヨークで催される世界コンクールをめざして努力する様子を描いたドキュメンタリー。 バレエを習うにはかなりお金がかかるが、一方で比較的裕福な家庭に生まれてその方面の心配はせずに夢に向かって練習を重ねる子供もいるが、ラテンアメリカで貧しい家庭に育ち、奨学金付きでアメリカに留学してバレエを学んでいる少年や、アフリカの内戦で殺されそうになり、アメリカの里親に引き取られてきた黒人少女など、さまざまな環境で育った子供たちが登場する。 そういう、人種的にも経済的にも多様な彼らがバレエに取り組む映像はなかなか感動的だ。 ・・・・・ただ、この映画に登場する子供たちは、途中でバレエが嫌になった10歳くらいの少年を例外として、コンクールの決勝に進み、入賞したりプロから声がかかったりという、言うならば勝ち組ばかりである。 作中で言われているように、このコンクールの倍率はかなり高い。 予選落ちした子供、決勝に進んでも入賞できなかった子供のほうが圧倒的に多いだろう。 そういう負け組の子供たちの姿が映されていないのはどんなものなのかな、と思ってしまう。 人生、努力すれば絶対報われる、とは限らないのだ。 努力しても負けることもある、それをも映すのが正しいドキュメンタリーじゃないだろうか。

13.「その夜の侍」 2/13、Tジョイ新潟万代。 評価★ 赤堀雅秋監督作品。 最近見た映画の中では出色の出来・・・・じゃなくて、最悪の出来だった。 いちおうの筋書きは、妻をひき逃げで殺された小さな工場主 (堺雅人) が、犯人 (山田孝之) に復讐をもくろむ、というものなんだけど、そういう筋書きをメインにしてこの映画ができているのかというと、そうではない。 被害者である工場主も、犯人側も、人格が異常で、特に工場主側はプリンが異常に好きで、プリンのせいで性格が変になったのかどうかは知らないが、とにかくおかしいのである。 犯人側もかなり変。 ついでに、その変な人たちの周囲になぜか他の人間が集まってくる。 ・・・・と書くと、そういう人間の異常性を追求した映画なのかと思われるかもしれないが、そういうわけでもないみたいなのだ。 じゃあ、何なのかと言うと、ナッシングなのである。 作った側は何か特段のものをこしらえたつもりなのかもしれないが、観客からするとトンデモに過ぎないのだ。 多分、いちばん異常なのは作中人物ではなく、監督などの製作側だと思う。 駄作と言うのもおろかしい、救いようがない映画。

12.「もうひとりのシェイクスピア」 2/9、UCI新潟。 評価★★★★☆ 英独合作、ローランド・エメリヒ監督作品。 英国の大劇作家シェイクスピアには昔から別人説、つまりシェイクスピアではなく別の人間がかの傑作群を書いたのだという説があるわけだが、この映画もその別人説のひとつにのっとって作られている。 エリザベス一世女王時代の伯爵が、当時は貴族にはあるまじき行為とされた脚本書きに手を染めて・・・・・という設定。 それだけでなく、この映画、エリザベス朝当時の貴族や宮廷政治の有様をもたくみに作中に取り込んでいて、単にシェイクスピア別人説だけにとどまらない広がりを持つ作品となっている。 作中の人間関係にも複雑さが見て取れるが、作品後半にはその人間関係で 「えっ!?」 も用意されていて、一種ミステリーのような、そしてギリシア悲劇のような趣きがある。 またエリザベス朝時代の宮廷内の様子や、貴族や庶民の服装、当時の劇場の有様などもたんねんに再現されていて、そこも見どころ。 キャスティングも適切である。 というわけで非常に見ごたえのある傑作だが、新潟市ではユナイテッドの単独上映で、2月15日までしかやっていない。 映画ファンはお見逃しなく!

11.「横道世之介」 2/5、WMC新潟。 評価★★★☆ 一般公開は2月下旬からだけど、珍しく試写会に当たったので見てきました。 ベストセラーの青春小説 (私は未読) の沖田修一監督による映画化。 1980年代の日本を舞台に、長崎から法政大学に入学して上京した横道世之介 (高良健吾) と、その交友を描いている。 2時間40分におよぶ長尺の映画だけど、案外退屈しない。 ゆったりとした展開だが、ユーモラスに話が進み、楽しんで見ることができる。 特に、世之介とつきあうことになる上流のお嬢様 (吉高由里子) が見もの。 普通の中流家庭の出身である主人公と、上流の令嬢の関係がおかしくもありさわやかでもある。 この部分でこの映画は持っているね。

10.「きいろいゾウ」 2/4、WMC新潟。 評価★★★  廣木隆一監督作品。 原作は西加奈子のロングセラー小説だそうであるが私は未読。 三重県の田舎に住む若夫婦 (向井理+宮崎あおい) のお話。 ムコさんとツマと呼び合っているので、夫は婿なのかと思ったら、そうではなく、ムコ (武辜) という姓なのだそうだ。 こんな姓が実際にあるのかどうか知らないが、もしかして無辜という意味を匂わせているのだろうか。 まあ、それはともかく、黄色いゾウとお話しするという幻想を信じて生きてきて、今も庭に生えているソテツと会話を交わすツマ、小説を書いているがあまり売れていないので、近くの町にある老人養護施設でバイトをして稼いでいるムコ。 そして古い農家を借りて (だろうな?) 暮らしている二人は、適度に野菜栽培なんかもやっていたりして、何と言うのか、自然な田舎暮らしの雰囲気が濃厚なのである。 近所に住む老人 (柄本明) が時々訪ねてきて何となく宙に浮いているような会話を交わしたりする。 そういう、メルヒェンチックなところが、多分、受ける人には受けるのだろうと思う。 私には受けませんけどね。 あと、ムコは実は東京に別に好きな女性がいて、この女性は人妻で大学教授が夫で、自分でも美術をやっているという設定。 この大学教授の自宅が、東京だってのに結構広くて庭もあるデラックスなお屋敷なのだ。 物語の中の大学教授って、どうしていつも (?) お金持ちに描かれているのだろう、と首をひねる私なのでした。 ははは。

9.「つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語」 1/30、UCI新潟。 評価★★ 行定勲監督作品。 「つや」 という名の女が瀕死状態で入院している。 彼女の夫 (阿部寛) は、彼女とかかわりをもった男や女にそのことを連絡するのだが、その中で、さまざまな形で 「つや」 とかかわりを持った女たちの物語がオムニバス形式で展開される。 ・・・・なんだけれども、どうもこの映画、うまく行っていない。 たくさんの女優が登場するところは見どころだけれど、ひとつひとつの物語が浅く、またそこから 「つや」 の生涯が浮かび上がってくるようにしようと試みたんだろうけれども、そこも不十分である。 行定監督、残念でしたね。 次作でのリベンジを期待します。

8.「さよならドビュッシー」 1/30、WMC新潟南。 評価★★★☆ 利重剛監督作品。 原作はミステリーで、映画でも多少のトリックというか、仕掛けがあるけれど、どちらかというと推理物というより、火事で大やけどを負った少女の再生を描いた作品である。 その際に、ヒロイン (橋本愛) のピアノを指導する青年の役で、専門家というか本職のピアニストである清塚信也が登場しているのが面白い。 彼がヒロインにピアノのテクニックだけでなく芸術のあり方そのものを教えるシーンがなかなかいい。 この師弟のやりとりや歩みが、この映画のいちばんの見どころであろう。 悪くない出来だと思う。

7.「砂漠でサーモン・フィッシング」 1/27、UCI新潟。 評価★★★☆ 英国映画、ラッセ・ハルストレム監督作品。 アラビア半島はイエメンの大富豪から、自国の川に鮭を泳がせてでサーモンフィッシングを楽しみたいという依頼が英国に寄せられた。 英国とアラブの関係改善に役立ちそうと見た英国首脳部は、水産学者に圧力をかけてこの依頼を承諾させる。 できるわけないとタカをくくってしぶしぶ現地に向かう水産学者だったが、やがて依頼人の本気度に打たれて・・・・・・というようなお話。 話としても奇抜だが、英国首脳部が理系人間である水産学者に圧力をかけていくあたりのシニカルな笑いを含んだ展開が見どころである。 ただし、水産学者 (既婚者) と英国首脳部に勤務する女性 (独身だが恋人あり) の微妙な関係も筋書きに少なからぬ比重を占めていて、ここはあんまりうまくできていないというか、後味がよろしくないのが惜しい。

6.「狩人」 1/26、シネ・ウインド。 評価★★★☆ ギリシア・仏・独合作、テオ・アンゲロプロス監督作品、1977年。 シネ・ウインドでやっているアンゲロプロス特集の一作。 戦後のギリシアの歴史を素材として展開される映画。 ただしギリシアの歴史をドキュメンタリー風に描くのではなく、古代ギリシアの演劇かと思うような象徴的なシーンや進行が3時間近く続く。 アンゲロプロスらしくイメージに重点が置かれ、ダンスや水辺、群像、雪の野原など、映像的には非常に面白い。 ただし3時間弱というのはいかにも長い。 またこれでギリシアの歴史が分かるわけではないので、例えて言えば音楽や舞踊を楽しむように映像を楽しむべき作品である。

5.「テッド」 1/20、WMC新潟。 評価★★★ アメリカ映画、セス・マクファーレン監督作品。 小さいときに親にプレゼントされたクマの人形 (テディ・ベア) が、なぜか知能を持ち人間並みにおしゃべりをするようになった。 持ち主の少年はやがて成長し三十代の青年になるが、相変わらずクマと二人三脚の毎日。 しかし年相応に酒や女やオタク趣味の話ばっかりで、イマイチ大人になりきれていない青年は職場でも浮いているし、せっかく同棲してくれる女性もできたのにクマが障碍になって関係がぎくしゃく・・・・・・というような筋書き。 かわいいクマが知能を持ち活動するというだけなら年少者向けのメルヒェンに終わるところだが、クマも年をとり女や酒の話を下品に繰り広げるというところがミソ。 だからこの映画、R15指定になっているわけ。 そこそこ面白いけれど、話の展開は定型的であり、クマが大人 (でオタク) の会話をするというアイデアだけに終わっているんじゃないだろうか。 また、会話にはアメリカのサブカルチャー・ネタが多いので、日本人にはやや付いて行きにくい。

4.「あの日 あの時 愛の記憶」 1/19、シネ・ウインド。 評価★★★★ ドイツ映画、アンナ・ジャスティス監督作品。 第二次大戦中にアウシュヴィッツ強制収容所に収容されていたポーランド人の男とユダヤ人の女が恋愛に陥り、二人で決死の脱出を敢行。 脱出そのものは成功するが、やがて二人は生き別れになり、別々に家族を持ち、39年後の1975年に再会を果たすという、実際にあった事件を映画化した作品である。 1975年、アメリカに渡って今は夫や娘と幸せに暮らす初老のヒロインが、ある日テレビでかつての恋人の姿を見るところから物語は始まる。 そして過去の物語と現在の物語が交差しながら映画は進行する。 無事に収容所から脱出した二人だったが、男の実家に行くと、男の母はユダヤ人との結婚を認めようとしない。 ポーランド人にもユダヤ人差別意識が濃厚にあったと分かる場面だ。 また、男の兄は終戦間際、ソ連軍兵士につかまって恋人と一緒に連行されてしまう。 そもそも、第二次大戦の発端はナチス・ドイツによるポーランド侵攻だが、その直後にソ連もポーランドに侵攻しており、ポーランドはドイツとソ連により二分割されてしまう。 だからポーランド人の自国を守る運動はドイツとソ連の双方に向けられていたのだという事実が改めて分かるシーンである。 男はのちに別の女性と結婚して娘をもうけるが、妻とは離婚することになる。 男の現在、つまり1975年を描くシーンでは、娘が 「また歴史教科書から自国を守る戦争の記述が削られた」 と父に語っているが、これもソ連の圧力を示すシーンである。 このように、歴史の流れをそれなりに盛り込みながら運命に引き裂かれた男女の愛を描く見ごたえのある作品。 唯一惜しいなと思うのは、現時点でのヒロインがあまり魅力的ではないこと。 気遣いを示す現在の夫に対して変に冷たい態度をとっており、あまり好感を持てないヒロインになってしまっている。 あと、邦題がいかにも気が利かない。 原題は 「失われた時」 であり、日本人関係者にはもう一工夫して欲しかった。 なお、パンフレットにはモデルとなった実際の人物についての説明も含まれている。

3.「死刑弁護人」 1/18、シネ・ウインド。 評価★★☆ 斉藤潤一監督作品。 弁護士・安田好弘の仕事を紹介したドキュメンタリー。 安田は1947年生まれ、典型的な団塊の世代で、大学生時代には学生運動にかかわり、卒業後に弁護士の資格をとり、主として労働者や死刑判決を受けた被告の弁護にあたってきたという。 この映画では、カレー毒殺事件の林真須美容疑者や、オウム真理教事件の麻原彰晃容疑者、光市母子殺害事件などの弁護にあたる安田の姿が紹介されている。  私の印象では、カレー毒殺事件、それから安田がオウム真理教裁判にかかわっている最中に別件で弁護士法に違反したとして逮捕される事件 (これ、明らかに検察側の嫌がらせだね) などは、この映画を作った側の主張にそれなりに説得性があるけれど、それ以外の件ではあまりそういう感じがしなかった。 それは映画の作りそのものにも原因がある。 同じような映画でも、例えば 『BOX 袴田事件 命とは』 は、なぜ袴田事件が冤罪と考えられるかを丹念に映像で説明して行くので説得性が高かったが、こちらはそういう面が弱く、単に主役の安田に寄り添った映像が多くて、これでは第三者を納得させることは難しいだろうと思った。 また、安田は死刑廃止運動に関わっているのだが、冤罪と死刑廃止は別の問題であり、その両方の面をひとつの映画で主張すること自体に無理がある。 例えば光市母子殺害事件では、死刑廃止を主張する弁護士が大挙して弁護に参加して、逆にマスコミから叩かれる原因となったが、これは明らかに弁護士側が戦略を間違えたのである。 つまり、死刑が言い渡されたのは、弁護士側のやり方がまずかったからとしか言いようがない。 本作はそういう洞察を欠いている映画なのである。

2.「花の詩女 ゴティックメード」 1/5、Tジョイ新潟万代。 評価★★☆  永野護監督作品、アニメ。 宇宙の惑星連合帝国を舞台に、とある惑星で 「詩女 (うため)」 と呼ばれる巫女が新たに就任する儀式が予定されていたが、この儀式に対してテロが企まれているという情報が。 その情報を受けて帝国第三皇子の若者が部下を引き連れて護衛にやってくる。 しかし平和主義の詩女やその取り巻きと、戦うことをもって仕事としている第三皇子とその部下たちは折り合いが悪く、いさかいが絶えない。 そうした中、詩女と第三皇子は何とかお互いを理解しようと努力する。 やがて、情報どおりにテロ集団が・・・・・。 というような筋書き。 70分ほどの短尺のアニメで、何か物足りない感じが残る。 双方のいさかいと和解、それからテロ集団との戦闘 (ここはロボットアニメとしての色彩が濃くなる)、いずれも展開が不十分なのだ。 絵は悪くないが、もう少し脚本を練って欲しい。 なお副題のゴティックメードは戦闘ロボットの名。

1.「聴こえてる、ふりをしただけ」 1/5、シネ・ウインド。 評価★★★ 今泉かおり監督作品。 脚本も同じ。 小学校5年生の少女がある日突然母の死に見舞われる。 父と二人暮しになったが、やがて父は会社をやめ、自宅に籠もってしまう。 学校では母を失ったということで周囲から気遣われるが、やがて転校生の少女と仲良くなる。 しかしその少女は一人ではトイレに行けないなど、ちょっと変わった女の子だった・・・・。 母を失った少女の危機とそこからの立ち直りを描いた映画。 監督が女性であるせいか、女ばっかり出てくるという印象。 唯一の男性登場人物である父はいささか頼りない。 女の作る物語って、芸術志向だとこういうふうになるのかなあ、つまり、男を描けなくなるのかなあ、なんて思わされる映画なのでした。 なお、この映画はベルリン国際映画祭で 「子供審査員特別賞」 を受賞したそうである。 

 

 

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